国立研究開発法人国立国際医療研究センター(平成27年3月31日以前は独立行政法人国立国際医療研究センター。以下「センター」という。)は、「高度専門医療に関する研究等を行う国立研究開発法人に関する法律」(平成20年法律第93号)に基づき設立された国立高度専門医療研究センターの一つであり、感染症その他の疾患に関する高度かつ専門的な医療、医療に係る国際協力等の向上を図り、もって公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的として、感染症その他の疾患に関する医療の提供等を行っている。
センターは、医療の提供等を行うために、国立国際医療研究センター病院(以下「病院」という。)等を設置している。そして、病院では、入院患者等の診療、看護等を行うために、医師、看護師等の職員(以下「職員」という。)が終日、交替勤務をしており、そのため、職員の正規の勤務時間に、深夜(午後10時から翌日の午前5時までの間をいう。以下同じ。)の時間帯が含まれる場合がある(以下、深夜の時間帯における勤務を「深夜勤務」という。)。
そこで、センターは、国立研究開発法人国立国際医療研究センター職員給与規程(平成22年規程第14号)等に基づき、深夜勤務に従事した職員に対して夜勤手当を支給することとしている。夜勤手当は、その従事した深夜勤務の時間数(以下「深夜勤務時間数」という。)に応じて支給されるもので、その支給額は、深夜勤務1時間につき、勤務1時間当たりの給与額(注)の100分の25となっている。
国立研究開発法人国立国際医療研究センター職員就業規則(平成22年規程第4号)によれば、勤務形態が交替勤務である職員の日勤、夜勤等の勤務の種類、始業時刻及び終業時刻については、所属長が定めることとされている。また、1日の正規の勤務時間が6時間を超える場合には、勤務時間の間に所定の休憩時間を設けることとされており、夜勤手当の対象となる深夜勤務時間数には上記の休憩時間を含まないとされている。そして、病院は、深夜勤務に従事する職員の休憩時間の開始時刻及び終了時刻については、職員が交替で休憩時間を取得することができるように割り振ることにしている。
また、病院は、毎月、職員ごとに日別の始業時刻、終業時刻、深夜勤務時間数等を記録した勤務時間管理簿を作成し、これをセンターに報告することとなっている。そして、センターは、勤務時間管理簿に記録された深夜勤務時間数に基づき、職員ごとに夜勤手当の額を算定して支給している。
本院は、合規性等の観点から、深夜勤務に従事した職員に対する夜勤手当の支給は適正に行われているかなどに着眼して、センターにおいて、26年4月から29年3月までの間に計1,347人の職員に対して支給された夜勤手当計312,012,510円を対象として、勤務時間管理簿等の関係書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
病院は、職員の勤務時間等の管理を適切に行うための電算システム(以下「勤務管理システム」という。)を導入して勤務時間管理簿を作成していた。そして、勤務管理システムでは、職員が深夜勤務に従事する場合、当日の始業時刻から終業時刻までの間における深夜の時間数全体が深夜勤務時間数として勤務時間管理簿に記録される設定となっていた。このため、勤務時間管理簿に記録されていた深夜勤務時間数には休憩時間の時間数も一律に含まれていた。
しかし、病院は、このように勤務時間管理簿に記録される深夜勤務時間数には休憩時間の時間数が含まれる設定となっていたのに、この勤務時間管理簿をそのままセンターに報告していた。そして、センターは、上記の勤務時間管理簿に基づき、休憩時間の時間数を深夜勤務時間数に含めて職員ごとに夜勤手当の額を算定して支給していた。
したがって、所定の休憩時間(1回の勤務につき45分から2時間まで)を勤務時間管理簿に記録されている深夜勤務時間数から控除して、深夜勤務に従事した職員に係る夜勤手当の支給額を修正計算すると計240,377,446円となり、前記の支給額との開差額71,635,064円は、支給が適正ではなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、病院において勤務管理システムにより作成される勤務時間管理簿に記録される深夜勤務時間数には休憩時間の時間数が含まれる設定となっていることについての認識が欠けていたこと、センターにおいて病院から報告を受けた勤務時間管理簿の記録内容についての確認が十分でなかったことなどによると認められる。