我が国における科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ。)の振興に関する施策は、科学技術基本法(平成7年法律第130号)に基づいて行われており、同法において、国は、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、科学技術の振興に関する総合的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有するとされている。
政府は、同法において、科学技術の振興に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を策定しなければならないとされており、基本計画を策定するに当たっては、あらかじめ、内閣府設置法(平成11年法律第89号)に基づいて内閣府の「重要政策に関する会議」の一つとして設置されている総合科学技術・イノベーション会議(平成26年5月18日以前は総合科学技術会議。以下「CSTI」という。)の議を経なければならないとされている。
基本計画には、研究開発(基礎研究(注1)、応用研究(注2)及び開発研究(注3)をいい、技術の開発を含む。以下同じ。)の推進に関する総合的な方針等を定めるものとされており、23年度から27年度までを計画期間とする第4期基本計画(平成23年8月閣議決定)によれば、科学技術イノベーション(注4)に係る政策の一体的展開等を科学技術政策の基本方針とし、計画期間中の政府としての研究開発に対する投資額を対GDP比率1%、総額約25兆円にすることを目指すこととされている。
我が国の科学技術政策は、科学技術政策の司令塔として我が国全体の科学技術を俯瞰(ふかん)し、各府省等より一段高い立場から科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策の企画立案及び総合調整を行うCSTI、科学技術の振興に関する施策を実施する各府省等、各府省等から研究開発に対する投資を受けるなどして研究開発を実施する国立研究開発法人、国立大学法人等の大学、民間企業等の研究開発の実施主体により実施されている。
国立研究開発法人は、27年4月に施行された独立行政法人通則法の一部を改正する法律(平成26年法律第66号。以下「通則法改正法」という。)により設けられた独立行政法人の類型の一つであり、その特性に照らし、一定の自主性及び自律性を発揮しつつ、中長期的な視点に立って執行することが求められる科学技術に関する試験、研究又は開発を主要な業務とするとされている。また、国立研究開発法人は、国が定める中長期的な期間における業務運営に関する目標(以下「中長期目標」という。)を達成するための計画に基づき上記の業務を行うことにより、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため研究開発の最大限の成果を確保することを目的とする独立行政法人として、各独立行政法人の名称、目的、業務の範囲等に関する事項を定める法律(以下「個別法」という。)で定めるものをいうとされている。
27年4月から国立研究開発法人に分類された独立行政法人は31法人であり、全て、「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」(平成20年法律第63号。以下「研究開発力強化法」という。)により指定された研究開発法人に該当している。研究開発法人37法人の一覧及び国立研究開発法人との対応関係は表のとおりである(表の各法人の名称中、「国立研究開発法人」は記載を省略する。)。
表 研究開発法人一覧及び国立研究開発法人との対応関係(平成28年3月末現在)
/ | 主務府省名 | 法人名 | 通則法における法人の分類 | (参考) 平成28年4月の統合に伴う変更 |
|
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国立研究開発法人 | 中期目標管理法人 | ||||
研究開発法人(37法人) |
内閣府 | 日本医療研究開発機構注(2) | 〇 | / | |
総務省 | 情報通信研究機構 | 〇 | |||
財務省 | 独立行政法人酒類総合研究所 | 〇 | |||
文部科学省 | 独立行政法人国立科学博物館 | 〇 | |||
物質・材料研究機構 | 〇 | ||||
防災科学技術研究所 | 〇 | ||||
放射線医学総合研究所注(3) | 〇 | 量子科学技術研究開発機構 | |||
科学技術振興機構 | 〇 | / | |||
独立行政法人日本学術振興会 | 〇 | ||||
理化学研究所 | 〇 | ||||
宇宙航空研究開発機構 | 〇 | ||||
海洋研究開発機構 | 〇 | ||||
日本原子力研究開発機構 | 〇 | ||||
厚生労働省 | 独立行政法人労働安全衛生総合研究所注(4) | 〇 | 独立行政法人労働者健康安全機構 | ||
医薬基盤・健康・栄養研究所注(5) | 〇 | / | |||
国立がん研究センター | 〇 | ||||
国立循環器病研究センター | 〇 | ||||
国立精神・神経医療研究センター | 〇 | ||||
国立国際医療研究センター | 〇 | ||||
国立成育医療研究センター | 〇 | ||||
国立長寿医療研究センター | 〇 | ||||
農林水産省 | 農業・食品産業技術総合研究機構注(6) | 〇 | 農業・食品産業技術総合研究機構 | ||
農業生物資源研究所注(6) | 〇 | ||||
農業環境技術研究所注(6) | 〇 | ||||
国際農林水産業研究センター | 〇 | / | |||
森林総合研究所 | 〇 | ||||
水産総合研究センター注(7) | 〇 | 水産研究・教育機構 | |||
経済産業省 | 産業技術総合研究所 | 〇 | / | ||
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 | 〇 | ||||
新エネルギー・産業技術総合開発機構 | 〇 | ||||
国土交通省 | 土木研究所 | 〇 | |||
建築研究所 | 〇 | ||||
独立行政法人交通安全環境研究所注(8) | 〇 | 独立行政法人自動車技術総合機構 | |||
海上技術安全研究所注(9) | 〇 | 海上・港湾・航空技術研究所 | |||
港湾空港技術研究所注(9) | 〇 | ||||
電子航法研究所注(9) | 〇 | ||||
環境省 | 国立環境研究所 | 〇 | / | ||
計 | 31法人 | 6法人 | / |
国立研究開発法人における研究開発等の財源には、国から法人運営に必要な経費の財源として交付される運営費交付金、法人の施設整備等に係る費用について交付される施設整備費補助金がある。さらに、運営費交付金及び施設整備費補助金以外の財源として、国や民間等から獲得する競争的資金等(内閣府が定義した競争的資金(注5)のほか、公募により競争的に獲得した研究費を含む。)、国等から交付される補助金等、民間等からの受託研究収入、共同研究収入、寄附金収入等(以下、これらを合わせて「外部資金」という。)がある。
総務大臣は、26年9月に、「独立行政法人の目標の策定に関する指針」(平成26年9月総務大臣決定。以下「独法目標指針」という。)を定め、主務大臣に通知している。独法目標指針によれば、主務大臣は、国立研究開発法人の「効果的かつ効率的」という業務運営の理念の下、「研究開発成果の最大化」という国立研究開発法人の第一目的を踏まえ、「研究開発成果の最大化」と「適正、効果的かつ効率的な業務運営」との両立の実現に資するよう、目標を定めなければならないこととされている。また、主務大臣が法人に対し、国の政策体系に位置付けられた的確かつ明確な役割(以下「ミッション」という。)を与え、主務大臣と法人とが十分に意思疎通を図り、法人のミッションを両者が共有することが重要であるとされている。このため、独法目標指針によれば、主務大臣は、中長期目標の冒頭に、当該中長期目標の期間における国の政策体系上の法人の位置付け、法人のミッション、国の政策・施策・事務事業との関係、国の政策等の背景となる国民生活・社会経済の状況、過去からの法人の活動状況等について、具体的かつ明確に記載することとされている。主務大臣は、中長期目標の策定に際して、国立研究開発法人と十分に意思疎通を図るなどとされており、中長期目標の項目(以下「目標項目」という。)の設定に当たっては、法人の長の下での自律的なPDCAサイクルを設定し、法人内部のマネジメントを発揮し得るよう、個別法で定める業務の単位や主要な事業単位等の「一定の事業等のまとまり」ごとに設定することとされている。この「一定の事業等のまとまり」とは、法人の内部管理の観点や財務会計との整合性を確保した上で、少なくとも目標及び評価において一貫した管理責任を徹底し得る単位であるとされている。また、「「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」」(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定。以下「会計基準」という。)によれば、独立行政法人は、中長期目標等における一定の事業等のまとまりごとの区分に基づく事業費用等のセグメント情報を開示することとされている。
国立研究開発法人は、前記の運営費交付金、補助金、受託研究収入等を財源として、前記の中長期目標や法人のミッション等に基づいて策定した中長期計画等及び事業年度(以下「年度」という。)の業務運営に関する計画(以下「年度計画」という。)に従って研究開発を実施している。国立研究開発法人が実施する研究開発には、国立研究開発法人が自ら行うものと、研究開発課題の実施者を府省共通研究開発管理システム(e―Rad)等により公募するなどして選定した法人等に研究資金を配分して行うものがある。
通則法に基づく国立研究開発法人の業務の実績に関する評価(以下「法人評価」という。)は、従来、各府省に設置された独立行政法人評価委員会が行ってきたが、通則法改正法により、26年度の法人評価から、総務大臣が定めた「独立行政法人の評価に関する指針」(平成26年9月総務大臣決定。以下「独法評価指針」という。)に基づいた評価を主務大臣が実施することとされており、評価には、各年度における業務の実績に関する評価、中長期目標の期間における業務の実績に関する評価等がある。各国立研究開発法人は、通則法により主務大臣の評価を受けようとするときは、主務省令で定めるところにより、自ら評価を行った結果を明らかにした報告書(以下「自己評価書」という。)を主務大臣に提出しなければならないとされており、主務大臣は、自己評価書を適切に活用し、あらかじめ、外国の動向を幅広く反映するとともに研究開発領域の専門性を補うために設置された研究開発に関する審議会の意見を聴いた上で、研究開発成果の最大化等について重点的に評価を行うこととなっている。
そして、通則法によれば、独立行政法人は、評価結果を翌年度以降の年度計画や業務運営の改善等に適切に反映させるとともに、毎年度、評価結果の反映状況を公表しなければならないこととされている。
研究開発力強化法によれば、研究開発法人は、研究開発等の推進のための基盤の強化のうち人材の活用等に係るものに関する方針(以下「人材活用等に関する方針」という。)を作成し、遅滞なく公表しなければならないなどとされており、各省に通知されている「「内閣総理大臣の定める基準」について(通知)」(以下「内閣総理大臣の定める基準」という。)に即して人材活用等に関する方針を作成することとなっている。そして、内閣総理大臣の定める基準によれば、人材活用等に関する方針においては、若年者、女性及び外国人の研究者(以下、37歳以下の研究者を「若年研究者(注6)」という。また、若年研究者、女性研究者及び外国人研究者を合わせて「若年研究者等」という。)の能力の活用に関する事項等について具体的な計画を示すこととされている。さらに、25年度以降の毎年度閣議決定されている「科学技術イノベーション総合戦略」においても、若年研究者等の多様な人材の活躍を促進することが、政策として重点的に取り組むべき課題の一つとして挙げられている。
国立研究開発法人は、活用が見込まれる知的財産を保護し、利用を図ること、知的財産を他者に利用されないよう防衛すること、公益に資する知的財産の他者による独占を防止することなどを目的として、研究開発成果である知的財産を権利化することにより、知的財産権(注7)を取得している。研究開発の成果として主に権利化されているものには特許権、実用新案権、育成者権及び意匠権(以下「特許権等」という。)がある。そして、国立研究開発法人は、会計基準により、知的財産権については、当該資産を示す名称を付した科目をもって貸借対照表に表示しなければならないとされている。
CSTIは、公的研究費の不正使用等は、科学技術及びこれに関わる者に対する国民の信頼を裏切るものであるとして、18年8月に「公的研究費の不正使用等の防止に関する取組について(共通的な指針)」(以下「共通的な指針」という。)を決定し、各府省等に対して、国立研究開発法人を含む研究機関に研究費の使用等のルールの整備・明確化を促すなど、共通的な指針に則った取組を推進するよう求めている。そして、各府省は、共通的な指針等を踏まえ、研究費の不正使用等の防止に関する指針等(以下「公的研究費ガイドライン」という。)を策定又は改定して研究機関に周知徹底することとなっている。共通的な指針によれば、国立研究開発法人を含む研究機関においては、研究費の使用に関するルールを整備・明確化して研究者等に周知徹底するとともに、研究費の管理・監査体制の整備等を推進することとされている。そして、公的研究費ガイドラインにおいては、不正な取引が業者との関係が緊密な状況で発生しがちであることに鑑み、研究開発機関の公的研究費の適正な運営・管理に向けた取組の一環として、予算執行業務のうち発注業務及び検収業務については原則として事務部門が実施することとし、当事者以外のチェックが有効に機能するシステムを構築・運営し、運用することとなっている。
国立研究開発法人は、国家的又は国際的な要請に基づき、民間では困難な研究開発に取り組み、国が定める中長期目標を達成するための計画に基づき業務を行う法人であり、科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため研究開発の最大限の成果を確保することを目的として、中長期的な視点に立って業務を執行することが求められている。また、これらの国立研究開発法人における研究開発には多額の資金が投入されており、そのうち国が交付した運営費交付金の23年度から27年度までの間の決算額は計4兆4258億余円となっている。
そこで、国立研究開発法人における研究開発の実施状況について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査を実施した。
ア 法人ごとの研究開発に係る収支の状況はどのようになっているか。特に、研究費の確保のため、外部資金の獲得は進んでいるか。
イ 研究開発の目的が法人に与えられたミッションに沿ったものとなっているかを確認する体制は整備されているか。研究開発に対する評価は適切に行われているか。また、研究開発の評価結果は翌年度以降の年度計画や業務運営の改善に適切に反映されているか。
ウ 研究開発力強化法に定められた人材活用等に関する方針は適切に作成され、公表されているか。若手研究者の人材の活用の状況はどのようになっているか。
エ 研究開発成果は、法人の財産として管理され、特に、研究開発成果の一つである特許権は財務諸表において適切に表示されているか。
オ 公的研究費に係る不正の防止に係る体制は適切に整備されているか。
27年4月1日時点における国立研究開発法人31法人の23年度から27年度までの間の研究費の支出額計2兆8942億余円及び資金配分額計1兆3007億余円を対象として、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)等に基づき国立研究開発法人から提出された23年度から27年度までの財務諸表等のほか、研究開発の実施状況についての調書等の提出を求め、これを在庁して分析するとともに、同31法人に対して会計実地検査を行った(表参照)。
国立研究開発法人31法人の27年度の収入額は計1兆5700億余円となっており、23年度と比べて1013億余円増加(23年度に対して6.8%増加)していた。収入額のうち、運営費交付金が8817億余円と最も多額になっており、収入全体の過半を占めているものの、23年度と比べて362億余円減少(同4.0%減少)していた。27年4月に設立等された2法人を除く29法人の状況を法人別にみると、27年度の運営費交付金が23年度と比較して増加している法人は4法人である一方で、残りの25法人は運営費交付金が減少しており、このうち7法人については、23年度から年々減少していた。国立研究開発法人31法人の27年度の支出額は計1兆5758億余円となっており、23年度と比べて1443億余円増加(同10.0%増加)していた。支出額のうち、研究費が5730億余円となっており、23年度と比べて165億余円増加(同2.9%増加)していた。また、資金配分額は3838億余円となっており、1443億余円増加(同60.2%増加)していた。
自ら研究開発を実施している国立研究開発法人(以下「研究実施法人」という。)28法人の27年度の外部資金の獲得額は計2046億余円となっており、年度によって変動はあるものの、27年度は23年度と比べて、合計447億余円増加(23年度に対して28.0%増加)していた。上記28法人のうち、27年4月に統合されたため比較ができない1法人を除く27法人の外部資金の獲得状況を法人別にみると、27年度の外部資金の獲得額が23年度と比べて増加している法人は18法人であり、残りの9法人については外部資金の獲得額が減少していた。
国立研究開発法人は、研究費の確保のため運営費交付金以外の外部資金獲得を促進するとされている一方、主務大臣から示されたミッションに沿って研究開発を行う必要があることから、各国立研究開発法人において、獲得する外部資金による研究開発の目的がミッションに沿ったものであるかを確認する体制が整備されている必要がある。また、当該研究に従事する研究者に過度の業務が集中することにより研究を中止するという事態が生じないよう、研究者に業務が集中していないかを確認する体制が整備されている必要がある。
そこで、研究実施法人28法人において、外部資金を獲得する際、その研究目的が法人のミッションに沿ったものになっているかを確認する旨の規程等を設けているかをみたところ、一部の外部資金による研究開発について確認する旨の規程等を設けていない法人は4法人、全部の外部資金による研究開発について確認する旨の規程等を設けていない法人は8法人となっていた。また、研究実施法人28法人において、外部資金を獲得する際、研究者のエフォート(研究者の全仕事時間に対する当該研究の実施に必要とする時間の配分割合)や研究機器等の利用等の面で法人の業務遂行に支障を来さないかを確認する旨の規程等が整備されているかをみたところ、一部の外部資金による研究開発について確認する旨の規程等を設けていない法人は4法人、全部の外部資金による研究開発について確認する旨の規程等を設けていない法人は11法人となっており、これらの法人のうち1法人では、一部の外部資金による研究開発について研究者や研究機器等の面で法人の業務遂行に支障を来さないか確認していなかった。
通則法に基づく法人評価は、独法評価指針によれば、原則、目標項目を評価単位とすることとされており、国立研究開発法人31法人の27年度における評価単位についてみたところ、いずれも中長期目標又はこれに基づき作成した中長期計画、年度計画等において設定した目標項目となっていた(以下、評価単位としている項目を「評価項目」という。)。27年度における評価単位ごとの評価の主務大臣評価及び国立研究開発法人31法人の自己評価について、各評価項目のうち、個々の研究開発課題等を実施したものに係る評価項目(以下「研究開発評価項目」という。)の評価結果をみたところ、計200項目のうち評価結果が標準であるB評価以上となっている項目が、主務大臣評価及び自己評価ともに計198項目となっていた。
独法評価指針において、主務大臣による評価手法の一つとして、研究開発活動に係る成果と当該研究開発活動に投入された金額や人員(以下「インプット」という。)との対比を行うなどにより、評価の実効性を確保するものとされており、評価書において、インプットに係る情報(以下「インプット情報」という。)として、評価項目ごとに予算額及び決算額(いずれも支出)、経常費用、従事人員数等を記載することが求められている。そして、各評価項目と一定の事業等のまとまりごとの区分に基づくセグメントが対応し、各評価項目のインプット情報は、対応するセグメント情報や予算額等(以下、これらを合わせて「セグメント情報等」という。)を用いて記載されることが想定されている。
しかし、通則法改正後に、中長期目標が策定されている10法人のうち、研究開発評価項目とセグメントとが適切に対応していない法人が1法人、研究開発評価項目とセグメントとが対応しているもののインプット情報に対応するセグメント情報等を適切に用いて27年度の評価書に記載していない法人が5法人見受けられた。さらに、研究開発成果のみならずインプットにも着眼した評価を適切に実施し、その内容を評価書上において明記することは、国民に対する説明責任を果たすためにも重要であるが、上記の10法人及び当該法人を所管している4府省においては、インプット情報を自己評価及び主務大臣評価に活用していなかった。
前記のとおり、独立行政法人は、評価結果を翌年度以降の年度計画や業務運営の改善等に適切に反映させるとともに、毎年度、評価結果の反映状況を公表しなければならないこととされているが、国立研究開発法人31法人から27年4月に設立された1法人を除く30法人のうち10法人は、28年10月末時点において、評価書に反映状況に係る項目を設けて記載するなどにより26年度評価結果の反映状況を明確にして公表していなかった。
少子高齢化が進み、国際競争をめぐる環境が厳しさを増す中、若年研究者等の多種多様な人材がその能力を最大限発揮できるような競争的な環境を整備することが喫緊の課題とされている。そして、研究開発力強化法によれば、研究開発法人は、若年研究者等の能力の活用を図ることについて努めることとされている。
国立研究開発法人31法人における職員数等の状況をみたところ、27年度末の研究者の人数は、15,134人と23年度末と比べて3.3%の減少となっており、研究者のうち若年研究者の人数は、4,258人と17.0%の減少となっていた。
研究実施法人28法人について、若年研究者が自ら研究代表者として27年度に獲得した競争的資金の状況をみたところ、若年研究者の獲得金額は、26億余円と23年度と比べて12.4%減少しているが、獲得件数は、1,106件と8.0%増加していた。また、若年研究者の獲得金額は全研究者の獲得金額の13.7%を占めており、獲得件数は26.8%となっていた。
国立研究開発法人31法人の27年度末における人材活用等に関する方針の作成の状況をみたところ、19法人においては人材活用等に関する方針を作成していた。また、その公表の状況をみたところ、19法人のうち1法人は、担当部署の理解不足により公表していなかった。一方、12法人は、担当部署の理解不足等により人材活用等に関する方針を作成していなかった。
研究実施法人28法人の27年度末の特許権等の保有件数をみたところ、全法人が特許権等を保有しており、27年度末時点の特許権等の保有件数は22,328件、このうち特許権が21,492件となっていた。会計基準において、特許権等は独立行政法人の資産として位置付けられ、無形固定資産に属するものとされており、無形固定資産に属する資産は、特許権、実用新案権、意匠権等の当該資産を示す名称を付した科目をもって表示しなければならないとされている。しかし、27年度の貸借対照表に資産として計上していなかった法人が7法人見受けられ、また、特許権を資産として計上している21法人における表示科目をみると、当該資産の具体的な名称を付した科目名で表示せず「その他無形固定資産」に含めて表示している法人が5法人見受けられた。
研究実施法人28法人が整備した公的研究費の不正防止や適正な管理に係る規程等における発注権限の定めについて、27年度末の状況をみたところ、一部を研究部門が直接発注する場合がある15法人のうち、一定金額未満の消耗品の購入、緊急を要する場合、業務上やむを得ない場合等、研究部門が直接発注できる条件を規程等で定めている法人は14法人となっていた。一方、1法人は研究者による発注を原則禁止することとしているが、研究者が例外的に発注できる条件は具体的に書面で定めていなかった。
規程等における検収を実施する部門に関する定めについて、27年度末の状況をみたところ、一部を研究部門が検収する場合があるのは11法人であり、このうち、研究部門が検収を行うことができる条件を規程等で定めている法人は10法人となっていて、1法人は定めていない状況となっていた。また、11法人のうち、6法人が事務部門による定期的な事後確認の方法を定めていたが、5法人は定めていない状況となっていた。
国立研究開発法人31法人の27年度の収入額は計1兆5700億余円となっており、23年度と比べて1013億余円増加していた。27年度の支出額は計1兆5758億余円となっており、23年度と比べて1443億余円増加していた。研究実施法人28法人のうち比較ができない1法人を除く27法人において、27年度の外部資金の獲得額が23年度と比べて増加している法人は18法人であり、残りの9法人については外部資金の獲得額が減少していた。
研究実施法人28法人において、外部資金を獲得する際、その研究目的が法人のミッションに沿ったものになっているかを確認する旨の規程等を設けているかをみたところ、一部又は全部の外部資金による研究開発について確認する旨の規程等を設けていない法人は12法人となっていた。また、外部資金を獲得する際、研究者のエフォートや研究機器等の利用等の面で法人の業務遂行に支障を来さないかを確認する旨の規程等が整備されているかをみたところ、一部又は全部の外部資金による研究開発について確認する旨の規程等を設けていない法人は15法人となっており、このうち一部の外部資金による研究開発について確認を行っていない法人は1法人となっていた。
主務大臣評価の実施に当たり、評価書において、インプット情報として、評価項目ごとに予算額及び決算額、経常費用等を記載することが求められており、また、各評価項目のインプット情報は、対応するセグメント情報等を用いて記載されることが想定されている。しかし、中長期目標が策定されている10法人のうち、研究開発評価項目とセグメントとが適切に対応していない法人が1法人、研究開発評価項目とセグメントとが対応しているもののセグメント情報等を適切に用いて27年度の評価書に記載していない法人が5法人見受けられた。また、当該10法人における主務大臣評価及び自己評価において、インプット情報を評価に活用していなかった。
独立行政法人は、評価結果を翌年度以降の年度計画や業務運営の改善等に適切に反映させるとともに、毎年度、評価結果の反映状況を公表しなければならないこととされているが、10法人においては、28年10月末時点において、26年度評価結果の反映状況を明確にして公表していなかった。
研究実施法人28法人について、若年研究者が自ら研究代表者として27年度に獲得した競争的資金の状況をみたところ、若年研究者の獲得金額は、26億余円と23年度と比べて12.4%減少しているが、獲得件数は、1,106件と8.0%増加していた。また、若年研究者の獲得金額は全研究者の獲得金額の13.7%を占めており、獲得件数は26.8%となっていた。
国立研究開発法人31法人の27年度末における人材活用等に関する方針の作成及び公表の状況をみたところ、12法人は、担当部署の理解不足等により作成しておらず、人材活用等に関する方針を作成している法人においても、1法人が担当部署の理解不足により公表していなかった。
会計基準において、特許権等は独立行政法人の資産として位置付けられ、無形固定資産に属するものとされているが、27年度末時点で特許権を保有していた研究実施法人28法人のうち、27年度の貸借対照表に資産として計上していなかった法人が7法人見受けられ、また、資産として計上している21法人における表示科目をみると、「その他無形固定資産」に含めて表示している法人が5法人見受けられた。
研究実施法人28法人が整備した公的研究費の不正防止や適正な管理に係る規程等における発注権限の定めについて、27年度末の状況をみたところ、1法人は研究者による発注を原則禁止することとしているが、研究者が例外的に発注できる条件は具体的に書面で定めていなかった。
規程等における検収を実施する部門に関する定めについて、27年度末の状況をみたところ、1法人は研究部門が検収を行うことができる条件を規程等で定めておらず、5法人は事務部門による定期的な事後確認の方法を定めていなかった。
第4期基本計画によれば、科学技術イノベーションに係る政策の一体的展開、人材とそれを支える組織の役割の一層の重視及び社会とともに創り進める政策の実現の三つを科学技術政策の基本方針とし、第4期基本計画の計画期間中の政府としての研究開発に対する投資額(地方公共団体の分を含む。)を対GDP比率1%、総額約25兆円にすることを目指すこととされている。
国立研究開発法人は、科学技術イノベーションに係る主要な実施主体であり、国家的又は国際的な要請に基づき、民間では困難な研究開発に取り組み、研究開発の最大限の成果を確保することを目的として、中長期的な視点に立って業務を執行することが求められている。
したがって、国立研究開発法人において、効果的かつ効率的という業務運営の理念の下、研究開発の最大限の成果が確保されるよう、国立研究開発法人及び主務府省においては、次の点に十分留意することが必要である。
ア 研究開発の目標、実施、評価等について、
イ 人材の活用については、研究開発等の推進のための基盤強化を図るための人材活用等に関する方針を作成して、遅滞なく公表しなければならないとされていることから、作成していない法人においては、人材活用等に関する方針を速やかに作成して、遅滞なく公表すること
ウ 研究開発成果の普及・管理等について、特許権は、運営費交付金等を財源とする研究費等を用いて取得された国民共通の財産であるとともに、国立研究開発法人にとっても重要な業務上の成果であることから、特許権を資産計上していない法人においては、業務実態等も考慮しつつ、特許権を貸借対照表に計上することによりその保有の状況を明らかにすることについて改めて検討すること、及び特許権を「その他無形固定資産」に含めて表示している法人においては、特許権、工業所有権等の当該資産を示す名称を付した科目をもって表示することを改めて検討すること
エ 公的研究費に係る不正防止については、研究部門による検収を例外的に認める場合の事務部門による定期的な事後確認の方法を定めていない法人においては、当該方法を規程等に定めること
本院としては、国立研究開発法人における研究開発の実施状況について、今後とも多角的な観点から引き続き注視していくこととする。