社会保障・税番号制度(以下「マイナンバー制度」という。)は、社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するために、複数の機関に存在する個人情報について同一人の情報であるということの確認を行うための社会基盤である。
マイナンバー制度においては、①最新の4情報(氏名、住所、性別及び生年月日)と関連付けられている国民一人一人に唯一無二となる個人番号(注1)を新たに付番する仕組み、②複数の機関が管理する情報と個人番号との関連付けを行った上でこれを利用して相互に情報を活用するための仕組み及び③個人が間違いなく本人であることを証明するための本人確認の仕組みが設けられることとなっている。
そして、マイナンバー制度は、社会保障、税及び災害対策の各分野において導入されることとなっている。具体的には、社会保障の分野においては、年金、雇用保険等の資格を取得したり、給付を受けたりする場合に個人番号が利用されることとなっており、税の分野においては、国民が税務当局に提出する確定申告書等に個人番号を記載し、それが当局の内部事務において利用されることとなっている。また、災害対策の分野においては、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づく被災者台帳の作成に関する事務等に個人番号が利用されることとなっている。
上記のように個人番号が利用されることで、より正確な所得把握が可能となり社会保障や税の給付と負担の公平化が図られたり、災害時において真に手を差し伸べるべき者に対する積極的な支援に活用することが可能となったりするなどの効果が見込まれ、これにより、より公平・公正で、行政に過誤や無駄のない国民にとって利便性の高い社会が実現できるとされている。
マイナンバー制度に関して必要な事項は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(平成25年法律第27号。以下「番号法」という。)等に定められている。そして、番号法における基本理念として、個人番号及び法人番号(注2)の利用は、次に掲げる事項を旨として行われなければならないこととなっている。
上記の基本理念にのっとり、国は、個人番号その他の特定個人情報(注3)の取扱いの適正を確保するために必要な措置を講ずるとともに個人番号及び法人番号の利用を促進するための施策を実施すること、並びに教育活動、広報活動その他の活動を通じて、個人番号及び法人番号の利用に関する国民の理解を深めるよう努めることとなっている。また、地方公共団体は、個人番号その他の特定個人情報について適正な取扱いを確保するために必要な措置を講ずるとともに、個人番号及び法人番号の利用に関して、国との連携を図りながら、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を実施することとなっている。
国の行政機関、地方公共団体、独立行政法人等は、それぞれ社会保障、税等に係る情報システムの運用等を行っており、また、新たに情報提供NWS等の情報システムを開発している。そして、マイナンバー制度の実施のために、これらの情報システムの運用等を行うことになる(マイナンバー制度に関連した情報システムの概要については別図表1参照)。
そして、国の行政機関、地方公共団体、独立行政法人等は、自らが運用等を行う情報システムから情報提供NWSを通じて、他の行政機関、地方公共団体、独立行政法人等に対して、特定個人情報について情報照会を行い、これを受けた行政機関、地方公共団体、独立行政法人等は、自らが運用等を行う情報システムから情報提供NWSを通じて当該特定個人情報について情報提供を行うこととなっている(以下、これらの情報照会及び情報提供を合わせて「情報連携」という。)。
情報提供NWSは、情報連携に用いられる個人を特定するための符号の付番及び変換並びに情報連携の許可を行うコアシステムと、情報照会者又は情報提供者との接続を行うインターフェイスシステムの二つの情報システムから構成されている。そして、厚生労働省等の国の行政機関や独立行政法人等においては、情報連携を行うために、それぞれが運用等を行っている情報システム(以下「国等既存システム」という。)を整備(改修を含む。以下同じ。)するなどした上で、情報提供NWSと接続することが必要となっている。
また、地方公共団体においても、情報連携を行うために、情報連携の対象となる世帯情報、所得情報等の情報を保有する既存の住民基本台帳システム、地方税務システム及び生活保護システム等の社会保障関係システム(以下、これらの情報システムを総称して「地方既存システム」という。)について、それぞれ必要な整備を行った上で、情報提供NWSと接続することが必要となっている。地方既存システムのうち、住民基本台帳システムについては国等の多くの情報システムに先行して平成27年10月から、その他の地方既存システムについては28年1月から利用を開始しており、今後は、29年7月からの情報連携に向けて、総合運用テスト等が続くことになる。
そして、情報提供NWSと国等既存システム又は地方既存システムとの間に設置され、国の行政機関等又は地方公共団体が運用等を行う中間サーバーは、国等既存システム又は地方既存システムのデータベースの副本を保存し、情報連携の仲介を行う役割を担うこととなっている。このように、中間サーバーにおいて情報連携に係る業務を処理することで、情報提供NWSにおいて障害等があった場合でも中間サーバーに影響をとどめることができるとされている。また、情報連携においては、個人情報の保護のために、個人番号を用いないようにすることとなっており、中間サーバーを介して行われる情報提供NWSと国等既存システム又は地方既存システムとの情報連携においては、個人番号に代わって住民票コードを基に生成され個人を特定する符号が用いられることとなっている。
また、地方公共団体が整備を行う団体内統合宛名システム等において、地方公共団体内で個人を一意に特定できる番号である団体内統合宛名番号等(以下「宛名番号」という。)を付番して、個人番号とひも付けを行った上で地方公共団体が運用等を行う中間サーバー(以下「中間サーバー」という。)において宛名番号と符号をひも付けることにより、符号と地方既存システムが保有する情報がひも付けられることになる(図表0-1参照)。なお、中間サーバーの整備に当たって必要となるハードウェアの導入については地方公共団体が行い、ソフトウェアについては総務省が一括して開発を行うこととなっている。
さらに、マイナンバー制度における安全等の確保という目的に沿った機能として、内閣官房が開発し、内閣府が運用等を行うマイナポータルに、国民が自宅のパソコン等から自身に関する情報連携等の記録を確認できる機能が搭載されることになっている。また、内閣官房が開発し、内閣府に設置された個人情報保護委員会(27年12月31日以前は特定個人情報保護委員会)が運用等を行う監視・監督システムには、不正な情報連携が行われていないかを監視及び監督する機能が搭載されることになっている。
図表0-1 マイナンバー制度における情報連携等の概要
地方公共団体情報システム機構(以下「J-LIS」という。)は、地方公共団体情報システム機構法(平成25年法律第29号)に基づき、地方公共団体が共同して運営する組織として、住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)、電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成14年法律第153号)及び番号法の規定による事務並びにその他の地方公共団体の情報システムに関する事務を地方公共団体に代わって行うとともに、地方公共団体に対してその情報システムに関する支援を行い、もって地方公共団体の行政事務の合理化及び住民の福祉の増進に寄与することを目的とする法人である。そして、J-LISは、前身である財団法人地方自治情報センターの権利及び義務を26年4月1日に承継して設立された。
市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)は、番号法に基づき、住民票に住民票コードを記載したときは、個人番号を指定して通知することとなっており、その指定及び通知は、次のとおり行われることとなっている。
① 市町村長は、個人番号を指定するときは、あらかじめJ-LISに対し、当該指定しようとする者に係る住民票に記載された住民票コードを通知するとともに、個人番号とすべき番号の生成を求める。
② J-LISは、総務省との委託契約に基づき整備した個人番号生成システムにより、住民票コードを基に個人番号とすべき番号を生成し、市町村長へ通知を行う。
③ 市町村長は、J-LISから通知された個人番号とすべき番号をその者の個人番号として指定する。
④ 市町村長は、その者に対して、当該個人番号を通知カード(注4)により通知する。
また、市町村長は、当該市町村(特別区を含む。以下同じ。)が備える住民基本台帳に記録されている者に対して、その者の申請により、その者に係る個人番号カード(注5)を交付することとなっている。
そして、市町村長は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の規定による通知カード及び個人番号カード並びに情報提供ネットワークシステムによる特定個人情報の提供等に関する省令」(平成26年総務省令第85号)に基づき、通知カード及び個人番号カードの作成等の事務(以下「通知カード・個人番号カード関連事務」という。)をJ-LISに行わせることができることとなっており、実際にも、全ての市町村長が通知カード・個人番号カード関連事務をJ-LISに行わせている。
また、J-LISは、後述のとおり、総務省との委託契約に基づき、個人番号とすべき番号を生成するなどの個人番号生成システム、個人番号カードの発行に必要な情報を作成する個人番号カード発行委託システム、個人番号カードの運用状況を管理するなどの個人番号カード管理システム(以下、個人番号カード発行委託システム及び個人番号カード管理システムを合わせて「カード管理等システム」という。)等の開発等を行い、これらの情報システムを管理して、運用している。
そして、個人番号カードの交付等に係る情報システムは図表0-2のとおりであり、都道府県、市町村及びJ-LISにおける各情報システムが連携している。
図表0-2 個人番号カードの交付等のために必要な情報システムの構成
マイナンバー制度については、27年10月から個人番号の付番及び通知カードによる個人番号の通知が、28年1月から個人番号の利用及び個人番号カードの交付がそれぞれ開始されており、今後のスケジュールについては、「世界最先端IT国家創造宣言工程表」(平成25年6月高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部決定。28年5月改定)において、29年7月から情報提供NWSの本格運用が開始されるなどとなっていて、同月からの情報連携が予定されている(図表0-3参照)。ただし、27年5月に発生した日本年金機構における不正アクセスによる情報流出事案を受けて、年金業務における情報連携の開始時期は延期されており、28年11月末時点で未定となっている。
そして、総務省は、25年8月に、地方公共団体に「地方公共団体における番号制度の導入ガイドライン」を示しており、当該ガイドライン等によれば、地方公共団体は、情報連携の本格運用に向けて、次のスケジュールで地方既存システム等の整備を進めることとされている(図表0-3参照)。
① 住民基本台帳システムのうち個人番号の付番・通知に必要な機能に係る整備を主に26年度に行い、27年9月末までに個人番号生成システムとの連携テストを行う。
② 個人番号の利用に必要な地方既存システム等の整備を27年12月末までに行う。
③ 整備を行った地方既存システム等について、地方公共団体内での連携テストを28年6月末までに行う。
④ 中間サーバーを介した地方既存システム等と情報提供NWSとの連携テスト並びに情報連携に係る業務運用の試行を行い業務運用の操作及び手順の正確性、業務効率等を確認する総合運用テストを29年6月末までに行う。
なお、①及び②の整備を終えた地方公共団体は、28年1月からの個人番号の利用の開始に伴い、整備を行った地方既存システム等の利用等を同月から(住民基本台帳システムについては付番開始の27年10月から)開始している。
図表0-3 マイナンバー制度に係るスケジュール
そして、マイナンバー制度の効果が十分発現するためには、地方公共団体において、前記のスケジュールに沿って地方既存システム等の整備が着実に行われることが必要である。
前記のとおり、マイナンバー制度は、社会保障、税及び災害対策の各分野において導入されることとなっている。そして、住民基本台帳、地方公共団体に係る税及び社会保障に関する事務を所掌する総務省及び厚生労働省は、26、27両年度に、マイナンバー制度の導入に必要な地方既存システム、団体内統合宛名システム、団体内統合利用番号連携サーバー及び中間サーバーの各情報システム(以下、これらの情報システムを総称して「補助対象システム」という。)の整備に要する経費を補助するために、社会保障・税番号制度システム整備費補助金(以下「整備費補助金」という。)を地方公共団体に交付しており、補助率は補助対象システムの区分に応じて10分の10又は3分の2となっている。整備費補助金は、マイナンバー制度の導入に伴い直接的に必要となる機能に係る企画・開発費(補助対象システムの設計・開発及びソフトウェア購入に要する経費)、設備費(電子計算機の設置等に要する経費)等を対象としている(図表0-4参照)。また、中間サーバーの整備については、J-LISが整備する中間サーバーの拠点である自治体中間サーバー・プラットフォーム(以下「中間サーバーPF」という。)を活用する場合には、地方公共団体がJ-LISに対して支払う負担金を補助対象とすることとなっていて、実際にも、全ての地方公共団体が中間サーバーPFを活用することとしている。
なお、「平成27年度政府情報システム投資計画」(平成27年7月各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)によれば、マイナンバー制度に関する国のシステム投資額は、全体で26年度1353億円、27年度706億円、他の年度を含めた合計で2656億円とされており、そのうち、国以外のシステム整備に要する経費はそれぞれ26年度1149億円(84.9%)、27年度487億円(68.9%)、他の年度を含めた合計で1940億円(73.0%)とされていて、国以外のシステム整備に要する経費が高い割合となることが見込まれている。
図表0-4 補助対象システムの概要等
所管省名 | システム名 | 概要 | 補助率 | 補助対象経費 |
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総務省 | 住民基本台帳システム* | 住民票に記載される事項を記録して、住民基本台帳法に基づく業務を行うシステム | 10/10 | 個人番号の生成要求、保存等を行うための機能の追加等に要する企画・開発費 |
地方税務システム* | 地方税に係る課税管理及び収滞納管理を行うシステム | 2/3 | 個人番号等をデータベースに追加するための機能の追加等に要する企画・開発費 | |
団体内統合宛名システム | 地方公共団体において、団体内で管理する団体内統合宛名番号、個人番号及び宛名情報を統一的に管理するシステム | 10/10 | 個人番号を管理するための機能の追加等に要する企画・開発費及び設備費 | |
団体内統合利用番号連携サーバー | 地方公共団体において、団体内で管理する団体内統合利用番号及び個人番号を統一的に管理するシステム | 10/10 | 団体内統合利用番号を付番するための機能に要する企画・開発費及び設備費 | |
中間サーバー | 情報連携の対象となる個人情報の副本の保存及び管理を行い、情報提供NWS、住民基本台帳システム、地方税務システム等との情報の授受を仲介するシステム | 10/10 | 中間サーバーPFを活用する場合のJ-LISに対する負担金等 | |
厚生労働省 | 生活保護システム* | 生活保護の対象者の生活相談受付、保護申請審査、支給管理、統計処理等を行うシステム | 2/3 | マイナンバー制度の導入に必要な補助対象システムの整備に係るシステム設計、プログラム開発、単体テスト、結合テスト、地方公共団体内での連携テスト等に要する経費 |
障害者福祉システム* | 障害者資格の管理、給付の管理、進達処理、通知書発行、支払管理、統計処理等を行うシステム | 2/3 | ||
児童福祉システム* | 児童手当及び児童扶養手当の対象者の資格管理、現況受付、支払管理、統計処理等を行うシステム | 2/3 | ||
国民健康保険システム* | 国民健康保険の資格の管理、保険税(料)の賦課・収納管理、給付・レセプト管理、統計処理等を行うシステム | 2/3 | ||
後期高齢者医療システム* | 後期高齢者医療の資格の管理、保険料の賦課・収納管理、給付・レセプト管理、統計処理等を行うシステム | 2/3 | ||
介護保険システム* | 介護保険被保険者の資格管理、介護保険料の賦課、介護保険料の収納管理、受給者の台帳管理を行うシステム | 2/3 | ||
健康管理システム* | 乳幼児及び高齢者の予防接種管理対象者への予防接種の案内通知、接種履歴管理その他保健衛生等の管理を行うシステム | 2/3 | ||
国民年金システム* | 国民年金第1号被保険者の資格、付加保険料、保険料の免除等、年金給付の情報の管理等を行うシステム | 10/10 | ||
特別児童扶養手当システム* | 特別児童扶養手当の対象者の資格管理、現況受付、支払管理、統計処理等を行うシステム | 10/10 |
総務省は、27年度に、市町村長が通知カード・個人番号カード関連事務をJ-LISに行わせる場合に、これに要する経費に相当する金額として市町村がJ-LISに交付する交付金を補助の対象とした個人番号カード交付事業費補助金(以下「事業費補助金」という。)や、市町村における個人番号カードの交付事務に必要な人件費等の経費を補助の対象とした個人番号カード交付事務費補助金(以下「事務費補助金」という。)をそれぞれ市町村に交付している。
整備費補助金の補助対象経費のうち、地方公共団体が負担する経費について、各地方公共団体に定型的に生ずる共通経費は普通交付税、情報システムの環境に応じた変動部分に係る経費は特別交付税による地方財政措置が講じられている。このほか、個人番号カードの利活用を目的として情報システムを導入する場合又は既存の情報システムを整備する場合に必要となる機器の購入等に要する経費についても特別交付税による地方財政措置が講じられている。
内閣官房は、マイナンバー制度を導入するために必要な事業の推進を支援するためのツール(以下、このツールを「デジタルPMO」という。)を26年5月から運営している。デジタルPMOは、国、地方公共団体等の間で、マイナンバー制度に関する情報を共有することを目的としたポータルサイトであり、関係省庁が管理している各種文書を一括管理して公開したり、地方公共団体等からの問合せに対応した上でその内容を分析して頻出する問合せ事項への回答を公開したりするためのものである。そして、デジタルPMOには、補助対象システムの整備を行う上で必要となる情報提供NWS等の外部インターフェイス仕様書等が掲載されており、地方公共団体等は、これらの情報を活用して、仕様書の作成や、業者から徴取した見積書の精査等を行うことになる。また、地方公共団体は、補助対象システムの整備の進捗状況をデジタルPMOに登録し、総務省及び厚生労働省は、この状況を確認することで、地方公共団体における整備の進捗管理を行い、進捗が遅れている地方公共団体に対しては個別に原因の確認や課題解決のアドバイス等を行うこととしている。
総務省は、「個人番号付番等に係る業務委託契約」(以下「付番等業務委託契約」という。)をJ-LISと締結している。J-LISは、付番等業務委託契約に基づいて、個人番号生成システム、カード管理等システム等の開発等の業務を行っており、これらのシステムを運用して個人番号カードの発行等の業務を行っている。そして、28年1月から3月までの間に、J-LISが運用しているシステムの一部において障害が発生していた。