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  • 平成28年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第3節 特に掲記を要すると認めた事項

河川整備計画等により堤防等を整備することとしている区間において、一部未整備の箇所又は改築が必要な橋りょうが残存していて、整備済みの堤防等の整備効果を十分に発現させる方策を講ずる必要がある事態について


検査対象
国土交通省
会計名及び科目
一般会計(組織)国土交通本省 (項)河川整備事業費 等
社会資本整備事業特別会計(治水勘定) 
(項)河川整備事業費 等
東日本大震災復興特別会計 
(組織)国土交通本省 (項)河川整備事業費 等
部局等
直轄事業 3地方整備局等
補助事業 9県
河川改修事業の概要
洪水等による災害発生の防止を図るなどのために河川を総合的に管理し、公共の安全を保持することなどを目的として、堤防の整備、河道の拡幅、橋りょうの改築等を行う事業
検査の対象とした河川
直轄事業 97河川
補助事業 760河川
一部未整備の箇所又は改築が必要な橋りょうが残存している河川
直轄事業 4河川
補助事業 16河川
上記の河川に係る河川改修事業費
直轄事業 331億5329万円(背景金額)
(平成24年度~28年度)
補助事業 161億1975万円(平成24年度~28年度)
(国庫補助金等交付額 80億5540万円)(背景金額)

1 事業の概要

(1) 河川改修事業の概要

国土交通省は、河川法(昭和39年法律第167号。以下「法」という。)等に基づき、洪水(注1)等による災害発生の防止を図るなどのために河川を総合的に管理し、公共の安全を保持することなどを目的として、堤防の整備、河道の拡幅等(以下「堤防等の整備」と総称する。)、堤防等の整備により必要となる橋りょうの改築等の河川改修事業を直轄事業及び補助事業により実施している。

河川は、法等により、国土保全上又は国民経済上特に重要な水系に係る河川については一級河川、上記水系以外の水系で公共の利害に重要な関係のある水系に係る河川については二級河川とされていて、平成28年度末現在の全国の一級河川は、109水系で14,060河川、延長計88,073.4km、二級河川は、2,711水系で7,079河川、延長計35,858.9kmとなっている。

そして、法等に基づき、一級河川は国土交通大臣が、二級河川は都道府県知事又は指定都市の長(以下「都道府県知事等」という。)が河川の管理者とされている。なお、一級河川のうち国土交通大臣が指定する区間については都道府県知事等が、一級河川又は二級河川のうち河川の管理者と市町村長が協議により定めた区間については当該市町村長が、河川の管理者である国土交通大臣又は都道府県知事等に代わってその権限に属する事務の一部を行っている(以下、一級河川又は二級河川の管理を行っている者を「河川管理者」と総称する。)。

28年度における直轄事業の河川改修費は2001億円となっていて、補助事業の河川改修費は、社会資本整備総合交付金8983億円及び防災・安全交付金1兆1002億円等の中から交付されている。

(注1)
洪水  大雨により河川の水量が急激に増大する現象。この洪水が堤防を越水するなどすると背後地に浸水被害が生ずる。

(2) 河川整備計画等

河川改修事業の実施に当たっては、水系ごとに工事実施基本計画を策定していた制度が、9年の法の改正により、計画高水流量(注2)等を示した河川整備基本方針(以下「基本方針」という。)を策定し、策定した基本方針を踏まえておおむね20年ないし30年の期間(以下「計画対象期間」という。)に実施する河川整備の目標、内容等を定めた河川整備計画を策定する制度に改正され、基本方針が策定された水系から河川整備計画の策定が進められている。なお、改正後の法によれば、河川整備計画が策定されるまでの間においては、工事実施基本計画の一部を河川整備計画とみなすこととされている(以下、河川整備計画と工事実施基本計画とを「河川整備計画等」と総称する。)。

(注2)
計画高水流量  過去の主要な洪水、水害実績、流域の人口、資産の集積、今後発生すると見込まれる豪雨等を勘案し、基準地点等で河道を流下する計画上の最大流量

(3) 治水安全上必要とされる堤防、橋りょう等の構造の概要

堤防、河川に架設される橋りょう等の構造は、法、河川管理施設等構造令(昭和51年政令第199号。以下「構造令」という。)等で定められている。

構造令によれば、堤防は、計画高水流量が河道を流下するときの最高水位(以下「計画高水位」という。)、高潮の影響を受ける区間にあっては、過去の主要な高潮による災害の発生状況等を勘案して定められた潮位(以下「計画高潮位」といい、計画高水位と合わせて「計画高水位等」という。)以下の流水に対して安全な構造とするものとされており、堤防の高さは、計画高水位等に洪水時の風浪等による水位上昇を考慮した余裕高を加えた高さ以上とするなどとされている。

そして、堤防の高さが計画高水位よりも低かったり河道の幅が河川整備計画等で計画された河道よりも狭かったりしていて河道の断面積が十分に確保されていない区間等においては、計画高水流量以下の洪水又は計画高潮位以下の高潮であっても越水するなどして、地形によっては越水地点等から広範囲に浸水域が拡大するおそれがあり、治水安全上のぜい弱部となる。このため、河川管理者は、河川整備計画等において、計画高水流量を基に計画対象期間における整備の目標とする流量(以下「整備計画流量」という。)を定めるなどして、整備計画流量を安全に流下させる河道の断面積が確保されるなどしていないなどの区間(以下「整備未済区間」という。)について、整備計画流量を流下させることができるよう堤防のかさ上げや河道の拡幅等を行う河川改修事業を実施することとしている(参考図1参照)。そして、河川管理者は、堤防等については、過去に発生した災害の状況、背後地の資産等の状況等を勘案して整備するなどしている。

(参考図1)

堤防等の整備の概念図

堤防等の整備の概念図 画像

また、構造令によれば、橋りょうは、計画高水位等以下の洪水の流下を妨げないなどの構造とするとされており、橋桁の下面の高さ(以下「桁下高」という。)は計画高水位等に余裕高を加えた高さ以上とし、橋台は河道内に設けてはならないなどとされている。

しかし、河川整備計画等が策定される以前から架設されている橋りょうの中には、桁下高が計画高水位等よりも低い位置にあるなどしていて、架け替えなどの改築を要するものがある。また、橋りょうが河道の幅が狭くなっている箇所に架設されている場合は、橋りょうの改築と堤防等の整備の両方を行う必要がある(参考図2参照)。このように、桁下高が計画高水位等よりも低い位置にあったり、架設箇所の河道の幅が狭くなっている箇所に架設されたりしている橋りょうは、洪水時に流木が橋桁等に集積するなどして洪水の安全な流下を著しく阻害するおそれがあり、治水安全上のぜい弱部となる。

(参考図2)

橋りょうの改築と堤防等の整備の両方を行う必要がある例

橋りょうの改築と堤防等の整備の両方を行う必要がある例 画像

橋りょうを架設して管理しているのは道路管理者、鉄道事業者等(以下「橋りょう管理者」と総称する。)であり、河川改修事業により橋りょうの改築を行う場合には、改築について橋りょう管理者の同意を得た上で協議を行って、事業期間、事業費、工事計画等について合意することが必要である。橋りょうの改築の費用は、原則として、原因者である河川管理者が負担することとされているが、橋りょうとしての機能を向上させる場合の機能向上分の費用及び老朽化等に伴う架け替えなど橋りょう管理者の事情により橋りょうの改築を行う場合の費用は、橋りょう管理者が負担することとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

河川改修事業は、河川整備計画等に基づき、直轄事業及び補助事業として毎年実施されており、これまで多額の国費が投じられている。そして、本院は、平成10年度決算検査報告に「特に掲記を要すると認めた事項」として「河川改修事業の実施について」を掲記し、7河川管理者が管理する7河川の7か所について、堤防等の整備や橋りょうの改築に着手できず治水安全度の向上を図ることができない事態の早期解消を図るよう問題提起を行った。

その後、河川管理者は、河川改修事業を実施して治水安全度の向上を図ってきており、上記の検査報告に掲記した7か所についても、約20年が経過して7河川管理者により堤防等の整備や橋りょうの改築が実施されるなどしている。しかし、河川改修事業を必要とする河川がいまだ多くあり、事業には相当の期間と多額の費用を要する状況となっている一方、近年、豪雨により生じた洪水が堤防を越水するなどして浸水被害が多発する状況となっている。

そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、堤防等の整備及び橋りょうの改築が着実に行われて、整備済みの堤防等についてはその効果が十分に発現しているかなどに着眼して、24年度から28年度までの間に、9地方整備局等(注3)管内の27河川事務所等(注4)(以下、河川事務所等を「事務所」という。)が直轄事業により実施している計97河川の河川改修事業(事業費計6816億9996万余円)、26道府県(注5)及び5市(注6)が補助事業により実施している計760河川の河川改修事業(事業費計6510億6717万余円、国庫補助金等交付額計3442億0496万余円)を対象として、堤防等の整備、橋りょうの改築の状況等について、河川整備計画等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注3)
9地方整備局等  東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州各地方整備局、北海道開発局
(注4)
27河川事務所等  新庄、利根川上流、荒川上流、利根川下流、京浜、信濃川、阿賀野川、木曽川上流、静岡、木曽川下流、淀川、日野川、出雲各河川事務所、湯沢、山形、羽越、沼津、豊岡、福山、松山、中村、長崎、宮崎、延岡各河川国道事務所、札幌、函館、旭川各開発建設部
(注5)
26道府県  北海道、京都府、秋田、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、富山、福井、愛知、三重、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、山口、徳島、香川、佐賀、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注6)
5市  札幌、名古屋、京都、ひたちなか、富山各市

(検査の結果)

検査したところ、次のような状況が見受けられた。

(1) 河川改修事業の実施状況

前記の27事務所、26道府県及び5市が実施している計857河川における河川改修事業の実施状況について、河川整備計画に基づき事業を実施している河川(以下「整備計画河川」という。)計760河川と工事実施基本計画に基づき事業を実施している河川(以下「工事実施基本計画河川」という。)計97河川とに区分して、河川整備計画又は工事実施基本計画において堤防等の整備を実施するとしている区間(以下「整備計画区間」という。)の延長に対する整備が完了した区間(注7)(以下「整備済区間」という。)の延長の割合(以下「整備率」という。)をみたところ、次のような状況となっていた。

整備計画河川は、計画対象期間をおおむね20年ないし30年としており、表1のとおり、河川整備計画を策定してからの経過期間が計画対象期間の半分に満たないものが、直轄事業及び補助事業ともに80%以上を占めていることから、整備率は、直轄事業で平均17.1%、補助事業で平均31.3%となっている。また、工事実施基本計画河川は、整備計画河川と異なり、計画対象期間が定められておらず、工事実施基本計画を策定してからの経過期間が既に40年以上となっているものもあり、整備率は、表2のとおり、直轄事業で30.3%、補助事業で平均51.0%となっている。

上記のような整備率等の状況を踏まえると、河川改修事業の実施には今後も相当の期間を要することが見込まれる。

表1 河川改修事業の実施状況(整備計画河川)(平成29年3月末現在)

(直轄事業)
地方整備局等名 事務所名 河川数 整備計画区間の延長
(A)
(km)
  河川整備計画策定からの経過期間
整備済区間の延長
(B)
(km)
整備率
(B)÷(A)
計画対象期間の半分に満たないものの河川数 計画対象期間の半分を経過したものの河川数
東北地方整備局 湯沢河川国道事務所 2 49.2 0.0 0.0% 2
山形河川国道事務所 7 77.7 36.3 46.7% 7
新庄河川事務所 3 31.9 6.0 18.8% 3
関東地方整備局 利根川上流河川事務所 8 126.5 0.0 0.0% 8
荒川上流河川事務所 5 59.9 0.8 1.3% 5
利根川下流河川事務所 1 34.5 0.0 0.0% 1
京浜河川事務所※ 4 79.5 32.7 41.1% 2 2
北陸地方整備局 羽越河川国道事務所 1 0.8 0.3 37.5% 1
信濃川下流河川事務所 1 8.2 2.9 35.4% 1
阿賀野川河川事務所 1 5.2 0.0 0.0% 1
中部地方整備局 木曽川上流河川事務所 9 87.3 13.7 15.7% 9
沼津河川国道事務所※ 4 18.4 6.1 33.2% 4
静岡河川事務所※ 3 28.8 7.1 24.7% 3
木曽川下流河川事務所 5 39.3 5.1 13.0% 5
近畿地方整備局 淀川河川事務所※ 2 22.8 0.0 0.0% 2
豊岡河川国道事務所※ 1 9.9 1.7 17.2% 1
中国地方整備局 日野川河川事務所※ 2 29.0 0.0 0.0% 2
出雲河川事務所※ 3 9.5 7.9 83.2% 3
福山河川国道事務所※ 1 4.8 1.6 33.3% 1
四国地方整備局 松山河川国道事務所※ 2 0.4 0.1 25.0% 2
中村河川国道事務所※ 3 17.3 0.7 4.0% 3
九州地方整備局 長崎河川国道事務所※ 1 5.1 3.9 76.5% 1
宮崎河川国道事務所※ 2 19.8 16.8 84.8% 2
延岡河川国道事務所※ 1 8.1 4.8 59.3% 1
北海道開発局 札幌開発建設部 17 297.4 33.2 11.2% 9 8
函館開発建設部 1 15.4 5.2 33.8% 1
旭川開発建設部 6 93.9 14.7 15.7% 6
96 1,180.6 201.6 17.1% 86
(89.6%)
10
( 10.4%)
(注)
※は平成28年3月末時点
(補助事業)
道府県市名 河川数 整備計画区間の延長
(A)
(km)
  河川整備計画策定からの経過期間
整備済区間の延長
(B)
(km)
整備率
(B)÷(A)
計画対象期間の半分に満たないものの河川数 計画対象期間の半分を経過したものの河川数
北海道 75 517.2 114.9 22.2% 60 15
札幌市
3 5.4 4.4 81.5% 3
秋田県 21 88.4 29.1 32.9% 11 10
茨城県 23 248.8 88.7 35.7% 14 9
ひたちなか市
1 2.7 0.9 33.3% 1
栃木県 28 325.0 196.2 60.4% 17 11
群馬県※ 20 56.3 14.2 25.2% 20
埼玉県※ 33 339.7 53.7 15.8% 33
千葉県※ 27 182.4 72.5 39.7% 18 9
富山県 19 61.7 19.6 31.8% 14 5
富山市
2 1.5 1.2 80.0% 2
福井県 17 54.1 12.6 23.3% 15 2
愛知県※ 40 229.3 30.9 13.5% 40
名古屋市※
4 22.1 5.9 26.7% 4
三重県※ 12 68.3 3.2 4.7% 9 3
京都府 27 69.8 17.5 25.1% 27
京都市
8 9.6 0.4 4.2% 8
兵庫県 48 246.8 116.4 47.2% 39 9
奈良県 26 76.5 21.0 27.5% 12 14
和歌山県※ 26 92.2 25.9 28.1% 23 3
鳥取県 14 42.6 11.6 27.2% 11 3
島根県 19 54.4 20.1 36.9% 13 6
山口県※ 23 119.3 34.5 28.9% 23
徳島県※ 22 65.7 18.7 28.5% 19 3
香川県※ 10 31.5 10.5 33.3% 8 2
佐賀県 12 34.7 6.2 17.9% 9 3
長崎県※ 20 61.8 27.8 45.0% 18 2
大分県※ 22 88.1 29.8 33.8% 21 1
宮崎県※ 19 129.6 46.1 35.6% 10 9
鹿児島県※ 23 70.6 18.4 26.1% 19 4
沖縄県※ 20 67.2 32.3 48.1% 12 8
664 3,463.3 1,085.2 31.3% 533
(80.3%)
131
(19.7%)
(注)
※は平成28年3月末時点

表2 河川改修事業の実施状況(工事実施基本計画河川)(平成29年3月末現在)

(直轄事業)
地方整備局名 事務所名 河川数 整備計画区間の延長
(A)
(km)
  工事実施基本計画策定からの経過年数
整備済区間の延長
(B)
(km)
整備率
(B)÷(A)
20年未満の河川数 20年以上30年未満の河川数 30年以上40年未満の河川数 40年以上の河川数
関東地方整備局 京浜河川事務所※ 1 6.6 2.0 30.3% 1
(補助事業)
道府県名 河川数 整備計画区間の延長
(A)
(km)
  工事実施基本計画策定からの経過年数
整備済区間の延長
(B)
(km)
整備率
(B)÷(A)
20年未満の河川数 20年以上30年未満の河川数 30年以上40年未満の河川数 40年以上の河川数
北海道 28 176.1 73.2 41.6% 7 16 5
栃木県 1 5.7 5.5 96.5% 1
千葉県※ 5 37.5 32.5 86.7% 1 1 1 2
富山県 2 14.8 9.4 63.5% 2
三重県※ 5 33.9 15.7 46.3% 2 1 1 1
京都府 7 49.9 25.6 51.3% 2 2 3
和歌山県※ 1 4.4 0.0 0.0% 1
徳島県※ 2 5.2 2.4 46.2% 2
香川県※ 4 11.2 5.0 44.6% 2 1 1
佐賀県 11 53.1 27.1 51.0% 1 2 4 4
長崎県※ 9 23.1 11.6 50.2% 4 2 3
宮崎県※ 1 0.7 0.7 100.0% 1
鹿児島県※ 17 64.8 36.2 55.9% 4 7 6
沖縄県※ 3 8.8 4.6 52.3% 1 1 1
96 489.2 249.5 51.0% 25 34 23 14
(注)
※は平成28年3月末時点
(注7)
整備が完了した区間  河川整備計画等で定められた堤防の高さなどによる断面により整備された区間のほか、河川整備計画等とは異なるものの、一定の安全性の確保を優先して整備された区間を含む。

(2) 堤防等の整備及び橋りょうの改築の状況

堤防等の整備は、整備計画区間の全ての整備が完了するまでには今後も相当の期間を要することが見込まれることを踏まえると、整備計画区間の整備の途上においても、段階的に、治水安全上の効果を速やかに発現させるよう実施していく必要がある。

しかし、河川管理者が堤防等を整備することとしている区間における堤防等の整備の状況を確認したところ、その上下流の堤防等の整備が一定の区間概成しているのにこれらの堤防等の間に整備未済区間又は改築が必要となる橋りょうが残存しているため、整備済区間の堤防等がその効果を十分に発現していない事態が、次のア及びイのとおり見受けられた。

ア 一定の区間概成した堤防等の間に整備未済区間が残存しているため、その上下流の整備済みの堤防等がその効果を十分に発現していない事態

(ア) 整備未済区間が残存している事態

28年度末において、隣接する上下流の堤防等の整備が行われてから5年以上が経過している箇所のうち、堤防高が計画高水位より低い位置にあって流下能力が整備計画流量を下回るなどしていて、当該区間からの越水等により地形上広範囲に浸水が及び住宅等への被害のおそれがある整備未済区間が残存している箇所(以下「残整備箇所」という。)が、表3のとおり、2事務所が管理する3河川で4か所(3河川に係る河川改修事業費計312億2841万余円(24年度から28年度までの事業費。以下同じ。))、6県が管理する9河川で10か所(9河川に係る河川改修事業費計112億7795万余円(国庫補助金等交付額計56億3450万余円))、計12河川で14か所見受けられた。

これらの残整備箇所は、現状の流下能力が当該区間の整備計画流量に対して47.3%から86.4%となっており、洪水を安全に流下させることができないなどの状況となっていた。

表3 残整備箇所の状況
① 流下能力が整備計画流量を下回っている残整備箇所

(直轄事業)
地方整備局名事務所名 河川名 残整備箇所となった要因 残整備箇所の延長
(m)
上下流の堤防の整備完了年度等 流下能力の比較 当該河川に係る河川改修事業に平成24年度から28年度までの間に支出した事業費
(千円)
上流 下流 残整備箇所の現状の流下能力
(A)
(m3/s)
整備計画流量
(B)
(m3/s)
(A)÷(B)
整備完了年度 経過年数 整備完了年度 経過年数
東北地方整備局
湯沢河川国道事務所
雄物川 a 400 平成16 12 平成8 20 3,000 5,600 53.6% 12,721,413
関東地方整備局
荒川上流河川事務所
荒川 c 200 平成20 8 昭和60 31 不明
注(3)
7,000 18,507,002
高麗川 c 60 平成10 18 不明 不明
注(4)
600
a 100 平成15 13 平成15 13 不明
注(5)
600
31,228,415
注(1)
「残整備箇所となった要因」欄の「a」は土地権利者、周辺住民等の同意が得られていないもの、「c」は道路管理者との調整が完了していないものを示している。
注(2)
網掛けの欄は、経過年数が10年以上であることを示している。
注(3)
流下能力は不明であるが、計画高水位14.7mに対して堤防予定地の地面の高さは13.2mとなっていることから、流下能力が不足している。
注(4)
流下能力は不明であるが、計画高水位32.3mに対して現況の堤防の高さは32.1mとなっていることから、流下能力が不足している。
注(5)
流下能力は不明であるが、計画高水位32.7mに対して現況の堤防の高さは32.5mとなっていることから、流下能力が不足している。
(補助事業)
県名 河川名 残整備箇所となった要因 残整備箇所の延長
(m)
上下流の堤防の整備完了年度等 流下能力の比較 当該河川に係る河川改修事業に平成24年度から28年度までの間に支出した事業費
(千円)
左に対する国庫補助金等交付額
(千円)
上流 下流 残整備箇所の現状の流下能力
(A)
(m3/s)
整備計画流量
(B)
(m3/s)
(A)÷(B)
整備完了年度 経過年数 整備完了年度 経過年数
茨城県 乙戸川 a 100 平成18~19 9 平成8~16 12 52 110 47.3% 278,523 139,261
中通川 a 300 平成12
以前
16以上 平成12
以前
16以上 64 120 53.3% 1,270,820 635,410
a 100 平成12
以前
16以上 平成12
以前
16以上 64 120 53.3%
埼玉県 倉松川 a 100 平成18 10 平成18 10 18 35 51.4% 57,733 12,033
新河岸川 a 300 平成18 10 平成4
以前
24以上 440 550 80.0% 1,977,560 984,858
千葉県 一宮川 a 80 平成22 6 平成19 9 600 750 80.0% 3,700,867 1,850,433
富山県 白岩川 a 200 平成13 15 平成23 5 443 810 54.7% 697,497 348,748
香川県 本津川 a 150 平成23 5 平成23 5 308 500 61.6% 1,895,918 964,242
佐賀県 巨勢川 b 100 平成23 5 平成22 6 108 125 86.4% 940,013 470,006
10,818,934 5,404,995
注(1)
「残整備箇所となった要因」欄の「a」は土地権利者、周辺住民等の同意が得られていないもの、「b」は土地の境界が確定できず用地の取得ができないものを示している。
注(2)
網掛けの欄は、経過年数が10年以上であることを示している。
注(3)
金額は単位未満切捨てのため、合計しても「計」欄と一致しないものがある。

② 現状の堤防高が計画高潮位よりも低い位置にある残整備箇所

(補助事業)
県名 河川名 残整備箇所となった要因 残整備箇所の延長
(m)
上下流の堤防の整備完了年度等 堤防高の比較 当該河川に係る河川改修事業に平成24年度から28年度までの間に支出した事業費
(千円)
左に対する国庫補助金等交付額
(千円)
上流 下流 残整備箇所の現状の堤防高
(A)
(m3/s)
計画高潮位
(B)
(m3/s)
整備完了年度 経過年数 整備完了年度 経過年数
佐賀県 浜川 a 200 平成19 9 平成18 10 3.5 5.0 459,023 229,511
注(1)
「残整備箇所となった要因」欄の「a」は土地権利者、周辺住民等の同意が得られていないものを示している。
注(2)
網掛けの欄は、経過年数が10年以上であることを示している。

③ 事業費及び国庫補助金等交付額

12河川14か所に係る事業の区分 当該河川に係る河川改修事業に平成24年度から28年度までの間に支出した事業費
(千円)
左に対する国庫補助金等交付額
(千円)
直轄事業計(2事務所が管理する3河川で4か所) 31,228,415
補助事業計(6県が管理する9河川で10か所) 11,277,957 5,634,506

これらの中には、洪水時に残整備箇所から越水等して広範囲に浸水被害が及んでいる事態が見受けられた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

湯沢河川国道事務所は、一級河川雄物川水系雄物川において、昭和41年度に工事実施基本計画を、平成26年度に雄物川水系河川整備計画(大臣管理区間)をそれぞれ策定し、河川整備計画策定以前から工事実施基本計画等に基づき堤防等の整備を実施してきており、24年度から28年度までの間の事業費は計127億2141万余円となっている。

上記のうち、整備計画区間48.6kmについてみると、中流部に位置する400mの区間では、その下流部は8年度に、上流部は16年度に堤防等の整備が完了しているのに、当該区間については現在までに堤防等の整備に着手できておらず、残整備箇所となっている。そして、整備計画流量に対して現状の流下能力は53.6%と不足しており、19年度、23年度及び29年度には、当該箇所から洪水が流出するなどして、背後地の住宅、農地、道路等が浸水するなどの被害が発生していた。

これらの残整備箇所についてみると、その上下流の堤防等が河口や整備計画区間の終点近くなどまで連続して整備されて一定の区間が概成している間に延長が60mから400mまでの整備未済区間が残存している状況となっていて、当該箇所からの越水等により地形上広範囲に浸水が及び住宅等への被害のおそれがあることから、洪水等による災害発生の防止を図るなどの公共の安全を保持するためにも、堤防等の整備を途切れることなく行う必要性があると認められた。

(イ) 残整備箇所となった要因

前記の12河川14か所について、残整備箇所となった要因を確認したところ、次のような状況となっていた(表3参照)。

a 土地権利者、周辺住民等の同意が得られていないもの

2事務所が管理する2河川2か所、6県が管理する8河川9か所においては、堤防等の整備を行う予定地(以下「堤防予定地」という。)の土地権利者、周辺住民等から用地取得又は工事着手についての同意が得られていなかったり、堤防予定地に存する施設の移転候補地の周辺住民等から施設の受入れについての同意が得られていなかったりしているため、堤防等の整備に着手できず残整備箇所となっていた。

上記の2事務所及び6県は、上記の土地権利者、周辺住民等に対して堤防等の整備の必要性を説明したり断続的に交渉を行ったりしている。しかし、堤防予定地の土地権利者が、交渉を拒絶したり、土地の引き続きの所有を強く希望したりしていて、堤防予定地の取得ができない状況となっていた。また、堤防予定地の周辺住民等が、堤防の整備等後の隣接農地への進入路の形状等について難色を示すなどしていて、同意が得られていない状況となっていた。さらに、堤防予定地に存する施設の移転候補地の周辺住民等が、堤防予定地に存する墓地や廃棄物処理施設の受入れに反対するなどしていて、同意が得られていない状況となっていた。

堤防予定地の土地権利者から用地取得についての同意が得られていないため残整備箇所となっている事例を示すと、次のとおりである。

<事例2>

富山県は、二級河川白岩川水系白岩川において、昭和57年度に工事実施基本計画を、平成20年度に白岩川水系河川整備計画をそれぞれ策定し、河川整備計画策定以前から工事実施基本計画等に基づき堤防等の整備を実施してきており、24年度から28年度までの間の事業費は計6億9749万余円(国庫補助金等交付額計3億4874万余円)となっている。

上記のうち、整備計画区間6.8kmについてみると、200mの区間では土地権利者との調整がついていないため、その下流部は23年度に、上流部は13年度に堤防等の整備が完了しているのに、当該区間については現在までに堤防等の整備に着手できておらず、残整備箇所となっている。そして、整備計画流量に対して現状の流下能力は54.7%と不足している状況となっていた。

用地の取得に関して、同県は、昭和62年から地元説明会を開催し、当該土地権利者との間で交渉を行うなど用地の取得に向けた取組を行っていたが、交渉が難航して平成12年6月から実質的な交渉が行われていない状況となっていて、29年3月に交渉を再開しているものの明確な用地の取得時期の見通しは立っていない。

b 土地の境界の確定ができず用地の取得ができないもの

佐賀県が管理する1河川1か所においては、堤防予定地の土地権利者の所在等が不明となっていて境界の確定ができないため、用地の取得ができず残整備箇所となっていた。

同県は、19年度以降、登記情報等を確認したり地元自治会に問い合わせたりして土地権利者を特定しようとしているが、登記情報に氏名のみが記載されていて住所が記載されていないなどのため、土地権利者の特定に至っていなかった。

c 道路管理者との調整が完了していないもの

荒川上流河川事務所が管理する2河川2か所においては、堤防予定地にある道路の管理者との調整が完了していないため、堤防等の整備に着手できず残整備箇所となっていた。

同事務所は、堤防と交差する道路により堤防が分断される状態となっていることから、上記の2か所について、道路管理者との調整を進めているが、堤防と交差する道路が主要幹線道路や高速自動車国道といった交通量の多い道路であり、堤防等の整備を行うためには、車両の通行や道路構造物の管理に影響を及ぼさないようにして道路のかさ上げを行うなどの必要があることから、道路管理者との調整に長期間を要していた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

荒川上流河川事務所は、一級河川荒川水系荒川において、昭和40年度に工事実施基本計画を、平成27年度に荒川水系河川整備計画(大臣管理区間)をそれぞれ策定し、河川整備計画策定以前から工事実施基本計画等に基づき堤防等の整備を実施してきており、24年度から28年度までの間の同水系の荒川及び高麗川に係る事業費は計185億0700万余円となっている。

上記のうち、整備計画区間47.2kmについてみると、中流部に位置する200mの区間では、当該区間を横断している道路の車両の通行を確保しつつ堤防等の整備を行う必要があるが、道路の形状の変更等について道路管理者であるさいたま市との調整が完了していないため、その下流部は昭和60年度に、上流部は平成20年度に堤防等の整備が完了しているのに、当該区間については現在までに堤防等の整備に着手できておらず、残整備箇所となっている。そして、当該箇所では、計画高水位14.7mに対して堤防予定地の地面の高さは13.2mとなっていて現状の流下能力が不足している状況となっていた。

道路管理者との調整に関して、同事務所は、22年度から堤防の整備方法等について調整を行っているが、堤防等の整備に伴い交通量が多い一般国道を広範囲にわたりかさ上げしなければならないため、時間を要している状況となっていた。

これらのように、残整備箇所は、その上下流の整備済区間と比較して流下能力が低くなっていたり、堤防高が計画高潮位よりも低い位置にあったりしていて、その上下流の堤防等の整備が一定の区間概成しているのに残整備箇所からの越水等により広範囲に浸水が及ぶおそれがあり、その上下流の堤防等の整備効果が十分に発現していない状況となっている。したがって、残整備箇所について、堤防予定地の土地権利者、周辺住民等、又は堤防予定地に存する施設の移転候補地の周辺住民等に対して堤防等の整備への理解と協力を求めたり、道路管理者と一体となった取組を行ったりするなどして堤防等の整備の促進を図ることが必要である。

イ 一定の区間概成した堤防等の間に改築を要する橋りょうが残存しているため、その上下流の整備済みの堤防等がその効果を十分に発現していない事態

(ア) 残改築橋りょうが残存している事態

28年度末において、隣接する上下流の堤防等の整備が行われてから5年以上が経過している橋りょうのうち、橋りょうの架設箇所の流下能力が整備計画流量を下回っていたり桁下高が計画高潮位よりも低い位置にあったりしていて、架設箇所からの越水等により地形上広範囲に浸水が及び住宅等への被害のおそれがあり改築を要する橋りょう(以下「残改築橋りょう」という。)が、表4のとおり、札幌開発建設部が管理する1河川で1橋(1河川に係る河川改修事業費19億2487万余円)、7県が管理する9河川で9橋(9河川に係る河川改修事業費計74億3521万余円(国庫補助金等交付額計37億3389万余円))、計10河川で10橋見受けられた。

なお、残整備箇所と残改築橋りょうの両方が見受けられた河川が2河川(富山県が管理する白岩川及び香川県が管理する本津川、両河川に係る河川改修事業費計25億9341万余円(国庫補助金等交付額計13億1299万余円))ある。

そして、残改築橋りょうは、橋りょうの桁下高を確保するために橋桁の設置高さを高くしたり、河道を拡幅するために橋桁を長くしたりするための橋りょうの架け替えなどの改築が行われていないことから、必要な河道の断面積が確保されておらず、架設箇所の流下能力が整備計画流量に対して39.9%から85.0%となっていて、河川の水位が上昇して流されてきた流木等が橋桁に集積して河道を閉塞させるおそれがあるなど、洪水を安全に流下させることなどができない状況となっていた。

表4 残改築橋りょうの状況
① 架設箇所の流下能力が整備計画流量を下回っている残改築橋りょう

(直轄事業)
地方整備局等名
事務所名
河川名 橋りょう名 橋りょう管理者名 上下流の堤防の整備完了年度等 流下能力の比較 当該河川に係る河川改修事業に平成24年度から28年度までの間に支出した事業費
(千円)
上流 下流 残改築橋りょう架設箇所の流下能力
(A)
(m3/s)
整備計画流量
(B)
(m3/s)
(A)÷(B)
整備完了年度 経過年数 整備完了年度 経過年数
北海道開発局
札幌開発建設部
幌向川 北斗橋 北海道 平成2 26 平成2 26 589 700 84.1% 1,924,876
(補助事業)
県名 河川名 橋りょう名 橋りょう管理者名 上下流の堤防の整備完了年度等 流下能力の比較 当該河川に係る河川改修事業に平成24年度から28年度までの間に支出した事業費
(千円)
左に対する国庫補助金等交付額
(千円)
上流 下流 残改築橋りょう架設箇所の流下能力
(A)
(m3/s)
整備計画流量
(B)
(m3/s)
(A)÷(B)
整備完了年度 経過年数 整備完了年度 経過年数
茨城県 玉川 玉川橋りょう 東日本旅客鉄道株式会社 平成8 20 平成
6~7
21 170 200 85.0% 91,114 45,557
埼玉県 古綾瀬川 松江新橋 埼玉県 平成4 24 平成9 19 30 45 66.7% 503,843 251,921
大場川 新三郷橋 埼玉県 昭和59 32 昭和60 31 37 55 67.3% 115,387 57,693
富山県 白岩川 鉄道橋 あいの風とやま鉄道株式会社 平成11
以前
17以上 平成13
以前
15以上 323 810 39.9% 697,497 348,748
香川県 本津川 JR予讃線橋りょう 四国旅客鉄道株式会社 平成8 20 平成8 20 357 500 71.4% 1,895,918 964,242
長崎県 中島川 玉江橋 長崎県 平成21 7 平成2 26 295 490 60.2% 426,096 213,048
鹿児島県 湯田川 湯田橋 国土交通省 平成
元~17
11 平成
元~17
11 105 180 58.3% 565,556 282,778
4,295,415 2,163,990
(注)
金額は単位未満切捨てのため、合計しても「計」欄と一致しないものがある。

② 桁下高が計画高潮位よりも低い位置にある残改築橋りょう

(補助事業)
県名 河川名 橋りょう名 橋りょう管理者名 上下流の堤防の整備完了年度等 桁下高と計画高潮位との比較 当該河川に係る河川改修事業に平成24年度から28年度までの間に支出した事業費
(千円)
左に対する国庫補助金等交付額
(千円)
上流 下流 桁下高
(m)
計画高潮位
(m)
整備完了年度 経過年数 整備完了年度 経過年数
三重県 海蔵川 JR 橋りょう 東海旅客鉄道株式会社 昭和34
~37
54 昭和34
~37
54 3.0 3.7 2,833,900 1,416,950
五十鈴川 汐合橋 三重県 平成6
以前
22以上 不明 2.5 2.8 305,900 152,950
3,139,800 1,569,900

③ 事業費及び国庫補助金等交付額

10河川10橋に係る事業の区分 当該河川に係る河川改修事業に平成24年度から28年度までの間に支出した事業費
(千円)

左に対する国庫補助金等交付額
(千円)
直轄事業計(札幌開発建設部が管理する1河川で1橋) 1,924,876
補助事業計(7県が管理する9河川で9橋) 7,435,215 3,733,890

これらの残改築橋りょうについてみると、前記堤防等の残整備箇所と同様に、その上下流の堤防等が河口や整備計画区間の終点近くなどまで連続して整備されて一定の区間が概成している間に残存している状況となっていて、当該箇所からの越水等により地形上広範囲に浸水が及び住宅等への被害のおそれがあることから、洪水等による災害発生の防止を図るなどの公共の安全を保持するためにも、橋りょうの改築を行うとともに架設箇所の堤防等の整備を行う必要性があると認められた。

(イ) 残改築橋りょうとなった要因

残改築橋りょうの改築に当たっては、河川管理者は、改築に向けて橋りょう管理者と協議を行って、事業期間、事業費、工事計画等について合意しておくことが必要であるが、この協議の実施のためには、両者で調整を行って、改築の必要性について認識を共有することなどが必要である。

そこで、前記の残改築橋りょうに係る調整の実施状況について確認したところ、札幌開発建設部及び4県(注8)は、橋りょう管理者に対して残改築橋りょうの改築が必要であることを説明するなどしているが、改築について橋りょう管理者の同意を得るに至っていなかった。また、残りの3県(注9)は、橋りょうの改築には多額の費用等を要するなどのことから、橋りょう管理者の同意を得ることや自らも多額の予算を確保することが困難であるなどとして、橋りょう管理者と残改築橋りょうの改築に関しての調整を行っていなかった。その結果、いずれの残改築橋りょうも協議を開始するに至っておらず、河川管理者は、当該橋りょうの上下流の堤防等の整備を先行的に実施するなどしていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例4>

鹿児島県は、二級河川湯田川において、平成元年度から工事実施基本計画等に基づき河川改修事業(延長2.3km)を実施しており、24年度から28年度までの間の事業費は計5億6555万余円(国庫補助金等交付額計2億8277万余円)となっている。

そして、同河川に架設されている一般国道3号の湯田橋の上下流では、17年度までに堤防等の整備が完了している。

しかし、湯田橋は、桁下高が3.0mと計画高水位3.6mより低くなっていることに加え、橋台が計画上の河道内に位置しているため、計画高水流量に対して湯田橋の架設箇所の流下能力は58.3%と不足している状況となっていた。そのため、改築が必要であるとしているが、改築に多額の費用が必要であるなどとして、橋りょう管理者である国土交通省との間で改築に向けた調整を行っていなかった。

これらのように、残改築橋りょうの架設箇所は、その上下流の整備済区間と比較して流下能力が低くなっていたり桁下高が計画高潮位よりも低い位置にあったりしていて、その上下流の堤防等の整備が一定の区間概成しているのに残改築橋りょうの架設箇所からの越水等により広範囲に浸水が及ぶおそれがあり、その上下流の堤防等の整備効果が十分に発現していない状況となっている。したがって、橋りょう管理者に対して治水安全上からの改築の必要性について理解を求めつつ、橋りょう管理者と一体となった取組により残改築橋りょうの改築の促進を図ることが必要である。

(注8)
4県  埼玉、三重、香川、長崎各県
(注9)
3県  茨城、富山、鹿児島各県

3 本院の所見

近年、全国的に豪雨による浸水被害が多発しており、国民の生命、財産等を守るために、河川改修事業が担う役割は非常に大きなものとなってきている。検査したところ、河川改修事業を必要とする河川は多くあり、各河川管理者における河川改修事業の実施には、今後も相当の期間を要することが見込まれる。

したがって、河川改修事業についてはより治水安全上の必要性に配慮しつつ効率的かつ効果的に事業を実施していくことが求められるが、堤防等の整備及び橋りょうの改築状況についてみると、残整備箇所及び残改築橋りょうは治水安全上のぜい弱部となっており、その存在により、その上下流の整備済みの堤防等の整備効果が十分に発現していない状況が見受けられた。

そのため、残整備箇所の整備及び残改築橋りょうの改築をできるだけ早期に完了することは、整備済区間の堤防等の効果を十分に発現させるために必要であると認められる。

しかし、残整備箇所又は残改築橋りょうとなった要因についてみると、残整備箇所については、堤防予定地の土地権利者、周辺住民等からの用地取得又は工事着手の同意が得られていなかったり、堤防予定地に存する施設の移転候補地の周辺住民等からの施設の受入れの同意が得られていなかったり、道路管理者との調整が完了していなかったりなどしていること、また、残改築橋りょうの改築については、橋りょう管理者との協議の実施のために必要な改築に向けた同意が得られていないことなどから、いずれも河川管理者の取組のみでは事態の解決を図ることは困難な状況となっている。

ついては、国土交通省において、残整備箇所の整備及び残改築橋りょうの改築を早期に行うことにより、整備済みの堤防等の整備効果が十分に発現されるよう、次のような方策を講ずるとともに、残整備箇所又は残改築橋りょうが所在している9県に対して同様の方策を講ずるよう助言を行うなどして、事態の早期解消を図ることが望まれる。

  • ア 残整備箇所については、事業の進展を図るために、土地権利者、周辺住民、道路管理者等と一層積極的に交渉や調整を行うなどするよう努めること。特に、長期間にわたり事態の解消が図られず明確な解決の見通しがないまま推移している箇所については、豪雨による洪水被害が日本各地で多発している状況を踏まえ残整備箇所の整備による効果を周知するなどして、土地権利者、周辺住民、道路管理者等に対して一層の理解を求め、残整備箇所の解消に向けて事業の進展が図られるよう努めること
  • イ 残改築橋りょうについては、その上下流の堤防等の整備が完了してから既に長期間を経過しているものが多い状況を踏まえ、残整備箇所と同様に改築による効果を周知するなどして、改築の必要性について橋りょう管理者の理解を得られるよう一層積極的に調整を行い、橋りょう管理者の事情も踏まえた上で河川管理者と橋りょう管理者が一体となって、改築の事業期間、事業費、工事計画等の事項に関する協議を行うことにより早期に残改築橋りょうの改築に着手できるよう努めること

本院としては、今後とも、河川改修事業の進捗に伴う残整備箇所及び残改築橋りょうの解消の状況並びに整備済みの堤防等の効果の発現状況について引き続き注視していくこととする。