独立行政法人国立病院機構あきた病院(以下「あきた病院」という。)は、独立行政法人国立病院機構(以下「機構」という。)が設置し、病床数340床(平成28年12月末現在)を有する病院であり、患者の診療等に当たり必要となるガーゼ、カテーテル等の診療材料を年間を通じて繰り返し購入している。
独立行政法人国立病院機構会計規程(平成16年規程第34号。以下「会計規程」という。)によれば、機構の病院等が売買等の契約を締結する場合には、原則として、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないとされている。ただし、会計規程及び独立行政法人国立病院機構契約事務取扱細則(平成16年細則第6号。以下「細則」という。)によれば、予定価格が160万円を超えない財産を買い入れる場合等には随意契約によることができることとされている(以下、この随意契約によることができる限度額を「少額随契基準額」という。)が、この場合であっても予定価格の決定を省略することはできないことになっている。
また、細則によれば、経理責任者である院長は、予定価格が100万円を超えない随意契約による場合を除き、契約する事項に関し、当該事項に関する仕様書等に基づき予定価格を明らかにした予定価格調書を作成しなければならないとされており、予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、数量の多寡等を考慮して適正に定めなければならず、また、契約する事項の価格の総額又は単価について定めなければならないとされている。さらに、院長は、契約を締結するときは、原則として契約書を作成しなければならないとされている。
そして、機構本部から各病院に対して発出された「競争性、公正性、透明性を確保するための契約事務の徹底について」(平成20年6月25日企発第0625001号)によれば、予定価格は、契約額を決定するための基準となる重要なものであることから、契約の締結に当たっては必ず事前に定めることなどとされている。また、競争性の確保については、いわゆる分割発注による恣意的な随意契約であるとの誤解を受けないように、年間の購入予定総額が少額随契基準額を超える場合には一般競争に付すること、年間を通じて頻繁に契約を締結することが明らかなものについては、一般競争による単価契約として年間分を一括して契約することなどとされている。
本院は、合規性等の観点から、診療材料の購入は会計規程等に基づいて適正に行われているかなどに着眼して、あきた病院が23年度から28年度までの間に年間を通じて繰り返し購入していた診療材料の購入に係る契約(23年4月から28年12月までの支払額計628,006,579円)を対象として、あきた病院において、見積書等の契約関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
あきた病院は、前記診療材料の購入のうち、23年度計82,587,972円、24年度計90,885,928円、25年度計97,224,097円、26年度計115,033,499円、27年度計122,338,994円、28年度計99,055,462円、合計607,125,952円分については、品目ごとに年間を通じて同一の販売業者から随意契約により購入していた。これら診療材料の購入に係る契約の締結に当たり、あきた病院は、前年度の契約単価や市場価格の調査等を行っていなかったり、過去の購入実績等により年間の購入予定総額を算出していなかったりしていて、これらに基づく予定価格を定めておらず、予定価格調書も作成していなかった。このため、これら診療材料の購入に係る契約は、予定価格がないことから予定価格が少額随契基準額を超えない場合には該当しないのに、あきた病院は、本件診療材料の購入に当たり、一般競争に付することなく一律に随意契約により契約を締結していた。そして、毎年度、特定の販売業者から提出させた見積書に基づくなどして年度当初に品目ごとに決定した単価により、契約書を作成することなく、年間を通じて繰り返し当該特定の販売業者から診療材料を購入しており、こうした手続による診療材料の購入は、本院が会計実地検査を行った28年12月まで継続されていた。
しかし、このような契約手続は、予定価格を定めなければならないなどとする会計規程等に違反するのみならず、一般競争に付すべき購入契約が特定の販売業者との随意契約により行われており、競争性が確保されていないものとなっていた。現に、直近で1年間の支払額が確認できる27年度における診療材料の購入契約についてみると、1年間の支払額が少額随契基準額を超えていたものが16品目、支払額計61,635,713円あり、上記27年度の支払額計122,338,994円の50.3%を占めていた。
このように、あきた病院において、診療材料の購入に当たり、会計規程等に違反して予定価格を定めるなどせずに、一般競争に付することなく特定の販売業者から随意契約により購入していた事態は、契約手続が適正を欠いており、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、あきた病院において、診療材料の購入に当たり、会計規程等に従い契約手続を適正に行う必要があることについての認識が欠けていたことなどによると認められる。