国会、裁判所、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省及び会計検査院(これらに設置されている外局を含む。以下、これらを合わせて「各府省等」という。)は、職員に現在就いている官職又は将来就くことが見込まれる官職の職務の遂行に必要な知識及び技能を習得させ、並びに職員の能力及び資質を向上させることなどを目的とするなどして研修を実施している。
国家公務員の職は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)により、一般職と特別職に大別されており、同法第2条に規定する特別職に属する職(注1)以外の国家公務員の職は一般職とされている。そして、国家公務員法は、このうち一般職の国家公務員にのみ適用されることから、一般職の国家公務員に対する研修は、原則として同法に基づいて実施され、特別職の国家公務員に対する研修は、所属する各府省等においてそれぞれ関係法令等に基づいて実施されている。
前記のとおり、一般職の国家公務員に対する研修は、原則として国家公務員法に基づいて実施されている。同法によれば、研修の根本基準として、研修は、職員に現在就いている官職又は将来就くことが見込まれる官職の職務の遂行に必要な知識及び技能を習得させ、並びに職員の能力及び資質を向上させることを目的とするものでなければならないとされている。
そして、人事院、内閣総理大臣及び関係庁(各府省等のうち一般職の国家公務員に対する研修を実施する場合の府省等をいう。以下同じ。)の長は、この根本基準を達成するため、職員の研修について計画を樹立し、その実施に努めなければならないとされており、その計画は、研修の目的を達成するために必要かつ適切な職員の研修の機会が確保されるものでなければならないとされている。
また、同法によれば、内閣総理大臣及び人事院は中央人事行政機関として研修に関するそれぞれの事務を行うこととされており、内閣総理大臣が行う研修に関する事務は、①研修の根本基準の実施につき必要な事項を人事院の意見を聴いて政令で定めることに関すること、②幹部候補育成課程における各行政機関の課程対象者の政府全体を通じた育成又は内閣の重要政策に関する理解を深めることを通じた行政各部の施策の統一性の確保の観点から行う研修による職員の育成についての調査研究等、③内閣総理大臣が行う研修についての計画の樹立及び実施、④内閣総理大臣及び関係庁の長が行う研修についての計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び関係各庁に対する調整とされている。
なお、①に関して、平成26年5月の国家公務員法の改正により、28年5月29日までは、人事院規則10-3(職員の研修)(以下「規則10-3」という。)が政令としての効力を有することとなった。そして、上記の内閣総理大臣が行う研修に関する事務を担当する内閣人事局は、その後の検討の結果、改正後の国家公務員法に研修の根本基準の実施に当たり必要な事項が規定されているとしており、規則10-3の失効後、政令は制定されていない。
また、人事院が行う研修に関する事務は、①国民全体の奉仕者としての使命の自覚及び多角的な視点等を有する職員の育成並びに研修の方法に関する専門的知見を活用して行う職員の効果的な育成の観点から行う研修による職員の育成についての調査研究等、②人事院が行う研修についての計画の樹立及び実施、③内閣総理大臣及び関係庁の長が行う研修についての計画の樹立及び実施に関する監視、④内閣総理大臣又は関係庁の長に対して計画に基づく研修の実施状況についての報告を求めること及び法令に違反して計画に基づく研修を行った場合の是正のための指示を行うこととされている。なお、人事院は人事行政を公正に行うために国家公務員法によって設置された中立第三者機関であることから、②の研修についての計画の樹立及び実施については、内閣総理大臣の所掌事務である研修についての計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び調整の対象外とされている。
そして、人事院は、26年5月の国家公務員法の改正に伴い、同年同月に人事院が行う研修に関する事務の具体的な内容等を規定する人事院規則10-14(人事院が行う研修等)(以下「規則10-14」という。)を制定した。規則10-14によれば、人事院は、国民全体の奉仕者としての使命の自覚及び多角的な視点等を有する職員の育成等の観点から行政研修(注2)や指導者養成研修(注3)等の研修についての計画を樹立し実施すること、国家公務員法の規定による調査研究の結果に基づき、関係庁の長が行う研修についての計画の樹立及び実施の支援を行うこととされている。また、人事院は、必要と認めるときは、同法の監視の権限に基づき、内閣総理大臣又は関係庁の長に対して、研修についての計画の樹立及び実施に関し調査を行うこと、人事院が同法の規定に基づき研修の実施状況について報告を求めたときは、内閣総理大臣及び関係庁の長は、研修の内容その他の事項を報告することとされている。
内閣総理大臣は、26年6月に、国家公務員法に基づく研修についての計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び調整を行うに当たっての基本的な方針を示すものとして「国家公務員の研修に関する基本方針」(平成26年6月内閣総理大臣決定。以下「基本方針」という。)を策定した。
基本方針によれば、研修は、人材育成の観点から行われる職務付与(官職への任用、具体的な仕事の割振り等)と並び、人材育成において欠かせない重要な働きかけであるとされている。
そして、執務を通じての研修(On the Job Training。以下「OJT」という。)は、職場の監督者や先輩職員等によって日常的に行われるものであり、組織の一員として必要な知識・技能・心構え等を習得させる中核的な研修であり、また、執務を離れての研修(Off the Job Training。以下「Off-JT」という。)は、集中的、体系的な知識・技能の習得、深い思考や気付き、職場外の者から受ける刺激など、OJTでは得られにくい能力・資質の向上を図るものであり、人材育成を効果的に行うためには、職務付与、OJT、Off-JTを相互に効果的に組み合わせることが重要であるとされている。
基本方針によれば、行政ニーズの複雑化、高度化が進むとともに、より早く行政活動の成果を挙げることが求められるようになっており、職員に挑戦と失敗を繰り返し経験させながら能力を高めさせていくような余裕が職場から減少しつつあるとされ、また、行政事務のIT化の進展は、業務遂行の全体像を他者から見えにくくするため、職員が上司や先輩職員等の業務遂行状況を見て自然に学ぶということが期待しにくくなっているとされている。
そして、このような状況を踏まえて、OJTをより効率的かつ効果的に実施していくため、関係各庁は、その所属職員の育成の観点から、職員の監督者に、職員に対するOJTを適時にかつ効果的に行う必要があることを日常的に意識させ、実行させるとともに、職員の監督者以外の先輩職員等からの助言や支援を得やすい環境づくりに努めるなどの措置を講ずることとされている。
基本方針によれば、前記職場環境の変化を踏まえて、OJTを補完していく観点からOff-JTを充実していく必要があるとされ、内閣人事局は、全府省職員を対象とし、政府全体を通じた成果向上及び人材育成を狙いとした研修を実施することとされている。そして、関係各庁は、所管行政の推進を狙いとして、所属職員の育成の観点から又は全府省職員を対象に所掌事務について行う知識及び技能の付与の観点から研修を実施することとされており、内閣人事局及び関係各庁は相互に連携・協力することにより、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるよう努めることとされている。
また、内閣人事局及び関係各庁は、Off-JTの企画・運営を行うに当たって、不断の情報収集により研修ニーズの把握に努め、適時に適切な内容がカリキュラムに盛り込まれるようにすること、研修効果を高める観点から、研修対象者の参加意欲や学習意欲を引き出す工夫を行うこと、研修効果を把握し研修内容の改善に努めることなどを重視することとされている。
前記のとおり、特別職の国家公務員に対する研修は、所属する各府省等においてそれぞれ関係法令等に基づいて実施されている。その主な根拠法令等は、次のとおりである。
国会職員に対する研修は、国会職員法(昭和22年法律第85号)に基づき、衆議院事務局、参議院事務局、国立国会図書館等において、それぞれ実施されている。
裁判官に対する研修は、裁判所法(昭和22年法律第59号)に基づき、最高裁判所に司法研修所が置かれ、実施されている。
また、裁判官以外の裁判所職員に対する研修は、裁判所職員臨時措置法(昭和26年法律第299号)により準用される国家公務員法に基づき、実施されている。
防衛省では、防衛省設置法(昭和29年法律第164号)等に基づき、自衛官に対する教育訓練や、事務官等に対する研修がそれぞれ実施されている。
なお、国家公務員法及び人事院規則1-5(特別職)によれば、防衛省職員のうち、地方協力局労務管理課の職員等は一般職の国家公務員とされている。
各府省等における研修の実施に当たっては、研修講師や受講者の旅費、教材費・印刷製本費、研修会場の借料、留学費用、研修講師への謝金、研修施設の維持管理費等の経費を要しているが、これらの研修の実施に要した経費について公表された資料はない。
ただし、内閣人事局及び人事院(24年度以前は人事院)は、毎年度、一般職の国家公務員に対する研修を実施する関係各庁の研修の実施状況を調査して(以下、この調査を「研修実施状況調査」という。)、「各府省研修概況」(24年度以前は「国家公務員研修概況」)を作成し、調査の対象とした関係各庁へ配布しており、24年度までは、研修の実施に要した経費として人事院へ報告された額が記載されていた。これによれば、24年度の研修の実施に要した経費として報告された額の総計は、研修講師への謝金、研修講師や受講者の旅費、教材費等に要した経費として、約76.9億円(注4)となっていて、この経費を全研修コース及び総受講者数で除して、1コース及び1研修員当たりに換算するとそれぞれ約22万円及び約7千円になるなどとされている。