独立行政法人は、独立行政法人通則法(平成11年7月法律第103号。以下「通則法」という。)によれば、毎事業年度(以下、事業年度を「年度」という。)、貸借対照表、損益計算書、利益の処分又は損失の処理に関する書類その他主務省令で定める書類及びこれらの附属明細書(以下「財務諸表」という。)を作成し、当該年度の終了後3月以内に主務大臣に提出し、その承認を受けなければならないとされている。そして、政令で定める基準により監事の監査のほか会計監査人の監査を受けなければならない独立行政法人にあっては、財務諸表を主務大臣に提出するときは、財務諸表及び決算報告書に関する監事の監査報告及び会計監査人の会計監査報告を添付しなければならないとされている。
また、独立行政法人の会計については、通則法及び主務省令に基づき、「独立行政法人会計基準」(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定。以下「会計基準」という。)に従うものとされ、会計基準に定められていない事項については一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとされている。会計基準によれば、損失の処理に関する書類において、「当期未処理損失は、前期繰越欠損金が存在し、当期総損失を生じた場合は当期総損失に前期繰越欠損金を加えて表示し」なければならないとされている。
そして、独立行政法人自動車事故対策機構(以下「機構」という。)は、平成27年度の財務諸表を28年6月27日に国土交通大臣に提出し、同年9月1日、機構が提出した財務諸表のとおり国土交通大臣の承認を受けている。
本院は、正確性等の観点から、財務諸表が会計基準等に準拠して適正に表示されているかなどに着眼して、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき本院に提出された機構の27年度の財務諸表について書面検査を行うとともに、機構本部及び国土交通本省において、当該財務諸表の作成から大臣承認までの事務の実施状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
機構は、27年度の決算において、前期繰越欠損金が存在し、当期総損失が生じているのに、損失の処理に関する書類における「I当期未処理損失」を、「当期総損失に前期繰越欠損金を加えて表示し」なければならないという会計基準の規定に従うことなく、表1の左欄のとおり、当期総損失と同額の32,977,412円と表示していた。しかし、正しくは、表1の右欄のとおり、当期総損失32,977,412円に前期繰越欠損金41,891,457円を加えて算定した額である74,868,869円と表示すべきであり、機構の損失の処理に関する書類には41,891,457円過小な額が表示されていた。
表1 損失の処理に関する書類
機構が行った表示 | 会計基準に準拠した表示 | ||||||
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A | 当期未処理損失 | 32,977,412 | A | 当期未処理損失 | 74,868,869 | ||
当期総損失 |
32,977,412 | 当期総損失 |
32,977,412 | ||||
前期繰越欠損金 |
41,891,457 | 前期繰越欠損金 |
41,891,457 | ||||
B | 次期繰越欠損金 | 74,868,869 | B | 次期繰越欠損金 | 74,868,869 |
また、機構は、貸借対照表における純資産の部の「III繰越欠損金」の内訳について、表2の右欄のとおり、損失の処理に関する書類における当期未処理損失について、当期総損失に前期繰越欠損金を加えて算定した74,868,869円と表示すべきであるのに、前期からの繰越欠損金の額41,891,457円及び当期総損失の額32,977,412円を用いて、表2の左欄のとおり、それぞれ繰越欠損金及び当期未処理損失として表示していた。
表2 貸借対照表
機構が行った表示 | 会計基準に準拠した表示 | ||||||
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C | 繰越欠損金 | C | 繰越欠損金 | ||||
繰越欠損金 |
41,891,457 | 当期未処理損失 |
74,868,869 | ||||
当期未処理損失 |
32,977,412 | ||||||
(うち当期総損失 | 32,977,412) | (うち当期総損失 | 32,977,412) | ||||
繰越欠損金合計 |
74,868,869 | 繰越欠損金合計 |
74,868,869 |