全国健康保険協会(以下「協会」という。)は、健康保険法(大正11年法律第70号)に基づき、療養のため労務に服することができず、事業主から報酬の全部又は一部を受けることができない健康保険の被保険者(以下「対象者」という。)に対して傷病手当金を支給している。また、厚生年金保険の被保険者は、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)に基づき、被保険者からの請求に基づいて、厚生労働大臣等の裁定により障害厚生年金の支給を受けることとなっている。そして、対象者が傷病手当金の傷病と同一の疾病等により障害厚生年金等の支給を受けることができるときは、傷病手当金を支給しないか、又はその支給額を減額することとされており(以下、この取扱いを「併給調整」という。)、協会は、毎月、前月までの過去1年間に傷病手当金の申請書の受付を行った対象者に係る障害厚生年金の年額、支給開始日、傷病名等に関する情報(以下「年金情報」という。)の提供を日本年金機構(以下「機構」という。)から受け、これを確認して、併給調整の要否を判断している。しかし、傷病手当金の申請書の受付から1年を超えた時期に障害厚生年金の裁定が行われていて、同一の疾病等により傷病手当金と障害厚生年金とを同じ期間を対象として支給している対象者について、協会が機構から年金情報の提供を受けていないため、併給調整が適切に行われていない事態が見受けられた。
したがって、協会において、併給調整が適切に行われていなかった対象者に対して、支給済みの傷病手当金のうち併給調整により減額することとなる額の返還を求めるとともに、併給調整を今後より適切に行うことができるよう、機構から年金情報の提供を受ける対象者の範囲について見直しを行うよう、全国健康保険協会理事長に対して平成29年10月に、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めた。
本院は、協会本部において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、協会は、本院指摘の趣旨に沿い、傷病手当金の併給調整が適切に行われていなかった対象者に対して、支給済みの傷病手当金のうち併給調整により減額することとなる額の返還を求めた。そして、機構から年金情報の提供を受ける対象者の範囲について見直しを行い、障害厚生年金の給付を受ける権利の消滅時効等を考慮して、機構から年金情報の提供を受ける対象者の範囲を過去5年間に申請書の受付を行った対象者に拡大することとして、30年6月に機構と併給調整に係る情報の提供に関する協定書を締結する処置を講じていた。