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各府省等における研究開発事業の実施状況等について


検査対象
内閣府、警察庁、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、国立研究開発法人等6法人
各府省等における研究開発に係る事業の概要
科学技術に関し試験、研究又は開発を行うべき個別課題を決定し、実施するもの
検査の対象とした研究開発に係る事業数
515事業(平成26、27両年度)
上記に係る支出額
1兆6689億円(平成26、27両年度)

1 検査の背景

(1) 我が国の科学技術政策の概要

ア 科学技術基本計画の概要

我が国における科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ。)の振興に関する施策は、科学技術基本法(平成7年法律第130号)に基づいて行われており、同法において、国は、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、科学技術の振興に関する総合的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有するとされている。

政府は、同法において、科学技術の振興に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を策定しなければならないとされており、基本計画を策定するに当たっては、あらかじめ、内閣府設置法(平成11年法律第89号)に基づいて内閣府の「重要政策に関する会議」の一つとして設置されている総合科学技術・イノベーション会議(平成26年5月18日以前は総合科学技術会議。以下「CSTI」という。)の議を経なければならないとされている。

基本計画には、研究開発(基礎研究(注1)、応用研究(注2)及び開発研究(注3)をいい、技術の開発を含む。以下同じ。)の推進に関する総合的な方針、研究施設等の整備、研究開発に係る情報化の促進その他の研究開発の推進のための環境の整備に関し、国が総合的かつ計画的に講ずべき施策等を定めるものとされており、基本計画は、基本計画策定時から10年程度の期間を見通した5年間の科学技術政策を具体化するものとして8年度から1期5か年ごとに策定されている。

23年度から27年度までを計画期間とする第4期基本計画(平成23年8月閣議決定)によれば、科学技術イノベーション(注4)に係る政策の一体的展開、人材とそれを支える組織の役割の一層の重視及び社会とともに創り進める政策の実現の三つを科学技術政策の基本方針とし、計画期間中の政府としての研究開発に対する投資額(地方公共団体の分を含む。)を対GDP比率1%、総額約25兆円にすることを目指すこととされている。そして、実効性のある科学技術イノベーションに係る政策の推進のため、各府省が、具体的な政策等の企画立案、推進、さらには社会還元に至るまで、一貫したマネジメントの下で取り組むとともに、各府省の政策全体を俯瞰(ふかん)し、より幅広い観点から政策を計画的かつ総合的に推進する機能を強化する必要があるとされている。また、民間や大学(大学共同利用機関を含む。以下同じ。)では困難な研究開発を実施する機関である研究開発法人(注5)の機能強化に向けた取組の推進及び国立大学法人等の大学や公的研究機関において研究活動を効果的に推進するための体制整備により、研究開発の実施体制を強化することとされている。

また、28年度から32年度までを計画期間とする第5期基本計画(平成28年1月閣議決定)によれば、未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組、経済・社会的課題への対応、科学技術イノベーションの基盤的な力の強化及びイノベーションの創出(注6)に向けた人材、知、資金の好循環システムの構築の四つの取組を政策の柱と位置付け、強力に推進していくことなどとされている。そして、第5期基本計画に位置付けられた政策や施策を効果的かつ柔軟に実行するためには、科学技術イノベーションの推進機能を強化する必要があるとされ、国として、国内外に向けて科学技術イノベーションに係る政策を一体的かつ戦略的に推進する体制を強化するとともに、CSTIの司令塔機能の強化を図ることなどとされている。また、国家的又は国際的な要請に基づき、長期的なビジョンの下、民間では困難な基礎・基盤的研究のほか、実証試験、技術基準の策定に資する要素技術の開発等に取り組む組織である国立研究開発法人(注7)、及び多様で優れた人材を養成するとともに多様で卓越した知を創造する基盤を豊かにすることの中心的役割を担う国立大学法人等の大学について、改革と機能強化を図ることとされている。

(注1)
基礎研究  特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため又は現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究
(注2)
応用研究  特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究や、既に実用化されている方法に関して新たな応用方法を探索する研究
(注3)
開発研究  基礎研究、応用研究及び実際の経験から得た知識の利用であり、新しい材料、装置、製品、システム、工程等の導入又は既存のこれらのものの改良を狙いとする研究
(注4)
科学技術イノベーション  科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて経済的、社会的・公共的価値に結び付ける革新
(注5)
研究開発法人  「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」(平成20年法律第63号)により、科学技術に関する研究開発業務、公募による研究開発に係る資金を配分する業務又は科学技術に関する啓発及び知識の普及に係る業務を行う独立行政法人のうち、特に重要な法人として指定された37法人(平成27年4月1日時点)
(注6)
イノベーションの創出  新商品の開発又は生産、新役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入、新たな経営管理方法の導入等を通じて新たな価値を生み出し、経済社会の大きな変化を創出すること
(注7)
国立研究開発法人  平成27年4月に施行された独立行政法人通則法の一部を改正する法律(平成26年法律第66号)により設けられた独立行政法人の類型の一つ。その特性に照らし、一定の自主性及び自律性を発揮しつつ、中長期的な視点に立って執行することが求められる研究開発に関する試験、研究又は開発に係るものを主要な業務として国が中長期的な期間について定める業務運営に関する目標を達成するための計画に基づき業務を行うことにより、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため研究開発の最大限の成果を確保することを目的とする独立行政法人として、各独立行政法人の名称、目的、業務の範囲等に関する事項を定める法律で定める法人をいい、研究開発法人37法人のうち31法人が国立研究開発法人とされた(平成27年4月1日時点)。

イ 科学技術政策の実施体制の概要

我が国の科学技術政策は、科学技術政策の司令塔として我が国全体の科学技術を俯瞰し、各府省等より一段高い立場から科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策の企画立案及び総合調整を行うCSTI、科学技術の振興に関する施策を実施する各府省等、各府省等から研究開発に対する投資を受けるなどして研究開発を実施する国立研究開発法人、国立大学法人等の大学、民間企業等の研究開発の実施主体により実施されている。

我が国の科学技術政策の実施体制の概要を示すと、図表0-1のとおりである。

図表0-1 科学技術政策の実施体制の概要

図表0-1 科学技術政策の実施体制の概要 画像

CSTIは、重要政策に関する会議として13年1月に内閣府に設置された総合科学技術会議が、26年5月に改組されたものである。

CSTIは、内閣総理大臣を議長とし、内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)をはじめとする関係府省等の大臣、有識者等で構成され、その事務局機能は、内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)の下、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)が担っている。

CSTIは、内閣府設置法に基づき、内閣総理大臣等の諮問に応じて、科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策、科学技術に関する予算(以下「科学技術関係予算」という。)等の科学技術の振興に必要な資源の配分の方針その他科学技術の振興に関する重要事項及び研究開発の成果の実用化によるイノベーションの創出の促進を図るための環境の総合的な整備等の重要事項について調査審議すること、科学技術に関する国家的に重要な研究開発の評価を行うこと並びに上記の基本的な政策や重要事項に関して関係大臣に意見を述べることを所掌事務としている。また、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)は、CSTIの事務局機能として、科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策に関する事項、科学技術関係予算等の科学技術の振興に必要な資源の配分の方針に関する事項等の企画及び立案並びに総合調整に関すること、基本計画の策定及び推進に関すること、科学技術に関する関係行政機関の経費の見積りの方針の調整に関することなどをつかさどっている。

26年5月には、同法の改正により、CSTIの所掌事務に研究開発の成果の実用化によるイノベーションの創出の促進を図るための環境の総合的な整備等に関する重要事項についての調査審議事務が、CSTIの事務局機能に同事項の企画及び立案並びに総合調整に関する事務等が追加されるなどして、科学技術政策の司令塔としての機能が抜本的に強化された。

そして、CSTIは、内閣総理大臣の諮問に応じて、第5期基本計画を第4期基本計画の実施状況に係るフォローアップ結果等を踏まえて答申した。

ウ 科学技術関係予算の概要

(ア) 科学技術関係予算の編成

CSTIは、関係府省等により構成する科学技術イノベーション予算戦略会議(以下「予算戦略会議」という。)、専門調査会等における検討を踏まえ、重点を置くべき取組、科学技術関係予算の配分方針等について調査審議を行い、科学技術イノベーション総合戦略(以下「総合戦略」という。)を策定し、内閣総理大臣に対し答申している。総合戦略2016(平成28年5月閣議決定)等によると、政府全体の科学技術関係予算の編成において、CSTIが司令塔機能を発揮し、限られた資源の重要な分野や効果の高い施策への重点的な配分、それによる資源の有効活用等を確実に実行するため、総合戦略2016に基づき関係府省の施策を主導していくこととされている。具体的には、各府省等が行う次年度の予算の概算要求に先立ち、予算戦略会議等において各府省等が概算要求に向け構想している施策内容を聴取した上で、各施策間の重複排除、連携強化等の調整を行い、総合戦略に定める「重きを置くべき取組」の達成に大きく貢献する施策について、「重きを置くべき施策」として特定している。また、府省等の枠を超えた取組に対しCSTIが自らの予算を各府省等に配分し、研究開発の進捗管理等を行う「戦略的イノベーション創造プログラム」(以下「SIP事業」という。)を26年度予算から創設するなどしている。

そして、各府省等は、CSTIによる重複排除、連携強化等の調整内容に従い、財務省に対して科学技術関係予算を含む自らの府省等の予算全体について概算要求を行っている。また、CSTIは、各府省等に対して、科学技術関係予算に係る概算要求額及び予算決定後の予算額について調査を行い、その状況を取りまとめて公表している。

科学技術関係予算の編成の流れを示すと図表0-2のとおりである。

図表0-2 科学技術関係予算の編成の流れ(平成29年度予算案等の例)

図表0-2 科学技術関係予算の編成の流れ(平成29年度予算案等の例) 画像

(イ) 科学技術関係予算の推移

第4期基本計画期間における府省等別の科学技術関係予算の推移は、図表0-3のとおりである。一般会計及び特別会計を合わせた予算額は、26年度計3兆6513億余円、27年度計3兆4776億余円となっている。

図表0-3 府省等別の科学技術関係予算の推移(平成23年度~27年度)

(単位:億円)
事項
府省等名
平成23年度 24年度 25年度 26年度 27年度
一般会計 特別会計 一般会計 特別会計 一般会計 特別会計 一般会計 特別会計 一般会計 特別会計
国会 12 12 11 11 11 11 11 - 11 11 - 11
内閣官房 670 670 630 630 608 608 610 - 610 614 - 614
復興庁 496 496 601 601 - 404 404 - 240 240
内閣府 172 172 146 0 146 142 142 740 - 740 708 - 708
警察庁 22 22 20 20 20 20 21 - 21 21 - 21
総務省 531 531 562 1 563 494 494 493 - 493 459 - 459
法務省 64 64 52 0 52 56 56 68 - 68 59 - 59
外務省 116 116 118 118 106 106 103 - 103 108 - 108
財務省 13 13 13 1 14 13 13 13 - 13 13 - 13
文部科学省 2兆3145 1349 2兆4494 2兆2512 2145 2兆4657 2兆1826 1325 2兆3151 2兆1917 1202 2兆3118 2兆1629 1172 2兆2801
厚生労働省 1474 26 1501 1570 56 1626 1602 24 1626 1599 28 1627 1027 28 1055
農林水産省 1135 3 1138 1026 4 1030 931 931 978 - 978 970 - 970
経済産業省 1426 4436 5863 1342 3785 5127 1308 3904 5212 1286 4110 5396 1287 3530 4817
国土交通省 520 172 692 524 184 709 503 186 689 729 4 733 732 4 736
環境省 296 96 393 280 370 651 313 455 768 319 263 582 314 335 649
防衛省 968 968 1056 20 1076 1644 25 1669 1587 28 1615 1517 - 1517
3兆0565 6083 3兆6648 2兆9863 7063 3兆6926 2兆9577 6520 3兆6097 3兆0474 6039 3兆6513 2兆9467 5309 3兆4776
注(1)
本図表は文部科学省が作成している科学技術白書(平成24年版~28年版)に基づき作成したものである。
注(2)
各年度とも当初予算である。

上記の科学技術関係予算のうち26、27両年度について、会計検査院において区分したところ、主に次の経費で構成されている。

  • ① 科学技術に関し研究開発を行うべき個別課題(以下「研究開発課題」という。)を決定し、実施する事業(以下「研究開発事業」という。)に要する経費(運営費交付金のうち、あらかじめ研究開発事業を行うものとして算定されている額を含む。研究開発事業経費)
  • ② 各府省等や独立行政法人、国立大学法人等における研究施設等の整備及び更新、運営、維持管理等に要する経費(施設整備等経費)
  • ③ 独立行政法人、国立大学法人、学校法人等の運営に対する財政支援に要する経費(運営費交付金のうち、あらかじめ研究開発事業を行うものとして算定されている額を除く。運営支援経費)
  • ④ 科学技術政策の立案に資する調査、研究人材の育成等の事業に要する経費(調査等事業経費)

科学技術関係予算の経費別の状況を示すと、図表0-4のとおり、上記①の研究開発事業経費は26年度8286億余円(3兆6513億余円の22.6%)、27年度8206億余円(3兆4776億余円の23.5%)となっている。

図表0-4 科学技術関係予算の経費別の状況(平成26、27両年度)

(単位:億円)
年度
経費
平成26年度 (構成比) 27年度 (構成比)
研究開発事業経費 8286 (22.6%) 8206 (23.5%)
施設整備等経費 1298 (3.5%) 1289 (3.7%)
運営支援経費 2兆0594 (56.4%) 2兆0127 (57.8%)
調査等事業経費 6212 (17.0%) 5083 (14.6%)
その他 123 (0.3%) 71 (0.2%)
3兆6513 (100%) 3兆4776 (100%)
(注)
両年度とも当初予算である。
(ウ) CSTIへの公募型研究資金制度に関する情報提供

CSTIは、科学技術関係予算のうち、研究開発課題等を公募し、競争的資金(注8)等の研究開発の資金を研究者等に配分する制度(以下「公募型研究資金制度」という。)に関して、研究開発事業を実施する府省等に毎年度依頼し、府省を超えた国全体の公募型研究資金制度における資金の配分状況を分析し、科学技術関係予算の適切な配分の検討に資するために、研究開発課題ごとの研究内容、研究分野、実施する研究者、配分金額等の資金の配分状況に係る情報の提供を、各府省等から受けることとしている。そして、この情報提供は、「府省共通研究開発管理システム(e-Rad)における情報の取扱いについて」(平成20年3月府省共通研究開発管理システム運営委員会申合せ)などに基づき、各府省等が、府省共通研究開発管理システム(以下「e-Rad」という。)を通じて行うこととなっている。e-Radは、第3期基本計画(平成18年3月閣議決定)等に基づき、文部科学省が主担当としてシステムの保守及び運用を担い、関係8府省(注9)の協力の下に、研究開発の管理業務に係る業務の効率化を図るとともに、研究者の利便性の向上を図ることなどを目的として開発され、20年1月から運用を開始しているシステム(18年度から27年度までの間の開発・運用経費43億余円)である。

e-Radを通じたCSTIへの情報提供の流れを示すと図表0-5のとおりであり、研究開発課題等の公募を実施する際に、公募情報、採択結果の情報、交付・配分決定等の情報が、各府省等、研究機関、研究者により入力されて、e-Radに登録された情報のうち、研究開発の資金の配分状況に係る情報が、e-Radを通じてCSTIに提供されることとなる。

図表0-5 e-Radを通じたCSTIへの情報提供の流れ(概念図)

図表0-5 e-Radを通じたCSTIへの情報提供の流れ(概念図) 画像

(注8)
競争的資金  研究開発の資金を配分する機関が広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による科学的・技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発の資金であり、毎年度内閣府が競争的資金を配分する制度の一覧を公表している。
(注9)
関係8府省  内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省

(2) 各府省等が実施する研究開発事業の概要

ア 研究開発事業の実施及び管理の体制等

(ア) 研究開発事業の実施及び管理の体制

事業内容の決定から研究開発の成果の活用等に至るまでの、一般的な研究開発事業の実施の流れにおける各府省等の役割は図表0-6のとおりである。各府省等は、事業内容を決定し、概算要求を行って予算決定後に研究開発課題等を決定する。そして、研究機関等により研究開発が実施されるとともに、各府省等による進捗状況等の確認が行われる。研究開発の終了後は、各府省等による成果等の確認が行われるとともに、成果の活用等を図ることになる。

図表0-6 一般的な研究開発事業の実施の流れにおける各府省等の役割

図表0-6 一般的な研究開発事業の実施の流れにおける各府省等の役割 画像

各府省等は、CSTIによる科学技術関係予算の配分等の調整の下、基本計画、総合戦略等に基づき、研究開発事業を実施している。研究開発事業はその実施体制により、主として次の2種類に区分される。

  • ① 研究開発の資金を配分する各府省等又は各府省等から補助金、委託費又は運営費交付金(研究開発事業経費に限る。)の交付を受けて研究開発の資金を配分する独立行政法人等(以下、各府省等と独立行政法人等を合わせて「資金配分機関」という。)が公募等により研究開発課題等を決定し、研究機関又は当該機関に所属する研究者個人(以下「資金配分先」という。)に対し補助金又は委託費の交付により研究開発の資金を配分して研究開発を実施させる事業(以下「資金配分事業」という。)
  • ② 各府省等において施策の実施等に必要な研究開発課題等を決定し、各府省等の研究開発の担当部署において研究開発を実施する事業(以下「直接実施事業」という。)

上記の研究開発事業の実施体制を示すと、図表0-7のとおりである。

図表0-7 研究開発事業の実施体制

図表0-7 研究開発事業の実施体制 画像

(イ) 競争的資金制度

上記の資金配分事業には、文部科学省の科学研究費助成事業(以下「科研費事業」という。)など、9府省(注10)の競争的資金の配分を行う制度(以下「競争的資金制度」という。)が含まれる。競争的資金制度について、第4期基本計画では一層の改善及び充実を図ることとしており、競争的資金制度を実施する府省等が申し合わせて、公募方法、対象経費の考え方、資金の使用等に関するルールの共通化を図っている。

また、競争的資金の配分に当たり、第3期基本計画によれば、研究費の有効活用のため、不合理な重複(注11)及び研究者個人の適切なエフォート(注12)を超えた過度の集中(注13)の排除を徹底する必要があるとされている。そして、府省共通の研究開発管理システムの構築により府省横断的に競争的資金制度間で情報を共有し、資金配分機関がそれらの活用により重複等のチェックを実施することで配分決定に係る説明責任を果たすこと及び研究機関において、研究者のエフォートの管理を徹底することとされている。第4期基本計画によれば、資金配分機関は、資金配分の不合理な重複及び過度の集中を避けるため、研究機関に研究者のエフォートの管理の徹底を求めるとともに、e-Radを運用して競争的資金を適切かつ効率的に執行することとされている。

(注10)
9府省  内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
(注11)
不合理な重複  同一の研究者による同一の研究開発課題に対して、複数の研究開発の資金が不必要に重ねて配分される状態
(注12)
エフォート  研究者の全仕事時間に対する当該研究の実施に必要とする時間の配分割合
(注13)
過度の集中  研究者又は研究グループに当該年度に配分される研究費全体が、効果的、効率的に使用できる限度を超え、その研究期間内で使い切れないほどの状態
(ウ) 研究開発事業の予算額

科学技術関係予算に研究開発事業経費を計上し、研究開発事業を実施しているのは内閣府等の10府省等である。26、27両年度に10府省等(注14)が実施した研究開発事業に係る予算額は図表0-8のとおりであり、26、27両年度の純計は計1兆7420億余円(26年度9163億余円、27年度9177億余円)となっている。そして、このうち約8割に相当する計1兆4183億余円(26年度7366億余円、27年度7349億余円)が資金配分事業に充てられており、各府省等の研究開発事業は主に資金配分事業となっている。

図表0-8 10府省等が実施した研究開発事業に係る予算額(平成26、27両年度)

(単位:百万円)

府省等名
年度
会計名
平成26年度 27年度 26、27両年度の計
資金配分事業 直接実施事業 資金配分事業 直接実施事業 資金配分事業 直接実施事業
内閣府 一般 194 194 194 194 388 388
警察庁 一般 263 263 327 327 590 590
総務省 一般 15,612 336 15,949 14,322 323 14,646 28,941 660 29,601
文部科学省 一般 477,063 477,063 491,051 491,051 937,530 937,530
エネルギー対策 2,193 2,193 1,991 1,991 4,184 4,184
東日本大震災復興 9,010 9,010 6,011 6,011 15,022 15,022
488,267 488,267 499,054 499,054 956,736 956,736
厚生労働省 一般 53,346 801 54,148 57,463 651 58,114 110,802 1,452 112,254
東日本大震災復興 697 697 697 697
54,043 801 54,845 57,463 651 58,114 111,499 1,452 112,951
農林水産省 一般 18,893 18,893 17,615 17,615 33,582 33,582
東日本大震災復興 2,399 2,399 1,848 1,848 4,247 4,247
21,293 21,293 19,463 19,463 37,830 37,830
経済産業省 一般 61,268 61,268 61,594 61,594 118,812 118,812
エネルギー対策 79,208 79,208 64,255 64,255 128,978 128,978
東日本大震災復興 763 763 800 800 1,563 1,563
141,240 141,240 126,649 126,649 249,354 249,354
国土交通省 一般 1,298 1,486 2,784 1,384 1,350 2,734 2,624 2,606 5,230
環境省 一般 5,147 450 5,597 5,060 468 5,529 10,207 919 11,126
エネルギー対策 9,465 2,197 11,662 11,078 3,140 14,219 20,356 5,338 25,694
東日本大震災復興 122 122 122 122
14,734 2,648 17,382 16,139 3,609 19,748 30,686 6,257 36,943
防衛省 一般 171,313 171,313 260 176,566 176,826 260 309,377 309,637
東日本大震災復興 2,794 2,794 2,794 2,794
174,107 174,107 260 176,566 176,826 260 312,171 312,431
総計 736,684 179,643 916,327 734,932 182,828 917,760 1,418,320 323,739 1,742,060
(うち一般) 632,824 174,651 807,476 648,947 179,688 828,636 1,243,149 315,607 1,558,757
(うちエネルギー対策) 90,866 2,197 93,064 77,324 3,140 80,465 153,518 5,338 158,856
(うち東日本大震災復興) 12,993 2,794 15,787 8,659 8,659 21,652 2,794 24,446
注(1)
原則として歳出予算現額を記載している。ただし、補助金等の交付を受けた6法人が資金配分を行う事業については当該法人における配分予定額を記載している。
注(2)
予算を府省等間で移し替えて実施する事業の予算額は、移替先の各府省等に計上している。
注(3)
平成26、27両年度の計は、26年度から27年度への繰越額を除く純計である。
(注14)
10府省等  内閣府、警察庁、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省

イ 研究開発の評価

研究開発の評価は、優れた研究開発を効果的・効率的に推進するために実施するものである。9年度以降、各期の基本計画に基づいて国の研究開発全般に共通する評価の指針が定められており、第4期基本計画に基づく指針として、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成24年12月内閣総理大臣決定。以下「研究開発評価指針」という。)が策定されている。そして、各府省等は、科学技術イノベーションに係る施策の計画からフォローアップ、成果の社会への還元まで、一体的な評価を進め、これを施策等の見直しや新たな政策立案等につなげるPDCAサイクルを確立するために、研究開発評価指針に基づいて評価の実施に関する具体的な方針を定め、研究開発の評価の実施、その結果の公表に取り組んでいる。

研究開発評価指針によれば、研究開発課題の評価はその実施時期によると、次のとおり区分されている。

  • ① 研究開発課題の実施の必要性、目標や計画の妥当性等を把握し、予算等の資源配分の意思決定等に資する開始前の評価(以下「事前評価」という。)
  • ② 研究開発の実施期間が長期にわたる場合、3年程度ごとを目安に、情勢の変化、進捗状況等を把握し、中断・中止を含めた計画変更の要否の確認等を行う評価(以下「中間評価」という。)
  • ③ 研究開発課題の終了時に、目標の達成状況、成果の内容等を把握し、その後の研究開発課題の発展への活用等を行う終了時の評価(以下「事後評価」という。)
  • ④ 国費投入額が大きく、重点的に推進する分野等の主要な研究開発課題等について、その終了後一定時間を経過した後に、波及効果や副次的効果等の把握、過去の評価の妥当性の検証等を行い、その結果を次の研究開発課題の検討や評価の改善等に活用するための評価(以下「追跡評価」という。)

また、CSTIは、各府省等が実施する国費総額が約300億円以上の大規模な研究開発その他の国家的に重要な研究開発について、各府省等の評価結果を参考にするなどして、評価を実施し、その結果を公表するとともに、評価結果を研究開発の推進体制の改善や予算配分に反映することとしている。

ウ 研究開発の成果の活用等

科学技術基本法によれば、国は、研究開発の成果の活用を図るために、研究開発の成果の公開等その普及に必要な施策及びその適切な実用化の促進等に必要な施策を講ずることとされている。そして、第4期基本計画では、我が国が取り組むべき課題をあらかじめ設定し、その達成に向けて、研究開発の推進から、その成果の活用等に至るまで関連する科学技術を一体的、総合的に推進する方法と、独創的な研究成果を生み出し、それを発展させて新たな価値創造につなげる方法により科学技術イノベーションに係る政策を推進することとされており、各府省等は、これらに基づいて優れた研究開発の成果を広く普及し、実用化につなげるなど社会に還元するための取組を行っている。

また、研究開発課題を実施する研究機関等は、実用化の一手段として研究開発を実施することにより得られた新しい技術、知見、手法等(以下「新技術等」という。)の内容を権利化し、実用化に確実につなげること、権利の内容を他者に利用させないことなどのために、自らの判断により、所属する研究者が職務上生み出した発明、考案、植物新品種、意匠等(以下「発明等」という。)について、研究者が有する特許等を受ける権利を承継するなどしてから特許出願等を行い、知的財産権(注15)を取得している。知的財産権のうち、研究開発の成果として主に権利化されているものは特許権、実用新案権、育成者権及び意匠権(以下「特許権等」という。)である。国が特許権等を取得した場合は、国有財産法(昭和23年法律第73号)等によれば、国有財産として国有財産台帳に登録して管理することとされている。

そして、国の資金を原資とする委託契約による研究開発については、研究機関等において、発明等へのインセンティブを増加させ、研究開発活動を活性化するとともに、研究開発の成果の効率的な活用・普及を促進するために、産業技術力強化法(平成12年法律第44号)第19条の規定により日本版バイ・ドール制度が導入されている。この制度は、米国のバイ・ドール法を参考として11年に導入されたものであり、従来は委託者である国等に帰属することとしてきた研究開発の成果に係る特許権等を、一定の事項について受託者である研究機関等が約した場合に、国等が受託者から譲り受けないことが可能となっている。

(注15)
知的財産権  特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利。外国における各権利に相当する権利を含む。