(農業災害補償制度等の概要については、「農業災害補償制度の運営に当たり、共済団体が行う特別積立金の取崩しに係る会計経理について、特別積立金から取り崩した資金を共済事業等に係る費用の支払等に充てる場合には当該共済事業等に係る共済勘定の特別積立金を取り崩すことなどを監督指針に追記したり、特別積立金の取崩しの根拠となっている規定を改正したりなどすることにより、特別積立金の取崩しが適切に行われるよう改善させたもの」参照)
国は、共済掛金の支払に係る組合員等の負担を軽減するために、毎年度、多額の国庫負担金を負担しており、このため、共済事業において生ずる剰余の原資には、多額の国庫負担金が含まれている。
そこで、本院は、合規性等の観点から、当該年度に生じた剰余に係る会計経理が農業災害補償法(昭和22年法律第185号。平成30年4月1日以降は農業保険法。以下「農災法」という。)、農業災害補償法施行規則(昭和22年農林省令第95号。以下「施行規則」という。)等に従って適正に行われているかなどに着眼して、北海道ひがし農業共済組合(27年1月31日以前は根室地区農業共済組合及び釧路地区農業共済組合。以下「組合」という。)が行う家畜共済事業において18年度から27年度までの間に生じた剰余計1,798,445,310円(国庫負担金相当額計719,378,124円)に係る会計経理を対象として、農林水産本省及び組合において、事業報告書、財務諸表等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり、適切とは認められない事態が見受けられた。
農災法及び施行規則によれば、家畜共済勘定において、当該年度に剰余が生じた場合、剰余の額の2分の1以上の金額を不足金塡補準備金として積み立て、残額を特別積立金として積み立てることとされている。
組合は、前記の1,798,445,310円のうちの842,978,200円(国庫負担金相当額337,191,280円)について、剰余金として会計処理すべきところ、当該年度中に共済団体の業務執行に要する経常的な経費(以下「業務経費」という。)に係る会計を経理する業務勘定に繰り入れていた。
しかし、上記の842,978,200円(国庫負担金相当額337,191,280円)については、農災法及び施行規則に従って、当該年度の剰余として、将来の共済金の支払財源等に充てるために、2分の1以上の金額を不足金塡補準備金として積み立て、残額を特別積立金として積み立てなければならないものであった。このため、27年度の剰余を不足金塡補準備金と特別積立金とに積み立てた時点で、本来、不足金塡補準備金と特別積立金とに積み立てられるべき額に比べて、それぞれ421,489,100円が不足する事態となっていた。
したがって、前記の842,978,200円(国庫負担金相当額337,191,280円)を不足金塡補準備金と特別積立金として積み立てることなく業務勘定に繰り入れている事態は、農災法及び施行規則の規定に違背していて、不当と認められる。
なお、組合は、前記の842,978,200円のうちの1,978,200円を施設費の支出に充てていたが、これについては、業務経費として支出すべきものであり、不足金塡補準備金と特別積立金を取り崩して充てることは認められていないものであった。また、組合は、残る841,000,000円を建設引当金等に引き当てて、その後、当該841,000,000円のうち、732,695,780円を家畜診療所を新築する際の建設費として、35,895,581円を同診療所における機器の更新費として、それぞれ取り崩して支出し、残額の72,408,639円については、業務勘定において引き続き管理していた。そして、業務勘定に繰り入れられ、家畜診療所を新設する際の建設費に充てられていた上記の732,695,780円及び同診療所における更新費に充てられていた35,895,581円については、損害防止のための処置等に必要な費用として、特別積立金を取り崩して充てることはできるものの、不足金塡補準備金を取り崩して充てることは認められていないものであった。このため、適正な会計処理が行われていれば不足金塡補準備金に積み立てられていたはずの資金が、不足金塡補準備金を取り崩して充てることが認められていない損害防止のための処置等に必要な費用に充てられていたことになる。
このような事態が生じていたのは、組合において農災法等に基づいて適正に共済事業を実施しなければならないことなどについての認識が欠けていたこと、農林水産省において北海道に対して、農災法等に基づいて適正に共済事業を実施することについて、組合等を適時適切に指導監督するよう助言することを徹底していなかったことなどによると認められる。