東日本電信電話株式会社(以下「東会社」という。)及び西日本電信電話株式会社(以下「西会社」という。)は、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)等に基づき、あまねく日本全国において適切、公平かつ安定的に提供する必要がある基礎的電気通信役務としての加入電話、緊急通報、公衆電話等の電話サービス等を提供するために、固定電話網等を維持運営している。固定電話網等は、伝送装置、交換機等が設置された通信ビルと加入者宅、他の通信ビル等との間をメタリックケーブル又は光ファイバケーブルで接続するものである。そして、両会社は、通信ビルと他の通信ビルとの間を接続するメタリックケーブルを光ファイバケーブルに更改していてメタリックケーブルを減少させているが、主に加入者宅に接続するメタリックケーブルについては引き続き利用することにしている。
通信ビル内の諸設備には、乾燥空気供給装置、トータル流量発信器等から構成されるガス設備がある。乾燥空気供給装置は、乾燥空気等のガスを生成し、地下に埋設した管路等に収容されているメタリックケーブル及び平成2年3月以前に製造された光ファイバケーブル(以下、これらを合わせて「ガス保守対象ケーブル」という。)内に必要に応じて供給して、ガス保守対象ケーブル内の圧力を大気圧より高く保つことにより、ガス保守対象ケーブルの外被等が損傷した場合にケーブル内に水が浸入することを防ぐためのものである。また、トータル流量発信器は、乾燥空気供給装置に取り付け、複数のガス保守対象ケーブルから漏えいするガスの総流量(以下「トータル流量」という。)を測定して損傷を早期に発見できるようにするためのものである(参考図参照)。
(参考図)
ガス設備等の概念図
乾燥空気供給装置は、以前は空気を冷やして乾燥空気を生成する冷凍方式が用いられていたが、現在は主に乾燥剤で乾燥空気を生成する乾燥剤方式のLA型が用いられていて、両会社本社制定の電気通信技術標準実施方法ガス設備設計編(以下「SOP」という。)によって、設計に当たっての基本的な考え方及びその設計手順が定められている。SOPによれば、LA型の乾燥空気供給装置には、ガス保守対象ケーブルの条数に応じて、15LA(28年度の物品費766,300円)、40LA(同1,012,000円)、100LA(同1,276,000円)の3種類の規格があり、ガスを供給するガス保守対象ケーブルの条数が15条以下の場合は15LA、40条以下の場合は40LA、100条以下の場合は100LAを選定することとされている。
また、トータル流量発信器は、両会社本社制定の電気通信技術標準実施方法ガス設備保守編によれば、乾燥空気供給装置の規格ごとに定められたトータル流量(15LAは2.5L/分、40LAは6.5L/分、100LAは16.5L/分)を超える場合に警報を発することとされている(以下、これらのトータル流量を「警報発生値」という。)。
乾燥空気供給装置は、通信ビル内のコンクリート基礎台に埋め込まれたアンカーボルトに固定して設置するが、アンカーボルトの位置は前記の規格ごとに異なっている。SOPによれば、乾燥空気供給装置を冷凍方式からLA型に更改する場合には、既存のコンクリート基礎台に埋め込まれたアンカーボルトに専用の取付台を固定して、その上に同装置を設置できることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
東会社の事業部及び西会社の地域事業本部(以下、これらを合わせて「事業部等」という。)は、乾燥空気供給装置の総稼働時間、過去の故障履歴等を総合的に勘案した上で優先順位をつけて、毎年度、順次更改を行ってきており、今後も乾燥空気供給装置を更改することが見込まれている。
そこで、本院は、経済性等の観点から、乾燥空気供給装置の更改に当たり、乾燥空気供給装置の規格の選定が、ガスを供給しているガス保守対象ケーブルの条数に応じた経済的なものとなっているかなどに着眼して、東会社の6事業部(注1)(26年6月以前は10支店(注2))が26年度から28年度までの間に更改した乾燥空気供給装置439台(物品費4億0697万余円)、西会社の5地域事業本部(注3)が26年度から28年度までの間に管内の8支店(注4)において更改した乾燥空気供給装置118台(物品費1億1869万余円)を対象として、東会社の本社及び6事業部並びに西会社の本社及び5地域事業本部において乾燥空気供給装置の更改に関する調書等の関係書類を確認したり、担当者から説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、両会社がメタリックケーブルを減少させていることから、ガス保守対象ケーブルの条数も減少してきているものの、事業部等が、26年度から28年度までの間に更改した東会社の439台及び西会社の118台の乾燥空気供給装置については、東会社の1台を除いて全て更改前と同じ規格のものとなっていた。
一方、前記のとおり、乾燥空気供給装置の規格を選定するに当たっては、ガス保守対象ケーブルの条数を確認した上で行うことがSOPで規定されていたものの、両会社の本社は、LA型の同装置を下位の規格に更改する場合に、既存のコンクリート基礎台を利用する設置方法についての規定は定めていなかった。
しかし、乾燥空気供給装置を冷凍方式からLA型に更改する場合には、専用の取付台を使用することで既存のコンクリート基礎台に設置できたことを踏まえると、LA型の同装置を下位の規格に更改する場合にも同様の方法により設置することができたと認められた。
そこで、前記の更改された乾燥空気供給装置のガス保守対象ケーブルの条数についてみると、表のとおり、下位の規格に適用される条数内に収まっていたものが見受けられた。そして、これらのうちトータル流量が警報発生値を上回ることにより常時警報が発せられるなど保守上の支障が生ずるおそれがあるものを考慮しても、東会社の100LA34台、40LA27台、計61台、及び西会社の100LA6台、40LA6台、計12台については、下位の規格の乾燥空気供給装置で足りたと認められた。
表 平成26年度から28年度までの間に更改した乾燥空気供給装置
会社名 | 更改した乾燥空気供給装置 | 左のうちガス保守対象ケーブルの条数が下位の規格に適用される条数内に収まっていたもの | 左のうちトータル流量が下位の規格の警報発生値内に収まっていたもの | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
東会社 | 439 | 88 | 61 | ||||
100LA | 92 | 51 | 34 | ||||
40LA | 87 | 37 | 27 | ||||
15LA | 260 | / | / | ||||
西会社 | 118 | 27 | 12 | ||||
100LA | 40 | 17 | 6 | ||||
40LA | 29 | 10 | 6 | ||||
15LA | 49 | / | / |
したがって、両会社において、ガス保守対象ケーブルの条数及びトータル流量に応じた乾燥空気供給装置の規格を選定していなかった事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
(節減できた物品費)
東会社の乾燥空気供給装置61台(物品費計7119万円)及び西会社の乾燥空気供給装置12台(物品費計1379万余円)については、専用の取付台や電圧変更等のために要する費用を考慮しても、東会社計803万円、西会社計158万円節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、東会社の本社は29年8月に、西会社の本社は同年9月に、事業部等に対して指示文書を発するなどして、乾燥空気供給装置の更改に当たって経済的な設計となるよう、次のような処置を講じた。
ア LA型の乾燥空気供給装置を下位の規格に更改する場合に、専用の取付台を使用して既存のコンクリート基礎台に設置できることを確認した。
イ アの設置方法等を踏まえて、専用の取付台を使用して既存のコンクリート基礎台に設置できることや、ガスを供給している実際のガス保守対象ケーブルの条数及びトータル流量を確認した上で、更改前の規格より下位の規格で足りる場合は下位の規格を選定することを事業部等に周知徹底した。