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  • 平成29年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

企業内人材育成推進助成金について、事業主に対して、ジョブ・カードを活用して評価やコンサルティングを実施した場合に支給されるものであることについて周知するとともに、支給申請の際に実際に評価等で活用したジョブ・カードを事業主から提出させることとして、支給決定の際に適切な調査確認が行われるよう改善させたもの


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)地域雇用機会創出等対策費
部局等
厚生労働本省(支給庁)
7労働局(支給決定庁、支給庁)
企業内人材育成推進助成金の概要
ジョブ・カードを活用して行う職業能力評価制度、キャリア・コンサルティング制度等を導入し、雇用する労働者に適用した事業主に対して助成するもの
検査の対象とした企業内人材育成推進助成金の支給額
1億6835万円(平成27年度~29年度)
上記のうち適正に支給されていなかった支給額
820万円(平成28、29両年度)

1 保険給付の概要

(1) 企業内人材育成推進助成金の概要

厚生労働省は、雇用保険で行う事業のうちの能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、事業主が行う人材育成の取組を推進し、労働者の職業能力の向上及び主体的なキャリア形成を推進するため、事業主がジョブ・カードを活用して職業能力評価制度(注1)(以下「評価制度」といい、職業能力評価を「評価」という。)、キャリア・コンサルティング制度(注2)(以下「コンサルティング制度」といい、キャリア・コンサルティングを「コンサルティング」という。)等を導入し、雇用する労働者に適用した場合に企業内人材育成推進助成金(以下「助成金」という。)を支給している。厚生労働省は、評価制度、コンサルティング制度等は、労働者に対する処遇決定、人材育成の際にこれらの制度を活用することで企業における生産性の向上に資するものであるとしている。

ジョブ・カードとは、労働者の職務の経歴、職業能力その他の労働者の職業能力の開発及び向上に資する事項を明らかにする書面であり、キャリア・プランシート、職務経歴シート及び職業能力証明シートの三つで構成されている。ジョブ・カードについては、「「日本再興戦略」改訂2014」(平成26年6月閣議決定)において、学生段階から職業生活を通じて活用し、自身の職務や実績・経験、能力等の明確化を図ることができ、広く利用されるものとなるよう見直すなどとされたことを踏まえて、平成27年10月から、ジョブ・カードを個人が生涯活用するキャリア・プランニング及び職業能力証明のツールとして位置付けるなどされており、政府は、その普及促進を図っている。そして、ジョブ・カードの活用のインセンティブ措置として、27年4月から助成金が新たに設けられ、雇用関係助成金支給要領(平成27年4月10日職発0410第2号・能発0410第2号・雇児発0410第2号。以下「支給要領」という。)により、助成金の支給を受ける事業主は、前記のとおり、評価制度、コンサルティング制度等を導入するに当たっては、ジョブ・カードを活用することとされている。

(注1)
職業能力評価制度  事業主が、業務の遂行に必要な職業能力を体系的に定め、雇用する労働者が保有する当該職業能力の評価を、ジョブ・カードを活用して計画的に行い、評価を記載したジョブ・カードを労働者に手交するなどするもの
(注2)
キャリア・コンサルティング制度  事業主が、雇用する労働者に、ジョブ・カードを活用したキャリア・コンサルティング(職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する労働者の相談に応じ、助言及び指導を行うこと)を計画的に受けさせ、キャリア・コンサルティングに基づき労働者がジョブ・カードを作成するなどするもの

(2) 助成金の支給手続

助成金は、中小企業事業主が評価制度を導入して評価を実施した場合、評価制度導入助成として50万円、同実施助成として評価を実施した労働者1名につき5万円(最大延べ10名分50万円)が支給されることなどとなっている。また、中小企業事業主がコンサルティング制度を導入してコンサルティングを実施した場合、コンサルティング制度導入助成として30万円、同実施助成としてコンサルティングを実施した労働者1名につき5万円(最大延べ10名分50万円)が支給されることなどとなっている。

支給要領によれば、助成金の支給要件は、事業主の事業所を管轄する都道府県労働局(以下「労働局」という。)が認定した制度導入・適用計画(以下「計画」という。)に基づき、当該計画期間内に、評価制度又はコンサルティング制度を新たに導入し、当該制度を雇用する労働者に適用した事業主であることなどとされている。

助成金の支給を受けようとする事業主は、27年度中に、3年以内の期間で設定した制度導入・適用計画期間、導入予定制度、導入予定日等を記載した助成金制度導入・適用計画届(以下「計画届」という。)を作成し、労働局に提出することとなっている。

そして、評価の結果は、労働者が再就職や転職をする場合等に、自らの職業能力を証明するものとして活用することがあることから、評価制度を導入する場合は、職業能力評価項目の半数を超える項目について、同一の業界に属する第三者が見て、労働者がどのような職業能力を身につけているかが客観的に分かるものとして厚生労働省、業界団体等が作成した汎用性のある評価基準の項目を引用して定めることとなっている。そして、事業主は、このようにして汎用性のある評価基準の項目を記載したジョブ・カードの様式等を計画届に添付することとなっている。

また、コンサルティング制度を導入する場合は、汎用性のある評価基準を用いることまでは求められていないものの、ジョブ・カードを活用することとなっている。

労働局は、計画届等の内容について、評価制度については、全項目の半数を超える項目について汎用性のある評価基準の項目を引用したジョブ・カードの様式を作成しているか、コンサルティング制度については、キャリア・コンサルタントの資格を有する者がコンサルティングを実施するものであるかなどについて確認し、適正と認められる場合には認定を行うこととなっている(以下、労働局の確認を受けたジョブ・カードの様式を「確認を受けたジョブ・カード」という。)。

そして、事業主は、認定を受けた計画届等に記載された内容に沿って、労働者に自己評価を行わせ、評価担当者にジョブ・カードの企業評価欄に評価結果を記載させるなどして評価を実施することとなっており、また、キャリア・コンサルタントに労働者がこれまでの職業経験や学習・訓練歴等を記載したジョブ・カードを活用して助言及び指導を行わせるなどしてコンサルティングを実施することとなっている。

事業主は、計画届に定める評価又はコンサルティングの終了後、支給申請書及び職業能力評価実施状況報告書、キャリア・コンサルティング実施状況報告書、出勤簿、賃金台帳等の添付書類を労働局に提出することとなっている。

(3) 助成金の支給決定に係る調査確認

労働局は、支給申請書及び上記の添付書類等により、事業主やその申請内容が助成金の前記の支給要件を満たしているかについて調査確認した上で、支給要件を満たしていると認めた場合は、支給決定を行うこととなっている。また、評価及びコンサルティングの実施状況等については、支給要領において、支給申請書の添付書類である職業能力評価実施状況報告書、キャリア・コンサルティング実施状況報告書等により調査確認することなどとなっている。そして、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受け、又は受けようとした事業主に対して、支給した助成金の全部若しくは一部の支給決定を取り消して返還の手続を行い、又は不支給とすることなどとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

評価制度及びコンサルティング制度においてはジョブ・カードの活用が重要となっている。そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、助成金の支給はジョブ・カードを活用した評価又はコンサルティングの実施状況等を確認した上で適切に行われているかなどに着眼して、27年度から29年度までの間に8労働局(注3)が支給した104事業主に係る助成金計1億6835万円を対象として、8労働局において、事業主から労働局に提出された支給申請書等の関係書類のほか、事業主が評価及びコンサルティングにおいて活用したとするジョブ・カードを確認するなどして会計実地検査を行った。

(注3)
8労働局  北海道、神奈川、京都、大阪、和歌山、福岡、大分、沖縄各労働局

(検査の結果)

検査したところ、7労働局(注4)において、次のような事態が見受けられた。

7労働局は、助成金の支給決定を行うに当たり、助成金の額の算定に関係する出勤簿、賃金台帳等の資料については、事業主から提出を求めて確認することとしていた。一方、評価又はコンサルティングの実施状況等については、支給要領に基づき事業主から提出された支給申請書の添付書類である職業能力評価実施状況報告書又はキャリア・コンサルティング実施状況報告書により調査確認を行っていたが、実際に活用されたジョブ・カード(その写しを含む。以下同じ。)の提出を求めて、評価又はコンサルティングを適正に実施したことを確認することについては、支給要領に示されておらず、助成金の額の算定に関係するものでもないため、7労働局は、助成金の対象となる評価又はコンサルティングで実際に活用されたジョブ・カードの提出を事業主に求めていなかった。

しかし、前記のとおり、ジョブ・カードは、政府としてその普及を促進しているものであり、助成金の支給対象となる評価制度及びコンサルティング制度においては、ジョブ・カードを活用して評価又はコンサルティングを実施することが必須の要件とされている。そこで、事業主が実際に活用したとするジョブ・カードを確認するなどして、評価及びコンサルティングの実施状況を確認したところ、10事業主(助成金支給額計820万円)において、確認を受けたジョブ・カードによる評価やジョブ・カードを活用したコンサルティングを全く実施していなかったり、評価において実際に使用したジョブ・カードとするものは企業評価欄に評価担当者による評価結果が全く記載されていないものであったり、汎用性のある評価基準を用いずに独自の評価項目を用いて評価を実施しているものであったりするなどしていて、評価やコンサルティングが適正に実施されていなかったのに、助成金が支給されていると認められた。

(注4)
7労働局  北海道、神奈川、京都、大阪、和歌山、大分、沖縄各労働局

このように、労働局において、事業主が、確認を受けたジョブ・カードによる評価を実施していなかったり、ジョブ・カードを活用したコンサルティングを実施していなかったりしていたのに、支給決定の際に、実際に評価等で活用したジョブ・カードを確認するなどの十分な調査確認を行わないまま助成金を支給していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、厚生労働本省において、労働局を通じて、事業主に対して、助成金の対象となる評価制度は確認を受けたジョブ・カードを活用して評価を実施するものであり、コンサルティング制度もジョブ・カードを活用してコンサルティングを実施するものであることなどを十分に周知していなかったこと、また、評価及びコンサルティングを適正に実施したことが確認できる実際に評価等で活用したジョブ・カードを事業主から提出させることとしておらず、労働局における支給決定の際に調査確認が十分に行われていなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、30年3月から7月までの間に、7労働局に対して、評価やコンサルティングが適正に実施されていなかったのに支給されていた助成金について返還の処置を執らせるとともに、同年9月に事務連絡を発するなどして次のような処置を講じた。

ア 労働局を通じて、事業主に対して、助成金、助成金の評価制度及びコンサルティング制度を承継するものとして設けられたキャリア形成促進助成金及び人材開発支援助成金はジョブ・カードを活用して評価やコンサルティングを実施した場合に支給されるものであることについて周知した。

イ 労働局において、助成金、キャリア形成促進助成金等の支給申請の際に、評価等の適正な実施状況等を確認するために、30年11月以降に受理する助成金の支給申請について、実際に評価等で活用したジョブ・カードを事業主から提出させて、支給決定の際に適切な調査確認を行わせることなどとした。