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  • 平成29年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

<参考:報告書はこちら>

第6 石油・天然ガスの探鉱等に係るリスクマネーの供給について


検査対象
(1) 資源エネルギー庁
(2) 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
(3) 国際石油開発帝石株式会社(平成18年4月3日から20年9月30日までは国際石油開発帝石ホールディングス株式会社、18年4月2日以前は国際石油開発株式会社及び帝国石油株式会社)
(4) 石油資源開発株式会社
リスクマネーの供給に係る業務の概要
損失を受けるリスクを負担して石油・天然ガスの探鉱等に必要な資金を供給するための出資、債務の保証等を行う業務
機構のリスクマネーの供給に係る支出の合計額
5508億3620万円(平成16年度~28年度)
機構のリスクマネーの供給に係る収入の合計額
951億9487万円(平成16年度~28年度)
機構のリスクマネーの供給に係る累積損失額
1595億8911万円(平成28年度末現在)
機構がリスクマネーの供給によって取得した関係会社株式の貸借対照表における計上額
2960億3485万円(平成28年度末現在)

1 検査の背景

(1) 機構における石油・天然ガスの探鉱等に係るリスクマネーの供給に係る業務の概要

独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」という。)は、石油及び可燃性天然ガス(以下「天然ガス」という。)の探鉱等に必要な資金の供給、石油・天然ガス資源の開発を促進するために必要な業務等を行い、もって石油・天然ガスの安定的かつ低廉な供給に資することなどを目的として、平成16年2月に設立された。

機構は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(平成14年法律第94号。以下「機構法」という。)により、次のとおり、損失を受けるリスクを負担して石油・天然ガスの探鉱等に必要な資金を供給するための出資、債務の保証等(以下「リスクマネーの供給」という。)を行うこととされている。

  • ア 海外及び本邦周辺の海域における石油・天然ガスの探鉱及び採取(以下、採取のうち、坑井の掘削、生産に必要な施設の建設等を「開発」といい、開発以外のものを「生産」という。)並びに海外における天然ガスの液化に必要な資金を供給するための出資を行うこと
  • イ 海外における石油・天然ガスの採取及び天然ガスの液化に必要な資金に係る債務の保証(以下「債務保証」という。)を行うこと
  • ウ 機構以外の者への譲渡を目的として、海外における石油・天然ガスの探鉱及び採取をする権利の取得を行うこと

リスクマネーの供給に係る主な業務の現状を概念図として示すと、図表1のとおりとなっている。

図表1 リスクマネーの供給に係る主な業務の概念図

図表1 リスクマネーの供給に係る主な業務の概念図 画像

(2) 石油・天然ガスの探鉱等に係る計画等の概要

ア エネルギー基本計画

エネルギー政策基本法(平成14年法律第71号)によれば、国は、エネルギーの需給に関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るために、エネルギーの需給に関する基本的な計画(以下「エネルギー基本計画」という。)を定めなければならないとされている。

22年6月に策定されたエネルギー基本計画においては、その時点で約26%であった化石燃料の自主開発資源比率を2030年(平成42年)に倍増させる目標の実現を目指すために、化石燃料のうち石油・天然ガスを合わせた自主開発比率(注1)をその時点の20%から40%以上に引き上げることを目指すとされた。

(注1)
自主開発比率  石油・天然ガスの輸入量及び国内生産量の合計に占める我が国企業の権益下にある石油・天然ガスの引取量(国産を含む。)の割合

そして、経済産業省に設置された総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会の報告書(平成29年6月)において、我が国は、2030年(平成42年)に国産を含む石油・天然ガスの自主開発比率を40%以上に引き上げることを目標としているが、この目標は今後も維持すべきであるとの提言がなされている。

イ 機構の中期目標及び計画

経済産業大臣は、機構の目的である石油・天然ガスの安定的かつ低廉な供給に資するなどのために、機構の中期目標を策定することとなっており、16年2月に策定された機構の19年度までの第1期中期目標によれば、リスクマネーの供給に当たっては、国のエネルギー政策との整合性を確保しつつ、我が国向けのエネルギーの安定供給に特に資すると考えられる重要プロジェクトに対して、機構が果たすべき役割を機動的かつ確実に遂行することとされている。

また、20年度から24年度までの第2期中期目標において、我が国企業の探鉱開発活動の2分の1以上に支援を行うこととされ、機構は、当該目標に基づき策定した第2期中期計画において、第2期中期目標のとおり、我が国企業の探鉱開発活動の2分の1以上に支援を行うこととするとともに、出資株式の評価を合理的に行うことが可能となった場合には、国のエネルギー政策との整合性を確保しつつ、機構の業務目的の達成及び財政資金の効率的運用の見地から適切な時期及び方法を決定して当該出資株式を売却することとしている。

さらに、25年度から29年度までの第3期中期目標において、特に、天然ガスについて、安定的な確保と輸入価格の引下げを両立するため、新たな供給源からの液化天然ガス(以下「LNG」という。)の輸入に資する天然ガス開発事業の支援等に取り組むとともに、第2期中期目標と同様に、我が国企業の探鉱開発活動の2分の1以上に支援を行うこととされ、機構は、当該目標に基づき策定した第3期中期計画において、第3期中期目標を踏まえ、我が国企業の探鉱開発活動の2分の1以上に支援を行うこととしている。

(3) 機構の予算及び決算に係る手続等の概要

ア 機構の予算

独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)によれば、独立行政法人は、中期計画において中期目標期間に係る予算を定めることとされており、国は、予算の範囲内において、独立行政法人に対し、その業務の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額を交付することができるとされている。

国から機構に交付されるリスクマネーの供給に係る資金としては、エネルギー対策特別会計エネルギー需給勘定(18年度以前は石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計石油及びエネルギー需給構造高度化勘定。以下「エネルギー特会」という。)から出資される出資金、東日本大震災復興特別会計(以下「復興特会」という。)から出資される出資金及び財政投融資特別会計投資勘定(以下「財投特会」という。)から出資される出資金がある。これらのほか、民間の金融機関から機構が借り入れた長期借入金について政府保証が行われている(この政府保証付長期借入金に係る債務については、一般会計の予算総則において政府が保証することができる金額の限度額が定められている。)。そして、図表2のとおり、国の予算等において、会計、資金の区分、対象物の違いにより、それぞれ使途が定められている。

図表2 会計別の出資金等の主な使途等

国の会計名 資金交付等の目的 資金の区分 機構による執行方法 対象物 主な使途
エネルギー特会 石油・天然ガスの安定的かつ低廉な供給に必要な資金の確保 国からの出資金 開発会社への出資 石油 探鉱、採取
天然ガス 探鉱、採取及び海外における天然ガスの液化
債務保証に係る信用基金の造成 石油 海外における石油・天然ガスの採取及び天然ガスの液化に必要な資金に係る保証債務の代位弁済
天然ガス
復興特会 東日本大震災を契機とした原子力発電所の運転停止により火力発電用の天然ガスの需要が急増したことに伴う天然ガスの採取及び液化に必要な資金の確保 国からの出資金 開発会社への出資 天然ガス 採取及び海外における天然ガスの液化
財投特会 天然ガスの採取及び液化に必要な資金の確保 国からの出資金 開発会社への出資 天然ガス 採取及び海外における天然ガスの液化
一般会計 石油・天然ガスの安定的かつ低廉な供給に必要な資金の確保 機構が借り入れた政府保証付長期借入金 開発会社への出資 石油 海外における採取
天然ガス 海外における天然ガスの採取及び液化

イ 機構の決算

通則法によれば、独立行政法人は、毎事業年度、貸借対照表、損益計算書、利益の処分又は損失の処理に関する書類等とこれらの附属明細書(以下、これらを合わせて「財務諸表」という。)を作成して、主務大臣に提出してその承認を受けなければならないこととされている。

そして、機構の会計は、「独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構の業務運営、財務及び会計並びに人事管理に関する省令」(平成16年経済産業省令第9号。以下「機構省令」という。)により、独立行政法人会計基準(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定。以下「独法会計基準」という。)に従うものとされているが、独法会計基準により、独法会計基準に定められていない事項については一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うこととされている。

(4) 機構設立までの経緯等

ア 公団の解散

石油公団(以下「公団」という。)は、機構の設立前において、石油公団法(昭和42年法律第99号。以下「公団法」という。)に基づき、開発会社に対して出資することなどによりリスクマネーの供給等に係る業務を行っていたが、行政改革大綱(平成12年12月閣議決定)により、特殊法人等の事業及び組織形態が抜本的に見直されることになり、特殊法人等整理合理化計画(平成13年12月閣議決定。以下「合理化計画」という。)を踏まえて制定された「石油公団法及び金属鉱業事業団法の廃止等に関する法律」(平成14年法律第93号。以下「廃止法」という。)等に基づき、17年4月1日に解散した。

イ 公団の業務、資産等の承継

公団が、公団法により実施することとされていた業務には、海外及び本邦周辺の海域における石油・天然ガスの探鉱及び採取(これに附属する精製を含む。)に必要な資金を供給するための資金の貸付けを行う業務(以下「融資業務」という。)が含まれていたが、合理化計画、廃止法、機構法等により、公団の融資業務は廃止され、開発会社への融資業務は既存の政策金融機関が行うこととされた。そして、融資業務以外の業務は、機構が承継することとされた。

また、公団が保有する出資株式又は貸付債権(以下「公団資産」という。)のうち、機構に承継されるもの以外については、「石油公団が保有する開発関連資産の処理に関する方針」(平成15年3月総合資源エネルギー調査会石油分科会開発部会石油公団資産評価・整理検討小委員会。以下「資産処理方針」という。)において、公団資産のうち必要な資産を選択統合することにより、欧米諸国のメジャーと呼ばれる開発会社との国際競争に耐え得る資産規模・内容を有するなどの中核的企業の形成を促進することとされた。そして、中核的企業を構成するものとならない公団資産は、個別に売却することとされた。

また、(2)イの第1期中期目標等において、公団が保有していた出資株式等の探鉱開発事業に係る資産等のうち、追加出資が必要となる事業に係る出資株式及び公団廃止後も保証期間が継続する保証債務については、経済産業大臣の定めるところにより、権利及び義務の帰属を機構に包括的に変更する包括的承継が行われることとされた。このうち、出資株式の承継に伴い、国庫からの機構への出資、現金の機構から公団への帰属変更及び公団解散に伴う政府出資金回収としての国庫への返納が行われることとされた。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

リスクマネーの供給は、16年度以降、公団から業務を承継した機構が中心となって行ってきており、原則として開発会社を支援する体制となっているが、28年11月に機構法が改正され、リスクマネーの供給に係る業務が拡充されることとなった。また、本院は、平成14年度決算検査報告(以下「14年度報告」という。)において、公団がリスクマネーの供給等を行ったことにより取得した公団資産の処理等について引き続き注視していくとしている。

そこで、本院は、機構等によるリスクマネーの供給等について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査を実施した。

ア リスクマネーの供給に係る予算は適切に執行されているか、リスクマネーの供給に係る収支や損益はどのようになっているか、また、リスクマネーの供給によって取得した出資株式の売却により損失が生じていないか。

イ リスクマネーの供給は、自主開発比率の向上に寄与するものとなっているか、また、リスクマネーの供給等を行っている権益に係る石油・天然ガスは、緊急時に我が国に持ち込めるようになっているか。

ウ リスクマネーの供給に係る審査は、規程等に基づき適切に行われているか。

エ リスクマネーの供給に係る機構の財務諸表の表示は適切なものとなっているか。

オ 14年度報告の後の公団の欠損金や公団資産の状況はどのようになっているか。

(2) 検査の対象及び方法

検査に当たっては、国に承継された公団資産に係る契約、16年度から28年度までの間に機構がリスクマネーの供給を行った出資及び債務保証に係る契約等を対象として、資源エネルギー庁、機構のほか、国からの出資を受けている開発会社である国際石油開発帝石株式会社及び石油資源開発株式会社において、契約関係書類、審査関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。

3 検査の状況

(1) リスクマネーの供給に係る予算の執行、収支の状況等

機構発足後の、リスクマネーの供給に係る国からの出資額等、機構によるそれらの執行額の状況、リスクマネーの供給に係る機構の収支状況等についてみたところ、次のとおりとなっていた。

ア エネルギー特会からの出資額等及び機構の執行額

エネルギー特会からの出資金(債務保証に係る信用基金に充てるべきものを除く。)は、石油・天然ガスの探鉱に係る出資、石油・天然ガスの採取に係る出資(資産買収(石油・天然ガスの採取に係る権利譲受けをいう。以下同じ。)に係る出資を含む。)及び海外における天然ガスの液化に係る出資に必要な資金として開発会社に出資されることとなっている。

16年度から28年度までの間のエネルギー特会から機構に出資された出資額(債務保証に係る信用基金に充てるべきものを除く。)等は、計4566億8011万余円となっており、当該出資額等に係る機構による執行額は計4140億8532万余円となっている。

また、エネルギー特会からの出資金は、予算の成立後、所要の手続を経て、基本的に年度当初に国から機構に出資されているため、開発会社への出資に充てることとしてエネルギー特会から出資された出資金の中には、機構が開発会社に対して出資を行うまでの間、機構において主に現預金として保有している資金(以下、これらの資金を「執行残額」という。)が生ずることになる。そこで、各年度末時点の執行残額の推移をみたところ、国から出資を受けるなどしている17年度以降において、23年度、24年度及び27年度を除いて機構に多額の執行残額が生じており、28年度の執行残額は488億9734万余円に上っていた。

機構が、資産買収に係る出資を行っているプロジェクトについては、油田等の売却側の都合等により出資時期や出資額が左右されることにより、機構がプロジェクトの存在を認識してから出資が必要となるまでの期間が極めて短い上に、新規出資の際に多額の資金を要することになる場合もあることから、このようなプロジェクトへの出資に機動的に対応するために、ある程度の余裕資金を確保することは必要と考えられ、執行残額が生じている要因の一つとして、このような事情があると思料される。

しかし、機構において、エネルギー特会から出資された出資金等について多額の執行残額が生じていることは、適切な予算の執行管理の面からみて望ましいものではない。

したがって、機構は、技術協力等で培った産油国等との関係を活用するなどして、産油国等の情報収集に努めるとともに、開発会社の資金ニーズを的確に把握するなどして、資金の必要な時期や額の見通しをより適切に行った上で開発会社に対する出資を行っていく必要がある。

イ 財投特会からの出資額及び機構の執行額

財投特会からの出資金は、天然ガスの採取に係る出資(資産買収に係る出資を含む。)及び液化に係る出資に必要な資金として開発段階等にあるプロジェクトを実施する開発会社に出資されることなどとなっており、開発会社から必要資金の要請を受ける都度、国から必要な金額が出資されることになっている。そのため、財投特会における機構への出資金に係る予算額のうち機構に交付されなかった資金は、財投特会において翌年度に繰り越されるか不用額として処理されることになる。

財投特会から出資を受けることとなった24年度以降に財投特会に計上された機構に対する出資金の予算額等の状況をみると、歳出予算額計3880億円に対して、支出済歳出額は計1049億1959万余円であり、28年度からの翌年度繰越額1860億円を除いた970億8040万余円が財投特会における不用額となっていた。

機構が資産買収に係る出資を行ったプロジェクトについては、ガス田の売却側の都合等により出資時期や出資額が左右されることにより、機構がプロジェクトの存在を認識してから出資が必要となるまでの期間が極めて短い上に、新規出資の際に多額の資金を要することになる場合もあることから、このようなプロジェクトへの出資に機動的に対応するために、ある程度の予算額を計上することは必要と考えられ、不用額が生じている要因の一つとして、このような事情があると思料される。

財投特会からの出資金は、エネルギー特会からの出資金とは異なり、開発会社から必要資金の要請を受ける都度、財投特会から必要な金額が機構に出資されているが、予算の効率的な執行を図る観点から、機構は、技術協力等で培った産ガス国等との関係を活用するなどして、産ガス国等の情報収集に努めるとともに、開発会社の資金ニーズを的確に把握するなどして、財投特会から交付される資金の必要な時期や額の見通しをより適切に行っていく必要がある。

ウ 債務保証のための信用基金の状況

機構は、機構法により、海外における石油・天然ガスの採取及び天然ガスの液化に必要な資金に係る債務の保証を行うための信用基金を設けることとされ、国の出資金のうち国が予算において信用基金への出資であることを示した金額をその財源に充てることとされている。そして、機構は、債務保証額が上記出資金の金額に独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法施行令(平成15年政令第554号)で定める数である30(23年3月31日以前は16)を乗じた金額(以下「債務保証限度額」という。)を超えることとなる場合には、新たに債務の保証を行ってはならないこととされている。

そして、債務保証のための信用基金の積立額等の推移をみたところ、信用基金積立額は増加し続けており、28年度末時点での信用基金積立額は754億0862万余円となっている。

そこで、債務保証限度額に対する実際に実施された債務保証の額の比率をみると、19年度以降は、おおむね30%から50%までの範囲内で推移していたが、26、27両年度には、保証債務損失引当金を計上していることから、仮に同引当金相当額を代位弁済していたとして信用基金残高から保証債務損失引当金累計を控除して同比率を算定すると、70%を超えることになる。しかし、28年度には、同比率は再び30%台に低下している。

機構は、債務保証を行う都度、保証債務残高が債務保証限度額を超えることがないかなどについて確認を行ってきているところであるが、保証債務残高に対して必要とされる信用基金の規模等に係る基準を定めることはしていない。

このような状況を踏まえると、機構は、保証債務残高に対して必要とされる信用基金の規模に係る基準を定めるなどした上で、新たに債務保証の対象となることが見込まれるプロジェクトについて、債務保証が必要となる時期、金額等をできる限り把握し、債務保証料収入等について適切に見積もるなどして、引き続き適切な信用基金の規模について検討していくことが重要である。

エ リスクマネーの供給に係る機構の収支及び開発会社の状況

機構は、16年度から28年度までの間に、リスクマネーの供給に5508億3620万余円を支出している一方で、951億9487万余円の収入を得ている。

そして、機構が、28年度末までに出資した開発会社は、探鉱段階のものが13社、開発段階のものが4社、生産段階のものが9社、事業終結したものが18社、清算結了したものが5社及び出資株式の売却により支援を終了したものが1社の計50社(出資額累計5463億7798万余円)となっている。このうち、事業終結した18社及び清算結了した5社の計23社は、探鉱事業の結果、商業開発の可能性が低いと判断されて開発段階に至らなかったものである。

また、同様に、債務保証を行った開発会社は、開発段階のものが6社、生産段階のものが5社及び支援を終了したものが16社の計27社(債務保証実行額累計1兆3655億0196万余円)となっている。このうち、機構が支援を終了した16社は、開発会社が借入金を完済するなどした15社及び機構が代位弁済を行った1社である。

オ 機構のリスクマネーの供給に伴う損益の発生状況

機構は、リスクマネーの供給に伴い16年度から28年度までの間に、計2518億7469万余円の費用を計上している一方で、計922億8558万余円の収益を計上しており、28年度末現在で1595億8911万余円の累積損失額を計上している。

機構がリスクマネーの供給によって取得した資産の状況についてみると、生産段階の開発会社のうち債務超過に陥っていない開発会社7社の出資株式について、当該会社の財務諸表を基礎とした純資産額に持分割合を乗じた額(以下「持分相当額」という。)を算定すると、出資累計額計1033億7696万余円に対して、28年度末で計1268億3322万余円となっており、234億5626万余円の含み益が生じている状況となっている。

また、探鉱段階の13社についても、開発段階に移行するプロジェクトがあれば、探鉱段階にあることから計上している出資残高の2分の1の関係会社株式評価損(以下「評価損」という。)を計上しないこととなるために、これに係る費用が減少することになる。

機構は今後、探鉱段階のプロジェクトについては、探鉱段階から開発段階に可能な限り移行できるように適切に支援を継続することで累積損失額を減少させるとともに、開発段階又は生産段階に移行した開発会社に係る出資株式について、エネルギーの安定供給の効率的な実現と売却資産価値の最大化の追求に留意した上で、適時適切に売却するなどしていく必要がある。

カ リスクマネーの供給によって取得した資産の売却状況

機構は、「石油等の探鉱、採取及び権利譲受け並びに可燃性天然ガスの液化に係る出資細則」(2004年(石推)業務細則第15号)に基づき、出資株式の評価を合理的に行うことが可能となった場合において、一定の要件に該当するときは、国のエネルギー政策との整合性を確保しつつ、原則として出資株式を売却することとなっている。そして、上記のとおり、開発段階又は生産段階に移行した開発会社に係る出資株式について、売却資産価値の最大化の追求に留意するなどした上で適時適切に売却するなどしていく必要がある。そこで、28年度までの出資株式の売却状況をみたところ、機構が売却した出資株式の中には、売却したことに伴い為替差損が発生しているものが見受けられた。機構は、当該出資株式の売却について、機構省令に基づき経済産業大臣に認可申請を行い、処分等に係る財産の内容及び評価額等について認可を受けたことから、手続上の問題はないとしている。

しかし、機構は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構業務方法書(2004年(総企)業務規程第1号)において、出資株式の処分の時期及び方法について、機構の業務目的の達成及び財政資金の効率的運用の見地から検討し処分することとなっているが、出資株式の売却に当たり、これらの両面の見地から為替変動による損失を容認するかどうかについて十分な検討を行っていなかった。

機構は、開発会社に係る出資株式について生じている累積損失を補填するためにも、エネルギーの安定供給の効率的な実現と売却資産価値の最大化の追求に留意した上で、適時適切に出資株式の売却を行っていくことが求められるが、売却に伴い為替変動による損失が見込まれる場合には、機構の業務目的の達成及び財政資金の効率的運用の見地から当該損失を容認するのかについて検討していく必要がある。

(2) リスクマネーの供給を受けた自主開発権益の状況等

資源エネルギー庁は、我が国企業が石油・天然ガスの引取りに当たり有している権益(以下「自主開発権益」という。)の対象となる石油・天然ガスであれば、我が国企業がエクイティ・オイル(注2)等として現物を確保することができることなどから、海外からの供給が途絶するなどの緊急時であっても我が国に持ち込むことができるとしており、自主開発比率を引き上げることは、そのような場合において石油・天然ガスの安定的かつ効率的な供給に資するとともに、価格の高騰を緩和することで機構の業務目的でもある低廉な供給に資することになるとしている。

(注2)
エクイティ・オイル  石油権益の割合に応じた取り分の石油

機構は、以上を踏まえて、緊急時における石油・天然ガスの我が国への持込みをより確実に実施できるようにするために、開発会社と締結するリスクマネーの供給に係る契約書において、我が国のエネルギー安全保障に係る危機時において日本国政府が石油・天然ガスの輸入の指示等の措置を講じたときには、開発会社は、機構のリスクマネーの供給を受けた事業の結果、引取権等を有することとなった石油・天然ガスを我が国に持ち込むよう最大限努力するものとすること(以下「持込み努力義務」という。)を規定している。

また、機構は、第2期中期計画及び第3期中期計画において、我が国企業の探鉱開発活動の成果である自主開発権益量(我が国企業の権益下にある石油・天然ガスの引取量(国産を含む。)をいう。以下同じ。)の2分の1以上に対して出資、債務保証、技術的支援等による支援を行うとしている。

これらを踏まえて、機構のリスクマネーの供給が石油・天然ガスの自主開発比率等に与えた影響及び機構の中期計画の達成状況等についてみたところ、次のとおりとなっていた。

ア リスクマネーの供給による石油・天然ガスの自主開発比率等への影響及び機構の中期計画の達成状況

25年度以降、機構がリスクマネーの供給を行ったプロジェクトに係る権益の獲得が自主開発比率を引き上げた要因の一つとなっていることを踏まえて、第2期中期計画及び第3期中期計画において、自主開発権益量の2分の1以上に対してリスクマネーの供給、技術的支援等を行うとする機構の計画の達成状況等についてみると、次のとおりとなっていた(以下、自主開発権益量に対する機構のリスクマネーの供給を受けた自主開発権益量の割合を「出資等支援割合」といい、自主開発権益量に対する機構の技術的支援等を受けた自主開発権益量の割合と合わせて「総合的支援割合」という。)。

25年度から28年度までの間における総合的支援割合は、第2期中期計画の最終年度である24年度の38.3%から28年度の45.3%と7.0ポイント上昇して、計画で定められた割合である2分の1に大きく近づいている。一方で、出資等支援割合は、24年度から28年度までの期間における上昇率が同期間における総合的支援割合の上昇率7.0ポイントを上回っている。

機構は、出資等支援割合について、計画の達成状況を評価する上で直接必要となるものではないこと、また、出資等支援割合を明らかにすると、産油国等との契約等により公表することに制約がある開発会社の個別の権益量等について特定されるおそれがあるとして、開発会社に対する自主開発権益量の調査に当たり、石油・天然ガス別の自主開発比率、開発会社の個別の権益量等について開示しないこととして調査を実施していることから、当該割合を公表していない。

しかし、(1)のとおり、機構のリスクマネーの供給に多額の国費が投入されていることに鑑みれば、その効果を示す意味でも、上記の調査に当たって各開発会社の了承を得るなどして、出資等支援割合についても情報を開示していくことについて検討する必要がある。

イ 機構等がリスクマネーの供給等を行ったプロジェクトに係る権益の内容

機構等は、緊急時における石油・天然ガスの我が国への持込みをより確実に実施できるように、開発会社と締結するリスクマネーの供給等に係る契約書又は覚書において持込み努力義務を明記しており、機構は、スワップ(注3)による持込みを含めて開発会社が持込み努力義務を果たすことを想定している。そこで、機構等がリスクマネーの供給等を行ったプロジェクトに係る権益(公団が融資業務により資金供給を行ったプロジェクトに係る権益を含む。以下「機構出資等権益」という。)について、緊急時に実際に持ち込めるようになっているかについてみたところ、次のような権益が見受けられた。

(注3)
スワップ  複数の開発会社間で、それぞれが引取権等を有する石油又は天然ガスをそれぞれの市場へ供給することを目的として交換すること
(ア) 液化設備がないガス田に関する権益

天然ガスは、液化してLNGにした上で我が国に持ち込む必要があるため、ガス田に利用可能な液化設備がない場合、当該ガス田からは、我が国に天然ガスを持ち込めないこととなる。

そこで、機構出資等権益に係るガス田の状況についてみたところ、24年度に出資を行ったプロジェクト1件(出資額399億9999万余円)及び25年度に出資を行い、26年度から債務保証を開始したプロジェクト1件(出資額401億9999万余円、債務保証実行額320億3238万余円)、計2件の天然ガスの権益に係るプロジェクトでは、当該天然ガスの液化設備の設置計画が中止されていた。また、24年度から債務保証を開始したプロジェクト1件(債務保証実行額1155億2063万余円)の権益に係る天然ガスの液化設備の設置計画は遅延していた。これら3件の天然ガスの権益に係るプロジェクト(出資額計801億9999万余円、債務保証実行額計1475億5301万余円)について、機構は、天然ガスを液化して我が国に持ち込むことができるようにするために、現地政府に対して液化設備設置に係る提言を行ったり、パイプライン建設等に関するリスク評価等の調査を独自に実施したりするなどの側面支援を実施してきているものの、29年度末時点において、緊急時も含めて当該天然ガスを直接我が国に持ち込むことができない状況となっている。したがって、これら3件のプロジェクトに係る天然ガスの権益相当量を緊急時に我が国に持ち込むためには、スワップを円滑に行うことができるようにすることが必要となっている。

これら3件のプロジェクトに係る天然ガスを液化して我が国に持ち込めるようにすることは、供給源の多角化等、我が国のLNGの安定的な確保に寄与することになることから、機構は、今後も液化設備等の事業化への側面支援を継続していくことが重要である。

(イ) 湾岸諸国における権益

石油・天然ガスの安定的な供給を確保するためには、我が国への輸送経路が維持されていることが重要であるが、石油・天然ガスの自主開発権益を有する油田・ガス田からの輸送経路上に通常通過しなければならないチョークポイント(注4)がある場合には、当該チョークポイントを通過できない事態が生じた際に、当該油田・ガス田から我が国への石油・天然ガスの持込みに重大な制約が生ずることになる。そして、当該権益を利用したスワップを行おうとする場合にも、スワップの対象となる石油・天然ガスの交換相手方への提供が困難となることにより上記のスワップも成立しないおそれがあることになる。このような地域として湾岸諸国がある。

(注4)
チョークポイント  物資輸送ルートとして広く利用されている狭い海峡等の水上の要衝

一方で、湾岸諸国には産油国が集中していることのみならず、その石油・天然ガスの埋蔵量の多さなどを総合的に考慮すると、これからも湾岸諸国からの輸入は、引き続き重要であると考えられる。

そして、湾岸諸国における自主開発権益の中には、公団が融資及び出資の両方を行ったプロジェクト1件(融資額31億0339万余円、出資額13億4400万円)、公団が出資を行ったプロジェクト2件(出資額784億1147万余円及び18億円)並びに機構が出資を行ったプロジェクト1件(出資額181億5100万円)の機構出資等権益が含まれていた。

これらの機構出資等権益に係る石油・天然ガスを外洋に持ち出すための輸送経路は、現状では限定されており、緊急時に当該権益を利用したスワップを行えないおそれがある。

機構は、上記のとおり、湾岸諸国において、緊急時にスワップの対象となる石油・天然ガスの交換相手方への提供が困難となるおそれがあることから、機構と共に開発会社に出資している我が国企業が湾岸諸国以外に有する権益に係る石油・天然ガスと外国の開発会社が有する権益に係る石油・天然ガスとの間でスワップが行われることも想定しているところであり、緊急時に当該スワップを円滑に行うことができるようにすることが重要となっている。

したがって、機構が出資を行った湾岸諸国におけるプロジェクトに係る権益については、機構と共に開発会社に出資している我が国企業が湾岸諸国以外に有する権益に係る石油・天然ガスと外国の開発会社が有する権益に係る石油・天然ガスとの間でスワップを円滑に行うことができるよう検討を進める必要がある。

ウ 機構等の債務保証の保証期間が終了した石油・天然ガスに係る権益

前記のとおり、機構出資等権益に係る開発会社との間の契約等には、持込み努力義務が規定されている。そして、機構出資等権益のうち、公団が出資を行ったプロジェクトについては、覚書により、出資株式が売却された後も持込み努力義務が継続するとされており、機構が出資を行ったプロジェクトについても、覚書により、機構が出資株式を売却した後も、石油・天然ガスの生産が終了するなどするまで持込み努力義務が継続するとされている。

一方で、機構又は公団の債務保証が行われたプロジェクトについては、機構等の債務保証の保証期間が終了した場合には、債務保証に係る契約の有効期間が終了することに伴い、持込み努力義務が消滅することとなっている。

そこで、過去に機構等が債務保証のみを行ったプロジェクトについてみたところ、天然ガスの液化設備等の建設に対して公団が債務保証(16年度末の債務保証額58億5188万余円)を行い、機構が保証債務を承継したプロジェクト1件において、9年からLNGの生産を行っていたが、17年に債務保証の保証期間が終了したことに伴い、持込み努力義務が消滅していた。

また、29年度末時点で生産を行っていないプロジェクトについてみたところ、天然ガスの開発及び液化に係るプロジェクト1件(債務保証実行額2020億5294万余円)は、機構が債務保証のみを行っており、機構等が出資を行っていないことなどから、債務保証の保証期間が終了した後に持込み努力義務が消滅することとなると考えられる。

債務保証を受けている開発会社に対して、出資株式の売却後の場合と同様に、債務保証の保証期間が終了した後も、覚書により対象事業において石油・天然ガスの生産が終了するまでなどの長期間にわたる持込み努力義務を課すことは困難であるとしても、機構の業務目的である石油・天然ガスの安定的かつ低廉な供給により一層資するために、債務保証の保証期間が終了した後も一定の期間は持込み努力義務が継続することとした場合の影響を開発会社に確認するなどして、機構の出資株式を売却することと債務保証の保証期間が終了することとの性質の違いに留意しつつ、その継続の可能性について検討する必要がある。

(3) 出資及び債務保証プロジェクトの審査状況

ア 機構における出資及び債務保証プロジェクトの審査

機構は、リスクマネーの供給に係る出資及び債務保証プロジェクトの採択に当たっては、資源エネルギー庁が定めた基本方針等に基づき、国のエネルギー政策との整合性を確保し、我が国へのエネルギーの安定供給を戦略的かつ効率的に実現するなどの観点から、機構が定めた審査基準により、技術的事項、経済的事項、政策的事項及び契約・事業実施関連事項について、総合的に審査を行うこととしている。

イ 機構出資等権益に係るプロジェクトの審査状況

(2)イに記載した機構出資等権益に係るプロジェクトの審査状況は、次のとおりとなっていた。

(ア) 液化設備がないガス田に関する権益に係るプロジェクト

(2)イ(ア)のプロジェクト3件に係る審査状況を確認したところ、将来、天然ガスを液化して我が国に持ち込むことが期待されているプロジェクトにおいて、機構がリスクマネーの供給を行った開発会社はガス田の開発・生産事業のみを実施しており、生産した天然ガスを我が国に持ち込むために必要となる液化設備等の建設及び操業に係るプロジェクトは、機構が直接関与していない別の事業者(以下「操業会社」という。)が実施することとなっているため、当該設備等の建設及び操業に係る計画は、機構がリスクマネーの供給を行っているプロジェクトに含まれておらず、機構の審査の対象とはなっていなかった。また、機構は、プロジェクトの採択に当たり、液化をすることなく既に建設されているパイプラインを利用して現地で天然ガスを販売するとした開発会社の計画を基に審査を行っていた。

しかし、(2)イ(ア)に記述した機構出資等権益に係るガス田の状況を踏まえると、将来、天然ガスを液化して我が国に持ち込むことが期待されるプロジェクトについては、審査の際に、操業会社が実施する液化設備等の建設及び操業に係る計画に関しても、情報を収集し計画内容の確認等を行うことを検討することに加え、ガス田の資産買収に係る開発会社の交渉期間も考慮した上で、適切に審査を行っていく必要がある。

(イ) 湾岸諸国における権益に係るプロジェクト

(2)イ(イ)のプロジェクトのうち機構が審査を行ったプロジェクトについて、我が国への石油の持込みに係る審査状況を確認したところ、機構は、直接我が国への持込みが可能であることを確認した上で、スワップの相手方を確認して、当該権益に基づく引取量相当の石油の持込みが可能であることを他の地域におけるプロジェクトと同様に確認していた。

一方で、湾岸諸国における権益については、(2)イ(イ)のとおり、緊急時にスワップの対象となる石油・天然ガスの交換相手方への提供が困難となるおそれがあることから、機構は、機構と共に開発会社に出資している我が国企業が湾岸諸国以外に有する権益に係る石油・天然ガスと外国の開発会社が有する権益に係る石油・天然ガスとの間でスワップが行われることも想定している。しかし、機構は、審査の際に、当該スワップを用いて緊急時に石油・天然ガスを我が国に持ち込むことについて確認することとしていなかった。

湾岸諸国には産油国が集中していることのみならず、その石油・天然ガスの埋蔵量の多さ、輸出余力の高さ、我が国との距離等を総合的に考慮すると、これからも湾岸諸国における権益は、引き続き重要であると考えられる。したがって、我が国への石油・天然ガスの持込みについては、開発会社との間で、チョークポイントに関するリスクを認識した上で、機構と共に開発会社に出資している我が国企業が湾岸諸国以外に有する権益に係る石油・天然ガスと外国の開発会社が有する権益に係る石油・天然ガスとの間でスワップが行われることで緊急時においても我が国への持込みを確保することについて、審査の際に確認を行うことを検討する必要がある。

(4) 機構におけるリスクマネーの供給に係る財務諸表の表示

独法会計基準によれば、独立行政法人の会計は、財務諸表によって、国民その他の利害関係者に分かりやすい形で適切に情報開示するために、必要な会計情報を明瞭に表示し、独立行政法人の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならないとされている。そして、独法会計基準によれば、関係会社株式は取得原価をもって貸借対照表価額とし、持分相当額が取得原価よりも下落した場合には、持分相当額をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の費用として処理するとともに、翌期首に取得原価に洗い替え(戻し入れ)なければならないこととされている。ただし、1(3)イのとおり、独法会計基準に定められていない事項については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うこととされている。

機構は、その保有する出資株式を関係会社株式として貸借対照表の資産の部に計上しており、その額は28年度末現在で計2960億3485万余円となっている。機構は、このうち探鉱段階の開発会社に係る出資株式については、独法会計基準に基づき一般に公正妥当と認められる企業会計の基準である「金融商品に係る会計基準」(平成11年企業会計審議会)等に準拠して定めたとしている「石油開発事業に係る出資株式の評価について」(2005年(財経)通達第105号。以下「評価内規」という。)により、毎年度、開発会社ごとに機構の出資残高の2分の1を時価として評価し、当該評価額を関係会社株式として貸借対照表に計上することとしている。そして、機構は、残りの2分の1については評価損として損益計算書に計上し、当該評価損相当額を翌期首に関係会社株式に戻し入れている。

機構は、評価内規により探鉱段階の開発会社に係る出資株式の評価を行う理由として、探鉱段階における出資株式の評価については、回収可能性を客観的に判断することが困難であり、独法会計基準にも該当がないため、「金融商品会計に関する実務指針」(平成12年日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号)に準拠した評価内規に基づき、出資額の2分の1を時価として計上しており、これは、石油等の探鉱開発事業が長期間を要し、その成否を判断することが困難であるため、探鉱を実施している開発会社への出資を保守的に評価することで、事業の特性を反映したためとしている。

以上を踏まえ、28年度末現在の機構の財務諸表をみると、評価内規に基づき出資残高の2分の1に相当する額を貸借対照表に計上している出資株式は13社あり、これらに対する出資額は計1734億5175万余円、貸借対照表計上額は計886億1748万余円となっている。

しかし、上記の13社は、同じ探鉱段階であっても、その資産等の状況は毎年度変動していることから、上記13社に係る出資株式について、機構の貸借対照表計上額と、独法会計基準に規定されている一定の場合に持分相当額を用いる評価方法に基づく貸借対照表計上額(以下「持分相当額等」という。)とを比較したところ、機構の貸借対照表計上額(886億1748万余円)が、持分相当額等(862億4240万余円)を23億7508万余円上回っていた。

そして、個別の開発会社についてみると、機構の貸借対照表計上額が持分相当額等を上回っているものが8社、下回っているものが5社あり、その差額はマイナス212億5750万円からプラス93億6700万円まで、双方のかい離の割合(以下「かい離率」という。)はマイナス96.3%からプラス100.0%までとなっているなど、機構の貸借対照表計上額が持分相当額等と相当程度かい離していた。

以上を踏まえると、機構は、出資株式を適時適切に評価し、財務諸表において機構の資産等の状況を適時適切かつ国民に分かりやすい形で情報開示するために、探鉱段階の関係会社株式の評価方法について、現在の評価方法に改善を加えるなどしてより適切なものとすることを検討する必要がある。

(5) 公団が保有していた資産並びに債権及び債務の処理状況

ア 14年度報告後から公団解散までの公団資産の処理状況

本院は、14年度報告において、15年3月末時点における公団の欠損金が7701億余円、石油開発事業資産が4181億余円となっており、これらの資産処理について引き続き注視していくこととする旨を掲記している。そこで、公団の欠損金及び石油開発事業資産の処理状況についてみると、資産処理方針が公表された15年3月以降に売却等の処分が行われた結果、保有していた出資株式に係る処分益を15年度に345億5421万余円、16年度に1755億5169万余円計上したことなどに伴い、16年度末である17年3月末時点の公団の欠損金残高は5243億5453万余円となっていた。公団は、この欠損金残高を補填されることなく解散しており、当該欠損金は公団の出資者である国が最終的に負担することになった。

そして、公団が解散した日の前日である17年3月31日時点において公団が保有していた開発会社の出資株式は24社あり、公団の貸借対照表に計上されていたこれら24社に係る資産価額の合計は1447億8450万余円であった。

そして、国は17年4月1日に、計1315億9948万余円でこれら24社の株式を承継した。

イ 国が承継した公団資産の公団解散後から28年度末までの処理状況

国が公団から承継した24社の28年度末時点における株式の状況は、全部保有を継続しているものが13社、一部売却して保有を継続しているものが1社、全部売却したものが4社、清算結了したものが6社となっていた。

その結果、28年度末までに確定している公団資産に係る収益は、計4389億6178万余円となっている。また、国が承継した出資株式のうち、28年度末時点で保有を継続している出資株式の資産価額は計5736億7490万余円となっており、公団解散時の公団の貸借対照表に計上されていたこれらの出資株式の資産価額等計1184億0221万余円に対して、差引きで4552億7269万余円の含み益が生じている。

以上を踏まえると、公団解散時における欠損金残高5243億5453万余円については、上記の公団資産に係る収益の確定分4389億6178万余円及び含み益4552億7269万余円を考慮すれば既に欠損金を解消し、なお3698億7994万余円の含み益があることになるが、当該含み益は今後の経済動向等によっては変動する可能性があることから、これを考慮せずに欠損金の状況をみると、853億9275万余円が現在も解消されていないことになる。

4 所見

(1) 検査の状況の概要

ア リスクマネーの供給に係る予算の執行、収支の状況等

(ア) エネルギー特会からの出資額等及び機構の執行額

エネルギー特会から出資された出資金等の執行残額の推移をみたところ、国から出資を受けるなどしている17年度以降において、23年度、24年度及び27年度を除いて機構に多額の執行残額が生じており、28年度の執行残額は488億9734万余円に上っていた。

(イ) 財投特会からの出資額及び機構の執行額

財投特会から出資を受けることとなった24年度以降に財投特会に計上された機構に対する出資金の予算額等の状況をみると、歳出予算額計3880億円に対して、支出済歳出額は計1049億1959万余円であり、28年度からの翌年度繰越額1860億円を除いた970億8040万余円が財投特会における不用額となっていた。

(ウ) 債務保証のための信用基金の状況

債務保証限度額に対する実際に実施された債務保証の額の比率をみると、19年度以降は、おおむね30%から50%までの範囲内で推移しており、28年度は30%台となっている。

(エ) リスクマネーの供給に伴う収支及び損益の発生状況

機構は、リスクマネーの供給に伴い16年度から28年度までの間に、計2518億7469万余円の費用を計上している一方で、計922億8558万余円の収益を計上しており、28年度末現在で1595億8911万余円の累積損失額を計上している。機構がリスクマネーの供給によって取得した資産の状況についてみると、計234億5626万余円の含み益が生じている状況となっている。

(オ) リスクマネーの供給によって取得した資産の売却状況

機構が売却した出資株式の中には、売却したことに伴い為替差損が発生しているものが見受けられた。

イ リスクマネーの供給を受けた自主開発権益の状況等

(ア) リスクマネーの供給による石油・天然ガスの自主開発比率等への影響及び機構の中期計画の達成状況

機構は、計画の達成状況を評価する上で直接必要となるものではないことなどから、出資等支援割合を公表していない。

(イ) 機構等がリスクマネーの供給等を行ったプロジェクトに係る権益の内容
a 液化設備がないガス田に関する権益

機構出資等権益に係るガス田の状況についてみたところ、3件の天然ガスの権益に係るプロジェクトにおいて、当該プロジェクトに係る天然ガスの液化設備の設置計画が中止されていたり、遅延していたりしていた。したがって、これら3件のプロジェクトに係る天然ガスの権益相当量を緊急時に我が国に持ち込むためには、スワップを円滑に行うことができるようにすることが必要となっている。

b 湾岸諸国における権益

石油・天然ガスの自主開発権益を有する油田・ガス田からの輸送経路上に通常通過しなければならないチョークポイントがある場合には、当該チョークポイントを通過できない事態が生じた際に、当該油田・ガス田から我が国への石油・天然ガスの持込みに重大な制約が生ずることになる。そして、当該権益を利用したスワップを行おうとする場合にも、スワップの対象となる石油・天然ガスの交換相手方への提供が困難になることにより上記のスワップも成立しないおそれがある湾岸諸国に機構出資等権益が4件(融資額31億0339万余円、出資額計997億0647万余円)存在している。

機構は、上記のとおり、湾岸諸国において、緊急時にスワップの対象となる石油・天然ガスの交換相手方への提供が困難となるおそれがあることから、機構と共に開発会社に出資している我が国企業が湾岸諸国以外に有する権益に係る石油・天然ガスと外国の開発会社が有する権益に係る石油・天然ガスとの間でスワップが行われることも想定しているところであり、緊急時に当該スワップを円滑に行うことができるようにすることが重要となっている。

(ウ) 機構等の債務保証の保証期間が終了した石油・天然ガスに係る権益

機構等が債務保証のみを行ったプロジェクトについてみたところ、天然ガスの液化設備等の建設に対して公団が債務保証(16年度末の債務保証額58億5188万余円)を行い、機構が保証債務を承継したプロジェクト1件において、LNGの生産を行っていたが、債務保証の保証期間が終了したことに伴い、持込み努力義務が消滅していた。また、29年度末時点で生産を行っていないプロジェクトについてみたところ、天然ガスの開発及び液化に係るプロジェクト1件(債務保証実行額2020億5294万余円)は、機構が債務保証のみを行っており、機構等が出資を行っていないことなどから、債務保証の保証期間が終了した後に持込み努力義務が消滅することとなると考えられる。

ウ 出資及び債務保証プロジェクトの審査状況

(ア) 液化設備がないガス田に関する権益に係るプロジェクト

審査状況を確認したところ、将来、天然ガスを液化して我が国に持ち込むことが期待されているプロジェクトにおいて、機構がリスクマネーの供給を行った開発会社はガス田の開発・生産事業のみを実施し、液化設備等の建設及び操業は操業会社が実施するものであったことから、液化設備等の建設及び操業に係る計画は審査の対象とはなっていなかった。

(イ) 湾岸諸国における権益に係るプロジェクト

機構は、湾岸諸国において、緊急時にスワップの対象となる石油・天然ガスの交換相手方への提供が困難となるおそれがあることから、機構と共に開発会社に出資している我が国企業が湾岸諸国以外に有する権益に係る石油・天然ガスと外国の開発会社が有する権益に係る石油・天然ガスとの間でスワップが行われることも想定しているが、機構は、審査の際に、当該スワップを用いて緊急時に石油・天然ガスを我が国に持ち込むことについて確認することとしていなかった。

エ 機構におけるリスクマネーの供給に係る財務諸表の表示

28年度末の機構の財務諸表をみると、評価内規に基づき出資残高の2分の1に相当する額を貸借対照表に計上している出資株式は13社あり、これら13社に係る出資株式について、機構の貸借対照表計上額と持分相当額等とを比較したところ、機構の貸借対照表計上額(886億1748万余円)が、持分相当額等(862億4240万余円)を23億7508万余円上回っていた。

そして、個別の開発会社についてみると、貸借対照表計上額が持分相当額等を上回っているものが8社、下回っているものが5社あり、その差額はマイナス212億5750万円からプラス93億6700万円まで、かい離率はマイナス96.3%からプラス100.0%までとなっているなど、機構の貸借対照表計上額が持分相当額等と相当程度かい離していた。

オ 公団が保有していた資産並びに債権及び債務の処理状況

国が承継した出資株式のうち、28年度末時点で保有を継続している出資株式の資産価額は計5736億7490万余円となっており、公団解散時の資産価額等との差引きで4552億7269万余円の含み益が生じていて、公団解散時における欠損金残高5243億5453万余円については、収益の確定分4389億6178万余円及び含み益4552億7269万余円を考慮すれば既に欠損金を解消し、なお3698億7994万余円の含み益があることになるが、当該含み益は今後の経済動向等によっては変動する可能性があることから、これを考慮せずに欠損金の状況をみると、853億9275万余円が現在も解消されていないことになる。

(2) 所見

機構によるリスクマネーの供給は、石油・天然ガスの安定的かつ低廉な供給に資することを目的として、2030年(平成42年)に石油・天然ガスを合わせた自主開発比率を40%以上に引き上げるために実施される施策の一つであり、極めて重要なものである。

ついては、資源エネルギー庁及び機構は、今後のリスクマネーの供給に当たって、次の点に留意するなどして実施していく必要がある。

ア リスクマネーの供給に係る予算の執行、収支等について

  • (ア) 機構は、エネルギー特会から出資された出資金等について多額の執行残額を生じさせないために、技術協力等で培った産油国等との関係を活用するなどして、産油国等の情報収集に努めるとともに、開発会社の資金ニーズを的確に把握するなどして、資金の必要な時期や額の見通しをより適切に行った上で開発会社に対する出資を行うこと。また、財投特会から出資される出資金について予算の効率的な執行を図る観点から、機構は、技術協力等で培った産ガス国等との関係を活用するなどして、産ガス国等の情報収集に努めるとともに、開発会社の資金ニーズを的確に把握するなどして、財投特会から交付される資金の必要な時期や額の見通しをより適切に行うこと
  • (イ) 機構は、債務保証に係る信用基金について、保証債務残高に対して必要とされる信用基金の規模に係る基準を定めるなどした上で、新たに債務保証の対象となることが見込まれるプロジェクトについて、債務保証が必要となる時期、金額等をできる限り把握し、債務保証料収入等について適切に見積もるなどして引き続き適切な信用基金の規模について検討すること
  • (ウ) 機構は、国から出資された出資金等を基にリスクマネーの供給を行った事業によって生じた損失については、エネルギーの安定供給の効率的な実現と売却資産価値の最大化の追求に留意した上で、リスクマネーの供給によって取得した資産を適時適切に売却して得た収益等により補填するよう努めること。また、売却に伴い為替変動による損失が見込まれる場合には、機構の業務目的の達成及び財政資金の効率的運用の見地から当該損失を容認するのかについて検討すること

イ リスクマネーの供給を受けた自主開発権益の状況等について

  • (ア) 機構は、出資等支援割合について、計画の達成状況を評価する上で直接必要となるものではないことなどから公表していないが、機構のリスクマネーの供給に多額の国費が投入されていることに鑑み、その効果を示す意味でも、開発会社に対する自主開発権益量の調査に当たって各開発会社の了承を得るなどして、出資等支援割合についても情報を開示していくことについて検討すること
  • (イ) 機構は、液化設備がないガス田に関する権益について、権益相当量を緊急時に我が国に持ち込むためにスワップを円滑に行うことができるようにするとともに、これらのプロジェクトに係る天然ガスを液化して我が国に持ち込むことができるようにするために、今後も液化設備等の事業化への側面支援を継続すること
  • (ウ) 機構は、機構が出資を行った湾岸諸国におけるプロジェクトに係る権益について、機構と共に開発会社に出資している我が国企業が湾岸諸国以外に有する権益に係る石油・天然ガスと外国の開発会社が有する権益に係る石油・天然ガスとの間でスワップを円滑に行うことができるよう検討を進めること
  • (エ) 機構は、機構の債務保証の保証期間が終了する権益について、債務保証の保証期間が終了した後も一定の期間は持込み努力義務が継続することとした場合の影響を開発会社に確認するなどして、機構の出資株式を売却することと債務保証の保証期間が終了することとの性質の違いに留意しつつ、その継続の可能性について検討すること

ウ 出資及び債務保証プロジェクトの審査について

  • (ア) 機構は、将来、天然ガスを液化して我が国に持ち込むことが期待されるプロジェクトについて、審査の際に、操業会社が実施する液化設備等の建設等に係る計画に関しても、情報を収集し計画内容の確認等を行うことを検討することに加え、ガス田の資産買収に係る開発会社の交渉期間も考慮した上で、適切に審査を行うこと
  • (イ) 湾岸諸国における権益は、当該地域における石油・天然ガスの埋蔵量の多さ、輸出余力の高さ、我が国との距離等を総合的に考慮すると、これからも引き続き重要であると考えられることから、機構は、我が国への石油・天然ガスの持込みについて、開発会社との間で、チョークポイントに関するリスクを認識した上で、機構と共に開発会社に出資している我が国企業が湾岸諸国以外に有する権益に係る石油・天然ガスと外国の開発会社が有する権益に係る石油・天然ガスとの間でスワップが行われることで緊急時においても我が国への持込みを確保することについて、審査の際に確認を行うことを検討すること

エ 機構におけるリスクマネーの供給に係る財務諸表の表示について

機構は、財務諸表における探鉱段階の出資に係る株式評価額の表示に当たって、出資株式を適時適切に評価し、機構の資産等の状況を適時適切かつ国民に分かりやすい形で情報開示するために、探鉱段階の関係会社株式の評価方法について、現在の評価方法に改善を加えるなどしてより適切なものとすることを検討すること

オ 公団が保有していた資産並びに債権及び債務の処理について

資源エネルギー庁は、公団解散時における欠損金残高5243億5453万余円のうち現在も解消されていない853億9275万余円について、現在保有している公団資産の含み益が28年度末の時点で4552億7269万余円となっていることを踏まえて、エネルギーの安定供給の効率的な実現等に留意しつつ、売却等を含めて当該公団資産を適切に活用することにより、解消していくよう努めること

本院としては、28年11月に機構法が改正され、リスクマネーの供給に係る業務が大幅に拡充されたことを踏まえて、機構等によるリスクマネーの供給について、今後とも多角的な観点から引き続き検査していくこととする。