(「雇用保険の建設労働者確保育成助成金の支給が適正でなかったもの」参照)
【改善の処置を要求したものの全文】
建設労働者確保育成助成金における助成金単価の設定について
(平成30年10月10日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づく雇用安定事業及び能力開発事業の一環として、同法、建設労働者の雇用の改善等に関する法律(昭和51年法律第33号)等に基づき、建設労働者の雇用の安定並びに能力の開発及び向上を図るために、建設労働者を雇用して建設事業を行う事業主(以下「建設事業主」という。)、建設事業主の団体及びその連合団体に対して建設労働者確保育成助成金(以下「建設助成金」という。)を支給している。
建設助成金は、建設業を支える人材、特に若年労働者の入職が進まない一方で高齢化が進展しているため技能継承に支障が生じており、将来的な建設労働者の不足による建設業の衰退が懸念されるなどとして、若年労働者の確保及び育成並びに技能継承に重点を置いた助成金として、平成25年度に創設されたものであり、雇用関係助成金支給要領(平成29年3月31日職発0331第7号・能発0331第2号・雇児発0331第18号。29年3月30日以前は平成28年9月16日職発0916第1号等。以下「支給要領」という。)に基づき、支給要領に規定する一定の取組を実施する建設事業主等に対して必要な助成を行うものである。そして、建設事業主等が実施する上記の取組として、各種のコースが設定されており、その一つとして認定訓練コースが設定されている。
建設助成金のうち、認定訓練コースに係る助成は、中小建設事業主が雇用する建設労働者に対して、職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)第24条第1項の規定に基づく認定を受けた職業訓練等(以下「認定訓練」という。)を受けさせる場合等に支給するものである。
支給要領によれば、認定訓練コースに係る助成には、「認定訓練コース(賃金助成)」と「認定訓練コース(経費助成)」とがあり、このうち、認定訓練コース(賃金助成)は、中小建設事業主が雇用する建設労働者の賃金に対する助成を行うものであり、支給対象者は、次のいずれの要件にも該当する中小建設事業主であることとされている。
貴省は、認定訓練コース(賃金助成)について、賃金に対する助成の趣旨は、中小建設事業主が雇用する建設労働者に認定訓練を有給で受講させる場合に、受講期間中に中小建設事業主が負担しなければならない受講者に係る賃金を国が助成することにより、技能の習得等の促進を図り、建設業における若年労働者の確保及び育成等を図るものであるとしている。
そして、支給要領によれば、認定訓練コース(賃金助成)の支給額については、キャリア形成促進助成金等の支給額に上乗せして、認定訓練コース(賃金助成)の算定対象となる認定訓練の受講者(以下「受講者」という。)1人につき、26年度から28年度までは日額5,000円、29年度は生産性要件(注3)を満たしていない場合には日額4,750円、生産性要件を満たしている場合には日額6,000円(以下、これらの認定訓練コース(賃金助成)の支給額の算定に用いる1人当たり日額を「助成金単価」という。)に、それぞれ認定訓練を受けた日数(認定訓練を実施した日数のうち、キャリア形成促進助成金等の支給の対象となった日数に限る。)を乗じて得た額とされており、また、各年度とも訓練開始日が属する年度の助成金単価を適用することとされている。
認定訓練コース(賃金助成)の支給額は、28年度5億4007万円、29年度5億5349万余円となっている。
なお、貴省は、30年度から建設助成金を含めた雇用関係助成金の再編整理を行い、建設助成金の認定訓練コース(賃金助成)を人材開発支援助成金に統合している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、認定訓練コース(賃金助成)の助成金単価は、賃金に対する助成の趣旨を踏まえて、受講者に係る中小建設事業主の賃金負担の実態に即したものとなっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、全国47都道府県労働局(以下、都道府県労働局を「労働局」という。)のうち、28、29両年度(29年度は29年11月末現在。以下同じ。)ともに支給実績がなかった山梨、沖縄両労働局を除く45労働局が上記の両年度に支給決定をした認定訓練コース(賃金助成)について、受講者延べ3,388人を任意に抽出し、これらを雇用する1,151事業主(28年度781事業主、29年度686事業主)に対する認定訓練コース(賃金助成)の支給額計6億5640万余円(28年度3億5000万円、29年度3億0640万余円)を対象として、11労働局(注4)において、支給申請書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。また、残りの34労働局についても、認定訓練コース(賃金助成)の支給実績等に係る調書の作成及び提出を求めるなどして同様の事項について検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省は、認定訓練コース(賃金助成)の助成金単価について、貴省が主要産業に雇用される労働者の賃金の実態を明らかにするために公表している賃金構造基本統計調査(以下「賃金センサス」という。)における建設業の生産労働者に係る所定内給与額(注5)等を用いて次のような方法により設定していた。
26年度から28年度までの間においては、直近の賃金センサスにおける所定内給与額等を基に、1日当たりの賃金相当額(26年度12,629円、27年度12,655円、28年度12,786円)を算定し、これに貴省が助成金単価の設定の際に用いている助成率(6分の5)を乗じた額から、キャリア形成促進助成金等の1日当たりの支給相当額である5,600円を差し引くなどして、助成金単価を5,000円と設定していた。
また、29年度においては、建設助成金を含めた雇用関係助成金等について、生産性要件を満たした事業所に対する助成金を割り増すこととし、28年度までと同様の方法により5,000円を算定した後に、生産性要件を満たしていない場合には5%を減算(4,750円)し、生産性要件を満たしている場合には20%を加算(6,000円)して助成金単価を設定していた。
そして、助成金単価の設定に当たっては、賃金センサスにおいて、企業規模別、年齢別等に公表されている建設業の生産労働者に係る所定内給与額のうち、大企業も含めた全ての企業規模及び全年齢の平均所定内給与額を用いていた。
しかし、前記のとおり、認定訓練コース(賃金助成)の支給対象者は中小建設事業主となっており、助成金単価の設定の際に用いた企業規模とは異なるものとなっていた。また、賃金センサス上の建設業の生産労働者の年齢構成は35歳以上の者が70%以上を占めているのに対して、45労働局における認定訓練の受講者延べ3,388人(28年度1,853人、29年度1,535人)の訓練受講時の年齢構成は、認定訓練の内容が基礎的な講義が中心であり若年者層向けの研修として利用されていることが多いことなどから、34歳以下の者が80%以上を占めていて、助成金単価の設定の際に用いた年齢構成とも異なるものとなっていた。
このように、貴省が賃金センサスを基に設定した助成金単価は、事業主の企業規模及び受講者の年齢構成からみて、受講者に係る中小建設事業主の賃金負担の実態に即したものとなっているか疑義がある状況となっていた。
そこで、貴省が設定した助成金単価に基づいて支給された認定訓練コース(賃金助成)の支給額とキャリア形成促進助成金等の支給額とを合計した額(以下「助成金合計額」という。)が、受講者に係る中小建設事業主の賃金負担の実態に即したものとなっているか確認するために、助成金合計額と、実際に中小建設事業主が負担した当該受講者の受講日数に係る賃金相当額に前記の助成率6分の5を乗じた額(以下「助成対象額」という。)とを比較したところ、表のとおり、前記の1,151事業主に支給した助成金合計額は計13億8798万余円(認定訓練コース(賃金助成)6億5640万余円、キャリア形成促進助成金等7億3158万余円)であり、同1,151事業主に係る助成対象額計8億7961万余円を計5億0837万余円上回っていて、助成対象額の約1.6倍の助成金を交付することとなっていた。
表 助成金合計額と助成対象額との差額
年度 | 調査した事業主数 | 調査した受講者数 | 認定訓練コース (賃金助成) の支給額 |
キャリア形成促進助成金等支給額 | 助成金合計額 | 実際に事業主が負担した賃金相当額 | 助成対象額 | 助成対象額との差額 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
① | ② | ③=①+② | ④ | ⑤=④×5/6 | ⑥=③-⑤ | |||
平成28年度 | 781 | 1,853 | 350,000,000 | 388,025,700 | 738,025,700 | 565,934,665 | 471,612,358 | 266,413,342 |
29年度 | 686 | 1,535 | 306,401,250 | 343,559,500 | 649,960,750 | 489,597,886 | 407,998,345 | 241,962,405 |
計 | 1,151 | 3,388 | 656,401,250 | 731,585,200 | 1,387,986,450 | 1,055,532,551 | 879,610,703 | 508,375,747 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
秋田労働局は、中小建設事業主である事業主Aから、その雇用する建設労働者2人について、いずれも平成27年4月28日から28年3月3日までに認定訓練を受講したとするキャリア形成促進助成金に係る支給申請書等の提出を受けて、28年6月に同助成金をそれぞれ34万余円、35万余円、計69万余円支給していた。さらに、同労働局は、28年5月に事業主Aから、上記の認定訓練に係る受講日数について、それぞれ60日、62日、計122日分を対象とした認定訓練コース(賃金助成)に係る支給申請書等の提出を受けて、それぞれの受講日数に助成金単価5,000円を乗じて、支給額をそれぞれ30万円、31万円、計61万円と決定し、同年6月に同額を支給していた。
しかし、上記の2人を対象として事業主Aに支給した助成金合計額計130万余円は、賃金台帳を確認するなどして算定した助成対象額56万余円を74万余円上回っていた。
(改善を必要とする事態)
認定訓練コース(賃金助成)の助成金単価の設定に当たり、支給対象となる事業主の企業規模及び受講者の年齢構成の実態と異なる統計値を基に算定していて、支給した助成金合計額が訓練を受講させるために実際に中小建設事業主が負担した賃金に基づく助成対象額を上回っている事態は賃金に対する助成の趣旨からして適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、助成金単価の設定に当たり、賃金に対する助成の趣旨を踏まえて、受講者に係る中小建設事業主の賃金負担の実態に即した助成金単価を設定する必要性についての理解が十分でないことなどによると認められる。
建設業界では若年入職者の減少と高齢化が急速に進展し、将来の担い手の確保が喫緊の課題となっている。
貴省は、事業主の利便性を高め、全般的な活用促進を図るために、前記のとおり、30年度から、認定訓練コース(賃金助成)については、人材開発支援助成金に統合した上で、人手不足分野である建設業における若年労働者の確保及び育成等のために、29年度以前と同様の助成金単価の設定等に基づき、人材開発支援助成金の枠組みの中で、引き続き、助成金の支給を行っている。
ついては、貴省において、支給要領を改正するなどして、助成金単価が受講者に係る中小建設事業主の賃金負担の実態に即したものとなるよう改善の処置を要求する。