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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成30年10月|

東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 大会の開催に向けた取組等の状況

(1) 大会の開催に向けた取組体制等の状況

ア 大会の開催に向けた関係機関の連携体制

第1の2(1)イのとおり、大会の準備及び運営を行う主体は大会組織委員会であり、開催都市契約の国内当事者である東京都及びJOCはそれぞれの大会の関連施策等の実施により大会組織委員会の取組を支援しており、また、国やJPC等は大会の関連施策等の実施により開催都市契約の国内当事者の取組を様々な形で支援している。大会に向けた取組は幅広い分野に関わるため、関係する各機関は、大会の円滑な準備及び運営に関する取組を行うために、大会組織委員会を中心として相互に連携して、実施すべき内容等について調整を図りながら、それぞれの機関の取組内容を決定し、実施する必要がある。

大会の開催に向けた29年度末現在の関係機関の連携体制を示すと図表1-1のとおりであり、大会組織委員会、東京都、国、JOC及びJPCは、26年1月に「東京オリンピック・パラリンピック調整会議」(以下「調整会議」という。)を設置して大会組織委員会会長、東京都知事、文部科学大臣、オリパラ担当大臣、JOC会長及びJPC会長の6者により、大会の準備及び運営における特に重要な事項について調整を図ることとしている。また、セキュリティ、輸送、都外自治体との連携、共同実施事業等の準備が必要な分野ごとに、国、大会組織委員会及び東京都が会議等を共同開催したり、それぞれの機関が主催する会議等に国、大会組織委員会、東京都等の関係機関が構成員やオブザーバー等として相互に参加したりするなどして、準備の方向性の協議、進捗状況の報告、情報共有等を行うこととしている。

そして、IOCは、オリンピック憲章等に基づき、大会組織委員会による開催準備の進展について、関係機関との協力関係を含めて、監視して指導するために、IOCの代表等で構成する調整委員会を設置して、定期的に大会の計画、組織、資金調達及び運営に関する決定、活動及び進捗状況の確認を行うこととしており、同委員会は、26年度から29年度までに、26年6月、27年6月、28年12月、29年6月、同年12月の計5回確認を行っている。

図表1-1 大会の開催に向けた関係機関の連携体制(平成29年度末現在)

図表1-1 大会の開催に向けた関係機関の連携体制(平成29年度末現在) 画像 図表5-2 「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度) 図表1-2 調整会議の開催状況(平成29年度末現在)

イ 大会の開催に向けた関係機関による調整の状況
(ア) 調整会議の開催状況

調整会議は、定期的に開催することとはされておらず、必要に応じて開催されている。25年度から29年度までの開催状況を示すと図表1-2のとおり、計14回開催されている。28年9月以降、1年以上開催されていなかったが、30年1月に開催され、大会の開催に向けた競技会場の整備状況等について、各関係機関の長の間の情報共有や意見交換等が行われている。なお、26年の東京都による会場計画の見直しについては調整会議に諮られたが、28年の再度の会場計画の見直しについては、その緊急性等から調整会議には諮られておらず、IOC副会長、大会組織委員会会長、東京都知事及びオリパラ担当大臣による4者協議が28年11月及び同年12月に行われて、調整が図られた。

図表1-2 調整会議の開催状況(平成29年度末現在)

年月日 回数 議題
平成26年1月24日 設立
  • 東京オリンピック・パラリンピック調整会議の設置
  • 設立時評議員・同理事・同監事の選任 等
2月27日 第2回 大会組織委員会の組織体制 等
4月23日 第3回 今後の推進体制
6月12日 第4回 会場計画 等
6月24日 第5回 会場計画 等
9月1日 第6回 会場計画 等
11月27日 第7回 第2回IOCプロジェクトレビュー 等
27年1月14日 第8回 大会開催基本計画 等
6月29日 第9回 新大臣就任に伴う今後の連携 等
9月1日 第10回 エンブレムの使用中止 等
28年3月3日 第11回 聖火台 等
9月2日 第12回
  • 招致に関する調査報告
  • 2020年に向けた準備
9月29日 第13回 今後の課題 等
30年1月24日 第14回 大会に向けた進捗状況 等
(注)
東京都等の公表資料を基に会計検査院が整理した。
(イ) 大会の準備に係る主な分野別の調整の状況

a 大会開催時の大会関係者及び観客の輸送

大会の準備に関して、立候補ファイルにおいて大会組織委員会が行政機関と調整することとなっている主な分野のうち、大会開催時の大会関係者及び観客の輸送については、図表1-3のとおり、輸送計画案の内容を調整する「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議」(以下「輸送調整会議」という。)、経済活動への影響等を踏まえて交通行動の見直しの機運醸成と合意形成を図る「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に係る交通輸送円滑化推進会議」及び輸送技術に関し専門家の見地から検討を行う「交通輸送技術検討会」により検討及び調整が行われている。輸送関係者による具体的な輸送計画案の策定に当たっての意見調整が行われているのは輸送調整会議においてであり、29年度末までに計4回開催されている。東京圏(東京都、埼玉、千葉両県及び横浜市)の輸送計画案については、大会組織委員会及び東京都により29年6月に「輸送運営計画V1」が策定されて継続して検討が進められており、同年12月から30年1月までにかけて競技会場が所在する北海道、宮城、福島、茨城、神奈川、静岡各県でも検討が開始されている。

輸送ルートには、選手等の大会関係者を競技会場等まで輸送する関係者輸送ルートと、観客の利用が想定される駅から競技会場まで輸送する観客輸送ルートがあるが、いずれも29年度まで具体的なルートの決定には至っておらず、30年度中に輸送ルート案を決定した上で、輸送運営計画V2案の策定を行い、31年度中にIOCの承認を得ることとしている。なお、30年4月に開催された輸送調整会議において、輸送ルートの素案が公表されている。また、東京都は、東京圏の大会関係者の輸送に必要なバス等の車両基地等7か所、バス乗降場1か所の場所、面積等の概要を示しており、大会組織委員会と分担して整備を行うこととしている(輸送ルートに係る道路輸送インフラの整備については3024_2_2_2_22(2)イ参照)。

図表1-3 大会開催時の輸送に係る検討体制

図表1-3 大会開催時の輸送に係る検討体制 画像

b 都外自治体との連携

大会の開催に向けて、東京都、都外自治体、大会組織委員会及び国が相互に緊密に連携しながら準備を進めていくために、図表1-4のとおり、27年11月にオリパラ担当大臣、東京都知事、都外自治体のうち道県の知事、政令指定都市の市長及び大会組織委員会会長を構成員とする「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会」が設置された。そして、同協議会の下に、実務担当者による情報交換及び必要な調整を行うための幹事会が設置された。さらに、各競技会場の実情に即した情報交換及び協議を行うために、29年1月に幹事会の下に、競技会場が所在する道県ごとの作業チームが設置された。29年1月以降、各作業チームにおいて大会組織委員会から大会の成功に向けて必要となる業務内容について説明が行われ、情報共有を図った上で今後の大会の準備に当たっての論点整理等を行っている。29年5月には、大枠の合意が同協議会で了承され、その後も作業チームや各関係機関の実務担当者間での協議を通じて、大枠の合意に基づき各関係機関が担う業務内容の具体化について検討が行われている(セキュリティについては3024_2_2_2_12(2)ア、共同実施事業については3024_2_1_2_2_2(2)イ(イ)参照)。

図表1-4 都外自治体との連携に係る検討体制

図表1-4 都外自治体との連携に係る検討体制 画像

(2) 大会経費の試算等の状況

ア 大会経費の試算の状況
(ア) 試算内容の変遷

立候補ファイル、V1予算及びV2予算のそれぞれにおける大会経費の試算額の変遷を示すと図表2-1のとおり、25年1月提出の立候補ファイルにおける試算額は8299億円(立候補ファイルにおいて予想されるインフレ及び為替変動の影響を考慮の上で数値予測を行うこととなっている32年時点の予算の見積額)、28年12月のV1予算における試算額は1兆5000億円、29年12月のV2予算における試算額は1兆3500億円となっているが、それぞれ試算の時点、試算項目の区分及び試算の対象とする経費の範囲が異なっている。

立候補ファイルにおける試算は、第1の2(1)エのとおり、東京都及び招致委員会がIOCから示された基準に基づき、IOCや専門家等にヒアリングを行った上で行われたもので、他の立候補都市と比較可能なようにIOCにより計上対象とする経費が設定されているため、施設整備については施設本体の工事費のみを計上して設計費用が計上されていなかったり、仮設施設及びオーバーレイに係る原状復旧費用が計上されていなかったり、輸送やセキュリティ等の大会の運営に要する経費が一部しか計上されていなかったりなどしており、大会経費の全体を試算したものとはなっていない。

一方、V1予算における試算は、大会組織委員会が一定の仮定を置き、立候補ファイルに計上されていない経費も含めて、28年12月時点で判明している大会施設に必要となる整備、大会運営に必要な輸送やセキュリティ等に要する大会経費の全体についてできる限り試算したものであり、V2予算における試算は、大枠の合意を基としてV1予算における試算の内容を29年12月時点で更に精査したものとなっている。

図表2-1 大会経費の試算額(立候補ファイル、V1予算及びV2予算)

(単位:億円)   (単位:億円)
立候補ファイル
(平成25年1月)
V1予算
(28年12月)
V2予算
(29年12月)
大会組織委員会 その他 大会組織委員会 その他 大会組織委員会 その他
3412 4887 8299 会場関係経費 1450 6350 7800 1800 6300 8100
大会関係経費 3550 3650 7200 4200 1200 5400
5000 1兆 1兆5000 6000 7500 1兆3500
注(1)
立候補ファイルの経費区分は、V1予算及びV2予算と異なる。
注(2)
立候補ファイルの金額は、平成32年時点の予算の見積額である。
注(3)
立候補ファイルの( )書きは立候補ファイルの提出時点、V1予算及びV2予算の( )書きは各予算の公表時点である。
注(4)
会場関係経費は恒久施設、仮設等、エネルギー及びテクノロジーに係る経費であり、大会関係経費は輸送、セキュリティ、オペレーション等に係る経費である。
注(5)
立候補ファイル及びV1予算のその他の欄は大会組織委員会以外の機関の負担分を示し、V2予算のその他の欄は東京都及び国の負担分を示す。
注(6)
V1予算及びV2予算は、本図表以外に予備費が「1000億円~3000億円」と計上されている。

V2予算における試算が立候補ファイルにおける試算と具体的にどのような点が異なっているかについて、図表2-1における大会組織委員会の予算とその他の予算の別にみると図表2-2のとおりであり、V2予算における大会組織委員会の予算は、国内スポンサー収入が立候補ファイルにおける試算より増収見込みであることに伴うIOCへのロイヤリティ支払の増、競技会場の変更・追加による東京都外に係る輸送経費の増、テロ対策やサイバーセキュリティ対策等の社会情勢の変化により必要となったセキュリティ経費の増、仮設整備及びオーバーレイ整備に係る設計や原状復旧費用等の追加による経費の増等のため、立候補ファイルにおける試算額を2500億円程度上回っている。また、V2予算におけるその他の予算は、大枠の合意により東京都が負担することとなった大会施設の仮設整備費用等の増、大会組織委員会の予算と同様の理由による輸送・セキュリティ経費の増等がある一方、競技会場の変更に伴う東京都が負担する大会施設の新規整備費用の減や、民間団体が負担する改修整備費用を試算対象から外したことによる費用の減等のため、立候補ファイルにおける試算額を2500億円程度上回っている。

立候補ファイルにおける試算がIOCから示された基準に基づき作成されたものであり、V2予算における試算とは対象が異なることや、25年1月の立候補ファイル提出時と比較して5年が経過したV2予算における試算時点では、競技会場の変更・追加、大枠の合意の締結、国際テロ等のセキュリティに関する社会状況の変化等の試算の前提となる条件が大きく異なることなどが、立候補ファイルにおける試算額をV2予算における試算額が大きく上回ることの主な理由となっている。

図表2-2 V2予算における試算と立候補ファイルにおける試算との相違点

経費別
予算別
主な経費の例 試算額の差の計
立候補ファイルの試算の対象外であり、V2予算では対象である経費 立候補ファイルに記載があり、V2予算では試算の対象外である経費 その他V2予算で増額となったなどの経費
大会組織委員会の予算
  • 国内スポンサー収入増に伴うIOCへのロイヤリティ支払
  • 輸送経費(競技会場の変更・追加に伴う増)
  • セキュリティ経費(社会情勢の変化により必要なテロ対策、サイバーセキュリティ対策等の増)
  • 仮設整備及びオーバーレイ整備の経費(設計、原状復旧費用等の追加)
(+2500億円程度)
(+2500億円程度)
その他の予算
  • 東京都が負担する都・都外自治体の仮設整備費用、賃借料等(大枠の合意に基づくもの)
  • 東京都が負担する大会施設の新規整備費用(夢の島公園、オリンピックアクアティクスセンタ-、武蔵野の森総合スポーツプラザ)
  • 東京都が負担する大会施設の新規整備費用(競技会場5か所の既存施設への変更に伴うもの)
  • 民間団体が負担する大会施設の改修整備費用(日本武道館、選手村)
  • 東京都が負担する東京ビッグサイトの改修整備費用(整備範囲の見直し)
  • 輸送経費(競技会場の変更・追加に伴う増)
  • セキュリティ経費(社会情勢の変化により必要なテロ対策、サイバーセキュリティ対策等の追加)
  • 新国立競技場、有明アリーナ、有明テニスの森の新規整備費用(設計費用等の追加)
(+2500億円程度)
(+3000億円程度) (▲2500億円程度) (+2000億円程度)
注(1)
立候補ファイル及びV2予算を基に会計検査院が作成した。
注(2)
立候補ファイルにおけるその他の予算は大会組織委員会以外の機関の予算を示し、V2予算のその他の予算は東京都及び国の予算を示す。

また、V1予算における試算額とV2予算における試算額を比較すると1500億円の減となっている。これは、図表2-3のとおり、非競技会場の仮設施設の整備費用、競技会場に係る賃借料等、IOCへ支払うロイヤリティ等の経費が増となる一方、競技会場等に係る設備の仕様、提供するサービス水準の見直しや積算に用いた単価の精査を行ったことなどによる経費の減を見込んだ結果となっている。また、サイバーセキュリティ、空域の警戒監視、海域の警戒監視等のセキュリティ対策に要する経費及びドーピング対策に要する経費は、V1予算には計上されていたが、大会組織委員会が当該経費を政府機関の本来担う業務と整理したため、V2予算には計上していない。大会組織委員会によると、今後も引き続き積算の精査や役割分担の明確化等を行っていくこととしている。

図表2-3 V1予算における試算額とV2予算における試算額の比較

(単位:億円)
経費区分 経費の内容 V1予算 V2予算 増減 主な増 主な減
会場関係 競技会場等の整備に係る経費 7800 8100 +300
恒久施設 新国立競技場等の整備 3500 3450 ▲50     四捨五入の整理方法の変更 50
仮設等 仮設インフラ、オーバーレイ、マネジメント、賃借料等 2800 3150 +350
・非競技会場の仮設整備費等の増
300
・競技会場等の単価の精査
280
・競技用構築物等の追加による増
80
・コンディション&バリューエンジニアリングの取組(観客席数等の見直し)
100
・都内会場・地方会場の費用計上による賃借料等の増
440    
エネルギー 発電機、電源ケーブル、UPS、電気使用料、ガス使用料等 500 450 ▲50
・追加種目・テストイベントが行われる会場における仮設電源設備の設置費等の増
70
・会場ごとの単価・サービス水準の見直し等による減
100
   
・追加の3会場における電源設備の二重化について、発電機の活用等の要件緩和により不要
10
テクノロジー 放送事業者用映像回線、音響システム、大型映像装置、デジタルサイネージ、観客向けWi-Fi、競技計測・得点情報の取得配信、パソコン、プリンタ、ITセキュリティ、大会管理・事務管理システム等 1000 1050 +50
・追加種目に係る放送用映像回線の整備費・利用料の増
70
・地方会場の一部で放送用映像回線の地中化の見直し
60
・通信インフラとの一部機能の共通化による警備用ネットワークの設計・敷設等の受入
60
・業務用無線の仕様の見直し
10
・サービス水準の見直しによる、情報システム、大型映像装置、携帯電話通信、通信インフラ、音響/映像装置、インターネットの経費の減
70
大会関係 大会の運営に係る経費 7200 5400 ▲1800
輸送 輸送用バス、輸送用自動車借上げ、輸送支援スタッフ雇用、公共交通無料化、オリンピック・ルート・ネットワーク整備、会場周辺駐車場、車両基地、バスターミナル等整備等 1400 500 ▲900
・バス運行時間の延長によるバス運行管理業務費の増
10
・対象者を大会関係者のみとするとともに利用頻度等の精査による、公共交通無料化費用の見直し
310
・公有地賃借における無償化による、車両拠点箇所等の用地賃借料の減
290
・借上期間等の見直しによるバス車両費の減
100
セキュリティ 民間ガードマンによる警備、警備資機材、スクリーニング及び統合映像監視、警備指揮所等(X線検査機、セキュリティゲートシステム、車両検査システム、セキュリティカメラ機器、高度センサー)、サイバーセキュリティ対策(サイバー合同訓練、サイバー攻撃に対する情報収集・分析業務) 1600 1000 ▲600
・警備機器費の増
290
・通信インフラとの一部機能の共通化による警備用ネットワークの設計・敷設等の見直し・移管
650
・ICチップの導入による入退場管理の強化に伴う増
10
・サイバーセキュリティ、空域の警戒監視、海域の警戒監視等(政府機関が本来担う業務として整理)
オペレーション 競技、セレモニー(競技運営、聖火リレー、開閉会式)、選手村、飲食、アンチ・ドーピング活動、医療、宿泊等 1000 1150 +150
・IOCの知見を踏まえたスポーツプレゼンテーションの検討具体化に伴う増
20
・オリンピック・パラリンピックファミリーホテルの客室の仕様・室数の精査
30
・競技運営体制の具体的検討を踏まえた競技運営費の増
20
・選手団向け旅費の単価の精査による減
30
・会場演習を踏まえた会場運営の人員等による増
80
・ドーピング対策(政府機関が本来担う業務として整理)
・倉庫の賃借期間の増加等による増
30
管理・広報   900 600 ▲300    
・職員旅費等の減
30
マーケティング(ロイヤリティ) IOCへのロイヤリティ支払、チケット販売等 900 1250 +350
・スポンサー収入の増加に伴うIOCへ支払うロイヤリティ等の増加
320    
・チケットのシステム開発費の増
10
その他 現時点で予見しがたい支出等 1400 900 ▲500    
・追加種目の具体化による減
300
予備費 1000~3000 1000~3000
計(予備費を除く) 1兆5000 1兆3500 ▲1500
注(1)
東京都の公表資料に基づき会計検査院が作成した。
注(2)
恒久施設には、新国立競技場以外に東京都が新規整備を行う施設を含む。
(イ) V2予算における試算の対象経費

V2予算における試算の主体である大会組織委員会は、対象とする経費の基準について公表していない。大枠の合意の当事者である東京都によると、その基本的な考え方は図表2-4のとおりであり、①専ら大会のために行われる大会に直接必要となる業務に係る経費と②大会にも資するが大会終了後も活用されてレガシーとして残る新規整備に係る経費との両方を大会経費として整理しているとしている。また、本来の行政業務に延長し、上乗せして行う業務及び大会開催の有無にかかわらず行う本来の行政業務に要する経費(以下「行政経費」という。)は試算の対象とはしていないとしている。

図表2-4 V2予算における試算対象とする経費の基本的な考え方

 画像

このことから、会計検査院が会計実地検査により把握した大会施設の整備等の大会の開催に関連して行われることが想定される主要な業務について、V2予算における試算の対象業務と対象外業務の別に示すと図表2-5のとおりであり、V2予算における試算対象は、大会組織委員会が負担して実施する全ての業務、東京都及び国(JSCを含む。)が負担する所有施設の新規整備及びパラリンピック経費等の共同実施事業となっている。

一方、国及び都外自治体が行う所有施設の改修整備や、大枠の合意に基づき国及び都外自治体が担うこととなっている業務の経費は、行政経費であるとして試算の対象となっていない。また、民間団体が所有する施設の改修整備等の民間団体に係る業務は全て試算の対象外となっている。これらのとおり、V2予算は、大会の開催に関連して行われる全ての業務に係る経費を示すものではない。

試算の対象外となっている業務について例を挙げると、大枠の合意に基づき国として担うこととなっているセキュリティ対策(会計検査院が各府省等から提出された調書を基に集計した「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係る大会の関連施策の25年度から29年度までの支出額計185億余円。3024_2_2_2_12(2)ア参照)及びドーピング対策(同「アンチ・ドーピング対策の体制整備」に係る大会の関連施策の25年度から29年度までの支出額計10億余円。3024_2_2_2_52(2)オ参照)、大枠の合意に基づき都外自治体が担うこととなっている輸送業務及びセキュリティ業務に加えて、大会施設の整備については、JSCが行う新国立競技場の通信・セキュリティ関連機器の整備(本事業に係る29年度までの契約金額27億余円。3024_2_1_3_1_5(3)ア(オ)参照)及び国立代々木競技場の改修整備(同80億余円。3024_2_1_3_2_1(3)イ(ア)参照)、JRAが行う馬事公苑の改修整備(同317億余円。3024_2_1_3_2_2(3)イ(イ)参照)、都外自治体等が実施する大会施設の改修整備等がある。また、大会協賛宝くじの収益金を充てて地方自治体が行うこととなっている都外自治体が通常無償提供している行政サービスに係る業務、聖火リレーの実施対象となる地方自治体が行う業務等がある。

そして、試算の対象外となっている業務のうち、大枠の合意において国が担うこととなっているセキュリティ対策及びドーピング対策について29年度までに各府省等が実施した内容をみると、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会を対象とするものとして、大会の適切な運営に向けて、総務省が大会組織委員会職員及び大会組織委員会のシステムに関連する事業者を対象に大会開催時を想定した模擬環境で行うサイバーセキュリティに係る攻撃・防御双方の実践的な演習(サイバーコロッセオ。本事業に係る29年度の支出額5743万余円)がある。本事業は、大会の関連施策として整理されているものの、オリパラ関係予算としては整理されていない。

国が29年度末時点で大会に関連して行う業務に要する経費の規模を公表しているのは、第1の2(2)エのとおり、所定の要件を満たすとして各府省等が整理し、オリパラ事務局へ回答したオリパラ関係予算のみであり、オリパラ関係予算として整理されていないが、大会組織委員会を対象とするなどの大会との関連性が強いと思料される業務に要する経費の規模は公表していない。また、大会の開催に向けて準備が必要な各分野に係る国等が担うべき具体的な業務の内容については、大会組織委員会を中心とした関係機関の間で検討が進められているところであるが、分野ごとに国がどのような内容の業務を担い、その経費の規模がどの程度かについては、オリパラ関係予算として整理されている業務を含めて、29年度末時点では整理されていない。

今後、関係機関の間での検討が進み、大会の開催に向けた準備が必要な各分野において国が担う必要がある業務の内容が具体化していくこととなる。このため、国は、国が担う必要がある業務について国民に周知し、理解を求めるために、オリパラ基本方針の実施の推進等を所掌するオリパラ推進本部が中心となって、大会組織委員会が公表している大会経費の試算内容において国が負担することとされている業務や、オリパラ事務局がオリパラ関係予算として取りまとめて公表している業務はもとより、その他の行政経費によるものを含めて、大会との関連性に係る区分とその基準を整理した上で大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務については、各府省等から情報を集約して、業務の内容や経費の規模等の全体像を把握して、対外的に示すことが必要である。

図表2-5 大会の開催に関連して行われることが想定される主要な業務及びこれらのうちV2予算における試算の対象業務と対象外の業務(平成29年度末時点)

(単位:億円)
業務の区分 経費の負担者別の想定される業務内容
大会組織委員会 東京都 注(1) 都外自治体 都外自治体及びその他地方自治体 民間団体等
V2予算における試算の対象業務及び試算額
会場関係
恒久施設 所有施設の新規整備新国立競技場の新規整備のうち東京都負担分 2250 新国立競技場の新規整備(東京都負担分除く。) 1200
仮設等(仮設インフラ、オーバーレイ、賃借料等) 国・民間所有施設の仮設整備
オーバーレイ整備
民間施設の賃借料等
パラリンピック経費
950 東京都及び都外自治体所有施設の仮設整備、賃借料等
パラリンピック経費
2100 パラリンピック経費 200
エネルギー 国・民間所有施設の電源設備
電気・ガス使用料
パラリンピック経費
150 東京都・都外自治体所有施設の電源設備
パラリンピック経費
250
テクノロジー 国・民間所有施設の通信インフラ
IT環境(パソコン等)
競技計測
各種情報システム
パラリンピック経費
700 東京都・都外自治体所有施設の通信インフラ
パラリンピック経費
300
大会運営関係
輸送 バス・自動車の借上げ大会関係者の公共交通無料化
パラリンピック経費
250 ◎東京都・都外自治体所有施設周辺の会場
周辺駐車場、車両基地、オリンピック・ルート・ネットワーク等の整備
パラリンピック経費
250 パラリンピック経費 100
セキュリティ 民間ガードマンによる警備
大会施設内の警備資機材
パラリンピック経費
200 ◎東京都・都外自治体所有施設周辺のスクリーニング・映像監視機器、警備指揮所等
パラリンピック経費
750
オペレーション等 選手村、飲食、医療、宿泊、競技、聖火リレー・開閉会式
管理・広報マーケティング(ロイヤリティ)
パラリンピック経費
3750 開閉会式
パラリンピック経費
100
行政経費等としてV2予算における試算の対象外となっている業務
施設の改修整備 所有施設の改修整備 国立代々木競技場の改修整備 <80>
  • ◎通常無償提供している地方自治体の行政サービス
  • ◎各地方自治体が必要と判断する会場施設の改修整備、設備整備
  • ◎県民の機運醸成等、地方自治体として実施する業務
◎聖火リレーに係る業務(機運醸成・警備等)
所有・管理する施設の改修整備
うち馬事公苑の改修整備 <317>
新規整備を行う施設に係る機器整備等 新規整備を行う所有施設の通信・セキュリティ機器整備 新国立競技場の通信・セキュリティ関連機器整備 <27>
新国立競技場に係る移転補償等関係業務 <172>
輸送関係 東京都内の交通マネジメント等 関係機関への情報提供等 -
セキュリティ関係 地方自治体として担う警察、消防等の業務 国として担うセキュリティ対策 (185)
うちサイバーコロッセオ (0.5)
その他 国として担うドーピング対策 (10)
注(1)
V2予算における国の欄にはJSCによる負担を含んでいることから、本図表における国の欄には同様にJSCによる負担を含んでいる。また、民間団体等にはJRAを含んでいる。
注(2)
V2予算における試算の対象外となっている業務のうち、東京都、都外自治体、その他地方自治体及び民間団体の業務の内容は東京都等から聴取した内容を記載している。
注(3)
国の業務及びJRAの業務については、会計実地検査により把握した業務に係る金額を< >書き又は( )書きで記載している。「-」は平成29年度末時点で不明であることを示す。
注(4)
< >書きの金額は平成29年度までの契約金額の計を示す。
注(5)
( )書きの金額は、各府省等から提出された大会の関連施策に係る調書を基に会計検査院が集計した平成25年度から29年度までの支出額の計を示す。
注(6)
新規整備を行う施設に係る機器整備等は、恒久施設の工事と一体的に整備するものを除く。
注(7)
◎を付した業務は大会協賛宝くじによる収益金を財源の一部とする予定の業務を示す。
イ 大会組織委員会の決算等の状況
(ア) 大会組織委員会の決算の状況

大会組織委員会の収入及び支出は均衡することが原則となっており、収入額の範囲内でのみ経費を負担することとなっている。大会組織委員会が公表している正味財産増減計算書に基づき、25年度から29年度までの収入の実績をみると、図表2-6のとおり、経常収益は計1779億余円であり、このうち収入の中心となるスポンサー料等のマーケティング収益が1683億余円となっている。V2予算における大会組織委員会の収入に係る試算額6000億円に占める上記の経常収益の計1779億余円の割合は29.6%となっている。また、経常収益には、JSCが実施するスポーツ振興投票(注14)において発売するスポーツ振興投票券(以下「スポーツ振興くじ」という。)の売上による収益を原資としたスポーツ振興くじ助成(注15)により、組織体制の強化等を目的としてJSCから交付された助成金(以下「くじ助成金」という。)計20億余円が含まれている(大会組織委員会へのくじ助成金の交付実績については3024_2_2_4_1_22(4)ア(イ)参照)。

大会組織委員会によると、国内スポンサーの募集が早期に目標に達するなど、収入は順調に推移しているとのことであるが、第1の2(1)ウのとおり、万が一、大会組織委員会が資金不足に陥って東京都が補塡しきれなかった場合には、最終的に政府が補塡する旨の政府保証書をIOCへ提出していることなどから、大会組織委員会の収入が十分なものとなっているかについては継続して注視していく必要がある。

また、大会組織委員会の25年度から29年度までの支出の実績をみると、図表2-6のとおり、経常費用は計807億余円であり、このうち事業費は663億余円、管理費は143億余円となっている。V2予算における大会組織委員会の支出に係る試算額6000億円に占める上記経常費用の計807億余円の割合は13.4%となっている。30年度以降、仮設・オーバーレイ工事の開始や輸送、セキュリティ、オペレーション等の業務の具体的な内容の確定に伴い、事業費が増加していくことになる。また、30年度以降、大会組織委員会の業務量の増加及び組織規模の拡大に伴う管理費の増加が見込まれる。

これらのほか、大会施設の使用協定に伴う使用料等、30年度以降に多額の費用の発生が見込まれる経費もあることから、支出が見込まれる額が収入が見込まれる額の範囲内となっているかについても継続して注視していく必要がある(大会施設の使用協定に伴う使用料については3024_2_1_3_1_10(3)ア(コ)3024_2_1_3_2_1(3)イ(ア)及び3024_2_1_3_5(3)オ参照)。

(注14)
スポーツ振興投票  スポーツ振興投票の実施等に関する法律(平成10年法律第63号)に基づき、スポーツの振興に寄与することを目的として、サッカーの複数の試合の結果についてあらかじめ発売されたスポーツ振興くじによって投票をさせ、当該投票とこれらの試合の結果との合致の割合が文部科学省令で定める割合に該当したスポーツ振興くじを所有する者に対して、当該割合ごとに一定の金額を払戻金として交付するもの。スポーツ振興投票に関する業務は、独立行政法人日本スポーツ振興センター法(平成14年法律第162号)に基づきJSCが行うこととなっている。
(注15)
スポーツ振興くじ助成  スポーツ振興投票に係る収益をもって、地方公共団体又はスポーツ団体が行うスポーツ振興に係る事業に対する必要な資金の支給を行うもの

図表2-6 大会組織委員会の決算の状況(平成25年度~29年度)

(単位:千円)
年度
科目
一般財団法人(平成26年12月31日まで) 公益財団法人(27年1月1日以降) V2予算における試算額に占める割合
25年度 26年度 26年度 27年度 28年度 29年度
経常収益 403,564 278,121 3,409,897 40,700,680 65,124,773 67,986,009 177,903,047 (29.6%)
受取寄付金
400,000 - - - 5,700,000 475,068 6,575,068
受取受贈益
3,564 - - - - - 3,564
基本財産運用益
- 446 175 1,196 47 3 1,868
受取負担金
- - - - - 884,791 884,791
事業収益
- - 3,297,444 40,124,816 58,752,071 66,163,164 168,337,496
マーケティング収益
- - 3,281,244 40,124,816 58,741,271 66,163,164 168,310,496
その他収益
- - 16,200 - 10,800 - 27,000
受取補助金等
- 277,675 112,223 570,386 671,400 400,000 2,031,685
雑収益
- - 54 4,281 1,254 62,981 68,572
経常費用 166,905 931,884 864,665 11,646,339 27,530,042 39,591,758 80,731,595 (13.4%)
事業費
119,139 738,576 777,798 11,279,162 17,948,008 35,505,774 66,368,460
管理費
47,765 193,307 86,866 367,177 9,582,034 4,085,983 14,363,135
当期経常増減額 236,659 ▲653,762 2,545,232 29,054,341 37,594,731 28,394,250 97,171,452
経常外収益 - - - - - - -
経常外費用 - 2,585 6,613 93,780 18,855 - 121,835 (0.0%)
当期経常外増減額 - ▲2,585 ▲6,613 ▲93,780 ▲18,855 - ▲121,835
当期一般正味財産増減額 236,659 ▲656,348 2,538,619 28,960,560 37,575,875 28,394,250 97,049,617
注(1)
大会組織委員会が公表している正味財産増減計算書を基に会計検査院が作成した。
注(2)
平成28年度の経常収益のうち受取寄付金57億円と、経常費用のうち管理費に含まれる57億円は、東京都から出えんされた基本財産57億円の返還に伴い計上されたものである。
(イ) パラリンピック経費に係る確認状況

パラリンピック経費を含む共同実施事業については、共同実施事業管理委員会において、共同実施事業の実施に係る基本的な方向、経費、コスト管理、執行統制の強化等について確認を行うこととなっている。また、29年度末までに、同委員会の下部組織として、パラリンピック競技大会に係る共同実施事業について協議する共同実施事業管理委員会パラリンピック作業部会及び東京都の負担が含まれる共同実施事業について協議する共同実施事業管理委員会東京都作業部会が設置されており、東京都、国及び大会組織委員会の実務担当者が構成員とされている。

東京パラリンピック競技大会開催準備交付金交付要綱及び共同実施事業管理委員会における公費負担の対象となるパラリンピック経費の基本的な考え方は次のとおりである。

  • ① 経費の内容がパラリンピック競技・選手に深く関わるものであること
  • ② オリンピックとパラリンピックの双方の競技・選手に関わる経費については、経費の内容等を踏まえ適切に案分されたものであること
  • ③ 経費の内容等が公費負担の対象として適切なものであること

上記①から③までの基本的な考え方に基づき、29年度以降の各年度に大会組織委員会がパラリンピック経費として執行した経費について、毎年度、整理・精査の上で、原則として当該年度末に共同実施事業管理委員会が確認することとなっている。

29年度に大会組織委員会が執行したパラリンピック経費は44件の契約に係る計7億3044万余円(うちパラリンピック交付金相当額1億8253万余円)であり、30年3月末に共同実施事業管理委員会(同委員会の下部組織である共同実施事業管理委員会パラリンピック作業部会を含む。以下同じ。)において確認が行われている。

上記のパラリンピック経費の確認体制を示すと図表2-7のとおりであり、パラリンピック経費の確認は、共同実施事業管理委員会において、大会組織委員会がパラリンピック経費として整理した経費の一覧表、契約書、検収書、請求書等を確認するとともに、大会組織委員会から経費の内容について聴取することで、前記①から③までの基本的な考えに沿って適切かどうかを判断して行われ、東京都が最終的に額の確定を行っている。

図表2-7 パラリンピック経費の確認体制(平成29年度執行分)

図表2-7 パラリンピック経費の確認体制(平成29年度執行分) 画像

なお、大会組織委員会が29年度に執行したパラリンピック経費に係る契約計44件についてみると、契約内容をオリンピック競技大会とパラリンピック競技大会それぞれに係る分として区分せず、一体として契約を締結しているものが43件となっている。これは、競技会場の仮設施設やオーバーレイ等、両競技大会に共通して使用するものがほとんどであることによるものである。これらの契約に係るパラリンピック経費の算定方法の例を挙げると図表2-8のとおりであり、パラリンピック経費は、契約1件ごとに契約金額を競技大会ごとの開催日数で案分するなどして算定されている。

そして、共同実施事業管理委員会は、契約1件ごとに前記①から③までの基本的な考え方に沿ってパラリンピック経費の確認を行うこととしている。

図表2-8 パラリンピック経費の算定方法の例(平成29年度執行分)

(単位:千円)
経費項目 事業内容 パラリンピック経費の算定方法 パラリンピック経費の額 うち国の負担分
仮設・オーバーレイ等 新国立競技場の仮設整備・オーバーレイ整備に係る基本設計 契約金額×13/30(全体の開催日数のうちパラリンピック競技大会開催日数) 37,767 9,441
選手村の仮設整備・オーバーレイ整備に係る設計施工 契約金額×13/30(同上)×8,000/18,000(平成29年度時点で想定されている選手村宿泊者数のうちパラリンピック競技大会分) 75,743 18,935
輸送 大会関係者輸送用バスの調達及び運用に係る業務委託 契約金額×11,039/70,390(29年度時点で想定されているパラリンピック競技大会開催時使用台数) 3,769 862
ドーピングコントロール 大会専用ドーピング分析施設に係る運営計画等の策定業務委託 契約金額×1,500/6,500(29年度時点で想定されている検査対象人数のうちパラリンピック競技大会分) 44,360 11,090

30年度以降は、仮設整備及びオーバーレイ整備への着手や、輸送・セキュリティ等の経費の具体化に伴う発注増により様々な種類の契約が多数締結され、東京都に交付されたパラリンピック交付金300億円の大部分が、東京都から大会組織委員会へパラリンピック経費に係る負担金として交付されることが見込まれる。東京都は、パラリンピック経費を含む共同実施事業の全体について、30年度から、大会組織委員会が入札等を実施する前に、経費の内容が必要性、効率性等の観点から妥当か、負担金の交付対象として適切かなどについて、担当部局において大会組織委員会から説明を受けて確認を行うこととしている。

また、パラリンピック経費として前記①から③までの基本的な考え方に沿っているかの確認については、29年度と同様に、年度末に共同実施事業管理委員会において契約1件ごとに経費の一覧表、契約書、検収書、請求書等を確認するとともに、大会組織委員会から経費の内容について聴取して行うこととなる。

したがって、共同実施事業管理委員会の構成員である文部科学省及びオリパラ事務局は、パラリンピック経費の大幅な増加が見込まれる30年度以降、より早期に確認を開始することなどにより、契約件数や、金額等の大幅な増加に適切に対応して、引き続き前記①から③までの基本的な考え方に沿って的確な確認を行うことが必要である。

(3) 大会施設の整備状況

ア 新国立競技場の整備状況
(ア) 整備の経緯

新国立競技場は、大会の開会式、閉会式及び陸上競技並びにオリンピック競技大会のサッカーが行われるメインスタジアムとして整備が進められており、施設の所有及び管理はJSCが行っている。昭和39年10月に開催された第18回オリンピック競技大会(以下「昭和39年東京大会」という。)の開催時には、国立霞ヶ丘競技場陸上競技場(以下「旧競技場」という。)がメインスタジアムとして使用されたが、経年劣化が著しく国際大会を開催するのに支障が生じていたことなどから、政府において建替えの検討が進められ、旧競技場を取り壊して、新国立競技場の新規整備を行うこととなった。

新国立競技場の整備は、当初、平成24年7月から同年11月までJSCが開催した新国立競技場基本構想国際デザイン競技の最優秀者のデザインに基づく設計により行うこととされていた(以下、同デザインに基づく整備計画を「旧整備計画」という。)。しかし、25年7月に旧整備計画に基づく工事費の試算額が3000億円超となることが判明したことから、文部科学省、JSC等において建築規模や工事費の縮減の検討を進めたものの、27年7月に内閣総理大臣から旧整備計画の白紙化とゼロベースでの見直しが指示された。

そして、同月にオリパラ担当大臣を議長とする新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議が設置されて、同年8月に新国立競技場の整備計画(以下「新整備計画」という。)が決定された。

新整備計画によれば、図表3-1のとおり、工期は32年4月末まで、工事費はスタジアム本体工事、東京都都市計画等に基づく周辺整備工事、設計・監理等の費用を合わせて1590億円以下として、観客席は6万8000席程度とすることなどとされており、整備期間を極力圧縮するために、JSCは設計・施工を一貫して行う公募型プロポーザル方式(設計交渉・施工タイプ)(注16)により公募を行うこととされている。

図表3-1 新整備計画の概要

基本理念 アスリート第一、世界最高のユニバーサルデザイン、周辺環境等との調和や日本らしさ
性能 競技施設 陸上競技、サッカー及び開閉会式の実施に必要な機能を整備する。
観客席 大会時6万8000席程度を確保する。大会後トラック上部への増設を可能とし、国際サッカー連盟ワールドカップ規定(8万席)にも対応し得るものとする。
屋根 観客席の上部のみ設置する。
諸施設 メディア施設及び防災警備施設を整備する。ホスピタリティー機能及び管理施設・駐車場機能については、大会に必要な機能を確保する。
面積(フィールド含む。) 約19万4500m2を目途とする。
工期 平成32年4月末を期限とし、同年1月末を工期短縮の目標とする。JSCは整備期間を極力圧縮するために、設計・施工を一貫して行う公募型プロポーザル方式(設計交渉・施工タイプ)による公募を行う。
コストの上限 スタジアム本体及び周辺整備に係る工事費の合計額は1550億円以下とする。なお賃金又は物価等の変動が生じた場合の工事請負代金額の取扱いについては、公共工事標準請負契約約款第25条に準ずるものとする。
当該工事に係る設計・監理等の費用は40億円以下とする。

そして、27年12月に、技術提案に係る審議に関して専門的かつ公正な調査審議を行うために設置された技術提案等審査委員会において、新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体(以下「JV」という。)の技術提案(事業費1529億8578万円(建設費1489億9993万余円、設計・監理等費39億8584万余円)、31年11月末完成・引渡し)が選定されたことを踏まえて、JSCは、JVを優先交渉権者として決定した。その後、JSCは、新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議における点検を経て、28年1月に設計業務(基本設計及び実施設計)及び工事施工等業務(施工技術検討)の各業務(以下「第I期業務」という。)について、JVと契約金額24億9127万余円で契約を締結している。また、設計業務(設計意図伝達)、工事施工等業務(工事施工)及び工事監理業務の各業務(以下「第II期業務」という。)については、JVと価格等の交渉を行い、28年10月に契約金額1504億9449万円で契約を締結している。

(注16)
公募型プロポーザル方式(設計交渉・施工タイプ)  発注者が最適な仕様を設定できない工事又は仕様の前提となる条件の確定が困難な工事において、技術提案に基づき選定された優先交渉権者と設計業務の契約を締結し、設計の過程で価格等の交渉を行い、交渉が成立した場合に施工の契約を締結する方式
(イ) 29年度までの整備の進捗状況

JSCが行う新整備計画に基づく整備の進捗状況は、新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議等により定期的に点検を受けている。第II期業務の29年度までの整備の進捗状況及び30年度以降の整備予定は図表3-2のとおりであり、JSCによれば、31年11月末の完成に向けて、工期に支障なく進捗しているとされており、29年度中に地上躯(く)体工事を完了し、屋根工事、内装仕上工事等を開始している。

図表3-2 平成29年度までの整備の進捗状況及び30年度以降の整備予定

図表3-2 平成29年度までの整備の進捗状況及び30年度以降の整備予定 画像

(ウ) 整備に係る経費の全体像及び執行状況

JSCが行う新国立競技場の整備に係る経費には、新整備計画において対象となっているスタジアム本体及び周辺整備費と設計・監理等費用に加えて、旧競技場の解体工事費、埋蔵文化財調査費、計画用地内に所在する日本青年館・JSC本部棟移転経費、通信・セキュリティ関連機器や什(じゅう)器等の費用、旧整備計画関係費等がある。JSCにおけるこれらの経費の執行状況を示すと図表3-3のとおりであり、25年度から29年度までの支払額は計738億余円となっている。

JSCは、第I期業務について、28年度までにJVへ契約金額と同額の24億余円を支払っている。また、第II期業務については、29年度までに345億余円を支払っている。

第I期業務及び第II期業務以外には、旧競技場の解体工事の大部分が完了し、29年度までに81億余円を支払っている。また、日本青年館・JSC本部棟移転経費の29年度までの支払額は171億余円であり、内訳は、26、27両年度に一般財団法人日本青年館等の補償先へ計107億余円の移転補償費を支払っているほか、JSCの本部棟となる予定であって一般財団法人日本青年館の移転先でもある施設について、JSCが27年7月から新営工事(29年7月しゅん工)を行っており、当該工事に係るJSCの負担額47億余円等となっている(通信・セキュリティ関連機器、什器等の費用については(オ)、旧整備計画関係費については(カ)参照)。

図表3-3 JSCにおける新国立競技場の整備に伴う経費の執行状況(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
費目 契約金額 29年度までの支払額
平成24年度以前 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
① スタジアム本体及び周辺整備費、設計・監理等費用
4,545 150,569 0 155,115 39,170
  うち第I期業務 2,491 2,491 2,491
うち第II期業務 150,494 150,494 34,549
② 解体工事費
0 5,427 804 1,930 15 8,178 8,133
(①及び②のうち上下水道工事費) 982 2,323 974 15 4,294 4,265
③ 埋蔵文化財調査費
212 789 153 104 1,259 1,204
④ 日本青年館・JSC本部棟移転経費
1,440 10,313 5,456 63 ▲51 17,222 17,100
⑤ 通信・セキュリティ関連機器、什器等整備費
101 2,727 2,828 93
⑥ 旧整備計画関係費
12 1,587 4,194 6,518 12,313 6,859
⑦ その他関係経費
1,335 ▲98 600 1,034 447 232 3,551 1,302
1,348 3,142 21,325 18,512 153,216 2,923 200,469 73,865
注(1)
本図表は、JSCが平成25年度から29年度までに特定業務勘定(b01リンク参照)で行った支払に係る契約のうち、新整備計画に基づく各費目に該当する契約の契約金額及び支払額の集計である。その他関係経費は、①から⑥までに該当しない契約に係る金額を全て集計している。ただし、本図表の契約金額及び支払額には、工事契約については契約金額50万円未満、その他の契約については契約金額100万円未満の契約に係る金額は含んでいない。また、人件費、通信運搬費等の事務経費は含んでいない。
注(2)
旧整備計画関係費及びその他関係経費の一部は、平成25年度以降に支払っているが、24年度以前に契約を行っているものがある。
注(3)
複数年度契約のうち変更契約により契約金額が変更となったものについては、増減した契約金額を変更契約を締結した年度に記載している。このため、契約金額の欄には、マイナス(▲)と表記しているものがある。
(エ) 事業費に係る確認状況

新整備計画によると、(ア)のとおり、整備コストはスタジアム本体及び周辺整備に係る工事費、設計・監理等の費用を合わせて1590億円を上限とすることとなっている。これを踏まえて、第I期業務契約及び第II期業務契約の契約書の一部である業務要求水準書では、事業期間中において、要求水準又は設計図書の変更に伴い事業費の増加のおそれがある場合は、受注者はコスト縮減の方法を検討し、必要となる要求水準又は設計図書の変更の調整についてJSCと協議することにより、提案した事業費を遵守することとなっており、受注者であるJVは、提案した建設費1489億9993万余円(全て第II期業務)及び設計・監理等費39億8584万余円(うち第I期業務24億9127万余円、第II期業務14億9456万余円)を遵守することが求められている。

第II期業務における事業費の確認体制を示すと図表3-4のとおりであり、JVは施工時の検討等に伴い設計内容に変更が生ずる場合には、事業費を遵守するために、変更による金額の増減に合わせ他の変更可能な内容を検討し、JSCはJVから変更理由、変更概算額等について説明を受けて、要求水準等に影響がないこと及び適切に事業費が遵守されていることの確認を日々事業者と行う定例会議において行うとともに、必要に応じて外部有識者で構成するアドバイザリー会議に報告して確認を受けることとなっている。また、変更内容を契約に適切に反映するために、定期的に変更契約を締結している。

図表3-4 JSCにおける事業費の確認体制(第II期業務)

図表3-4 JSCにおける事業費の確認体制(第Ⅱ期業務) 画像

30年2月に締結された第II期業務の変更契約を例に事業費を遵守するための変更内容を示すと図表3-5のとおりであり、JVによる施工段階の検討等により施工内容が増える一方で、要求水準や安全性等に問題がない施工内容を減らすことで、契約金額の変更がないように調整を図っている。

図表3-5 事業費を遵守するための変更内容の例(平成30年2月第II期業務変更契約)

施工内容の増 施工内容の減
屋根部メンテナンスゴンドラについて衝突防止装置、非常用昇降装置の設置・追加等
(安全性の確保のためJVから提案)
地下2階の現し梁の塗装仕上げの中止
(色の問題だけで耐火性に問題なし)
案内・誘導等のサインの数量増
(高齢者、障害者団体、子育てグループ等で構成するユニバーサルデザインワークショップを開催し、その意見を踏まえてJVから提案)
地下2階の車両進入防止柵の中止
(設置予定のシャッターにより機能の代替が可能)
歩道に存する東京電力地上機器の移設
(設計時には東京電力との調整が完了していなかったもの)
各階コンコース等の塗装は不燃とする必要があるため、不燃仕様かつより安価な塗装に変更
(行政の指摘を踏まえた変更)

29年度までは契約金額の増はないものの、30年度以降、大幅な仕様変更もあり得ることから、JSCは、引き続きJVと協議して、適切な確認を行うことが必要である。

なお、新国立競技場の敷地南西部のペデストリアンデッキは、JVの技術提案により形状が見直されたが、この形状変更に伴いデッキの整備を行わないこととなったエリアの地上部について、大会組織委員会からブロードキャストコンパウンド(放送用大型中継車及び仮設諸室等のスペース)として大会開催時に使用するために、平坦な状態に整備するよう要望があり、この要望を受けて31年11月のしゅん工時には平坦な状態に整備して、大会終了後に同スペースを公園として整備する二段階整備の方針が29年11月の新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議で了承された。この変更内容に係る契約金額の増減についてはJSCで検討中であり、30年度以降に変更契約を行う予定である。

(オ) 通信・セキュリティ関連機器、什器等の整備状況

JSCは、新国立競技場の整備のうち、Wi-Fi設備、監視カメラ、入場ゲート等の通信・セキュリティ関連機器や什器等の整備を行うこととしている。

JSCは、28年6月に有識者で構成する「新国立競技場のシステム等関連整備に関する検討委員会」を設置し、必要となる機器等の仕様や規模等について検討を開始した。そして、通信・セキュリティ関連機器については、事業者から資料等の提出を求めなければ適切な仕様等を決定することが困難な案件について、29年7月から8月までにかけて、「政府調達手続に関する運用指針」(平成26年3月関係省庁申合せ)に基づき、仕様書の案等の資料を提示して事業者へ資料の提供を求める資料提供招請を行い、図表3-6のとおり、11の調達区分ごとに仕様を決定して、29年度末から調達を開始している。そして、調達手続が完了したものから、30年度以降に設計、設置等を実施して、31年11月末に予定している新国立競技場のしゅん工までに整備を行うことを目途としている。このうち、通信・セキュリティ関連機器に係る29年度までの契約金額は計27億2715万余円となっている(29年度までの支払はない。)。また、什器・備品の調達については、30年度以降に手続を開始することとなっている。

図表3-6 通信・セキュリティ関連機器、什器等の調達状況(平成28、29両年度)

(単位:千円)
調達の内容 平成29年度までの状況及び今後の予定 29年度までの契約金額 29年度までの支払額
発注者支援業務 29年3月契約締結 101,304 93,781
通信・セキュリティ関連機器
ネットワーク基盤関連設備 競技場ネットワーク、Wi-Fi、システム等保護用機器、システムセキュリティ対策機器 30年3月契約締結
(政府調達)
2,062,800
映像・音響関連設備 デジタルサイネージ 30年度に調達予定
館内共聴機器 30年度に調達予定
諸室用映像・音響機器 30年度に調達予定
リボンボード 30年3月契約締結
(政府調達)
419,624
セキュリティ関連設備 監視カメラ 30年度に調達予定
防犯・入退室管理機器 30年度に調達予定
入場ゲート 30年3月契約締結
(政府調達)
244,728
駐車場用ゲート 30年度に調達予定
その他 雷検知システム 30年度以降調達予定
案内等表示用コンテンツ 30年度以降調達予定
小計 2,727,152
什器・備品 30年度以降調達予定
2,828,456 93,781
(カ) 旧整備計画に係る支払等の状況

(ア)のとおり、27年7月に、内閣総理大臣から旧整備計画の白紙化とゼロベースでの見直しが指示されたことから、JSCは、25年以降締結した旧整備計画の設計、工事、監理等に係る21契約のうち、白紙化以前に履行を完了していた13契約を除く8契約について、白紙化後すぐに契約相手方に業務の中止を伝達するとともに、通告を行って契約を解除した。そして、契約に向けて交渉を行っていた相手方から、契約不成立により契約準備段階において発生した見積費用等の損害等に係る請求が3件行われている。

旧整備計画に係る25年度から28年度までの支払の内容は図表3-7のとおりであり、白紙化以前に履行が完了していた13契約に係る支払額が29億3988万余円、契約を解除した8契約に係る精算に伴う支払額が34億9416万余円、契約不成立による契約準備段階の損害に係る請求3件の支払額が4億2526万余円の計68億5930万余円となっている。また、これらのうち運営費交付金を財源とするものが13億8735万余円、政府出資金を財源とするものが17億0248万円となっている。JSCは、契約を解除した8契約及び契約不成立による契約準備段階の損害に係る請求3件に係る支払額について、契約相手方等から履行内容が分かる書類の提出を求めて、弁護士を含めて検討するなどして支払の妥当性を確認した上で、28年度までに支払っている。

図表3-7 旧整備計画に係る支払の内容(平成25年度~28年度)

(単位:千円)
件数 契約金額 支払額 支払額のうち国費による負担額 主な内容
運営費交付金 政府出資金
旧整備計画に係る契約 21 12,313,080 6,434,047  
  白紙化以前に履行が完了していたもの 13 2,939,881 2,939,881 実施設計に関するデザイン監修業務、基本設計その他業務等
契約を解除したもの 8 9,373,198 3,494,166 実施設計業務、新営工事(スタンド工区)技術協力業務等
契約不成立による契約準備段階の損害に係る請求 3 425,260 新営工事基本協定に基づく契約締結のための積算業務等
12,313,080 6,859,308 1,387,353 1,702,480  

旧整備計画の白紙化に至った経緯の検証は、文部科学省が設置した有識者で構成される新国立競技場整備計画経緯検証委員会により行われた。同委員会が27年9月に取りまとめた検証報告書によると、主な要因として、意思決定の硬直性を招いたこと、大規模かつ複雑なプロジェクトであったにもかかわらず、既存の組織・既存のスタッフで対応してしまったこと、情報発信による透明性の向上や国家的プロジェクトに対する国民理解の醸成が図られなかったことなどが挙げられている。

新整備計画では、内閣全体で責任を持って整備を進めることを明記して、新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議においてJSCによる整備プロセスを点検し、着実な実行を確保するとともに、整備プロセスの透明化を図る観点から、JSCは整備の進捗状況を上記の関係閣僚会議に報告するとともに、定期的に公表することとなっており、建築等の専門的知識や資格を有する専門人材の充実による体制整備や、新国立競技場の整備に係る各種情報のホームページ等による公表の迅速化等を図っている。

(キ) 整備費用に係る分担決定の状況

新国立競技場は、JSCが所有して管理し、国の責任で整備する一方、都民のスポーツ拠点、防災拠点等としての機能も備えることになるため、その整備には東京都にも相応の受益がある。このため、27年9月から11月にかけて新国立競技場の整備に関する国・東京都の財源検討ワーキング・チームにおいて検討が進められ、同年12月に新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議において財政負担の内容を決定している(以下、この決定に基づく財源、分担対象経費、分担割合等の内容を「財源スキーム」という。)。

財源スキームに基づく国、東京都等の分担内容は図表3-8のとおりであり、スタジアム本体・周辺整備に係る工事及び設計・監理等に要する見込額計1590億円と旧競技場の解体工事に係る支出額又は支出見込みの額計55億円の合計1645億円から、JSCが実施して負担する上下水道工事に要する見込額27億円及びJSCが実施し東京都へ引き渡して東京都が負担する道路上空連結デッキ整備に要する見込額37億円を除く1581億円を分担対象経費として、国はその2分の1相当額である791億円を負担し、東京都は4分の1相当額である395億円を負担して、残りの395億円については、JSCが実施するスポーツ振興投票において発売するスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てることとなっている。

なお、V2予算において、国の負担と試算されている新国立競技場の整備に係る経費1200億円は、東京都によると、分担対象経費のうち国が負担する791億円、スポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てる395億円及びJSCが実施して負担する上下水道工事に要する見込額27億円の計1213億円を概数として整理したものとしている。また、分担対象経費のうち東京都が負担する395億円及び道路上空連結デッキ整備に要する見込額37億円の計432億円は、V2予算において東京都が負担する恒久施設に係る経費とされている2250億円に含まれているとしている(図表2-5参照)。

図表3-8 財源スキームに基づく国及び東京都の分担内容

図表3-8 財源スキームに基づく国及び東京都の分担内容 画像

新国立競技場の整備費用にスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てる制度は、独立行政法人日本スポーツ振興センター法(平成14年法律第162号。以下「JSC法」という。)等の改正により25年度に設けられており、図表3-9のとおり、スポーツ振興くじの売上金額の5%(28年度から35年度までは10%)を超えない範囲内で文部科学大臣が財務大臣と協議して定める金額(以下「特定金額」という。)を国際的な規模のスポーツの競技会の我が国への招致又はその開催が円滑になされるようにするために行うスポーツ施設の整備等であって緊急に行う必要があるものとして文部科学大臣が財務大臣と協議して定める業務(以下「特定業務」という。)に必要な費用に充てることとなっている。そして特定金額は、スポーツ振興くじの売上金額の5%(28年度から35年度までは10%)となっており、特定業務は、新国立競技場の整備等に必要な業務等となっている。また、特定業務に係る経理については、特別の勘定(以下「特定業務勘定」という。)を設けて整理することとなっている。

そして、特定金額を特定業務の財源として充てることに伴い、JSC法等に定める毎事業年度のJSCの国庫納付金(スポーツ振興投票の収益の3分の1に相当する金額。ただし、28年度から35年度までは4分の1に相当する金額)が減少することとなる。

図表3-9 新国立競技場の整備費用にスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てる制度の概要

図表3-9 新国立競技場の整備費用にスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てる制度の概要 画像

財源スキームに基づく国の負担額791億円のうち、234億円は26年度までに文部科学省からJSCへ交付されて、特定業務勘定で受け入れた運営費交付金及び政府出資金計392億余円のうち27年度末時点で確保が見込まれるとされたものであり、125億円は平成28年度一般会計補正予算で文部科学省からJSCへ交付されて、特定業務勘定で受け入れた政府出資金である。そして、これらを除いた432億円は、図表3-9のとおり、特定金額としてスポーツ振興くじの売上金額の一部を特定業務の財源に充てることに伴い、スポーツ振興投票の収益が減少し、毎事業年度の国庫納付金の額が減少することから、国庫納付金の額の減少額の見合いとして国の負担額に含めて整理して、実際には特定金額を財源として充てることとなっている。このため、分担対象経費に係る負担者の財源別の分担内容を示すと図表3-10のとおりであり、東京都による負担額は395億円(分担対象経費1581億円の25.0%)、文部科学省がJSCへ交付する運営費交付金及び政府出資金による負担額は359億円(同22.7%)となっている。一方、JSCの特定金額による負担は827億円(同52.3%)となっており、財源スキーム上の分担対象経費の半分以上は特定金額による負担に依存する形となっている。

図表3-10 分担対象経費に係る財源別の分担内容

図表3-10 分担対象経費に係る財源別の分担内容 画像

財源スキームに基づき、29年度までの契約金額、支払額及び負担者別の負担状況を示すと図表3-11のとおり、全体の1645億円に対して契約金額は計1632億余円、支払額は計473億余円となっている。分担対象の業務の大部分を占めるのは第I期業務及び第II期業務であり、これらについてはJSCにおいて29年度までに契約を締結しており、今後、契約変更等に伴う契約金額の増減により、実際の全体額及び分担対象経費の額が変動することとなる。また、全体の支払額に対する運営費交付金及び政府出資金の負担額は29年度末時点で331億余円(473億余円の69.9%)となっている。

東京都は、29年度末時点で財源スキーム上の分担対象外の経費であり、JSCが整備して東京都へ引き渡すこととなっている道路上空連結デッキの整備に要する見込額37億円については、JSCと締結した協定書に基づきその一部である5100万余円をJSCへ支払っている。一方、分担対象経費に係る東京都の負担見込額395億円については、29年度末時点で協定書等は締結されておらず、東京都からの支払も行われていない。JSC法によれば、費用の額及び負担の方法はJSCと東京都が協議して定めることとされており、また、支払等の期限は定められていない。JSC及び東京都によると、今後JSC法に基づいて協議を進めて支払うこととしているが、29年度末時点でJSCへの入金時期や入金方法等は未定となっている。このため、東京都によるJSCへの支払が行われるまでは、分担対象経費に係る東京都の負担分についてもJSCが特定金額等の他の財源によりJVへ支払い、負担することとなる。

図表3-11 財源スキームに基づく平成29年度までの契約金額、支払額及び負担者別の負担状況

財源スキームにおける見込額 平成29年度までの契約金額 29年度までの支払額 支払額の負担内訳
JSCの負担額 東京都の負担額
運営費交付金及び政府出資金を財源 特定金額を財源
(億円) (百万円) (百万円) (百万円) (百万円) (百万円)
工事(スタジアム本体・周辺整備)及び設計・監理等 1590 155,115 39,170 28,630 10,487 51
解体工事 55 8,178 8,133 4,469 3,664 -
1645 163,293 47,304 33,100 14,152 51
(うち分担対象) 1581 158,999 43,038 32,978 10,008 -
(うち分担対象外) 道路上空連結デッキ整備 37 51
上下水道工事 27 4,294 4,265 121 4,144 -
注(1)
道路上空連結デッキ整備の実際の契約は第I期業務及び第II期業務契約の一部であり、平成29年度末時点では分担対象経費との区分ができないため、契約金額及び支払額は一体として整理している。なお、支払額の負担内訳のうち東京都の負担額は、29年度末時点での実績額である。
注(2)
本図表の契約金額及び支払額には、工事契約については契約金額50万円未満、その他の契約については契約金額100万円未満の契約に係る金額は含んでいない。
(ク) 文部科学省及びJSCによる財源確保の状況

25年度から29年度までのJSCの特定業務勘定の決算の状況を示すと図表3-12のとおりであり、収入をみると計1174億余円となっていて、このうち運営費交付金の221億余円及び政府出資金の295億余円の計517億余円が文部科学省から交付されたものとなっている。(キ)のとおり、財源スキームにより国の負担分とされている359億円のうち234億円は、26年度までに文部科学省からJSCへ交付されて、特定業務勘定に受け入れた運営費交付金及び政府出資金のうち27年度末に確保が見込まれるとされた額であるが、この額には新整備計画に基づく工事のうち旧競技場の解体工事等について27年度までに執行した額を含むため、27年度末時点での運営費交付金及び政府出資金の残高は計178億余円となっている。

特定金額については、毎年度、スポーツ振興投票等業務に係る経理を区分して設けられた特別の勘定(以下「投票勘定」という。)から特定業務勘定へ受け入れて、翌事業年度以後の事業年度における特定業務の財源に充てるために、特定業務特別準備金として整理することとされている。特定金額は、(キ)のとおり、28年度から35年度まではスポーツ振興くじの売上金額の5%から10%に増額されていることから、28年度は111億余円、29年度は108億余円となっている。

支出をみると、新国立競技場の整備等に係る25年度から29年度までの支出額は計1174億余円(うち運営費交付金205億余円、政府出資金295億余円)となっている。また、28年度に特定業務とする業務内容が追加され、29年度に特定業務勘定から国立代々木競技場の耐震改修等工事に必要な費用として7296万余円、ナショナルトレーニングセンター(以下「NTC」という。)の拡充整備のための用地取得等に係る費用として46億余円が支出されている。JSCは、29年度中に支払のための資金が不足したことから、独立行政法人日本スポーツ振興センター会計規則(平成15年度規則第13号)に基づき、投票勘定から特定業務勘定へ短期貸付けとして50億1000万円の資金を融通しており、29年度の決算に当たり投票勘定へ返済するために民間金融機関から同額の融資を受けている。なお、当該民間金融機関からの融資については30年4月に返済して、再度、同月に投票勘定から資金を融通している。JSCによると、今後も継続して投票勘定から資金の融通を受ける予定であるとしている。

(キ)のとおり財源スキーム上の分担対象経費の半分以上は特定金額による負担に依存する形となっている。JSCによると、スポーツ振興くじの売上金額は、25年度以降、毎年度1000億円超となっており、30年度以降も効果的・効率的な広告宣伝や、新商品開発等により安定的な売上金額を確保するとしているが、JSCは、引き続き、特定業務に係る整備費用の財源を安定的に確保していく必要がある。

図表3-12 特定業務勘定の決算の状況(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
収入 特定金額 5,402 5,539 5,420 11,179 10,802 38,345
運営費交付金 22,142 - - - - 22,142
政府等出資金 - 17,063 - 12,500 - 29,563
特定業務特別準備金戻入 - 958 3,795 4,541 12,092 21,388
利息収入 - 30 39 8 4 82
長期借入金等 - - - - 5,010 5,010
都道府県整備費負担金 - - - - 51 51
その他収入 - 0 328 239 273 840
27,545 23,592 9,584 28,469 28,233 117,424
支出 政府等出資金施設費 - 1,702 747 4,318 22,795 29,563
新国立競技場整備事業費 1,188 6,940 16,551 7,284 12,872 44,837
(うち運営費交付金) 1,188 5,656 12,091 850 749 20,536
小計 1,188 8,643 17,298 11,602 35,668 74,401
国立代々木競技場耐震改修等工事費 - - - - 72 72
ナショナルトレーニングセンター拡充整備のための用地取得等事業費 - - - - 4,668 4,668
特定業務特別準備金繰入 5,402 5,539 5,420 11,179 10,802 38,345
事業外支出 - - - - 0 0
6,591 14,182 22,719 22,782 51,213 117,489
各年度末時点の運営費交付金の残高 20,954 15,297 3,205 2,355 1,606
各年度末時点の政府出資金の残高 - 15,361 14,613 22,795 -
運営費交付金及び政府出資金の残高の計 20,954 30,658 17,819 25,151 1,606
各年度末時点の特定業務特別準備金の残高 5,402 9,983 11,609 18,247 16,957
注(1)
JSCの決算書類を基に会計検査院が作成した。
注(2)
新国立競技場整備事業費は、政府出資金以外を原資としたスタジアム本体・周辺整備費、設計・監理等費用、解体工事費、日本青年館・JSC本部棟移転経費、通信・セキュリティ関連機器、什器等費用、旧整備計画関係経費のうち実施設計関係費以外の経費その他関係経費である。
注(3)
政府等出資金施設費は、政府出資金を原資としたスタジアム本体・周辺整備費、設計・監理等費用及び旧整備計画関係経費のうち実施設計関係費である。

また、JSCによると、特定業務勘定の30年度以降の収支の見通しは図表3-13のとおりであり、32年度までの毎年度、特定金額として110億円程度の収入があり、かつ、新国立競技場がしゅん工する31年度に東京都から分担対象経費の負担額と道路上空連結デッキの整備費用の残額の計431億余円が支払われると仮定した場合でも、第II期業務、通信・セキュリティ関連機器整備、国立代々木競技場の耐震改修等工事等に係る契約相手方への支払のために、30、31両年度で資金が794億円程度不足することが見込まれている。JSCは、更なる他の勘定からの資金の融通は難しいことから、文部科学大臣の認可を得て30年4月に311億円を民間金融機関から長期借入金として借り入れており、また、480億円程度を30、31両年度で借り入れる予定としている。既に借り入れていた311億円については35年度までに返済することとしているが、今後借り入れる予定の借入金については、特定金額が36年度以降はスポーツ振興くじの売上金額の5%に戻ることもあり、その返済期間は長期にわたることが見込まれる。

図表3-13 特定業務勘定の平成30年度以降の収支の見通し(29年度末現在)

(単位:億円)
平成
30年度
31年度 32年度 33年度 34年度 35年度 30~35年度の計
借入れを見込まない収支
収入(支払財源) 特定金額 110 110 110 110 110 110 660
東京都からの支払 分担対象経費 - 395 - - - - 395
道路上空連結デッキの整備費用 - 36 - - - - 36
110 541 110 110 110 110 1091
支出 新国立競技場整備(第II期業務、通信・セキュリティ関連機器整備等)、国立代々木競技場耐震改修等整備等 774 672 1 2 - - 1449
収支 ▲664 ▲130 109 108 110 110 ▲357
30、31両年度に不足する額 794億円
既借入金
既に借り入れた額 311 - - - - - 311
借入れに伴う支出 借入金の返済 - - 90 90 90 41 311
借入手数料 1 0 0 0 0 - 1
支払利息 0 0 0 0 0 0 3
2 0 90 90 90 41 315
既借入金を見込んだ収支 ▲355 ▲131 18 17 19 68 ▲362
30、31両年度に追加で借入れが必要な額 480億円程度
(注)
JSCが作成した資金計画を基に会計検査院が整理した。

この収支の見通しは29年度末現在のものであり、財源について想定どおり特定金額として毎年度110億円程度の収入があるかは不明である。また、東京都からの支払が想定どおり31年度中に行われるかは、(キ)のとおり、29年度末時点では決定していない。支出についても、図表3-13には含まれていない経費として、少なくとも31年度にしゅん工する予定のNTCの拡充整備について、特定業務とされている外構整備等に係る支出が見込まれている。

上記のことから、JSCは、確実な支払財源を確保するなどのために、財源スキームに基づく東京都の負担見込額395億円について、東京都と協議を進めて、速やかに特定業務勘定への入金時期等を明確にする必要がある。

(ケ) 旧競技場関係資料等の整備状況

新整備計画によれば、JSCが所蔵する秩父宮雍仁親王殿下の御遺品(以下「御遺品」という。)92点及び昭和39年東京大会時の壁画・記念作品等25点の作品について、JSCは最終的な保存場所を早急に検討し、決定することとされている。

JSCは、壁画13点、彫刻・銘盤・記念碑11点及び炬(きょ)火台について、28年2月に有識者で構成する「国立競技場記念作品等設置等アドバイザリー会議」を設置して検討を開始して、29年11月に最終保存場所を決定している。JSCは、28年度に壁画13点のうち2点の取付工事に係る設計業務(契約金額1036万余円)を実施しており、壁画及び彫刻・銘盤・記念碑について、30年度以降、順次取付工事を実施する予定である。炬火台については、大会終了後の最終保存場所のみが決定している状況となっている。

御遺品92点の保存については、第I期業務契約及び第II期業務契約において新国立競技場内に収蔵・展示場所を設けることとされ、整備が進められている。なお、新整備計画においては、スポーツ博物館等のスポーツ振興を目的とした施設は設置しないこととされ、JSCは旧競技場内に所在していた秩父宮記念スポーツ博物館・図書館で所蔵していた資料・図書約22万点のうち、御遺品92点以外の収蔵・展示場所の整備は行っていない。JSCは、31年度末までの賃貸借契約(契約金額3億2590万余円。29年度までの支払額計2億1727万余円)を26年2月に締結し、倉庫を借り上げて上記の資料・図書約22万点を管理している状況である。JSCによると、32年度以降は、御遺品92点以外の資料・図書について現存する資料を整理して、スリム化して継続して管理していくとしている。ただし、収蔵・展示場所やその整備のために必要となる財源は今後の検討課題とされており、29年度末時点では決定していない。

(コ) 大会開催時の使用に係る大会組織委員会との協議状況

新国立競技場の大会開催時の使用に係るJSCと大会組織委員会との具体的な協議については、29年度末時点で継続中であり、30年度以降に引き続き使用条件等を協議して、会場使用協定を締結することとしている。なお、立候補ファイルの提出に当たって、JSCは、大会開催時及び大会前に大会組織委員会が試験的に運用を行うイベント(以下「テストイベント」という。)の際、無償又はIOCが承認した使用料で使用させることを保証する旨の保証書をIOCへ提出している。

(サ) 大会終了後の運営管理、活用方法等の検討状況

新整備計画によれば、大会終了後は新国立競技場を核として周辺地域の整備と調和のとれた民間事業への移行を図ること、政府においてビジネスプランの公募に向けた検討を早急に開始することとされており、これに基づき、29年11月に文部科学省に設置された文部科学副大臣を座長とした大会後の運営管理に関する検討ワーキングチームにより、「大会後の運営管理に関する基本的考え方」(以下「基本的考え方」という。)が策定されている。その主な内容を示すと図表3-14のとおりであり、大会終了後に国際サッカー連盟ワールドカップ規定(8万席)並びにワールドラグビー競技規則に対応し得る臨場感ある球技専用スタジアムに改修すること、民間事業者のノウハウと創意工夫を活用してボックス席の設置等のホスピタリティ機能を充実する改修を行うことを運営管理の方向性として、31年年央を目途にコンセッション事業(公共施設等運営事業)(注17)等の民間事業化の事業スキームを構築して、公募を経て32年秋頃を目途に優先交渉権者を選定すること、大会終了後に改修を行い、34年後半以降の供用開始を目指すことなどとなっている。

JSCは、基本的考え方に基づき、29年度中に民間事業化の価値向上を図るための改修計画案の検討や財務シミュレーション、民間意向調査等を開始しており、今後、JSCの調査結果を基に、文部科学省が上記のワーキングチームにおいて事業スキームを検討し、構築することとなっている。

29年度末時点ではJSCと文部科学省が改修内容について使用が見込まれる競技団体等の関係機関に意見の聴取を行っているものの、その財源や期間及び必要となる業務の規模の方向性については定まっていない。民間意向調査において民間事業者から収益事業の具体的な提案を得るためには、民間事業化の具体的な条件案に加えて、改修に係る方向性を示すことが必要であることから、JSCは、基本的考え方で示されている31年年央を目途とした事業スキームの構築に向けて、速やかに改修に関する検討を行う必要がある。

また、前記のとおり、基本的考え方では32年秋頃を目途に優先交渉権者を選定することとなっている。この点について、JSCの29年度末時点の調査結果によると、基本的考え方において取りまとめられたスケジュールを基本とした上で、優先交渉権者の公募に際しては、新国立競技場の図面等を示した募集要項等を公表して民間事業者を募る必要があるが、セキュリティ面の問題から公表は大会終了後の32年10月頃とし、募集要項等の公表前には民間事業者との複数回の意見交換の機会を設けるスケジュールとして、募集要項等の公表から事業者の選定までの期間も精査することが必要であるとされている。この調査結果に基づくと、早期に優先交渉権者を選定するためには、選定に係る審査等の必要な業務について、遅滞なく行うことが求められる。

そして、新国立競技場の完成後は、施設の規模に相応の維持管理費(点検・清掃費用等の保全コスト及びエネルギー費用の運用コスト)が毎年度必要とされ、民間事業化までの期間は所有者であるJSCの負担が生ずることが想定される。

これらのことから、JSCは文部科学省、関係機関等と協議するなどして速やかに大会終了後の改修に関する内容の検討、的確な民間意向調査、財務シミュレーション等を行い、文部科学省はその内容を基に民間事業化に向けた事業スキームの検討を基本的考え方に沿って遅滞なく進めることで、早期に新国立競技場の大会終了後の活用に関する国及びJSCの財政負担を明らかにすることが必要である。

(注17)
コンセッション事業(公共施設等運営事業)  利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を公共主体が有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定する方式により運営を行う事業。公共主体が所有する公共施設等について、民間事業者による安定的で自由度の高い運営を可能とすることにより、利用者ニーズを反映した質の高いサービスの提供が可能となる。

図表3-14 大会後の運営管理に関する基本的考え方の主な内容

主な項目 主な内容
利用方法
  • サッカー(日本代表戦、国内最高クラスの大会の会場、Jリーグ・リーグ戦等)
  • ラグビー(日本代表戦、国内最高クラスの大会の会場、トップリーグ・大学リーグ等)
  • アメリカンフットボール等
  • イベント、コンサート、子供向けスポーツ教室、市民スポーツ大会等
大会後の改修
  • 国際サッカー連盟ワールドカップ規定 (8万席)並びにワールドラグビー競技規則に対応し得る臨場感ある球技専用スタジアムに改修する。
  • 民間事業者のノウハウと創意工夫を活用してボックス席の設置等のホスピタリティ機能を充実する改修を行う。
  • 平成34年後半以降の供用開始を目指す。
民間事業化
  • 31年年央を目途に民間事業化の事業スキーム(事業の方式、業務の範囲・期間、運営権等の対価等)を構築する。
  • 公募を経て32年秋頃を目途に優先交渉権者を選定する。契約期間は10~30年の長期を想定している。
(注)
文部科学省の公表資料を基に会計検査院が整理した。
イ JSC及びJRAによる新国立競技場以外の大会施設の整備状況
(ア) 国立代々木競技場

JSCが所有して管理する国立代々木競技場は、オリンピック競技大会のハンドボール並びにパラリンピック競技大会のウィルチェアーラグビー及びバドミントンが行われる会場であり、昭和39年東京大会の競技会場として建設されたものである。JSCは、大会に向けて31年9月までに耐震改修工事及び機能向上工事を完了することとしている。29年度までの整備状況を示すと図表3-15のとおりであり、耐震改修工事は、26年度から29年度までに基本計画の策定、基本設計及び実施設計(契約金額計5億0176万余円)を実施して、29年12月に31年9月をしゅん工期限とする第一体育館、付属棟等の耐震改修工事(契約金額73億9800万円)に着手しており、30年度第2四半期に第二体育館の耐震改修工事に着手する予定としている。また、機能向上工事は、第一体育館、第二体育館及び外構部分について車いす席、スロープ、バリアフリートイレ等のバリアフリー整備等を行うものであり、29年度に設計(契約金額4816万余円)を実施しており、30年度に工事に着手することとしている。29年度までの支払額は計5億1350万余円であり、その財源は運営費交付金8424万円、施設整備費補助金4億1061万余円及び特定金額1865万余円となっている。ア(ク)のとおり、特定業務に国立代々木競技場の耐震改修等に係る業務が追加されたことから、29年度以降は特定業務勘定の特定金額を財源として整備が行われている。

図表3-15 平成29年度までの国立代々木競技場の整備状況

整備内容 主な整備内容 平成29年度までの整備内容 30年度の予定 しゅん工予定 契約
契約内容 契約年月 契約金額 29年度までの支払額 財源
(千円) (千円)
耐震改修工事 第一体育館、第二体育館、付属棟等の耐震改修工事 基本計画の策定、基本設計及び実施設計が完了し、第一体育館、付属棟等の耐震改修工事に着手 第2四半期に第二体育館の耐震改修工事に着手 31年9月 基本計画策定 26年10月 84,240 84,240 運営費交付金
基本設計 27年10月 90,720 90,720 施設整備費補助金
実施設計 28年4月 319,896 319,896 施設整備費補助金
29年10月 6,912 4,201 特定金額
監理 29年9月 80,460 -
耐震改修工事 29年12月 7,398,000 -
設計意図伝達 19,440 -
機能向上工事 第一体育館、第二体育館及び外構部分のバリアフリー整備等 設計を実施 機能向上工事に着手 設計 29年6月 48,168 14,450 特定金額
8,047,836 513,507

国立代々木競技場の大会開催時の使用に係るJSCと大会組織委員会との具体的な協議については、新国立競技場と同様に29年度末時点では継続中であり、30年度以降に引き続き使用条件等を協議し、会場使用協定を締結することとなっている。なお、JSCは、新国立競技場と同様に、立候補ファイルの提出に当たって、大会開催時及びテストイベントの際、無償又はIOCが承認した使用料で使用させることを保証する旨の保証書をIOCへ提出している。

(イ) 馬事公苑

JRAが所有して管理する馬事公苑は、オリンピック競技大会の馬場馬術、総合馬術(クロスカントリーを除く。)及び障害馬術並びにパラリンピック競技大会の馬術が行われる会場であり、昭和39年東京大会でも競技会場として使用されたものである。馬事公苑は、立候補ファイルでは競技会場とされていなかったが、東京都により会場変更の検討が行われ、27年2月に競技会場として決定された。JRAは、当初、多くの施設の老朽化が顕著であったため、順次改修等を検討していたが、競技会場として決定されたことから、時期を前倒しして、大会開催時に利用が想定される施設を対象とした第1期工事と、他の施設等を対象として大会終了後に行う第2期工事の二段階で整備することとしている。第1期工事の29年度までの整備状況についてみると、図表3-16のとおり、JRAは、28年1月に設計施工契約(契約金額317億6604万円)を締結し、メインアリーナ、練習馬場、厩(きゅう)舎等の建替、改修等を行って、31年10月にしゅん工予定であるとしている。そして、29年度までに基本設計及び実施設計が終了し、各施設の解体工事、土木工事及び建築工事に着手しており、29会計年度までに計136億5468万余円を支払っていて、財源は全て特別振興資金(注18)となっている。

(注18)
特別振興資金  JRAが、日本中央競馬会法(昭和29年法律第205号)に基づき、競馬場の周辺地域の住民又は競馬場の入場者の利便に供する施設の整備その他の競馬(馬術競技を含む。)の健全な発展を図るため必要な業務等に関して設ける資金

図表3-16 平成29年度までの馬事公苑の整備状況

(単位:千円)
工事の種類 主な整備内容 平成29年度までの整備内容 30年度の予定 しゅん工予定 契約
契約年月 契約金額 29会計年度までの支払額 財源
第1期工事(設計施工) メインアリーナ、練習馬場、厩舎等の建替、改修等 基本設計及び実施設計が終了し、解体工事、土木工事及び建築工事に着手 土木工事及び建築工事 31年10月 28年1月 31,766,040 13,654,682 特別振興資金
(注)
JRAの会計年度は1月から12月までのため、平成29会計年度までの支払額は29年12月末までの支払額である。

大会開催時の使用に係るJRAと大会組織委員会との具体的な協議については、新国立競技場等と同様に29年度末時点では継続中であり、30年度以降に引き続き使用条件等を協議し、会場使用協定を締結することとなっている。

ウ 東京都による大会施設の整備状況

開催都市である東京都が所有する大会施設は29年度末時点で14か所となっており、このうち東京都が大会に向けた新規整備又は改修整備を行うのは11か所となっている。29年度までの整備状況をみると図表3-17のとおりであり、主に新規整備を行うものが7か所、改修整備を行うものが4か所となっている。バドミントン等の会場となる武蔵野の森総合スポーツプラザは29年3月にしゅん工して、同年11月に開業しており、ボート等の会場となる海の森水上競技場は30年度末、他の施設は31年度中のしゅん工を予定して整備が進められている。また、選手村の宿泊施設等として使用する建物は、東京都が都市再開発法(昭和44年法律第38号)に定める市街地再開発事業により整備することとしている建物等の一部であり、東京都は、当該建物の整備について、施設建築物の建築等を施行者に代わり民間事業者等に実施させることができる特定建築者制度を採用している。同制度により、選手村の宿泊施設等として使用する建物の新規整備は民間事業者が自らの資金で行っており、東京都は道路等の基盤整備を実施している。なお、V2予算における試算対象となっているのは、新規整備を行う7か所と、改修整備のうち施設の新設が含まれる有明テニスの森の計8か所である。

上記整備の財源をみると、ほとんどが東京都の単独費用となっているが、バレーボール等の会場となる有明アリーナ及び水泳の会場となるオリンピックアクアティクスセンターの新規整備の財源の一部に国庫補助金を充てることとなっている。

有明アリーナについては、29年度に国土交通省の住宅・建築物環境対策事業費補助金(サステナブル建築物等先導事業(木造先導型))の交付決定を受けて、30年度に全額繰り越してメインアリーナの壁面及び大屋根の一部と、サブアリーナの床面等の木質化整備(補助対象事業費12億1186万余円)を実施することとしており、4453万余円が交付される予定となっている。また、オリンピックアクアティクスセンターについては、28年度に文部科学省の学校施設環境改善交付金の交付決定を受けて、29年度に全額繰り越して一般の利用に供する地域スイミングセンターとしてプール及び附属室の整備(交付対象事業費70億4700万円)を行っており、2234万余円が交付されている。東京都によれば、これらの2施設に係る国庫補助金については、30年度以降も新たに交付申請を行う予定であるとしている。

なお、東京都は、大会に関係する都有財産について、会場整備の準備から大会終了後の撤去まで、大会組織委員会へ無償で貸し付ける方針である。

図表3-17 東京都による平成29年度までの大会施設の整備状況

(単位:百万円)
番号 大会施設名 主な整備 主な整備内容 平成29年度までの整備内容 今後の予定 しゅん工予定 整備費
(見込)
財源
1 東京体育館 改修 老朽化対応工事、バリアフリー改修工事等 実施設計終了 改修工事等 31年12月 単独
2 東京国際フォーラム
3 有明アリーナ 新規 施設新設工事等 本体工事着手、実施中 本体工事等 31年12月 35,700 単独、国土交通省補助金
4 有明テニスの森 改修 ショーコート、インドアコート、屋外コート、クラブハウス等の新 設、改修 実施設計終了、本体工事着手 本体工事等 31年7月 11,000 単独
5 大井ホッケー競技場 新規 メインスタンド、照明灯等の新築、既存スタンドの改修等 実施設計終了、本体工事着手 本体工事等 31年6月 4,800 単独
6 海の森水上競技場 新規 グランドスタンド棟、艇庫棟、水門、排水施設、消波装置等の新設等 28年本体工事着手、実施中 本体工事等 31年3月 30,800 単独
7 カヌー・スラローム会場 新規 競技コース、フィニッシュプール、ポンプ施設等の新設等 本体工事着手、実施中 本体工事等 31年5月 7,300 単独
8 アーチェリー会場(夢の島公園) 新規 盛土工事、施設新設工事等 実施設計、盛土補足設計終了 本体工事等 31年5月 1,400 単独
9 オリンピックアクアティクスセンター 新規 施設新設工事等 本体工事着手、実施中 本体工事等 31年12月 56,700 単独、文部科学省交付金
10 東京辰巳国際水泳場 改修 トイレ改修、手すり設置改修、外壁等の改修等 実施設計終了 改修工事等 31年9月 単独
11 武蔵野の森総合スポーツプラザ 新規 施設工事、バリアフリー対応工事等 バリアフリー対応工事実施
(29年3月)
35,100 単独(一部は大会協賛宝くじの配分金を充当)
12 東京スタジアム 改修 バリアフリー対応工事(昇降機の増設、車いす対応トイレの増設等)、競技用照明のLED化、電気設備の更新等 実施設計終了 改修工事等 32年3月 単独
13 選手村 基盤整備 下水道管敷設、街路築造、照明設置等 道路盛土、下水道管敷設、街路築造工事等実施中 道路盛土、下水道管敷設、街路築造工事等 31年12月(大会時に必要な部分のみ) 単独
14 東京ビッグサイト
注(1)
東京都の公表資料、立候補ファイル等の記載内容及び会計実地検査の際に東京都から聴取した内容を基に会計検査院が作成した。
注(2)
「主な整備」は、当該施設について平成29年度末現在で予定されている整備工事のうち主な内容を示しており、「-」は整備主体による整備予定がない、又は不明であることを示している。
注(3)
選手村の宿泊施設等として使用する建物の新規整備は、特定建築者制度により民間事業者が自らの資金で行っており、東京都が行うのは基盤整備のみである(3024_2_1_3_3リンク参照)。
注(4)
「整備費(見込)」は東京都が平成29年度末時点でしゅん工までに必要であると見込んでいる額である。整備を行う予定があるが見込額を算出していないものや整備を行う予定がないものは「-」としている。
注(5)
大会施設ごとの実施予定の競技等については図表0-5参照

また、東京都は、新規整備を行う7施設のうち、既に開業し、指定管理者制度により運営している武蔵野の森総合スポーツプラザを除く6施設について、29年4月に「新規恒久施設の施設運営計画」を策定し、各施設を都民や国民の貴重な財産として将来にわたり有効に活用していくこととしている。有明アリーナを除く5施設については、30年3月に、東京都体育施設とするために東京都体育施設条例及び同施行規則を改正し、同年4月に海の森水上競技場、カヌー・スラローム会場及びオリンピックアクアティクスセンターの指定管理者の募集を開始している。なお、大井ホッケー競技場、アーチェリー会場(夢の島公園)については、公募を行わず、別途指定管理者を選定することとしている。

有明アリーナについては、29年12月に「有明アリーナ管理運営事業実施方針」をまとめており、同方針によれば、管理運営をコンセッション事業として行うこととし、30年度中に運営権者を選定して、31年度に契約を締結して、大会終了後から25年間程度運用させる予定としている。

エ 大会組織委員会による大会施設の整備状況

大会組織委員会は、第1の2(1)オのとおり、仮設整備及びオーバーレイ整備を行うこととなっている。仮設施設及びオーバーレイは、各施設によりその規模は異なるものの、全ての大会施設で整備が必要となるものである。大会組織委員会は、大会施設45か所のうち、29年度末に競技会場として新規に決定した2か所を除く43か所について29年度までに基本設計に着手しており、30年度中に実施設計から施工、維持管理、撤去・復旧までを一括して発注することとしている。

主に大会組織委員会が行う仮設整備により整備する大会施設は図表3-18のとおり10か所となっており、29年度までに整備工事に着手しているのは体操等の会場となる有明体操競技場及び総合馬術(クロスカントリ-)の会場となる海の森クロスカントリーコースとなっている。

図表3-18 主に大会組織委員会が行う仮設整備により整備する大会施設の平成29年度までの整備状況

(単位:百万円)
番号 大会施設名 敷地の所有者 平成29年度までの整備内容 今後の予定 しゅん工予定 29年度までの整備内容に係る契約金額
1 陸上自衛隊朝霞訓練場 国(防衛省) 基本設計 実施設計、整備工事 未定(32年3月頃) 67
2 釣ヶ崎海岸サーフィン会場 国(国土交通省)、千葉県、一宮町 海岸管理者は一宮町 基本設計 実施設計、整備工事 未定(32年4月頃) 41
3 皇居外苑 国(環境省) 基本設計 実施設計、整備工事 未定(32年4月頃) 21
4 有明体操競技場 東京都 基本設計、実施設計、整備工事 整備工事 未定(32年4月頃) 2,195
5 有明BMXコース 東京都 基本設計 実施設計、整備工事 未定(32年5月頃) 25
6 お台場海浜公園 東京都 基本設計 実施設計、整備工事 未定(32年4月頃) 30
7 潮風公園 東京都 基本設計 実施設計、整備工事 未定(32年4月頃) 34
8 海の森クロスカントリーコース 東京都 基本設計、実施設計、整備工事 整備工事 未定(32年5月頃) 681
9 青海アーバンスポーツ会場 東京都 基本設計 実施設計、整備工事 未定(32年4月頃) 26
10 武蔵野の森公園 東京都 基本設計、実施設計、整備工事 未定
注(1)
東京都の公表資料、立候補ファイル等の記載内容及び会計実地検査の際に大会組織委員会から聴取した内容を基に会計検査院が作成した。
注(2)
大会施設ごとの実施予定の競技等については図表0-5参照

また、競歩のスタート及びゴールの会場となる皇居外苑及び射撃の会場となる陸上自衛隊朝霞訓練場は、環境省及び防衛省がそれぞれ管理する国有財産であり、オリパラ特措法に基づき国有財産を無償使用させることが見込まれているが、29年度末時点では大会開催時の使用範囲等の詳細が決定していない。釣ヶ崎海岸サーフィン会場の一部は海岸法(昭和31年法律第101号)に基づく海岸保全区域であり、国土交通省が所有し、千葉県長生郡一宮町が日常管理をする国有財産であるが、オリパラ特措法の適用等、大会組織委員会にどのように使用させるかについては関係機関の間で検討中である。

なお、有明体操競技場については、28年5月に大会組織委員会と東京都が有明体操競技場に関する基本協定書を締結し、大会終了後に東京都が引渡しを受けて、都内中小企業の振興に資する展示場として活用することとなっている。大会組織委員会が行う整備には、東京都が大会終了後に展示場として使用するための機能を見据えた仕様も含まれており、大会開催時にのみ使用する部分の費用分担は、大枠の合意に沿って、東京都と大会組織委員会が負担することとなっている。

オ 都外自治体又は民間団体による大会施設の整備状況

都外自治体又は民間団体が所有する大会施設は29年度末時点で18か所となっており、このうち都外自治体又は民間団体が改修整備を行っているのは11か所となっている。29年度までの整備状況をみると図表3-19のとおりであり、都外自治体によるものが9か所、民間団体によるものが2か所であり、そのほとんどは大規模修繕の一環として、又は大規模修繕を前倒しするなどして、大会に資する内容の整備を実施している。

上記整備の財源をみると、29年度末まではほとんどが都外自治体及び民間団体の単独費用で行われているが、野球・ソフトボールの会場となる福島あづま球場の改修に向けた設計業務及びサッカーの競技会場となる横浜国際総合競技場の改修等整備の財源の一部に国庫補助金が充てられている。その内容をみると、福島県は、29年度に経済産業省の福島特定原子力施設地域振興交付金により、競技会場として必要な改修に向けた設計業務(交付対象事業費2369万余円)を行っており、2154万余円の交付を受けている。また、横浜市は、28年度(一部は29年度に繰越し)に国土交通省の社会資本整備総合交付金により、横浜国際総合競技場が所在する都市公園である新横浜公園整備事業(交付対象事業費計39億8700万円)の一環として競技場の各施設の改修及び施設更新を行っており、28、29両年度に19億9668万余円の交付を受けている。また、28年度(29年度に全額繰越し)に文部科学省の学校施設環境改善交付金により、31年に開催されるラグビーワールドカップの主要会場として必要な照明設備等の整備(交付対象事業費39億8800万円)を行って、29年度に19億9400万円の交付を受けており、その整備内容は、大会開催時にも活用できるものとなっている。

なお、JSCが交付するくじ助成金のメニューとして、道府県及び市町村が行う大会の競技会場に係る新設、改修又は改造を助成対象とする東京オリンピック・パラリンピック競技大会等施設整備助成の公募が29年度中に行われ、30年度からは、くじ助成金を財源とした整備が進められる予定となっている。

図表3-19 平成29年度までの都外自治体又は民間団体による大会施設の改修整備の状況

(単位:百万円)
番号 大会施設名 主な整備 所有者 整備主体 主な整備内容 平成29年度までの整備内容 今後の予定 しゅん工予定 整備費
(見込)
29年度までの財源
1 日本武道館 改修 民間団体 民間団体 練習道場・関連施設の増築、既存棟のバリアフリー改修等 基本設計、実施設計、増築部分の埋蔵文化財調査 練習道場・関連施設の増築、既存棟のバリアフリー改修等 32年6月 単独
2 富士スピードウェイ 民間団体
3 国技館 民間団体
4 さいたまスーパーアリーナ 埼玉県
5 霞ヶ関カンツリー倶楽部 民間団体
6 幕張メッセAホール 改修 千葉県 千葉県 特別高圧受変電設備更新、エレベーター増設、トイレ・エントランス更新等 特別高圧受変電設備の実施設計、空調自動制御設備更新工事、エレベーター増設・更新工事等 特別高圧受変電設備・空調自動制御設備更新工事、エレベーター増設・更新工事等 32年3月(大会関係部分のみ) 5,500 単独
7 幕張メッセBホール 改修 千葉県 千葉県
8 幕張メッセCホール 民間団体 (共通設備については千葉県が行う整備内容に含む。)
9 横浜スタジアム 改修 横浜市 民間団体 スタンド増築改修 スタンド増築改修 スタンド増築改修 32年2月 単独
10 江の島ヨットハーバー 改修 神奈川県 神奈川県 セーリング関係施設整備、給油施設整備 基本設計、実施設計 施設整備工事 31年7月 単独
11 伊豆ベロドローム 民間団体
12 伊豆マウンテンバイクコース 民間団体
13 福島あづま球場 改修 福島県 福島県 グラウンド排水設備改修、芝面改修、トイレ改修等 基本設計、実施設計 グラウンド排水設備改修、芝面改修、トイレ改修等工事 31年度中 1,300 単独、経済産業省交付金
14 札幌ドーム 改修 札幌市 札幌市 照明設備、電気設備改修等 照明設備、電気設備改修等 照明設備、電気設備改修等 未定 単独
15 宮城スタジアム 改修 宮城県 宮城県 芝面改修、大型映像装置更新、トイレ改修等 芝面改修工事 芝面改修、大型映像装置更新、トイレ改修 32年1月 962 単独
16 埼玉スタジアム2○○2 改修 埼玉県 埼玉県 外装塗装、防水塗装、観客席更新等 外壁改修等 外装塗装、防水塗装、観客席更新等 未定 単独
17 横浜国際総合競技場 改修 横浜市 横浜市 照明設備更新、観客席更新、天井工事等 照明設備更新、観客席更新、天井工事等 フィールド施設、スタンド工事等 未定(おおむね30年度内に完了) 単独、文部科学省・国土交通省交付金
18 茨城カシマスタジアム 改修 茨城県 茨城県 屋根鉄骨修繕工事、大型映像装置改修等 屋根鉄骨修繕工事、大型映像装置改修等 屋根鉄骨修繕等 未定 単独
注(1)
東京都の公表資料、立候補ファイル等の記載内容及び会計実地検査の際に都外自治体等から聴取した内容を基に会計検査院が作成した。
注(2)
「主な整備」は、当該施設について平成29年度末現在で予定されている整備工事のうち主な内容を示している。「-」は整備主体による整備予定がない又は不明であることを示している。
注(3)
「所有者」及び「整備主体」は、民間団体である場合は全て「民間団体」と記載している。
注(4)
「整備費(見込)」は都外自治体等が平成29年度末時点でしゅん工までに必要であると見込んでいる額として公表している場合のみ記載している。
注(5)
大会施設ごとの実施予定の競技等については図表0-5参照

上記18施設の大会開催時の使用に係る大会組織委員会との具体的な協議については、新国立競技場等と同様に29年度末時点では継続中であり、30年度以降に引き続き使用条件等を協議し、会場使用協定を締結することとなっている。都外自治体及び民間団体が所有する施設は、料金規程等で使用料が定められており、また、各施設のテナントへの営業補償や海上で行う競技に係る漁業補償等の発生も見込まれている。大会組織委員会は、「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(昭和37年用地対策連絡会決定)に準拠した補償基準を作成しており、これらにより交渉を行うこととしているが、これらの経費はパラリンピック交付金の交付対象となり得ることから、今後大会組織委員会が支払うこととなる使用料及び営業補償がどの程度の規模となるかについては継続して注視する必要がある。

また、野球・ソフトボールの会場となる横浜スタジアムが所在する横浜公園については財務省が、柔道等の会場となる日本武道館が所在する皇居外苑については環境省が、横浜国際総合競技場が所在する新横浜公園の一部については国土交通省がそれぞれ管理する国有財産である。横浜スタジアム及び横浜国際総合競技場の大会開催時の扱いについては、関係機関の間で検討中である。一方、日本武道館については、図表3-20のとおり、所有者である民間団体による練習道場棟の増築に係る埋蔵文化財発掘調査が開始されたことに伴い、皇居外苑を管理する環境省は、29年9月に増築予定の敷地等について、オリパラ特措法に基づく国有財産の無償使用を許可している(有償使用とした場合の30年度の年間使用料の試算額は1400万余円)。今後、増築工事が終了し、既存棟の改修工事を行う際に使用許可の変更を行い、大会終了後に日本武道館が通常運営を再開するまでの間、増築部分と既存棟を合わせた敷地全体について、日本武道館の所有者である民間団体に無償使用させる予定となっている。

図表3-20 日本武道館に係るオリパラ特措法に基づく無償使用許可の内容及び今後の予定

図表3-20 日本武道館に係るオリパラ特措法に基づく無償使用許可の内容及び今後の予定 画像

カ その他の大会施設の状況

29年度までに決定した大会施設は、図表0-5のとおり、競技会場、選手村、国際放送センター及びメインプレスセンターの45か所である。これらのほかにも、開催都市契約、立候補ファイル等によると、IOCから必要とされている主なものとして、大会関係者用の宿泊施設、選手や大会関係者の受入れ先となるオリンピック病院及び大会開催期間中の練習会場がある。宿泊施設及びオリンピック病院については、大会組織委員会が各施設と交渉を進めている。練習会場については、大会組織委員会が国際競技団体による候補施設の視察を進めるなどの検討を進めており、29年度末時点では決定していない。大会組織委員会によれば、地方自治体等の施設所有者と30年度に調整を行い、31年度に使用協定を締結する予定としている。

2 各府省等が実施する大会の関連施策等の状況

(1) 各府省等が実施する大会の関連施策の全体状況等

ア 各府省等が実施する大会の関連施策の全体状況

政府の取組状況報告には、各府省等が実施する大会の関連施策に係る予算額等は記載されておらず、事業名についてもごく一部のものを除き記載されていない。このため、29年5月に公表された政府の取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業及び25年度から29年度までの支出額について、会計検査院が各府省等に調書の提出を求めて、その内容をオリパラ基本方針等に基づく15分野の70施策の別に区分して集計したところ、図表4-1のとおり、14府省等(14府省等が大会の関連施策として整理した事業を運営費交付金、政府出資金及び自己収入を財源として実施する10独立行政法人を含む。)において「大会の円滑な準備及び運営」に資する8分野の45施策に係る148事業、「大会を通じた新しい日本の創造」に資する7分野の25施策に係る136事業及び両方にまたがる取組内容であり区分が困難な2事業の計286事業が実施されている。そして、それらに係る支出額は計8011億余円(事業ごとの支出額を算出することが困難な事業又は公表できない事業に係る支出額を除く。以下同じ。)となっている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表4-1 各府省等が実施する大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策(8分野45施策) 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策(7分野25施策) 事業数 支出額
事業数 支出額 事業数 支出額   (総計に占める割合)
内閣 5 698 7 769 12 1,468 (0.1%)
内閣府 18 544 8 10,904 26 11,448 (1.4%)
復興庁 0 - 2 0 2 0 (0.0%)
総務省 10 2,497 15 23,735 25 26,232 (3.2%)
法務省 10 6,215 1 18 11 6,234 (0.7%)
外務省 9 2,411 8 50,237 17 52,648 (6.5%)
財務省 3 (※)- 0 - 3 (※)- -
文部科学省 25 169,548 23 11,589 48 181,138 (22.6%)
厚生労働省 11 7,004 13 31,857 24 38,861 (4.8%)
農林水産省 2 13 14 5,404 16 5,418 (0.6%)
経済産業省 12 180,499 17 18,794 29 199,293 (24.8%)
国土交通省 21 200,746 26 59,706 47 260,453 (32.5%)
環境省 16 15,261 2 (※)- 18 15,261 (1.9%)
防衛省 6 2,472 0 - 6 2,472 (0.3%)
合計 148 587,913 136 213,018 284 800,932 (99.9%)
両方の施策にまたがる取組(内閣) 2 259 2 259 (0.0%)
総計 286 801,191 (100.0%)
注(1)
「事業数」及び「支出額」の計数は、各府省等から提出された大会の関連施策に係る調書を基に会計検査院が集計したものである。
注(2)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(3)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。
注(4)
「支出額」には、各府省等が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。なお、文部科学省が東京都へ交付したパラリンピック交付金(300億円)については、全額を計上している。
注(5)
施策の区分は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の施策に該当する内容を含むものもある。

上記の大会の関連施策は、第1の2(2)アのとおり、各府省等の判断で政府の取組状況報告に記載されたものであることから、大会の円滑な準備及び運営又は大会終了後のレガシーの創出に関連する全ての事業を挙げているものではない。この理由としては、各府省等が実施する多岐にわたる分野の全ての事業の内容について、実施内容が大会にどの程度関連するかを各府省等において一律に把握することが難しく、また、大会の関連施策の具体的な定義を策定することが困難であることが挙げられる。このため、各府省等が実施する施策の内容が大会に関連するか否かの判断は各府省等によるものとなっている。

なお、各府省等において大会の関連施策として整理していない事業であっても、国庫補助金等の交付先である東京都、都外自治体等が実施する大会の関連施策の財源としてその一部が活用され、事実上大会の円滑な準備及び運営又は大会終了後のレガシーの創出に資する取組に対して財政支援を行っている事業もある((4)を参照)。

イ オリパラ関係予算の執行状況

第1の2(2)エのとおり、各府省等が実施する大会の関連施策のうち、大会の運営又は大会の開催機運の醸成や成功に直接資するものであり、大会招致を前提に、新たに又は追加的に講ずる施策であると各府省等が判断した施策については、事業の効果、費用の管理等について他の施策と区分することで各府省等においてオリパラ基本方針に基づく施策の実効性を担保して、その進行管理に資するよう、28年度当初予算からオリパラ関係予算として整理されている。一方、オリパラ関係予算の決算額については各府省等において取りまとめられていないことから、会計検査院が各府省等に対して28、29両年度のオリパラ関係予算の執行状況について調書の提出を求めて、その内容を集計した結果を示すと図表4-2のとおりである。28、29両年度のオリパラ関係予算として整理された32事業に係るオリパラ事務局への登録額846億余円に対して、支出額は788億余円となっている(事業ごとの登録額及び支出額については別図表2参照)。

図表4-2 オリパラ関係予算の執行状況(平成28、29両年度)

(単位:百万円)
区分
府省等名
平成28年度 29年度
事業数 登録額 支出額 翌年度繰越額 差額 事業数 登録額 前年度繰越額 支出額 翌年度繰越額 差額 事業数 登録額 支出額 差額
内閣 1 875 533 - 341 1 576 - 495 - 80 1 1,451 1,029 421
内閣府(警察庁) 3 13 25 - ▲11 0 - - - - - 3 13 25 ▲11
総務省 0 - - - - 2 439 - 193 199 46 2 439 193 46
文部科学省 13 31,708 30,127 1,044 536 14 49,757 1,044 46,320 4,330 152 16 81,465 76,447 688
厚生労働省 2 75 49 - 24 2 85 - 55 - 29 3 160 104 54
農林水産省 1 17 8 - 8 1 15 - 5 - 10 1 32 13 18
国土交通省 1 162 160 - 1 1 809 - 725 - 83 1 971 886 84
環境省 4 87 63 - 23 4 70 - 55 - 14 5 157 118 37
25 32,937 30,967 1,044 924 25 51,751 1,044 47,851 4,529 416 32 84,688 78,819 1,341
注(1)
「支出額」「翌年度繰越額」「前年度繰越額」及び「差額」は、関係府省等から提出された大会の関連施策に係る調書を基に会計検査院が集計したものである。また、「登録額」は、内閣官房が公表している「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関係予算」から転記したものである。
注(2)
「事業数」はオリパラ関係予算として登録された数であるが、平成28年度から29年度へ繰り越された事業も一部含まれている。そのため、大会の関連施策としての事業数とは一致しないものがある。
注(3)
「登録額」は予算決定時点のものであるため、執行段階で追加の支出の必要が生じ流用等によって対応したことにより、「登録額」を「支出額」が上回っているものがある。
注(4)
「差額」には、平成28年度は「登録額」から「支出額」及び「翌年度繰越額」を差し引いた額、29年度は「登録額」と「前年度繰越額」を合算した額から「支出額」及び「翌年度繰越額」を差し引いた額を計上しており、決算上の不用額とは異なる。
注(5)
「事業数」の計は純計である。

(2) 「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策の状況

 「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策は、図表5-1のとおり、復興庁を除く13府省等において25年度から29年度までに8分野の45施策に係る計148事業が実施されており、その支出額は計5879億余円となっている。オリパラ基本方針における8分野ごとにその支出額をみると、「暑さ対策・環境問題への配慮」に係る大会の関連施策の2321億余円が最も多く、次に多いのが「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係る大会の関連施策の1628億余円となっている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表5-1 「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 分野
セキュリティの万全と安全安心の確保(10施策) アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策(13施策) 暑さ対策・環境問題への配慮(3施策) メダル獲得へ向けた競技力の強化(4施策) アンチ・ドーピング対策の体制整備(1施策) 新国立競技場の整備(1施策) 教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成(4施策) その他(9施策) 事業数 支出額
事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額   (合計に占める割合)
内閣 5 698 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 5 698 (0.1%)
内閣府 17 540 1 3 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 18 544 (0.0%)
復興庁 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - -
総務省 3 439 6 1,864 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 1 193 10 2,497 (0.4%)
法務省 3 968 7 5,247 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 10 6,215 (1.0%)
外務省 1 635 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 8 1,776 0 - 9 2,411 (0.4%)
財務省 1 (※)- 1 (※)- 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 1 (※)- 3 (※)- -
文部科学省 0 - 0 - 0 - 13 59,323 2 1,007 1 74,401 8 4,815 1 30,000 25 169,548 (28.8%)
厚生労働省 7 6,416 3 508 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 1 80 11 7,004 (1.1%)
農林水産省 0 - 2 13 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 2 13 (0.0%)
経済産業省 0 - 2 1,128 10 179,370 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 12 180,499 (30.7%)
国土交通省 6 8,813 11 154,087 3 37,540 0 - 0 - 0 - 0 - 1 305 21 200,746 (34.1%)
環境省 0 - 0 - 16 15,261 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 16 15,261 (2.5%)
防衛省 0 - 0 - 0 - 3 2,220 0 - 0 - 0 - 3 251 6 2,472 (0.4%)
合計 43 18,511 33 162,852 29 232,173 16 61,544 2 1,007 1 74,401 16 6,591 8 30,830 148 587,913 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。
注(3)
「支出額」には、各府省等が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。なお、文部科学省が東京都へ交付したパラリンピック交付金(300億円)については、全額を計上している。
注(4)
「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

そして、8分野ごとにその実施状況等をみると、次のとおりである。

ア 「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係る大会の関連施策は、内閣等の8府省等が実施した「未然防止のための水際対策及び情報収集・分析機能の強化」等の10施策に係る計43事業であり、図表5-2のとおり、25年度から29年度までの支出額は計185億余円となっている。このうち、国土交通省が88億余円(185億余円の47.6%)、厚生労働省が64億余円(同34.6%)となっていて、その多くを占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表5-2 「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
内閣 5 - - 43 475 179 698 (3.7%)
内閣府 17 97 69 36 284 52 540 (2.9%)
総務省 3 57 57 104 110 108 439 (2.3%)
法務省 3 5 8 197 707 49 968 (5.2%)
外務省 1 - - 46 245 343 635 (3.4%)
財務省 1 (※)- (※)- (※)- (※)- (※)- (※)- -
厚生労働省 7 1,478 1,401 1,253 901 1,381 6,416 (34.6%)
国土交通省 6 11 678 1,724 2,906 3,492 8,813 (47.6%)
合計 43 1,651 2,215 3,406 5,631 5,607 18,511 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。
注(3)
「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

立候補ファイルによれば、政府は大会の安全とセキュリティを確保するために必要な全ての措置を講ずることができるよう、閣僚級が会長を務める協議会を設立して、大会のセキュリティに関わる高度な大綱方針・戦略を策定するとともに、大会の警備に関与する政府のセキュリティ機関相互の業務調整を行うこと、テロ等の重大事件や大規模な自然災害といった国家的緊急事態発生時の危機管理対応を行うこととされている。上記に基づき、図表5-3のとおり、内閣総理大臣を本部長とするオリパラ推進本部、関係府省等の所管する事務を調整する2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関係府省庁連絡会議の下に、内閣官房を事務局として、関係府省等で構成する「セキュリティ幹事会」を設置して関係府省等が所管する事務の調整を行っており、さらに、同幹事会の下に「テロ等警備対策ワーキングチーム」(28年11月までテロ対策ワーキングチーム)及び「サイバーセキュリティワーキングチーム」を設置し、この体制に基づいてセキュリティ対策を推進している。

図表5-3 大会のセキュリティに関する関係機関の調整体制(平成29年度)

図表5-3 大会のセキュリティに関する関係機関の調整体制(平成29年度) 画像

また、セキュリティ幹事会は、大会のセキュリティに関わる高度な大綱方針・戦略として、29年3月に「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会に向けたセキュリティ基本戦略(Ver.1)」(以下「セキュリティ基本戦略」という。)を策定して、国として担うセキュリティ対策の方向性を定めている。各府省等は、図表5-4のとおり、セキュリティ基本戦略に基づき、セキュリティ分野の様々な大会の関連施策を実施することとしている。なお、大会組織委員会は、競技会場等の大会施設の警備や自らのシステムに対するサイバーセキュリティ対策を民間事業者により行うこととしており、30年3月に警備ガイドラインを策定して、その概略を公表し、同年4月に民間警備会社2社を共同代表とする共同企業体と大会の警備業務に係る覚書を締結している。

図表5-4 各府省等が実施するセキュリティ分野の大会の関連施策の概要

図表5-4 各府省等が実施するセキュリティ分野の大会の関連施策の概要 画像

29年度末時点で想定されている大会開催時のセキュリティ分野の連携体制は図表5-5のとおりであり、国は内閣府(警察庁)に設置されたセキュリティ情報センターにおいて大会の安全に関する情報の集約、分析及び関係する機関への提供を行うとともに、大会開催期間中は内閣に設置されたセキュリティ調整センター(仮称)が24時間体制で関係機関間の必要な活動調整及び情報共有を行うこととなっている。また、30年度中に内閣がサイバーセキュリティ対処調整センターの運用を開始して、平常時は各府省等及び情報セキュリティ関係機関と収集した情報を共有し、この情報に基づき大会組織委員会や民間事業者等へサイバーセキュリティに関して予防的措置等を促すとともに、問題発生時には、大会組織委員会や民間事業者等から連絡及び支援要請を受けて、対応方針の決定、支援可能な機関への支援要請等を行うことを想定している。

図表5-5 大会開催時のセキュリティ分野の連携体制(平成29年度末時点の想定)

図表5-5 大会開催時のセキュリティ分野の連携体制(平成29年度末時点の想定) 画像

セキュリティ分野の大会の関連施策の実施内容は、29年度までは、国際テロ情報収集の収集体制の強化等、国として過去から継続して行っている内容が中心であり、30年度からは、これらに加えて大会開催時のセキュリティに直接関わる事業が実施される予定である。内閣府(警察庁)は競技会場周辺の安全を確保して警備実施・要人警護等に万全を期すために必要な資機材や待機施設等の整備に係る5事業(予算額計78億3600万円)を行い、総務省は競技会場周辺の関係する地方自治体及び消防本部により大会開催期間中の火災、救急、救助活動等の計画を策定するための事業(予算額400万円)を行い、内閣はサイバーセキュリティ対処調整センターに係るシステム整備や人員等の組織の構築(平成29年度一般会計補正予算の翌年度繰越額3億4358万余円)を行うこととしている。

イ 「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係る大会 の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係る大会の関連施策は、内閣府等の8府省が実施した「道路輸送インフラの整備」等の13施策に係る計33事業であり、図表5-6のとおり、25年度から29年度までの支出額は計1628億余円となっている。このうち、国土交通省が1540億余円(1628億余円の94.6%)となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表5-6 「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
内閣府 1 - - - 3 - 3 (0.0%)
総務省 6 - - 724 501 637 1,864 (1.1%)
法務省 7 - 299 767 3,434 744 5,247 (3.2%)
財務省 1 - - (※)- (※)- (※)- (※)- -
厚生労働省 3 63 68 130 117 129 508 (0.3%)
農林水産省 2 - - (※)- 8 5 13 (0.0%)
経済産業省 2 - - 22 496 609 1,128 (0.6%)
国土交通省 11 34,208 10,143 30,226 33,787 45,721 154,087 (94.6%)
合計 33 34,271 10,511 31,871 38,350 47,848 162,852 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。
注(3)
「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

これらの大会の関連施策のうち、道路輸送インフラの整備の実施状況は、次のとおりとなっている。

立候補ファイルによれば、国、東京都等は、IOCに対して選手村から各競技会場への輸送時間を保証していることから、道路輸送インフラを整備することにより、大会開催までに各競技会場へのアクセスルートとなる道路の整備を完了させることが重要であるとされている。

国、東京都及び首都高速道路株式会社は、29年度までに、立候補ファイルに「オリンピック競技大会開催時に利用する輸送インフラ」として記載された箇所の整備をそれぞれ実施している。具体的には、国土交通省は、一般国道357号(東京港トンネル等)、一般国道14号(両国拡幅)等の整備を、東京都は、環状第2号線(汐留~豊洲間等)、都市計画道路補助第314号線、同315号線等の整備を、首都高速道路株式会社は、首都高速晴海線等の整備をそれぞれ推進して、大会開催時における輸送ルートの確保や渋滞緩和等を図ることとしている。

また、国は、社会資本整備総合交付金等を交付することにより、東京都が整備主体として整備を実施し、選手村へのアクセス道路としても活用される予定の環状第2号線等の整備に対して財政支援を行っている(都市計画道路補助第314号線及び同315号線については、東京都の負担で整備を実施しており、国は財政支援を行っていない。)。国土交通省、東京都及び首都高速道路株式会社が整備主体となって大会開催までに整備を行うとしている各路線の整備概要及び整備状況は図表5-7のとおりとなっていて、これらの整備に係る25年度から29年度までの国費の執行額は計1389億余円となっている(各年度の執行状況については別図表1参照)。なお、これらのうち、東京都に対する国からの社会資本整備総合交付金等による支援の額は295億4259万余円となっている。

図表5-7 路線ごとの整備概要及び整備状況(平成29年度末現在)

整備主体 整備路線名 左の延長
(km)
主な整備内容 平成29年度末現在の整備状況 整備完了
(予定)年月等
国土交通省 一般国道357号東京港トンネル西行き(海側) 1.8 トンネル開通 供用中 平成28年3月
一般国道357号東京港トンネル東行き(山側) 1.8 トンネル開通 施工中 30年度
一般国道357号(新木場立体) 2.3 立体交差の改築 供用中 26年3月
一般国道14号(両国拡幅)の一部 1.9kmの一部 道路の拡幅 用地取得中 大会までに取得済用地を活用した整備を行う
臨港道路南北線 2.4 トンネル開通 施工中 32年度
東京都 環状第2号線 注(5)4.8
  虎ノ門~新橋 1.4 トンネル開通 供用中 26年3月
新橋~築地(本線整備時の計画) 1.2 トンネル開通、街路築造工事、舗装工事 施工中 未定
築地~勝どき 0.8 橋りょう架設、街路築造工事、舗装工事 施工中(おおむね完了) 未定
晴海地区内外 0.5 街路築造工事、舗装工事 整備済 29年3月
豊洲大橋 0.5 橋りょう架設 整備済 25年8月
豊洲地区内 0.2 街路築造工事、舗装工事 整備済 29年3月
臨港道路南北線(有明ふ頭連絡線) 1.5 道路改良、交差点改良 設計中 32年3月
臨港道路南北線(中央防波堤内側5号線) 1.9 橋りょう架設、道路改良 実施設計及び施工中 31年7月
都市計画道路補助第314号線 0.2 盛土工事、街路築造工事、舗装工事 施工中 36年3月 注(4)
0.8 街路築造工事、舗装工事 供用中 28年1月
都市計画道路補助第315号線 1.9 街路築造工事、舗装工事 供用中 26年3月
首都高速中央環状品川線 9.4 トンネル開通 供用中 27年3月
首都高速道路株式会社 首都高速中央環状品川線 9.4 トンネル開通 供用中 27年3月
首都高速晴海線 2.7 橋りょう架設 供用中
  • 豊洲~東雲(1.5km)21年2月
  • 晴海~豊洲(1.2km)30年3月
注(1)
本図表は、各整備主体から提出された資料等に基づき会計検査院が作成したものである。
注(2)
東京都が整備主体となっている都市計画道路補助第314号線及び同315号線については、東京都の財源で事業を実施しており、社会資本整備総合交付金等の国費は充てられていない。
注(3)
首都高速中央環状品川線は、東京都が施行する街路事業と首都高速道路株式会社が施行する有料道路事業を組み合わせた合併施行方式により一体的に建設されている。
注(4)
都市計画道路補助第314号線の一部(0.2km)について、その完成が大会終了後となっている理由は、当該路線が選手村の中に設置されており、大会終了後に実施予定の再開発事業の整備が終了するまで路線としての整備が完了しないためであり、大会の円滑な運営に支障を来すものではない。
注(5)
小数点第2位以下を切り捨てているため、環状第2号線に係る計数の計は、内訳を集計しても一致しない。

道路輸送インフラの整備の実施状況については以上のとおりであるが、国や東京都等は、大会開催までに整備される路線の状況を踏まえて、大会開催時に円滑な輸送が可能となるよう、輸送ルートや交通管制の方法等について適切に検討する必要がある。

ウ 「暑さ対策・環境問題への配慮」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「暑さ対策・環境問題への配慮」に係る主な大会の関連施策は、経済産業省等の3省が実施した「分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決」「アスリート・観客の暑さ対策の推進」等の3施策に係る計29事業であり、図表5-8のとおり、25年度から29年度までの支出額は計2321億余円となっている。このうち、経済産業省が1793億余円(全体の77.2%)となっていて、その多くを占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表5-8 「暑さ対策・環境問題への配慮」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
経済産業省 10 9,781 41,427 57,383 32,914 37,863 179,370 (77.2%)
国土交通省 3 10,304 7,552 6,821 7,513 5,348 37,540 (16.1%)
環境省 16 438 834 2,414 3,766 7,806 15,261 (6.5%)
合計 29 20,524 49,814 66,619 44,195 51,019 232,173 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。
注(3)
「支出額」には、各省が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「暑さ対策・環境問題への配慮」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

各省が29年度までに実施した大会の関連施策のうち、大会の円滑な準備及び運営に資するための課題等が見受けられたものは、次のとおりである。

(ア) 分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決

29年1月に大会組織委員会が策定した「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会持続可能性に配慮した運営計画(第一版)」によれば、大会車両や会場を結ぶバス等に燃料電池自動車(以下「FCV」という。)を導入するほか、水素パイプラインの整備等による水素供給システムを実現するなどして、水素エネルギーを積極的に活用していくこととされている。また、東京都は、東日本大震災で被災した福島県と連携して、同県で再生可能エネルギーを利用したCO2フリー水素の生産を推進し、大会開催時における活用を検討していくこと、大会を契機に水素エネルギーの普及を推進し、水素を本格的に利活用する「水素社会」を大会のレガシーとして残していくことなどとされている。

政府は、26年4月に、今後20年程度の中長期におけるエネルギー需給構造を視野に入れて、今後取り組むべき政策課題と、長期的、総合的かつ計画的なエネルギー政策の方針とをまとめた「第四次エネルギー基本計画」を策定している。同基本計画によれば、大会開催時に輸送手段としてFCVを活用させることによって世界に新たなエネルギー源である水素が持つ可能性を示すために、水素ステーションの導入支援等により、整備を計画的に進めるとともに、技術開発及び低コスト化に取り組むこととされている。なお、30年7月に策定された「第五次エネルギー基本計画」においても、大会開催時に、水素・燃料電池技術を世界にアピールすることなどとされている。

a 商用の水素ステーションの整備・運用状況

第四次エネルギー基本計画を受けて、産学官の有識者で構成される水素・燃料電池戦略協議会において「水素・燃料電池戦略ロードマップ」(以下「ロードマップ」という。)が26年6月に策定されて、28年3月に改訂されている。改訂後のロードマップによれば、数値目標として、商用の水素ステーション(以下「商用ステーション」という。)を28年度内に四大都市圏(関東、中京、近畿、北九州・福岡)を中心に100か所程度設置した上で32年度までに160か所程度設置することとされている。

経済産業省は、25年度から、FCVの普及により早期に自立的な市場を確立して、内外の経済的社会的環境に応じた安定的かつ適切なエネルギー需給構造の構築に資するとともに、関連産業の振興や雇用創出を図ることを目的として、「燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金」により、一般社団法人次世代自動車振興センター(以下「センター」という。)を通じて、事業主体に対して商用ステーション等の導入に要する経費の一部を補助している。また、27年度には、導入された設備の運用を通じて行うFCVの需要を喚起するための活動に要する経費が新たに補助対象経費として追加されている。本補助事業に係る25年度から29年度までの支出額は計222億4976万余円となっている。このうち、上記の5か年度における商用ステーションの設置事業に係る同補助金の交付件数及び交付額は、86件、計179億3260万余円となっている。

上記の補助金を活用するなどして、商用ステーションは、四大都市圏を中心として、29年度末時点で図表5-9のとおり、98か所で運用されており、32年度までの目標設置箇所数160か所に対する達成率は61.2%となっている。

図表5-9 商用ステーションの整備状況

年度 平成26年度 27年度 28年度 29年度 32年度までの目標(160か所)に対する達成率
運用開始箇所数 16 58 16 8 98 61.2%

一方、商用ステーションの設備のうち、事業主体が各地域で想定されるFCVの普及台数等を勘案し、地方自治体や自動車メーカー等と協議の上で策定する事業計画において年間水素充填量を計画値として設定している設備(28年度は67設備、29年度は70設備)について、当該計画充填量と充填量の実績を比較すると図表5-10のとおり、計画充填量を達成しているのは28年度において2設備、29年度において3設備のみであり、両年度共に6割を超える設備において計画充填量に対する充填量の実績の割合が25%未満となっている。センターによれば、このように設備の稼働が低調なのは、各地域におけるFCVの普及台数が事業主体が計画時に想定していた普及台数に満たないことなどによるとしている。

また、利用者から、営業時間が短かったり、土日祝日が休業日になっていたりするなど利便性の面での課題が指摘されている商用ステーションもあり、利便性を向上させるためには、商用ステーションにおけるこれらの運営方法等に係る課題を改善する必要がある。

図表5-10 計画充填量を設定している商用ステーションの設備の稼働状況

計画充填量に対する充填量の実績の割合 0%以上25%未満 25%以上50%未満 50%以上75%未満 75%以上100%未満 100%以上
 設備数(計に対する割合) 平成
28年度
44 16 2 3 2 67
(65.6%) (23.8%) (2.9%) (4.4%) (2.9%) (100.0%)
29年度 51 11 1 4 3 70
(72.8%) (15.7%) (1.4%) (5.7%) (4.2%) (100.0%)
(注)
設置初年度の設備については、年度途中から稼働することになるため、計画充填量に対する充填量の実績の割合を算出する際に、充填量の実績を商用ステーションの稼働月数で割り戻した値に12を乗じたものを1年間の充填量として計算している。

b 再生可能エネルギー由来の水素ステーションの整備・運用状況

改訂後のロードマップによれば、数値目標として、再生可能エネルギー由来の水素ステーション(以下「再エネ水素ステーション」という。)を32年度までに100か所程度設置することとされている。

環境省は、27年度から、FCVの普及を促進し、もってエネルギー起源二酸化炭素の排出抑制に資することを目的として、地方公共団体や民間団体等が再エネ水素ステーションを設置する事業に要する経費に充てるために、二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(地域再エネ水素ステーション導入事業。29年度以降は再エネ等を活用した水素社会推進事業)を交付しており、27年度から29年度までの3年間における交付件数及び交付額は、23件、計21億2911万余円となっている。

29年度末現在、環境省の補助金を活用するなどして稼働している再エネ水素ステーションは図表5-11のとおり22か所であり、32年度までの目標設置箇所数100か所に対する達成率は22.0%となっている。同省は、再エネ水素ステーションの導入が想定よりも進んでいない理由として、FCVの普及台数が想定していた普及台数に満たないことから水素への需要が限定的であったり、国民の水素に対する理解や関心が高まっていなかったりすること、再エネ水素ステーションの設置・運用面でのコストが大きいことなどを挙げている。

図表5-11 再エネ水素ステーションの目標設置箇所数と実績の対比

年度 平成27年度 28年度 29年度 32年度までの目標(100か所)に対する達成率
運用開始箇所数 3 7 12 22 22.0%
(注)
運用開始箇所数には、本補助事業の補助金の交付を受けないで設置された再エネ水素ステーション3か所(平成27年度1か所、28年度1か所及び29年度1か所)が含まれている。本補助事業で設置されて、29年度末時点で稼働している再エネ水素ステーションは計19か所である。

環境省によると、事業主体等が別途調達するFCVが本補助事業で導入される再エネ水素ステーションにおいて製造された水素の充填を受けて走行することによって、二酸化炭素の排出が抑制されるとしており、事業主体が策定する事業計画においては、FCVの予定走行距離に基づく二酸化炭素排出削減量を評価指標として設定することとなっている。そして、事業主体は、FCVの走行実績に基づいて算出される二酸化炭素排出削減量を事業実施後3年間にわたって毎年度末に同省に対して報告することとなっている。本補助事業で導入された再エネ水素ステーションによる二酸化炭素排出量の削減状況は図表5-12のとおりであり、28、29両年度において二酸化炭素排出削減量の目標値を達成しているのは、それぞれ1設備、2設備となっており、目標値に対する実績の割合が50%未満にとどまっている設備が大半を占めていた。二酸化炭素排出削減量の目標値の達成状況が低い理由として、事業主体等は、水素の活用に向けた取組を一般市民等にPRするためのイベントや試乗会等での利用を優先したこと、FCVを積極的に利用するための関係者への周知等の取組が十分でなかったことなどから事業計画時よりも走行距離が伸びなかったことや、再エネ水素ステーションにおける充填を優先すべきであるにもかかわらず近隣の商用ステーションにおいて充填したことを挙げている。また、一部の事業主体等は、再エネ水素ステーションの充填圧力が35MPa(注19)と商用ステーションの充填圧力(70MPa又は82MPa)よりも低くなっていて、商用ステーションの場合と比べてFCVの車載タンクに水素を約半分しか充填できないため、一回の充填当たりの走行可能距離が300km程度となることから、長距離走行を控えたことを理由として挙げている。

(注19)
MPa(メガパスカル)  圧力の単位。1MPaはおよそ10気圧に相当する。

図表5-12 本補助事業で導入された再エネ水素ステーションによる二酸化炭素排出量の削減状況

二酸化炭素排出削減量の目標値に対する実績の割合 0%以上25%未満 25%以上50%未満 50%以上75%未満 75%以上100%未満 100%以上
設備数(計に対する割合) 平成
28年度
3 3 1 0 1 8
(37.5%) (37.5%) (12.5%) - (12.5%) (100.0%)
29年度 6 8 1 2 2 19
(31.5%) (42.1%) (5.2%) (10.5%) (10.5%) (100.0%)
(注)
設置初年度の設備については、年度途中から稼働することになるため、二酸化炭素排出削減量の目標値に対する実績の割合を算出する際に、削減量の実績を再エネ水素ステーションの稼働月数で割り戻した値に12を乗じたものを1年間の削減量として計算している。

設置初年度において、再エネ水素ステーションから水素の充填を受けたFCVの利用が低調なため、今後も二酸化炭素排出抑制効果が十分に発現しないおそれがあるものの事例を示すと次のとおりである。

<事例1> 二酸化炭素排出抑制効果が十分に発現しないおそれがあるもの

茨城県猿島郡境町は、平成28年度に、環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(地域再エネ水素ステーション導入事業)1億1945万余円の交付を受けて、再エネ水素ステーション1基及び関連設備の導入を行い、29年6月に同町役場敷地内への設置を完了して、同年7月から充填可能な状態となっている。当該再エネ水素ステーションは、同県内で初めて導入された固定式水素ステーションである。

本事業は、同町が別途公用車として2台のFCVを調達して、再エネ水素ステーションから水素の充填を受けて利用することにより、二酸化炭素の排出を削減することを目的としていて、事業計画において、FCV2台の1台当たりの年間予定走行距離を従来のガソリン公用車の走行実績に基づいて10,000kmとし、当該予定走行距離及びガソリン車の燃費に基づき、1台当たり年間2,900kg-CO2の二酸化炭素排出量が削減されるとしていた。

しかし、2台のFCVへの水素の充填を開始した29年8月から30年3月までの8か月間におけるFCVの走行実績をみると、それぞれ、298km、494kmとなっていて、当該走行実績を年間走行実績に換算した上で年間の二酸化炭素排出削減量を算出すると、129.6kg-CO2(2,900kg-CO2に対する割合4.4%)、214.8kg-CO2(同7.4%)となることから、計画で見込んでいた二酸化炭素排出抑制効果がほとんど見られない状況となっていた。

FCVの利用が低調な理由について、同町によると、公用車の利用頻度の高い同町役場から茨城県庁までの往復移動(約185km)等の長距離移動には適さないとして利用を控えていたこと、公用車を利用する職員に対してFCVの利用促進に係る周知が十分に図られていないことなどによるとしている。

なお、同町は、30年3月に事務連絡を発して、職員に対してFCV利用についての周知を行うとともに、同年4月には、長距離移動にFCVを利用する機会を増やすために、再エネ水素ステーションから水素の充填を受けたFCVが同町役場から同県庁まで往復できることを確認している。また、今後は、協議会を立ち上げて、再エネ水素ステーション及びFCVの利用を促進する方策について検討していくとしている。

環境省においては、今後、再エネ水素ステーションが十分に利用されることにより本補助事業の目的である二酸化炭素排出抑制が達成されるよう、事業主体等に対して指導等を行う必要がある。

(イ) アスリート・観客の暑さ対策の推進

各府省等は、大会が暑さの厳しい時期に開催され、日本特有の暑さを知らない多くの外国人が訪れることが予定されるため、「東京2020に向けたアスリート・観客の暑さ対策に係る関係府省庁等連絡会議」による中間取りまとめ(平成27年9月公表)を踏まえて具体的な取組内容を定めている。上記の中間取りまとめによれば、暑さ対策は、①競技会場等の暑さ対策、②多様な情報発信の実施、③救急医療体制の整備及び④暑さ対策に係る技術開発や熱中症対策等に係る予測技術開発等の四つに分けられる。

これらのうち国の機関による主な取組内容には、国土交通省における路面温度上昇抑制機能を有する舗装の整備等(上記の①に関連)、環境省、厚生労働省、国土交通省等における熱中症等に係る多様な情報発信(同②に関連)、農林水産省及び国土交通省における暑さ対策・熱中症対策等に係る予測技術開発(同④に関連)等がある。また、東京都は、国土交通省から交付される社会資本整備総合交付金等による支援を受けるなどして、都道について路面温度上昇抑制機能を有する舗装の整備等を実施している。

上記取組のうち、路面温度上昇抑制機能を有する舗装の整備状況をみると、国土交通省は、大会において公道を利用した競技(陸上競技(マラソン及び競歩)、トライアスロン及び自転車競技(ロードレース))が行われることから、道路分野におけるアスリートや観客への暑さ対策を検討するために、27年4月に、東京都、大会組織委員会、有識者等をメンバーとする「アスリート・観客にやさしい道の検討会」(以下「検討会」という。)を設置していて、検討会は、全4回にわたり会議を開催している。また、検討会は、28年8月に、東京都渋谷区表参道の一般国道246号のうち青山学院前交差点から南青山五丁目交差点までの約300mの区間において、国土交通省がそれぞれ70mずつ施工した通常の密粒舗装、保水性舗装、排水性舗装及び遮熱性舗装を用いて、競技が実施される夏季における気象データ等を収集するとともに、競技経験者である検討会の委員等が試走するなどの現地試走会を実施して効果を検証した。そして、検討会は、同年10月に、現地試走会の結果等を「アスリート・観客にやさしい道づくりに向けた提言」として取りまとめている。

上記の提言によると、アスリートを対象とした車道上の環境整備として路面温度上昇抑制機能を有する舗装の整備により対策を行うこととして、遮熱性舗装を積極的に採用し、継続的に散水が実施できる地区においては保水性舗装を選択することも可能であるとされている。

東京都は、従来、ヒートアイランド対策の一環として遮熱性舗装及び保水性舗装の導入を実施していて、都道については、社会資本整備総合交付金等を活用して通常の路面補修工事等の際にこれらの舗装を施工し、また、市区道については、各市区が整備を実施する際に、同交付金等に上乗せして都費による補助を行うことにより、各市区が遮熱性舗装又は保水性舗装を整備できるよう支援している。

一方、国土交通省は、大会組織委員会による競技コースの決定後に路面温度上昇抑制機能を有する舗装の具体的な整備箇所を検討するとしているが、29年度末現在、大会組織委員会において競技コースが決定されていないため、整備を実施していないとしている。

国土交通省は、競技コースについて路面温度上昇抑制機能を有する舗装の整備等を計画的・効率的に実施するために、大会組織委員会及び地方自治体と連携を密にするなどして整備を行えるようにする必要がある。

エ 「メダル獲得へ向けた競技力の強化」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「メダル獲得へ向けた競技力の強化」に係る大会の関連施策は、文部科学省及び防衛省が実施した「競技力の向上」「強化・研究拠点の在り方」等の4施策に係る計16事業であり、図表5-13のとおり、25年度から29年度までの支出額は計615億余円となっている。このうち、文部科学省が593億余円(615億余円の96.3%)となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表5-13 「メダル獲得へ向けた競技力の強化」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
文部科学省 13 5,410 6,874 10,610 15,006 21,421 59,323 (96.3%)
防衛省 3 2 356 358 126 1,376 2,220 (3.6%)
合計 16 5,413 7,231 10,969 15,132 22,797 61,544 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。
注(3)
「支出額」には、両省が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「メダル獲得へ向けた競技力の強化」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

文部科学省は、スポーツ基本法(平成23年法律第78号)に基づき、24年度から10年間程度を見通した上でのおおむね5年間の期間に係る計画としてスポーツ基本計画(平成24年3月30日文部科学省策定。以下「第1期スポーツ基本計画」という。)を策定している。そして、第1期スポーツ基本計画に続き、29年度から33年度までの5年間におけるスポーツ立国を目指す上での指針として、第2期スポーツ基本計画(平成29年3月24日文部科学省策定。以下、第1期スポーツ基本計画と合わせて「スポーツ基本計画」という。)を策定している。

スポーツ基本計画において、国際競技力の向上に向けた人材育成や環境整備について、国際競技大会において優れた成績を上げる競技数が増加するよう、各競技団体が行う競技力の強化を支援することとなっていることから、文部科学省は、競技力の向上に向けた各種支援を実施している。なお、文部科学省は、冬季のオリンピック・パラリンピック競技大会に向けた各種支援についても、大会に向けた機運醸成に直接資する事業であることから、大会の関連施策として整理している。

このうち、大会の円滑な準備及び運営に資するための課題等が見受けられたものは、次のとおりである。

(ア) 競技力の向上

文部科学省は、25年度から29年度までの間に、スポーツ基本計画等に基づき、我が国の国際競技力を強化していくため、競技用具の機能を向上させる技術等の研究開発等を、25年度から28年度までは「ハイパフォーマンスサポート事業」等により、29年度は研究開発に加えてハイパフォーマンスに関する情報を収集して分析する体制の整備及び関連する取組を実施する「ハイパフォーマンスセンターの基盤整備」により、それぞれ行っている。「ハイパフォーマンスセンター」は、JSCが、28年4月に、国立スポーツ科学センター(以下「JISS」という。)とNTCにあるスポーツ医・科学研究、スポーツ医・科学・情報サポート、トレーニング場等の機能を、オリンピック競技とパラリンピック競技とを一体的に捉えて構築したものである。文部科学省は、「ハイパフォーマンスサポート事業」等及び「ハイパフォーマンスセンターの基盤整備」について、25年度から28年度までは国立大学法人筑波大学等延べ3大学、29年度はJSCとの間で委託契約を締結して実施している(25年度から29年度までの支出額計57億2981万余円)。研究開発等の対象競技は、次期オリンピック・パラリンピック競技大会においてメダル獲得が期待される競技とされており、過去のオリンピック・パラリンピック競技大会での成績、競技団体が策定する強化戦略プラン、アスリートの状況、国際的なスポーツ動向等を総合的に評価して選定されている。

a 研究開発の実施状況

25年度から29年度までの研究開発の実施状況についてみると、図表5-14のとおり、開発途中で中止となっていたものは、25年度2件(中止までの累積開発費計2602万余円)、26年度2件(同計1632万余円)、27年度4件(同計4422万余円)、28年度4件(同計6124万余円)、29年度1件(同1379万余円)であり、文部科学省等は、中止の理由について、研究開発対象競技等の見直しにより開発途中で研究開発の対象外となったこと、市販品が販売されて開発の必要がなくなったことなどによるとしている。

図表5-14 研究開発の年度別の状況

(単位:件)
年度 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
研究開発数   うち   うち   うち   うち   うち
52 夏季
45
冬季
7
57 夏季
50
冬季
7
86 夏季
71
冬季
15
86 夏季
63
冬季
23
24 夏季
16
冬季
8
中止数   うち   うち   うち   うち   うち
2 夏季
2
冬季
0
2 夏季
2
冬季
0
4 夏季
4
冬季
0
4 夏季
0
冬季
4
1 夏季
1
冬季
0
完了数   うち   うち   うち   うち   うち
2 夏季
0
冬季
2
4 夏季
4
冬季
0
6 夏季
6
冬季
0
65 夏季
56
冬季
9
4 夏季
0
冬季
4
翌年度に継続   うち   うち   うち   うち   うち
48 夏季
43
冬季
5
51 夏季
44
冬季
7
76 夏季
61
冬季
15
17 夏季7 冬季
10
19 夏季
15
冬季
4
(注)
平成26年度から28年度までの「研究開発数」欄は、前年度の「翌年度に継続」欄の件数に、当該年度の新規研究開発数を加えた件数であるが、29年度の「研究開発数」欄については、28年度からの研究開発課題の統廃合等の結果を反映した件数になっている。

このうち、28年にリオデジャネイロで開催された第31回オリンピック競技大会及び第15回パラリンピック競技大会(以下「リオ大会」という。)に向けた夏季競技用の研究開発課題81件に係るリオ大会前及びリオ大会中の活用状況についてみると、図表5-15のとおり、リオ大会前に活用されなかったものは、オリンピック競技で計15件(累積開発費計6億2288万余円)、パラリンピック競技で計2件(同計2037万余円)となっていた。

リオ大会前に活用されなかった主な理由について、文部科学省等は、競技団体から利用要望が取り下げられたこと、要望する性能に達しなかったこと、成果品の安全性が確保されていないこと、JISSで開発した別のシステムを利用することとしたことなどによるとしている。

図表5-15 研究開発の成果の活用状況

(単位:千円)
リオ大会前 リオ大会中
オリンピック競技 活用されたもの 件数 44 活用されたもの 件数 23
金額 1,450,990 金額 1,131,508
一部活用されなかったもの 件数 3 活用されなかったもの 件数 1
金額 119,488 金額 42,552
活用されなかったもの 件数 15 一部活用されなかったり、「その他」に該当したりするもの 件数 1
金額 622,880 金額 15,890
  うち開発途中で中止したもの 件数 5 その他(注) 件数 37
金額 45,515 金額 1,003,408
パラリンピック競技 活用されたもの 件数 16 活用されたもの 件数 10
金額 637,315 金額 393,154
一部活用されなかったもの 件数 1 活用されなかったもの 件数 1
金額 24,567 金額 24,567
活用されなかったもの 件数 2 その他(注) 件数 8
金額 20,376 金額 264,537
(注)
その他には、リオ大会で使用しないトレーニング用具等が含まれている。

リオ大会前に活用されなかったものについて、事例を示すと次のとおりである。

<事例2> 競技団体から利用要望が取り下げられたため活用されなかったもの

国立大学法人東京工業大学は、文部科学省からの委託を受けて、コンディショニング等に関する研究開発を平成27年度3億9740万余円、28年度3億6570万余円で実施している。

このうち、日本身体障害者アーチェリー連盟(平成29年4月10日以降は一般社団法人日本身体障害者アーチェリー連盟)からの依頼を受けて開発した行射姿勢のフュージョン計測に基づくフィードバックシステム(累積開発費807万余円)は、28年5月までに同システムが完成したが、競技パフォーマンスへのマイナス面の影響を考慮し、同連盟が同システムの利用要望を取り下げたため、リオ大会(パラリンピック競技大会の開催は同年9月)に向けたトレーニングには使用されなかった。

<事例3> 要望する性能に達しなかったため活用されなかったもの

国立大学法人筑波大学は、文部科学省からの委託を受けて、競技用具・器具等に関する研究開発を平成25年度から28年度まで計37億5846万余円で実施している。

このうち、各種競技の選手がトレーニングに活用するために、23年度に開発されNTCに設置されている体幹トレーニングマシンの小型化等を目指した小型下肢・体幹トレーニングマシン(累積開発費1億9517万余円)は、マシン周囲の危険回避や誤作動の防止のための措置等が、JOCが要望する性能に達しなかったため、リオ大会に向けたトレーニングには使用されなかった。

上記のような事態を防ぐためには、研究開発の終了時の評価等を適切に実施するなどして、その評価結果を大会に向けた研究開発等、将来の研究開発の実施に活用する必要がある。なお、29年度からは、有効性、実現可能性等を踏まえてより適切に研究開発ができるよう、事業の受託者であるJSCにおいて、外部の専門家から構成される選定委員会及び評価委員会を設置して、研究開発課題の適切な選定や、中間評価を行う体制を整備するとともに、競技団体から成果の活用等についての関係書類の提出を求めることとしている。

b 評価の実施状況

文部科学省の所掌に係る研究開発について評価を遂行する上での基本的な考え方をまとめたガイドラインである「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成14年6月)によれば、重点的資金による研究開発課題の評価の実施に当たっては、研究開発課題を企画立案し、実施して、点検し評価するとともに、その結果を研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等に適切に反映するという循環過程を構築することとされている。また、評価は、原則として外部の専門家を評価者とする外部評価により実施し、必要に応じて第三者評価を活用することとされている(以下、外部評価と第三者評価を合わせて「外部評価等」という。)。

しかし、同省及び受託者における「ハイパフォーマンスセンターの基盤整備」等で実施された研究開発の評価の状況をみると、25年度から28年度までに終了した研究開発課題の終了時の外部評価等については、リオ大会等に向けた各種のアスリートサポートの効果等を総括した報告書の中で、研究開発についての概括的な評価が行われているものの、個々の研究開発課題についての評価は行われていなかった。なお、29年度の受託者であるJSCは、大会及び34年に北京で開催予定の第24回オリンピック冬季競技大会及び第13回パラリンピック冬季競技大会向けの研究開発課題について、前記のとおり、外部の専門家から構成される評価委員会において中間評価を行うこととしているが、終了時に外部評価等を行うこととはしていない。

同省は、研究開発の評価結果を研究開発の計画等に適切に反映するという循環過程を構築するために、前記の指針の趣旨を踏まえて、本委託事業の評価において、終了時の外部評価等の導入を検討する必要がある。

(イ) 強化・研究拠点の在り方

a トップアスリートにおける強化・研究活動拠点の概要

JSCは、トップアスリートの競技力強化のために、スポーツ医・科学研究の中枢機関であるJISS及びトップアスリートが同一拠点で集中的・継続的にトレーニング・強化活動を行うための場所として設置されたNTCの管理運営を行っている。

また、NTCのみでは対応できない冬季競技や、屋外系競技等について、文部科学省は、既存のトレーニング施設をナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設(以下「競技別NTC」という。)に指定して、ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設活用事業を競技別NTCの設置者や、指定管理者等に委託して実施している。

そして、オリンピック競技とパラリンピック競技の強化・研究活動拠点の機能強化やその在り方について27年1月に有識者会議が取りまとめた最終報告(以下「最終報告」という。)を受けて、(ア)のとおり、JSCは、28年4月に、ハイパフォーマンスセンターを構築している。

b NTC拡充棟の整備

文部科学省は、最終報告を受けて、既存のNTCの狭あい化が強化活動の支障になるとして、パラリンピック競技との共同利用を想定したNTC拡充棟(延べ床面積約29,956m2)を図表5-16のとおり整備している。

図表5-16 NTC拡充棟に関する平成29年度までの契約に係る整備状況

(単位:千円)
区分 契約金額 支払額 平成29年度末時点の状況
設計 基本設計 69,552 69,552 完了
実施設計 162,494 162,494 完了
設計意図伝達 8,964 8,964 完了
設計履行確認業務 20,196 20,196 完了
工事監理 18,360 - 実施中
本体工事 建築工事 14,435,280 3,101,494 基礎(地下)工事中
機械設備工事 3,179,520 - 工事準備中
電気設備工事 1,636,200 - 工事準備中
その他作業費 723 723 完了
調査経費 12,992 12,992 完了
その他事務経費 2,755 2,755 完了
19,547,038 3,379,172  

本体工事は、完成期限を31年5月31日としていたが、建設予定地となる都庁舎跡地において、地下埋設物が発見されたことにより、東京都とJSCとの土地売買契約(契約金額46億6800万円)の時期が遅延したことに伴い、本体工事の着手に遅れが生じたため、完成期限を31年6月30日に変更している。

c NTC及びJISSの施設の利用状況と共同利用化の状況

NTCには、陸上競技等14競技のトレーニング施設、宿泊施設であるアスリートヴィレッジ等があり、JOCがこれらについて年間専用利用の申請を行うなどして、競技団体等が利用している。また、JISSには、射撃等2競技のトレーニング施設や、宿泊施設等があり、競技団体や、JOC等が利用の申請を行うなどして、競技団体等が利用している。

NTC及びJISSのトレーニング施設及び宿泊施設の利用状況をJOC及びJSCに確認したところ、25年度から29年度までの間の稼働率は、図表5-17のとおり、トレーニング施設が88.2%から91.4%、宿泊施設が46.7%から61.5%となっていた。

図表5-17 NTC及びJISSのトレーニング施設等の稼働率

(単位:%)
施設名 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
トレーニング施設(16競技) 88.2 91.4 89.9 88.4 90.7
宿泊施設
  アスリートヴィレッジ 59.0 61.7 56.6 45.5 50.9
JISS内宿泊室 53.7 60.3 55.7 53.9 54.8
宿泊施設全体 58.2 61.5 56.5 46.7 51.4
(注)
宿泊施設の稼働率については、年間宿泊可能人日数(宿泊可能日数に宿泊施設定員数を乗じたもの)に対する年間宿泊人日数の割合で算定している。

NTC及びJISSの施設は、オリンピック競技大会でのメダル獲得を始めとする我が国の国際競技力の向上を目的として、それぞれ19年度、12年度に設置された施設であるが、26年度にスポーツ振興の観点から行う障害者スポーツに関する事業が厚生労働省から文部科学省に移管されたことなどを踏まえて、最終報告においては、NTC及びJISSの施設について、オリンピック競技とパラリンピック競技の共同利用化が提言されている。そこでNTC及びJISSの施設の共同利用化の状況についてみると、28年度に、独立行政法人日本スポーツ振興センターナショナルトレーニングセンター利用規程が改正され、共同利用に当たっては、各競技団体の利用計画を踏まえて、JOCとJPCで利用調整を行うことになった。

そして、トレーニング施設については、29年度は水泳等七つのパラリンピック競技で図表5-18のとおり、延べ2,826人(施設の利用延べ人数の1.7%)が利用しており、競技によっては、上記の利用規程が改正された28年度よりも前から、オリンピック競技とパラリンピック競技のトップアスリートが共同でトレーニングを行うなどの利用が行われていた。また、宿泊施設については、水泳等八つのパラリンピック競技で図表5-18のとおり、延べ1,804人(施設の利用延べ人数の1.8%)が利用していた。

図表5-18 NTC及びJISSのトレーニング施設等の利用状況

(単位:人)
施設名 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
トレーニング施設(16競技)   183,386     195,829     185,083     156,493     164,035  
  うちパラ利用 415 (0.2%) 962 (0.4%) 1,233 (0.6%) 3,672 (2.3%) 2,826 (1.7%)
宿泊施設
  アスリートヴィレッジ   96,321     100,658     92,659     74,337     83,017  
  うちパラ利用   -   -   - 429 (0.5%) 486 (0.5%)
JISS内宿泊室   15,860     16,287     15,858     14,739     14,968  
  うちパラ利用   -   - 403 (2.5%) 616 (4.1%) 1,318 (8.8%)
宿泊施設全体   112,181     116,945     108,517     89,076     97,985  
  うちパラ利用   -   - 403 (0.3%) 1,045 (1.1%) 1,804 (1.8%)

前記のとおり、最終報告において、NTC及びJISSの施設について、オリンピック競技とパラリンピック競技の共同利用化が提言されたことから、パラリンピック競技のトップアスリートの利便性の向上を図るために、NTC及びJISSの施設のバリアフリー化等の改修が行われており、また、大会に向けて、ユニバーサルデザインを採用したNTC拡充棟の新設工事が実施されている。

文部科学省は、このような状況を踏まえて、オリンピック競技とパラリンピック競技の共同利用化を一層推進していく必要がある。

d 競技別NTCの状況

夏季競技及び高地トレーニングに係る競技別NTCの指定年月日及び28年度の事業費の内訳についてみると、図表5-19のとおりとなっている。

図表5-19 競技別NTC(夏季競技及び高地トレーニング)の指定年月日及び平成28年度事業費の内訳

図表5-19 競技別NTC(夏季競技及び高地トレーニング)の指定年月日及び平成28年度事業費の内訳 画像

事業費の主な費目の内容をみると、借損料は、施設専有利用料、機器・物品・設備等の借料やリース料である。

また、設備備品費は、トップアスリート等が行う専門的・科学的なトレーニングに必要となる機器等の整備に要する経費である。ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設活用事業の実施により設備備品費で取得した機器等の所有権は、事業完了後に国に移転されるが、同事業の受託者が所要の手続を行った場合には、当該機器等を事業完了後の年度においても引き続き国から無償で借り受けて、競技団体が行う強化活動に活用することができることとなっている。そこで、10施設の事業完了後の年度における活用状況についてみたところ、1施設において、委託事業完了後に国から無償貸付を受けた機器が活用されていない事態が見受けられた。この事態について示すと次のとおりである。

<事例4> 国から無償貸付を受けた機器が活用されていないもの

文部科学省は、平成21年に財団法人日本サイクルスポーツセンター(24年12月3日以降は一般財団法人日本サイクルスポーツセンター。以下「サイクルセンター」という。)の施設を自転車競技に係る競技別NTCに指定した上で、24、25両年度にナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設活用事業を24年度は1447万余円、25年度は1479万余円でサイクルセンターに委託している。そして、サイクルセンターは、事業に必要であるとして24年度に自転車に装着して選手のペダリングの速度等を測定・解析する高精度ペダリング解析デバイス2台(取得価格1000万円)及び25年度に同機器1台(同600万円)をそれぞれ購入している。購入の経緯についてみると、同機器の使用を財団法人日本自転車競技連盟(25年4月1日以降は公益財団法人日本自転車競技連盟。以下「自転車連盟」という。)が強く求めたためとしており、自転車連盟が作成した強化戦略プランにおいても、同機器を使用し、選手の競技力強化に当てることが記載されている。そして、委託事業完了後に、その所有権は文部科学省に移転されたが、サイクルセンターは必要な機器であるとして、文部科学省へ申請を行い、無償貸付を受けている。

同機器について、サイクルセンターは、自らの事務所に保管し、自転車連盟から使用要望があった場合に使用させることとしていた。

しかし、自転車連盟は、27年6月に使用したのを最後に会計検査院が会計実地検査を行った29年11月まで、約2年半の間、同機器を使用していなかった。自転車連盟によれば、事務担当者等の交代の際サイクルセンターが同機器を保有している事実が引き継がれていなかったためとしている。

なお、サイクルセンターは、今後、自転車連盟に対して同事実の周知を積極的に行うとしており、自転車連盟も選手の競技力強化の一環として、同機器を活用していきたいとしている。

次に、冬季競技に係る競技別NTCの28年度の事業費の内訳についてみると、図表5-20のとおりとなっている。主な費目の内容をみると、ボブスレー・リュージュの指定施設に係る費目の内訳は、整氷作業や、冷凍設備保守等の費用である雑役務費6833万余円、光熱水費1471万余円等となっている。また、ショートトラックの指定施設に係る同費目の内訳は、スケートリンク専有使用料等である借損料3500万余円等となっているなど、冬季競技においては、国際競技大会と同一の競技環境を整備するために、多額の費用が必要となるものがある。

図表5-20 競技別NTC(冬季競技)の指定年月日及び平成28年度の事業費の内訳

図表5-20 競技別NTC(冬季競技)の指定年月日及び平成28年度の事業費の内訳 画像

指定年月日をみると、図表5-19及び5-20のとおり、夏季競技のうちオリンピック競技は20年度から、パラリンピック競技は26年度から、また、冬季競技のうちオリンピック競技は19年度から、パラリンピック競技は27年度から、それぞれ既存のトレーニング施設が競技別NTCに指定されている。

オ 「アンチ・ドーピング対策の体制整備」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「アンチ・ドーピング対策の体制整備」に係る大会の関連施策は、図表5-21のとおり、文部科学省が実施する2事業であり、25年度から29年度までの支出額は計10億余円となっている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表5-21 「アンチ・ドーピング対策の体制整備」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
文部科学省 2 188 212 180 191 235 1,007
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。
注(3)
「支出額」には、文部科学省が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「アンチ・ドーピング対策の体制整備」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

17年10月に開催された第33回国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)総会において、「スポーツにおけるドーピング防止に関する国際規約」(以下「国際規約」という。)が採択され、我が国も締約国となった。国際規約は、競技者が禁止物質を使用するなどのドーピングを撲滅することを目的とするものであり、締約国に対して世界ドーピング防止機構(以下「WADA」という。)が策定した「世界アンチ・ドーピング規程」に適合した措置を執ること、WADA等のドーピング防止に取り組んでいる国際機関と国際協力を促進することなどを求めている。

文部科学省は、国際規約の義務を確実に履行するために、19年5月に「スポーツにおけるドーピングの防止に関するガイドライン」を策定し、国内のアンチ・ドーピング活動を行う機関として公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(以下「JADA」という。)を指定し、JADAが行うアンチ・ドーピング活動に対して必要な支援を行うこととしている。また、23年に成立して、施行されたスポーツ基本法によれば、国は、JADAと連携を図りつつ、ドーピングの検査、ドーピングの防止に関する教育及び啓発その他のドーピングの防止活動の実施に係る体制の整備、国際的なドーピングの防止に関する機関等への支援その他の必要な施策を講ずることとされている。これらのことから、文部科学省は、ドーピング防止活動推進事業として毎年度JADA等と委託契約を締結して、競技者等への研修、ドーピング検査員(以下「DCO」という。)の人材育成、ドーピング検査技術の研究開発等を実施している(25年度から29年度までの委託契約に係る支払額計8億9689万余円)。

大会開催時のドーピングコントロールの体制は図表5-22のとおりであり、大会組織委員会が検査対象となったアスリートから尿等の検体を採取するドーピング検査を行い、WADAが認定した分析機関が採取した検体中の禁止物質等の含有を検証する検体分析を行い、IOC及びIPCが分析の結果に基づき措置を講ずる結果管理を行うこととなっている。そして、大会開催時は短期間に多数の検体を検査するなどの必要があり、通常JADAが行っているドーピングコントロールの体制では対応できないことが想定されるため、DCO等の必要な人材の確保や分析機関の追加整備等について、大会組織委員会とJADAが相互に連携して運営準備を進めていくこととしている。

図表5-22 大会開催時のドーピングコントロールの体制

図表5-22 大会開催時のドーピングコントロールの体制 画像

このうち、DCOの人材育成について、大会の円滑な準備及び運営に資するための課題等が次のとおり見受けられた。DCOは、JADAが文部科学省から委託を受けて開催する養成講習を受けて、審査を経て新規の認定又は認定の更新を受ける必要があり、認定を受けた者の中から更に大会組織委員会の選抜審査を受けた上で大会のDCOとして従事することになる。DCOの認定を受けている者の人数について、25年度から29年度までの推移をみると図表5-23のとおりであり、29年度は269名となっており、毎年度減少している。文部科学省が設置した「アンチ・ドーピング体制の構築・強化に向けたタスクフォース」が24年にロンドンで開催された第30回オリンピック競技大会及び第14回パラリンピック競技大会時の実績等を基に行った試算によれば、大会開催時にはドーピング検査室責任者を含むDCOが約500名程度必要であるとされていることから、29年度末時点では大幅に不足している状況である。また、現在認定されているDCOについても、28年度以前は認定に当たり英語等でコミュニケーションが可能な者が望ましいとされていたものの、一定の語学力を有することが要件とされていなかったことから、大会に向けて語学力の向上を図る必要がある。

文部科学省によると、DCOについては本業のある者がその合間にDCOとして検査活動を行っており、本業等の都合で年間を通じて十分な回数の検査活動に従事することが困難になったDCOが認定の更新を行わないことなどによりDCOの認定を受けている者の人数が減少しているものの、年間を通じて安定的に検査活動に従事できるDCOを確保できるようになってきており、我が国におけるドーピング検査は毎年度6,000件程度(世界で上位10位以内の検査件数)が安定的に実施されているとしている。一方、30年度(ドーピング防止活動推進事業の予算額2億9591万余円)においては、一定の語学力を有することを要件とした上で、DCOの養成研修の規模拡大による新規認定者数の増加を図るとともに、語学研修や模擬検査等の実施により資質向上を図ることとしている。文部科学省は、ドーピング防止活動推進事業の実施により、大会に必要なDCOの人数を確保して、大会の円滑な準備及び運営に資するよう、引き続きDCOの養成に取り組んでいく必要がある。

図表5-23 DCOの認定を受けている人数及び検査実績の推移(平成25年度~29年度)

(単位:人、件)
項目 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
DCOの既認定者数 328 322 299 276 269
うち新規認定者数 9 11 9 11 16
ドーピング検査数 6,810 6,366 5,641 6,322 6,025
(注)
DCOの既認定者数には、DCOへ指導監督を行うシニアDCOを含む。
カ 「新国立競技場の整備」に係る大会の関連施策の実施状況

(新国立競技場の整備については、1(3)ア及び別図表1参照

キ 「教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成」に係る大会の関連施策は、外務省及び文部科学省が実施した「国内のオリンピック・パラリンピック・ムーブメントの普及」等の4施策に係る計16事業であり、図表5-24のとおり、25年度から29年度までの支出額は計65億余円となっている。このうち、文部科学省が48億余円(65億余円の73.0%)となっていて、その多くを占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表5-24 「教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
外務省 8 24 281 516 585 368 1,776 (26.9%)
文部科学省 8 - 945 1,069 1,638 1,162 4,815 (73.0%)
合計 16 24 1,226 1,585 2,223 1,531 6,591 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。
注(3)
「支出額」には、両省が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

両省が29年度までに実施した大会の関連施策のうち、国内のオリンピック・パラリンピック・ムーブメントの普及について、大会の円滑な準備及び運営に資するための課題等が次のとおり見受けられた。

オリンピック憲章によると、オリンピック・ムーブメントの目的は、オリンピズムとオリンピズムの価値にのっとって実践されるスポーツを通じて、若者を教育することにより、平和でより良い世界の構築に貢献することとなっており、また、パラリンピック・ムーブメントの目的は、IPCによると、パラリンピックアスリートが発揮した勇気、強い意志、公平及びインスピレーションの四つの価値を発揮して、人々の障害に対する意識を変えて、社会の変革を推進することとなっている。また、オリパラ基本方針においても、大会開催を契機に、オリンピック・パラリンピック教育(以下「オリパラ教育」という。)の推進によるスポーツの価値や効果の再認識を通じて、国際的な視野を持って世界の平和に向けて貢献できる人材を育成することとなっている。

これらを踏まえて、文部科学省、東京都及び大会組織委員会は、オリンピック・パラリンピックに関する歴史、競技種目、精神、意義等の知識やオリンピック・パラリンピックを契機としたスポーツの価値、我が国の社会全体や地域の課題、国際社会の状況等を学ぶオリパラ教育を全国的に推進して、大会に向けた全国的な機運の醸成に取り組むこととしている。29年度末に改訂された小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領においても、オリンピック・パラリンピックに関する記載が強化され、小学校は32年度、中学校は33年度の全面実施に向けて、30年度から移行期間として検討が進められている。

東京都は、26年度からオリパラ教育を行う公立の幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校、高等学校及び特別支援学校(以下、これらを合わせて「公立学校」という。)を指定するなどの取組を進めており、28年度からは都内の全ての公立学校において、各学校の特色をいかしたオリパラ教育を年間35時間程度を目安に実施することとしている。

そして、全国へのオリパラ教育の推進については、文部科学省と大会組織委員会が取り組んでいる。文部科学省は、各道府県や政令指定都市等と委託契約を締結してオリパラ教育を実施する推進校を選定して、全国の学校でオリパラ教育を実施することにより、全国的な大会の機運醸成を図るオリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業(27年度はオリンピック・パラリンピック・ムーブメント調査研究事業。以下「オリパラ全国展開事業」という。27年度から29年度までの支出額計5億8791万余円)を27年度から実施している。また、大会組織委員会は、28年10月から東京2020教育プログラムを開始して、オリパラ教育に取り組む学校を認証校として認証するなどしている。

29年度のオリパラ全国展開事業と東京2020教育プログラムの連携体制を示すと図表5-25のとおりであり、オリパラ全国展開事業の推進校を原則として東京2020教育プログラムの認証校に申請することとしたり、文部科学省を経由して各都道府県及び政令指定都市の各学校主管部局に対して、東京2020教育プログラムへの申請について周知を行ったりなどしている。

図表5-25 オリパラ全国展開事業と東京2020教育プログラムの連携体制(平成29年度)

図表5-25 オリパラ全国展開事業と東京2020教育プログラムの連携体制(平成29年度) 画像

オリパラ教育の実施形態としては、オリパラ全国展開事業及び東京2020教育プログラム以外に、各地方自治体が独自にオリパラ教育を推進する事業を実施している場合がある。東京都を除く46道府県及び20政令指定都市(計66自治体)の公立学校における29年度のオリパラ教育の実施状況をみると、図表5-26のとおり、47自治体(66自治体の71.2%。うち都外自治体は12自治体)が実施しており、このうち22自治体はオリパラ全国展開事業によりオリパラ教育を実施している。一方、19自治体(同28.7%。都外自治体はなし)はオリパラ教育を全く実施していない。このように、都外自治体では29年度までにオリパラ教育が実施されているものの、全国でみると実施していない地方自治体が一定程度ある状況となっている。

図表5-26 46道府県及び20政令指定都市の公立学校におけるオリパラ教育の実施状況(平成29年度)

実施している自治体数   実施していない自治体数
  うち10校以上で実施している自治体数
  (うちオリパラ全国展開事業を実施)   (うちオリパラ全国展開事業を実施)
  (計に対する割合)   (計に対する割合)   (計に対する割合)
都外自治体 12 (100.0%) 7 10 (83.3%) 6 0 - 12
都外自治体以外 35 (64.8%) 15 22 (40.7%) 8 19 (35.1%) 54
道府県及び政令指定都市の計 47 (71.2%) 22 32 (48.4%) 14 19 (28.7%) 66
(注)
会計検査院が46道府県及び20政令指定都市に調査を行った結果である。

文部科学省によると、オリパラ全国展開事業は30年度に35自治体で実施する予定であるとしており、32年度には66自治体全てで実施できるよう段階的に実施対象を増やしていくとしている。大会組織委員会が29年度に行った全国の小学校を対象としたマスコット投票には全国の約16,000校の小学校が参加していることから、これらを大会に向けた機運醸成の契機として、文部科学省は、引き続き各地方自治体に対してオリパラ全国展開事業の実施の意義等を周知していくことが必要である。

ク その他の大会の円滑な準備及び運営に資する大会の関連施策の実施状況

アからキまでのほか、29年度までに実施された大会の円滑な準備及び運営に資する大会の関連施策は、総務省等の6省が実施した「東京パラリンピック競技大会開催準備」等の9施策に係る計8事業であり、図表5-27のとおり、25年度から29年度までの支出額は計308億余円となっている。このうち、平成29年度一般会計補正予算により文部科学省が東京都へ交付したパラリンピック交付金300億円が全体の97.3%となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照。パラリンピック交付金については1(2)イ(イ)参照)。

図表5-27 その他の大会の円滑な準備及び運営に資する大会の関連施策の支出額(平成25度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
総務省 1 - - - - 193 193 (0.6%)
財務省 1 (※)- (※)- (※)- (※)- (※)- (※)- -
文部科学省 1 - - - - 30,000 30,000 (97.3%)
厚生労働省 1 - - - 35 44 80 (0.2%)
国土交通省 1 - - 157 72 75 305 (0.9%)
防衛省 3 0 2 5 192 50 251 (0.8%)
合計 8 0 2 162 300 30,364 30,830 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。
注(3)
「支出額」には、各省が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。なお、文部科学省が東京都へ交付したパラリンピック交付金(300億円)については、全額を計上している。
注(4)
その他の大会の円滑な準備及び運営に資する大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

(3) 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策の状況

 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策は、第1の2(2)アのとおり、大会開催を契機に、大会終了後に残すべきレガシーの創出を意識して国として取り組む施策であり、図表6-1のとおり、12府省等において25年度から29年度までに7分野の25施策に係る計136事業が実施されており、この支出額は計2130億余円となっている。オリパラ基本方針における7分野ごとにその支出額をみると、「ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー」に係る大会の関連施策の633億余円が最も多く、次いで「日本文化の魅力の発信」に係る大会の関連施策の627億余円となっている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表6-1 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 分野
被災地の復興・地域活性化(4施策) 日本の技術力の発信(7施策) 外国人旅行者の訪日促進(2施策) 日本文化の魅力の発信(4施策) スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現(2施策) 大会を弾みとした健康増進・受動喫煙防止(1施策) ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー(5施策) 事業数 支出額
事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額   (合計に占める割合)
内閣 2 66 0 - 0 - 2 637 0 - 0 - 3 66 7 769 (0.3%)
内閣府 0 - 4 10,395 1 5 1 118 0 - 0 - 2 383 8 10,904 (5.1%)
復興庁 2 0 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 2 0 (0.0%)
総務省 0 - 14 23,723 0 - 0 - 0 - 0 - 1 12 15 23,735 (11.1%)
法務省 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 1 18 1 18 (0.0%)
外務省 0 - 0 - 0 - 8 50,237 0 - 0 - 0 - 8 50,237 (23.5%)
財務省 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - -
文部科学省 0 - 0 - 0 - 4 6,140 18 5,339 0 - 1 109 23 11,589 (5.4%)
厚生労働省 0 - 2 584 0 - 2 264 0 - 0 - 9 31,008 13 31,857 (14.9%)
農林水産省 0 - 1 (※)- 0 - 9 4,068 0 - 0 - 4 1,335 14 5,404 (2.5%)
経済産業省 4 799 4 16,923 0 - 9 1,072 0 - 0 - 0 - 17 18,794 (8.8%)
国土交通省 0 - 0 - 4 29,093 1 203 0 - 0 - 21 30,409 26 59,706 (28.0%)
環境省 0 - 1 (※)- 0 - 1 (※)- 0 - 0 - 0 - 2 (※)- -
防衛省 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - -
合計 8 866 26 51,627 5 29,099 37 62,742 18 5,339 0 - 42 63,343 136 213,018 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。
注(3)
「支出額」には、各府省等が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

そして、7分野ごとにその実施状況等をみると、次のとおりである。

ア 「被災地の復興・地域活性化」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「被災地の復興・地域活性化」に係る大会の関連施策は内閣等の3省等が実施した「ホストタウンの推進」等の4施策に係る計8事業であり、図表6-2のとおり、25年度から29年度までの支出額は計8億余円となっている。このうち、経済産業省が7億余円(8億余円の92.2%)となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表6-2 「被災地の復興・地域活性化」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
内閣 2 - - - 16 49 66 (7.6%)
復興庁 2 - - - 0 (※)- 0 (0.1%)
経済産業省 4 (※)- (※)- (※)- 799 (※)- 799 (92.2%)
合計 8 (※)- (※)- (※)- 817 49 866 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。
注(3)
「支出額」には、各省等が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「被災地の復興・地域活性化」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

オリパラ基本方針によれば、大会開催の機会を国全体で最大限いかし、「復興五輪」として、東日本大震災からの復興の後押しとなるよう被災地と連携した取組を進めるとともに、被災地が復興を成し遂げつつある姿を世界へ発信すること、大会を国民総参加による日本全国の祭典とし、全国津々浦々にまで大会の効果を行き渡らせ、地域活性化につなげることなどとされている。26年7月には大会組織委員会が中心となり、東京都、岩手、宮城、福島各県、オリパラ事務局、復興庁等を構成員とした被災地復興支援連絡協議会が設置され、大会が復興の後押しとなるよう3県と連携した取組を検討している。

各省等が29年度までに実施した大会の関連施策のうち、ホストタウンの推進について、大会終了後のレガシーの創出に資するための課題等が次のとおり見受けられた。

オリパラ基本方針によれば、大会の開催により多くの選手や観客が来訪することを契機として、地域の活性化等を推進するために、事前合宿の誘致等を通じて大会参加国・地域との人的・経済的・文化的な相互交流を図る地方自治体をホストタウンとして、被災地を含む全国各地に広げることとされている。

上記を踏まえて、オリパラ事務局は、ホストタウン推進要綱(平成27年9月30日策定)に基づき、住民等と大会等に参加するために来日する選手等、大会参加国・地域の関係者及び日本人オリンピアン・パラリンピアンとの交流を行うものであって、スポーツの振興、教育文化の向上及び共生社会の実現を図る取組を行う地方自治体をホストタウンとして登録する事業を28年1月から行っている。ホストタウンの推進に係る29年度までの支出額は、「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策及び「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策の両方にまたがる取組であるオリパラ推進本部経費(オリパラ推進本部)計2億余円に含まれている(図表4-1及び別図表1参照)。また、オリパラ事務局は、ホストタウンの推進のために、課題やノウハウの共有等に資すると思われる取組を行うホストタウンに対してモデル調査を実施して、その成果を全てのホストタウンに周知するなどの事業を実施している(29年度までの支出額計6657万余円)。

ホストタウンの登録は29年度までに計6回行われており、29年度末現在、第1次登録57団体、第2次登録65団体、第3次登録64団体、第4次登録66団体、第5次登録30団体、第6次登録6団体の計288団体がホストタウンとして登録されている。

また、復興又は共生社会の実現に関連した取組を行うホストタウンである復興「ありがとう」ホストタウン(注20)及び共生社会ホストタウン(注21)も創設されており、29年度末現在、復興「ありがとう」ホストタウンには従来のホストタウン1団体を含む13団体が登録されており、共生社会ホストタウンには従来のホストタウンの中から6団体が登録されている。

(注20)
復興「ありがとう」ホストタウン  オリパラ事務局が、岩手、宮城、福島各県の地方自治体のうち、震災時に支援を行った海外の国や地域に復興した姿を見せつつ、その国や地域の人々と住民との交流を行うとして申請があった地方自治体を登録するもの
(注21)
共生社会ホストタウン  オリパラ事務局が、パラリンピアンとの交流をきっかけに、共生社会の実現に向けた取組を推進するとして申請があった地方自治体を登録するもの

ホストタウンとして登録する際の手続は、地方自治体が交流計画を作成するなどしてオリパラ事務局に申請して、オリパラ事務局が審査を行い、ホストタウンとして登録する。登録後は、毎年度、地方自治体による交流計画の実施に要する経費のうち地方自治体が負担する額の2分の1について、特別交付税等の地方財政措置を受けることができることとなっている。

オリパラ事務局は、毎年度、総務省が実施する特別交付税に関する調査の前に、当該年度の事業の詳細や相手国との折衝状況について把握するとともに、特別交付税算定用の基礎資料として使用するために、ホストタウンとして登録された団体(以下「登録団体」という。)に交流計画の「年度事業調」を作成して報告するよう求めている。年度事業調には、交流計画の概要、交流計画の概要に掲げられた各取組の所要経費の内訳等を記載することとなっている。そして、所要経費の内訳には、特別交付税の対象とする事業(以下「交流事業」という。)と特別交付税の対象としない事業とを分けて記載することとなっている。

今回、第1次から第5次までにホストタウンとして登録されている282団体、第1次及び第2次に復興「ありがとう」ホストタウンとして登録されている13団体(従来のホストタウンとの重複を含む。)並びに29年度末までに共生社会ホストタウンとして登録されている6団体(従来のホストタウンとの重複を含む。)に対して資料の提出を求めるなどして交流事業の実施状況等をみたところ、次のような状況となっていた。

(ア) 交流事業の実施状況

28年度分の年度事業調に記載されている111団体(第1次と第2次の登録団体122団体のうち年度事業調を提出している団体)の386事業及び29年度分の年度事業調に記載されている220団体(第1次から第4次までの登録団体252団体のうち年度事業調を提出している団体)の692事業について、事業の実施状況をみると、図表6-3のとおり、28年度については43団体の80事業(事業費4503万余円)、29年度については56団体の88事業(事業費8289万余円)が全く実施されていない状況となっていた(以下、全く実施されていない交流事業を「未実施事業」という。)。

図表6-3 交流事業の実施状況

登録団体 交流事業 事業費(千円)
平成28年度 団体数 111 事業数 386 事業費 402,954
うち未実施事業がある団体数 43
(38.7%)
うち未実施事業の事業数 80
(20.7%)
うち未実施事業に係る事業費 45,036
(11.1%)
29年度 団体数 220 事業数 692 事業費 1,005,191
うち未実施事業がある団体数 56
(25.4%)
うち未実施事業の事業数 88
(12.7%)
うち未実施事業に係る事業費 82,893
(8.2%)

未実施事業を年度事業調に記載されている交流類型別にみると、図表6-4のとおり、28年度においては、「交流に伴い行われる取組(その他)」の未実施率が28.8%となっていて、主な取組内容としては、スポーツ、文化及び芸術関係の相手国関係者と一般の市民との交流となっている。29年度については、「交流に伴い行われる取組(事前合宿受入)」の未実施率が20.0%となっている。

図表6-4 未実施事業の類型別の状況

交流類型 平成28年度 29年度
総事業数 うち未実施の事業数 未実施率 総事業数 うち未実施の事業数 未実施率
相手国選手等との交流 40 8 20.0% 93 14 15.0%
相手国関係者との交流 171 36 21.0% 263 33 12.5%
日本人オリンピアン・パラリンピアンとの交流 76 7 9.2% 129 9 6.9%
交流に伴い行われる取組(事前合宿誘致) 84 21 25.0% 135 24 17.7%
交流に伴い行われる取組(事前合宿受入) 3 0 - 15 3 20.0%
交流に伴い行われる取組(その他) 45 13 28.8% 100 6 6.0%
419 85 735 89
(注)
複数の類型に該当する交流事業があるため、計欄の事業数は図表6-3の事業数と一致しない。

交流事業を実施できなかった理由についてみると、図表6-5のとおり、28、29両年度共に、交流事業の具体的な日程の検討や相手方との日程調整ができなかったとするものが、合計でおよそ7割を占めている。

図表6-5 交流事業を実施できなかった理由

交流事業を実施できなかった理由 平成28年度 29年度
事業数 割合 事業数 割合
具体的な日程が検討できなかったこと 37 46.2% 39 44.3%
相手方との日程調整ができなかったこと 23 28.7% 27 30.6%
相手国側の突発的事情 3 3.7% 5 5.6%
受入側の突発的事情 0 - 0 -
その他 17 21.2% 17 19.3%
80 100.0% 88 100.0%

実施に当たり交渉が必要な交流事業について、登録団体が独自に交渉しているか、仲介者・助力者等の協力を得て交渉しているかについてみたところ、図表6-6のとおり、28、29両年度共に、独自に交渉している事業がおよそ6割を占めている。

図表6-6 交流事業に係る交渉方法の状況

交渉方法 平成28年度 29年度
交渉が必要な事業数 割合 交渉が必要な事業数 割合
独自交渉 238 62.7% 420 62.3%
仲介者・助力者等の協力を得た交渉 141 37.2% 254 37.6%
379 100.0% 674 100.0%

仲介者・助力者等の協力を得て実施に至った交流事業(28年度は107事業、29年度は213事業)において、どのような仲介者・助力者等の協力を得て交渉したかについてみたところ、図表6-7のとおり、28、29両年度共に、国内友好団体等及びその関係者の協力を得たものが最も多く、それぞれ32.7%、26.2%を占めている。次いで、28年度はコーディネーターの協力を得たものが15.8%、国内競技団体及びその関係者の協力を得たものが11.2%等となっており、29年度はコーディネーターの協力を得たものが15.9%、国内競技団体及びその関係者の協力を得たもの並びに在日大使館関係者の協力を得たものがいずれも9.8%等となっている。

図表6-7 実施に至った交流事業において協力を得た仲介者・助力者等の内訳(平成28、29両年度)

図表6-7 実施に至った交流事業において協力を得た仲介者・助力者等の内訳(平成28、29両年度) 画像

また、特別交付税に関する省令(昭和51年自治省令第35号)第2条第2項の規定によれば、前年度以前の特別交付税の各事項の算定額について、算定の基礎に用いた数について誤りがあることなどにより特別交付税の額が過大に算定されていたと認められるときは、総務大臣が定めるところにより、特別交付税の算定の基礎とすべきものとして総務大臣が調査した額を控除することとされている。

前記の未実施事業がある28年度の43団体及び29年度の56団体のうち、翌年度以降に特別交付税の算定の基礎とすべきものとして総務大臣が調査した額を控除するなどの措置を実施し、又は実施する予定としているのは、28、29両年度共に17団体(43団体の39.5%、56団体の30.3%)となっている。

(イ) 事前合宿の誘致

登録団体の交流計画には、スポーツの振興、教育文化の向上及び共生社会の実現を図る様々な交流事業を実施することが記載されている。このうち、交流計画において、大会に参加する各国の事前合宿の誘致を計画しているのは、図表6-8のとおり、238団体(前記282団体の84.3%)となっている。

図表6-8 交流計画における事前合宿誘致の計画の状況

区分 団体数 割合
登録団体 282 100.0%
うち事前合宿誘致計画あり
238 84.3%
うち事前合宿誘致計画なし
44 15.6%

そして、事前合宿の誘致を計画している238団体のうち、相手国との交渉等の結果、29年度末までに事前合宿に関する覚書等の締結に至っているのは、128団体(上記238団体の53.7%)となっている。

覚書等の締結に至った128団体における覚書等の締結に至った主な要因についてみたところ、図表6-9のとおり、相手国の要望に沿った施設や環境の提供が62.5%を占めている。次いで、過去の国際大会における合宿実績及び首長や著名人等を起用したセールスがいずれも10.3%等となっている。

図表6-9 覚書等の締結に至った主な要因の状況(平成29年度末現在)

図表6-9 覚書等の締結に至った主な要因の状況(平成29年度末現在) 画像

29年度末までに覚書等の締結に至った128団体における覚書等を締結するための交渉の方法についてみたところ、仲介者・助力者等の協力を得ずに登録団体が独自で交渉して覚書等の締結に結びついているのは、39団体(上記128団体の30.4%)となっている。一方、仲介者・助力者等の協力を得て交渉を行った91団体(複数の相手国と交渉していて、相手国のうち1国については仲介者・助力者等の協力を得ずに登録団体が独自で交渉して覚書等の締結に結びついている2団体を含む。)がどのような仲介者・助力者等の協力を得たか(複数回答可)についてみたところ、図表6-10のとおり、在日大使館関係者の協力を得たものが34団体(上記91団体の37.3%)、相手国競技団体及びその関係者の協力を得たものが29団体(同31.8%)、国内競技団体及びその関係者の協力を得たものが25団体(同27.4%)、コーディネーターの協力を得たものが22団体(同24.1%)等となっている。

図表6-10 覚書等の締結に至った登録団体における協力を得た仲介者・助力者等の類型別の状況(平成29年度末現在)

(単位:団体)
仲介者・助力者等の協力を得て交渉を行った登録団体
  仲介者・助力者等の類型
在日大使館関係者 相手国競技団体及びその関係者 国内競技団体及びその関係者 コーディネーター 国内友好団体等及びその関係者 相手国政府関係者 都道府県 国際競技連盟及びその関係者 コンサルタント JOC及びその関係者 相手国友好団体等及びその関係者 留学生 その他
91 34 29 25 22 16 16 10 8 7 7 4 3 13
(91団体に対する割合) (37.3%) (31.8%) (27.4%) (24.1%) (17.5%) (17.5%) (10.9%) (8.7%) (7.6%) (7.6%) (4.3%) (3.2%) (14.2%)
(注)
登録団体によっては複数の仲介者、助力者等の協力を得て相手国と交渉を行っており、1団体で複数の類型に該当する場合があることから、類型別の団体数の計は上記の91団体と一致しない。

また、覚書等は、仮契約的な性質のものもあり、事前合宿の確実な実施のためには、相手国の関係機関との本契約等の締結が必要となっている。

事前合宿の誘致に関して、相手国の関係機関との間で本契約を締結するなどして、交流事業を実施しているものについて、参考事例を示すと次のとおりである。

<参考事例1> 相手国の関係機関との間で本契約を締結するなどして、交流事業を実施したり、今後も交流事業の実施を予定したりしているもの

新潟県長岡市は、平成29年7月に第4次のホストタウンとして登録され、登録される4か月前の同年3月に、オーストラリア連邦(以下「オーストラリア」という。)の水泳運営組織と交渉した結果、独占的な事前合宿を大会、2018年パンパシフィック水泳選手権及び2019年世界水泳選手権のそれぞれで実施することに同意する旨の連携協定(本契約)を締結している。

同市は、連携協定(本契約)を締結できた理由として、①国際規格を満たす県営の競技用50mプールが同市内に所在すること、②同市が大規模大会について豊富な開催実績を有しているとともに、水泳競技に精通している地元競技団体の協力が得られたことにより官民それぞれの強みをいかした協働による受入体制を築けたこと、③オーストラリア政府に派遣経験がある同市幹部職員の人脈を活用できたこと、④仲介者として、公益財団法人日本水泳連盟が現地合宿の際に活用しているオーストラリア在住の日本人コーディネーターの協力を得て交渉したことなどを挙げている。

同市が29年度に実施した交流事業についてみると、上記の同市幹部職員及び日本人コーディネーターを活用するなどして交渉した結果、新潟県スプリント選手権にオーストラリアから選手4人とコーチ2人を招へいすることに成功し、我が国のジュニア選手や観客約1,000人と交流したほか、同市内の小中学生191人を対象にした競泳教室を開催している。また、同市によれば、同市の関係者がオーストラリアを訪問して、各地の練習環境を視察するとともに、オーストラリア競泳関係者と意見交換を行い、大会終了後のレガシーとして市民が相互にスポーツに係る交流を継続して実施する計画について、継続的に協議を行う旨の合意が得られたとしている。

同市は、30年度以降も連携協定(本契約)に基づく事前合宿及びその際の市民との交流を実施する予定としている。

なお、事前合宿の誘致を計画することは、ホストタウンとして登録されるための必須要件とはなっていない。オリパラ事務局は、事前合宿の誘致を計画しない場合でも、大会の各競技の終了後に選手等が地方自治体を訪問し、住民等と様々な交流を行う事後交流型の取組も推進しているとしている。

イ 「日本の技術力の発信」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「日本の技術力の発信」に係る大会の関連施策は内閣府等の6府省が実施した「大会における最新の科学技術活用の具体化」等の7施策に係る計26事業であり、図表6-11のとおり、25年度から29年度までの支出額は計516億余円となっている。このうち、総務省が237億余円(516億余円の45.9%)、経済産業省が169億余円(同32.7%)となっていて、その多くを占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表6-11 「日本の技術力の発信」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
内閣府 4 - 2,095 2,286 3,104 2,909 10,395 (20.1%)
総務省 14 1,031 449 5,715 8,758 7,768 23,723 (45.9%)
厚生労働省 2 136 129 135 83 99 584 (1.1%)
農林水産省 1 - - (※)- (※)- (※)- (※)- -
経済産業省 4 2,809 4,501 4,580 2,776 2,256 16,923 (32.7%)
環境省 1 - - - - (※)- (※)- -
合計 26 3,977 7,174 12,717 14,722 13,034 51,627 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。
注(3)
「支出額」には、各府省が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「日本の技術力の発信」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

オリパラ基本方針によれば、日本が世界中の注目を集めて多くの外国人が訪日する機会となる大会を、「強い経済」の実現に向けたイノベーションの牽(けん)引役と捉えて、大会を通じて日本の強みである技術をショーケース化し、世界に発信することとされている。これに基づき、各府省等は研究開発等を実施しており、特に大会に向けた科学技術イノベーションの取組については、内閣府が関係府省等と連携して、32年に日本から世界に科学技術イノベーションの成果を発信する九つのプロジェクト(スマートホスピタリティ、次世代都市交通システム、ゲリラ豪雨・竜巻事前予測等)を設定し、当該プロジェクトに関する具体的取組を整理した事業計画を取りまとめて、官民一体となって技術開発及び社会実装を進めている。

ウ 「外国人旅行者の訪日促進」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「外国人旅行者の訪日促進」に係る大会の関連施策は内閣府及び国土交通省が実施した「「2020年オリンピック・パラリンピック」後も見据えた観光振興」等の2施策に係る計5事業であり、図表6-12のとおり、25年度から29年度までの支出額は計290億余円となっている。このうち、国土交通省が290億余円(290億余円の99.9%)となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表6-12 「外国人旅行者の訪日促進」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
内閣府 1 - - 0 2 2 5 (0.0%)
国土交通省 4 56 45 593 10,618 17,780 29,093 (99.9%)
合計 5 56 45 593 10,621 17,782 29,099 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。
注(3)
「支出額」には、両府省が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「外国人旅行者の訪日促進」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。
注(5)
国土交通省によると、後掲(ア)の訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業等については、その実施内容に他の分野(多言語対応の強化、無料公衆無線LAN及びバリアフリー対策の強化)を含み、これらに係る事業数及び支出額は、当該事業の各分野においてそれぞれ計上するよう整理していることから、本図表には含まれていない。ただし、これらのうち、多言語対応の強化及び無料公衆無線LANに係る事業については、実施内容が外国人旅行者の訪日促進にも該当するとしていることから、複数の分野にまたがる訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業等で見受けられた課題について、便宜上、本項で記載している。

両府省が29年度までに実施した大会の関連施策のうち、「「2020年オリンピック・パラリンピック」後も見据えた観光振興」について、大会終了後のレガシーの創出に資するための課題等が次のとおり見受けられた。

国は、28年3月に、内閣総理大臣を議長とする「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」において、「明日の日本を支える観光ビジョン」(以下「観光ビジョン」という。)を策定し、「すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に」という視点等から、訪日外国人旅行者の受入環境整備等の各種施策を実施することとしている。また、訪日外国人旅行者に関する従来の目標が前倒しで達成される見込みとなったことから、訪日外国人旅行者数を2020年までに4000万人、2030年までに6000万人に増加させて、訪日外国人旅行消費額を2020年までに8兆円、2030年までに15兆円に増加させることなどを新たな目標としている。これらの目標を踏まえて、国は、29年度から32年度までを計画期間として、観光立国実現に関する目標及び政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策を定めた新たな「観光立国推進基本計画」(平成29年3月閣議決定)を定めている。

そして、両府省は、観光ビジョン及び同計画に基づくなどして各種の施策を実施しているが、これらのうち、国土交通省が支援を実施している「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業」等と独立行政法人国際観光振興機構(以下「JNTO」という。)が実施している訪日プロモーション事業についてみると、次のような状況となっていた。

(ア) 訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業等

前記のとおり、観光ビジョンでは、全ての旅行者が快適に観光を満喫できるための受入環境整備を行うことなどを柱とした各種施策を実施することとしている。また、32年の大会開催時は、日本国内に多数の外国人旅行者の来訪が予想されており、特に、会場周辺、ターミナル駅及び観光地については、とりわけ多くの外国人旅行者の来訪が予想されるため、外国人受入環境整備を進めて、円滑な移動を確保する必要がある。国土交通省は、訪日外国人旅行者数2020年4000万人、2030年6000万人の実現に向けて、滞在時の快適性及び観光地の魅力向上並びに観光地までの移動円滑化等を図るために、訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業費補助金(以下「緊急対策補助金」という。)を28年度に2,045件50億1024万余円、29年度に1,184件47億6807万余円交付して、宿泊施設インバウンド対応支援事業、交通サービスインバウンド対応支援事業及び地方での消費拡大に向けたインバウンド対応支援事業の各事業を実施している。また、ハード面及びソフト面からの受入環境整備を通じた訪問時・滞在時の利便性向上を図るために、訪日外国人旅行者受入基盤整備事業費補助金(以下「基盤整備補助金」という。)及び訪日外国人旅行者受入加速化事業費補助金(以下「加速化補助金」という。)を28年度に計53件4億0815万余円、29年度に計663件88億4208万余円交付している。

緊急対策補助金、基盤整備補助金及び加速化補助金(以下、これらを合わせて「3補助金」という。)の概要は、図表6-13のとおりとなっている。

図表6-13 3補助金の概要

補助金名 目的 主な事業区分 補助対象事業者の区分 補助対象経費(主なもの) 補助率
多言語対応の強化 無料公衆無線LAN バリアフリー対策の強化
緊急対策補助金 訪日外国人旅行者数4000万人、6000万人の実現に向けて、滞在時の快適性及び観光地の魅力向上並びに観光地までの移動円滑化等を図る。 宿泊施設インバウンド対応支援事業
  • 宿泊事業者等団体
  • 構成員宿泊事業者
  • 自社サイトの多言語化(宿泊予約の機能を有するサイトに限る。)に要する経費
  • 館内共用部のテレビの国際放送設備の整備、案内表示の多言語化に要する経費
  • 館内共用部のWi-Fi整備に要する経費
  • 館内共用部の段差解消に要する経費
1/3
交通サービスインバウンド対応支援事業 鉄道、自動車、海事、港湾、航空に係る交通サービスを提供する事業者等
  • 案内標識、可変式情報表示装置、ホームページ(予約システムを提供するものに限る。)等の多言語化又はピクトグラムによる表記に要する経費
  • 無料公衆無線LAN環境(車両、機体への設置は除く。)の整備に要する経費
  • 移動等円滑化に要する経費(駅、ターミナル等におけるエレベーター、スロープ等の段差の解消、ノンステップバス等の導入等)
  • 多機能便所の設置に要する経費の一部
1/3等
地方での消費拡大に向けたインバウンド対応支援事業
  • 地方公共団体
  • 民間事業者(公共交通事業者)
  • 航空旅客ターミナル施設を設置し又は管理する者及び協議会
  • 観光拠点情報・交流施設、外国人観光案内所の整備・改良、ホームページの多言語表記等、案内放送の多言語化等に要する経費
  • 観光拠点情報・交流施設、外国人観光案内所の無料公衆無線LAN環境の整備に要する経費
  • 外国人旅行者が現に多く使用しているなどの公衆トイレの洋式化及び機能向上に要する経費
1/3
基盤整備補助金 訪日外国人旅行者数4000万人、6000万人の実現に向けて、ハード面からの受入環境整備を通じた訪問時・滞在時の利便性向上を図る。 交通サービスインバウンド対応支援事業 鉄道、自動車、海事、港湾、航空に係る交通サービスを提供する事業者
  • 案内標識、可変式情報表示装置の多言語表記等に要する経費(設備が公共性のある施設と一体不可分の関係にあるものに限る。)
  • 移動等円滑化に要する経費(駅、ターミナル等におけるエレベーター、スロープ等の段差の解消)
  • 多機能便所の設置に要する経費の一部
1/3等
地方での消費拡大に向けたインバウンド対応支援事業
  • 地方公共団体
  • 民間事業者(公共交通事業者)
  • 航空旅客ターミナル施設を設置し又は管理する者及び協議会等
  • 観光拠点情報・交流施設及び外国人観光案内所の整備・改良に要する経費(案内標識・デジタルサイネージ等)
  • 外国人観光案内所の整備・改良に附随する案内標識、デジタルサイネージに要する経費
  • 観光拠点情報・交流施設、外国人観光案内所の整備・改良に附随する無料公衆無線LAN環境の整備に要する経費
1/3
加速化補助金 訪日外国人旅行者数4000万人、6000万人の実現に向けて、ソフト面からの受入環境整備を通じた訪問時・滞在時の利便性向上を図る。 宿泊施設インバウンド対応支援事業
  • 宿泊事業者等団体
  • 構成員宿泊事業者
  • 自社サイトの多言語化(宿泊予約の機能を有するサイトに限る。)に要する経費
  • 館内及び客室内のテレビの国際放送設備の整備、案内表示の多言語化に要する経費
  • 館内及び客室内のWi-Fi整備に要する経費
1/2
交通サービスインバウンド対応支援事業 鉄道、自動車、海事、港湾、航空に係る交通サービスを提供する事業者
  • 案内標識、可変式情報表示装置、ホームページ(予約システムを提供するものに限る。)等の多言語化又はピクトグラムによる表記に要する経費
  • 無料公衆無線LAN環境(車両、機体への設置は除く。)の整備に要する経費
1/3等
地方での消費拡大に向けたインバウンド対応支援事業
  • 地方公共団体
  • 民間事業者(公共交通事業者)
  • 航空旅客ターミナル施設を設置し又は管理する者及び協議会
  • 観光拠点情報・交流施設、外国人観光案内所におけるホームページの多言語表記等及び案内放送の多言語化に要する経費
  • 観光拠点情報・交流施設、外国人観光案内所における無料公衆無線LAN環境の整備に要する経費
1/3
注(1)
緊急対策補助金については、平成29年3月15日付けの交付要綱を基に記載している。
注(2)
補助対象事業者の区分については、一部簡略化して記載している箇所がある。

そして、3補助金による補助事業(交付要綱等において、事業評価の実施についての定めがない宿泊施設インバウンド対応支援事業を除く。以下同じ。)は、いずれも交付要綱や実施要領等において、事業実施後に事業評価を実施することとなっていて、その手順等の主なものは次のとおりとなっている(図表6-14参照)。

交付要綱等においては、原則として、①補助対象事業者は、自ら事業の実施状況の確認、評価を行いその結果(一次評価結果)を補助金の交付を受けた会計年度末までに地方運輸局等に報告すること、地方運輸局等は、②一次評価結果を基に二次評価案を作成すること、③地方運輸局等の担当部長等及び観光ビジョン推進地方ブロック戦略会議から成る評価委員会を設置し、同委員会において二次評価案を審議すること、④③の結果を踏まえて評価を実施し二次評価結果を作成すること、⑤補助対象事業者に④の二次評価結果を通知するとともに、必要に応じて事業計画の見直し等を求めること、⑥二次評価結果を含む事業評価の結果を交付翌年度の4月末までに国土交通本省等へ提出することなどとなっている。なお、交通サービス利便向上促進事業については、二次評価案の作成が不要とされていたり、事業評価の結果の本省等への提出期限が交付翌年度の2月末までとされていたりしているものもある。

また、交付要綱等によれば、地方運輸局等が二次評価を実施する際に、地方運輸局等の担当部長等及び観光ビジョン推進地方ブロック戦略会議から成る評価委員会による審議を行うのは、当該評価の客観性・妥当性を担保するためであるとされている。

そして、国土交通省によると、本省等の担当部局が、各地方運輸局等から提出を受けた事業評価の結果を分析することにより、事業の具体的な効果を把握し、3補助金の対象とする事業内容等のより効果的な改善策の検討が可能になるとともに、交付翌年度の事業実施計画の見直しを行ったり翌々年度の概算要求に反映させたりすることができるPDCAサイクルの仕組みが構築されているとしている。

図表6-14 3補助金による補助事業の主な事業評価手順等

図表6-14 3補助金による補助事業の主な事業評価手順等 画像

しかし、図表6-15のとおり、28年度の3補助金による補助事業に係る事業評価についてみたところ、29年度末時点で、東北運輸局において、二次評価案の作成以降の事業評価プロセスが実施されていなかったり、6地方運輸局において、事業評価の結果が交付翌年度の4月末までに国土交通本省等に提出されておらず、2か月から10か月程度提出が遅れていたりしていた。このため、事業評価の結果を踏まえた事業内容等の改善策の検討や、交付翌年度の事業実施計画の見直しなどを行うことができず、PDCAサイクルを適切に機能させることができていない状況となっていた。

図表6-15 平成28年度内に完了した3補助金による補助事業に係る各地方運輸局等における事業評価の提出状況(29年度末時点)

地方運輸局等名 採択件数
(件)
一次評価の局への報告時期(最終) 二次評価案の作成日 評価委員会開催日 事業評価結果の国土交通本省等への提出
29年4月末までの提出状況 29年4月末以降の提出日
北海道運輸局 45 平成29年5月27日 29年6月27日 29年6月27日 × 30年2月19日
東北運輸局 21 30年1月31日 未作成 未実施 × 未提出
関東運輸局 162 29年3月31日 30年1月9日 30年1月9日 × 30年1月22日
北陸信越運輸局 31 29年4月17日 29年4月19日 29年4月26日 期限内提出
中部運輸局 50 29年4月10日 29年5月16日 29年5月16日 × 29年6月1日
近畿運輸局 96 29年3月31日 29年3月31日 29年3月31日 × 30年2月19日
中国運輸局 13 29年2月28日 29年3月15日 29年3月15日 期限内提出
四国運輸局 38 29年3月31日 29年5月24日 29年5月24日 × 29年7月18日
九州運輸局 70 29年4月28日 29年10月26日 29年10月30日 × 29年10月31日
沖縄総合事務局 3 29年4月12日 29年4月14日 29年4月17日 期限内提出
10地方運輸局等 529 28年度内 4 29年4月末まで 4 29年4月末まで 4 期限内提出 3 期限内提出 3
29年5月以降 5 29年5月以降 5 29年5月以降 6
29年度 6 未作成 1 未実施 1 期限内未提出 7 未提出 1
注(1)
「採択件数」とは、補助事業の採択に当たり補助対象事業者が提出する事業計画の件数を示しており、交付件数とは異なる。また、平成28年度に採択され29年度に予算を繰り越した事業計画の件数を除いている。
注(2)
「一次評価の局への報告時期(最終)」とは、地方運輸局等ごとに、一次評価結果の提出が最も遅かった案件の提出日をいう。

なお、北海道及び関東両運輸局は、それぞれ、29年10月、30年1月の会計実地検査後に、事業評価の結果を国土交通本省等に提出していた。

国土交通省は、事業評価の結果を踏まえた事業内容等の改善策の検討や、交付翌年度の事業実施計画の見直しなどを行うことができるよう、交付要綱等に従い適時適切に事業評価を実施する必要がある。

(イ) 訪日プロモーション事業

JNTOは、平成26年度一般会計補正予算から、運営費交付金を財源として、海外メディアの訪日取材・番組制作を支援して日本の魅力を紹介する記事の掲載等により現地における訪日意欲増進等を行う訪日プロモーション事業を実施しており、これに係る支出額は、28年度92億9984万余円、29年度162億4891万余円(27年度は海外観光宣伝事業費72億9264万余円の内数)となっている。この事業は、平成26年度一般会計当初予算までは観光庁が実施主体であったが、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月閣議決定)に基づき海外の民間事業者のニーズに即応できる体制の整備を行うために、平成26年度一般会計補正予算からJNTOが実施主体となっている。

そして、29年3月に閣議決定した前記の観光立国推進基本計画によれば、JNTOによる訪日プロモーション事業の実施に当たっては、映像の力を活用し、日本各地の多様な魅力を体験する様子をグローバルメディアを活用して効果的に世界中に発信して地方への誘客を図るとともに、成果の管理を徹底することとされている。JNTOは、この成果の管理に当たり、観光庁の「Visit Japan成果確認システム」(以下「VJnet」という。)に接続して評価を実施することとしているが、事業の評価を実施していなかったり、事業実施前に目標値を設定したのか確認できなかったりしたものが見受けられた。この事例を示すと次のとおりである。

<事例5> 事業の評価を実施していなかったり、事業実施前に目標値を設定したのか確認できなかったりしたもの

JNTOは、平成28年度に、「東京オリンピック・パラリンピック大会に向けたメディア向け素材集等の制作事業」等7事業のコンテンツ制作等事業を計4億7149万余円で発注し、映像素材等の制作及びその活用を訪日プロモーション事業として行っている。

VJnetにおいては、通常、映像素材等については、評価を行う客観的基準がないとして、評価を行わないとしているが、これをウェブサイト等で提供する場合には、ページビュー総数によって評価を行うこととし、アウトカム指標をページビュー総数としている。

JNTOは、7事業の評価に当たり、成果物の映像素材等をウェブサイトで提供していて、アウトカム指標の目標値を設定して評価することが可能であるのに、5事業において、事業の評価を実施していなかった。また、残りの2事業において、当該契約の仕様書等において目標値の設定をしていないなど、事業実施前に目標値を設定したのか確認できない事態が見受けられた。

今後は、JNTOにおいて、事業実施前に適切にアウトカム指標の目標値を設定するなどして、適切に事業を評価し、PDCAサイクルを機能させることが必要である。

エ 「日本文化の魅力の発信」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「日本文化の魅力の発信」に係る大会の関連施策は内閣等の9府省等が実施した「文化を通じた機運醸成」「文化プログラムの推進」「和食・和の文化の発信強化」等の4施策に係る計37事業であり、図表6-16のとおり、25年度から29年度までの支出額は計627億余円となっている。このうち、外務省が502億余円(627億余円の80.0%)となっていて、その多くを占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表6-16 「日本文化の魅力の発信」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
内閣 2 - - - 350 287 637 (1.0%)
内閣府 1 - - - 118 - 118 (0.1%)
外務省 8 7,187 7,795 10,606 15,116 9,531 50,237 (80.0%)
文部科学省 4 - 324 1,641 1,777 2,397 6,140 (9.7%)
厚生労働省 2 - - - 40 224 264 (0.4%)
農林水産省 9 2 4 44 483 3,534 4,068 (6.4%)
経済産業省 9 49 217 290 363 151 1,072 (1.7%)
国土交通省 1 - - - 67 135 203 (0.3%)
環境省 1 (※)- (※)- (※)- (※)- (※)- (※)- -
合計 37 7,239 8,341 12,582 18,317 16,261 62,742 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。
注(3)
「支出額」には、各府省等が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「日本文化の魅力の発信」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

各府省等が29年度までに実施した大会の関連施策のうち、大会終了後のレガシーの創出に資するための課題等が見受けられたものは、次のとおりである。

(ア) 「文化を通じた機運醸成」及び「文化プログラムの推進」

オリンピック憲章及び開催都市契約によれば、大会組織委員会は、芸術、音楽、民族及びその他文化に関するイベントのプログラム(以下「文化プログラム」という。)を少なくとも選手村が開村している全期間を通じて行わなければならないこととされている。また、「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(平成27年5月閣議決定)によれば、大会の開催効果を東京のみならず広く全国に波及させるために、文化プログラム等の機会を活用して全国の地方自治体や芸術家等との連携の下、地域の文化を体験してもらうための取組を全国各地で実施することとされ、リオ大会の終了後にオリンピック・ムーブメントを国際的に高めるための取組を行い、文化プログラム実施に向けた機運の醸成を図ることとされている。

これらを踏まえて、オリパラ基本方針においては、文化プログラムの推進も含めて、多様な文化を通じて日本全国で大会の開催に向けた機運を醸成し、日本文化の魅力を世界に発信することなどとなっている。

このうち、文化を通じた機運醸成の中心となる文化プログラムについて、29年度までの推進体制を示すと図表6-17のとおりであり、要件に合致する文化プログラムについて、大会組織委員会は「東京2020文化オリンピアード」(以下「文化オリンピアード」という。)として認証する取組を28年10月から行い、オリパラ事務局は「beyond2020プログラム」(以下「beyond2020」という。)として認証する取組を29年1月から行っており、文化プログラムの主催者である各府省等、地方自治体、非営利団体等は、大会組織委員会又はオリパラ事務局に任意で申請し、認証を受けてロゴマーク等を使用することができることとなっている。また、東京都は、東京文化プログラムとして、開催都市として文化プログラムを主催したり、民間団体等が実施する文化プログラムを支援したりしている。

各府省等は、大会を契機とした文化プログラムを実施することでレガシーの創出に資することが想定される新規又は既存の事業を大会の関連施策として整理して、自らが文化プログラムを主催したり、文化プログラムの実施主体である民間団体等へ支援を行ったりなどしている。29年度までに大会の関連施策として整理されている文化プログラムに係る事業は、内閣、外務省(独立行政法人国際交流基金の実施分を含む。)、文部科学省(独立行政法人日本芸術文化振興会の実施分を含む。)及び厚生労働省の計15事業であり、25年度から29年度までの支出額は計572億余円(内閣6億余円、外務省502億余円、文部科学省61億余円及び厚生労働省2億余円)となっている。

図表6-17 文化プログラムの推進体制(平成29年度)

図表6-17 文化プログラムの推進体制(平成29年度) 画像

前記の文化プログラムに係る認証の取組のうち、オリパラ事務局が中心となって推進するbeyond2020については、オリパラ事務局以外の関係府省、独立行政法人、都道府県、政令指定都市等についても、beyond2020の趣旨に賛同して、その推進に取り組もうとする場合、beyond2020の認証を行う組織(以下「認証組織」という。)となり、対象とする文化プログラムをbeyond2020として認証することができることとなっている。このため、大会の関連施策として整理されている文化プログラムに係る事業を実施する各省等のうち、オリパラ事務局を除く外務、文部科学、厚生労働各省、独立行政法人国際交流基金及び独立行政法人日本芸術文化振興会における29年度のbeyond2020の推進に係る取組状況をみると、図表6-18のとおり、3省及び独立行政法人国際交流基金が認証組織となっており、認証組織となっていない独立行政法人日本芸術文化振興会についても、自らが主催する事業について文化プログラムの実施主体として認証の要件に合致する場合は全て申請することとしていた。

図表6-18 大会の関連施策として整理されている文化プログラムに係る事業を実施する各省等におけるbeyond2020の推進に係る取組状況(平成29年度)

認証組織として認証を行っている 認証組織となっていない場合の申請に係る取組内容
  認証対象
外務省 外務省が実施する事業・活動  
文部科学省(文化庁) オリパラ事務局と同じ(注)  
厚生労働省 障害者による芸術文化活動の魅力を発信する事業・活動。実施主体はオリパラ事務局と同じ(注)  
独立行政法人国際交流基金 国際交流基金が実施する事業・活動  
独立行政法人
日本芸術文化振興会
自ら主催する事業のうち認証の要件に合致する場合は全て文化庁へ申請する
(注)
オリパラ事務局の認証対象は、次の実施主体が行う事業・活動等である。
  • ① 国の行政機関(独立行政法人、特殊法人及び認可法人を含む。)
  • ② 地方公共団体(特別区、一部事務組合、広域連合及び地方独立行政法人を含む。)
  • ③ 国立大学法人及び学校法人
  • ④ 公益法人又はこれに準ずる団体
  • ⑤ 株式会社等その他法人格を有する団体
  • ⑥ ①から⑤までに掲げる者に準ずると認められる団体

また、オリパラ事務局等は、29年12月に文化プログラムの推進について政府としての方向性を定めて、文化プログラムの件数ではなく、国際化や共生社会への対応といったレガシーの創出に資する文化プログラムを大会開催地にとどまらず全国に浸透させることを目標とすることとしている。このことから、東京都を除く46道府県及び20政令指定都市における29年度までのレガシーの創出に資する文化プログラムへの取組状況をみると、図表6-19のとおり、各地方自治体が実施する事業について文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた実績があるのは58自治体(66自治体の87.8%)に上り、実績がないのは8自治体(同12.1%)となっている。特に都外自治体は12自治体の全てで認証を受けた実績があり、レガシーの創出に資する文化プログラムの実施に積極的に取り組んでいる状況となっている。

また、認証を受けた実績の有無にかかわらず、大会の開催を契機として独自にレガシーの創出に資する文化プログラムを実施しているのは36自治体(同54.5%)、beyond2020の認証組織となって民間事業者等への周知及び認証を行っているのは37自治体(同56.0%)となっている。29年度までに大会の開催を契機として、文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けるなどのレガシーの創出に資する文化プログラムへの取組実績がないのは都外自治体以外の4自治体であり、特に都外自治体以外の地方自治体間で取組内容に差がある状況となっている。

図表6-19 46道府県及び20政令指定都市における文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた文化プログラムへの取組状況(平成29年度末時点)

(単位:自治体)
文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた実績がある 認証を受けた実績はない
  その他取り組んでいる内容   その他取り組んでいる内容   その他取り組んでいる内容
独自の文化プログラムを実施 beyond2020の認証組織となっている 特になし 独自の文化プログラムを実施 beyond2020の認証組織となっている 特になし 独自の文化プログラムを実施 beyond2020の認証組織となっている 特になし
  (計に対する割合)   (計に対する割合)   (計に対する割合)   (計に対する割合)   (計に対する割合)
46道府県及び20政令指定都市 58 (87.8%) 34 35 11 8 (12.1%) 2 2 4 66 36 (54.5%) 37 (56.0%) 15 (22.7%)
  (うち都外自治体) 12 (100.0%) 8 5 3 0 - - - - 12 8 (66.6%) 5 (41.6%) 3 (25.0%)
(うち都外自治体以外) 46 (85.1%) 26 30 8 8 (14.8%) 2 2 4 54 28 (51.8%) 32 (59.2%) 12 (22.2%)
注(1)
会計検査院が46道府県及び20政令指定都市に調査を行って作成した。
注(2)
「その他取り組んでいる内容」は、取組ごとに集計しており、重複して取り組んでいる地方自治体がある。

そして、29年度に各地方自治体が実施した文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた文化プログラムに係る国庫補助金及び独立行政法人の助成金の活用状況をみると、図表6-20のとおり、58自治体のうち29自治体が135件(1,178件の11.4%)について活用し、残りの1,043件(同88.5%)については、各地方自治体の単独費用等を財源として実施されている。

図表6-20 各地方自治体が実施した文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた文化プログラムに係る国庫補助金等の活用状況(平成29年度)

(単位:千円)
文化オリンピアード又はbeyond2020の認証
自治体数 認証件数 (割合) 国庫補助金等交付額
道府県及び政令指定都市の計 58 1,178 (100.0%) -
  うち国庫補助金等が活用されているもの 29 135 (11.4%) 1,129,997
 
補助金等の交付元
(文部科学省) 27 94 (7.9%) 962,913
(厚生労働省) 4 5 (0.4%) 2,857
(独立行政法人日本芸術文化振興会) 4 5 (0.4%) 8,877
(その他) 9 31 (2.6%) 155,349
うち国庫補助金等の支援なし - 1,043 (88.5%) -
注(1)
「国庫補助金等交付額」は平成29年度末時点の金額である。
注(2)
国庫補助金等の交付を受けた事業のうち一部のみ文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けている場合で、認証に係る金額を切り分けられない場合、「国庫補助金等交付額」は事業全体の額を計上している。
注(3)
省等ごとの国庫補助金等の助成対象自治体数は、省等ごとに集計しており、重複して助成対象となっている地方自治体がある。

各府省等は、引き続き、レガシーの創出に資する文化プログラムの実施について、beyond2020の推進等により、国として各事業者等に理解を求めていくことが必要である。

(イ) 和食・和の文化の発信強化

オリパラ事務局は、選手村等における日本食の提供や国産食材の活用、大会開催時の日本食・食文化の発信等の取組を進めていくに当たり、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における日本の食文化の発信に係る関係省庁等連絡会議」を28年5月に設置して、政府と関係機関の連携体制を整備し、選手村等での日本食の提供や国産食材の活用、日本食・食文化の発信のための課題や方策等を検討している。また、大会施設において日本の木工技術等をいかした製品による「和の空間」の創造等の適材適所を原則とした木材利用等のために、27年10月に関係府省等、東京都及び大会組織委員会を構成員とする「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における木材利用等に関するワーキングチーム」を設置して、幅広く検討を行っている。

そして、農林水産省は、我が国の農水産物・食文化等による「おもてなし」として、図表6-21のとおり、五つの区分で大会開催時における和食・和の文化の発信強化の取組等を推進することとしている。

図表6-21 「和食・和の文化の発信強化」に係る施策の実施状況

区分 コンセプト 左の主な事業
食文化 和食文化で日本の文化を味わってもらう 日本食・食文化の発信等
和の空間 木づかいで東北の復興と日本らしさを発信国産畳等の活用で日本らしい大会を演出 施設等への木材利用の促進森林認証材の普及促進
農山漁村 農山漁村に宿泊し、日本ならではの伝統的な生活体験や人々との交流を楽しんでもらう 農泊推進対策、農泊推進関連対策
世界最高水準の日本の花で日本らしさを演出 オリンピック・パラリンピックフラワー安定供給事業
地球に優しく 「もったいない」精神で環境五輪を印象づけ 食品ロス削減の普及・啓発

このうち、大会を契機として農山漁村に宿泊し、日本ならではの伝統的な生活体験や人々との交流を楽しむ取組として、「農泊推進対策」及び「農泊推進関連対策」がある。

ウのとおり、国は、29年3月に、29年度から32年度までを計画期間として、観光立国実現に関する目標及び政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策を定めた新たな「観光立国推進基本計画」を閣議決定している。同計画によれば、訪日外国人旅行消費の効果を地方にも波及させるために、32年の訪日外国人旅行者の三大都市圏以外の地域における延べ宿泊者数を27年の約3倍である7000万人泊まで増加させることを目指すこととされ、地方の特性をいかした魅力ある観光地域の形成に係る取組として、日本ならではの伝統的な生活体験と農山漁村地域の人々との交流を楽しむ農山漁村滞在型旅行(以下「農泊」という。)をビジネスとして実施できる体制を持った地域(以下「農泊地域」という。)を32年までに500地域創出することを政策目標とすることとされている。

同省は、上記の政策目標を達成するために、29年度から農山漁村振興交付金の交付対象事業として農泊推進対策を創設している。そして、地域ぐるみの推進組織である地域協議会や事業完了時には同協議会を組織することが見込まれる法人又は団体(以下「地域協議会等」という。)を事業実施主体として、自立的に活動できる体制の構築、地域の観光資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げる取組等、事業実施主体等が作成する農山漁村振興推進計画に基づいて実施される取組を支援している。また、同交付金に農泊推進関連対策を創設し、「農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律」(平成19年法律第48号)に基づき市町村等が作成する活性化計画に基づいて市町村等又は農林漁業団体等が事業実施主体として実施する、農山漁村における地域間交流の促進等を図るために必要な農産物販売施設等の整備を推進し、農泊に取り組む地域への集客力等を高める取組等を支援している。

農泊推進対策及び農泊推進関連対策の29年度末までの取組状況については、交付件数がそれぞれ254件、28件となっており、交付額がそれぞれ20億9436万余円、11億8876万余円となっている。同省によると、農泊地域の創出に当たっては、地域ぐるみで農泊をビジネスとして実施できる体制を整備する必要があるとしており、これに資するよう、農泊推進対策においては「体験プログラムの販売や宿泊料等の売上げ」等を、農泊推進関連対策においては「定住人口の増加、交流人口の増加、滞在者数及び宿泊者数の増加」等をそれぞれの事業目標として設定させている。また、同省によると、農泊地域を32年までに500地域創出するという政策目標の達成見込みを把握するためには、各取組の事業目標の達成状況を確認する必要があるとしているが、当該政策目標に対して、事業目標は、上記のとおり体験プログラムの販売等や定住人口の増加等となっていて、これらの目標値の達成が農泊地域の創出に結び付くものなのか明らかでないため、この確認だけでは、当該政策目標の達成見込みを把握できるようなものにはなっていないと認められる(図表6-22参照)。

図表6-22 農泊推進対策等の政策目標と事業目標の関係

図表6-22 農泊推進対策等の政策目標と事業目標の関係 画像

また、同省は、図表6-23のとおり、事業実施主体に目標年度(農泊推進対策は事業開始年度から起算して2年目等。農泊推進関連対策は活性化計画期間終了後3年間)において事業目標の達成状況等の総合評価を行わせるとともに、翌年度に評価を報告させて、この報告に基づくなどして国として評価を実施することとしている。そして、同省によると、農泊推進対策及び農泊推進関連対策は29年度に開始した事業であり、29年度末時点では、目標年度に到達していないため、事業目標の達成状況を踏まえるなどした上で農泊地域の創出見込みを把握することができないとしている。

図表6-23 事業開始年度等と国が実施する評価の実施年度との関係

図表6-23 事業開始年度等と国が実施する評価の実施年度との関係 画像

しかし、前記のとおり、農泊の推進に当たっては、地域ぐるみの取組が必要とされているのに、農泊推進関連対策については、農泊を地域ぐるみで推進することを事業採択の要件としていなかったため、地域協議会等が存在していない事態も見受けられた。

したがって、農林水産省において、32年までに農泊地域を500地域創出するという政策目標の達成に向けて、農泊推進対策及び農泊推進関連対策を実施した各事業実施主体の取組の進捗状況を把握するとともに、目標年度等の到達に先立ち、異なる地域で行われている各取組を横断的に検証するなどして、農泊地域の創出の見込みを適切に把握して、目標年度等の到達を待つことなく必要な指導等を行う必要がある。

オ 「スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現」に係る大会の関連施策は、文部科学省が実施した「スポーツを「する」「みる」「ささえる」スポーツ参画人口の拡大と、そのための人材育成・場の充実」等の2施策に係る計18事業であり、図表6-24のとおり、25年度から29年度までの支出額は計53億余円となっている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表6-24 「スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
文部科学省 18 498 905 1,309 1,443 1,182 5,339
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。
注(3)
「支出額」には、文部科学省が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

大会がスポーツ基本法の目指す「スポーツを通じて全ての人々が幸福で豊かな生活を営むことのできる社会」を実現する好機であることから、32年に向けてスポーツ立国の実現を図るために、文部科学省は、地域におけるスポーツの振興等の多様なスポーツの機会確保のための環境整備、スポーツ関連産業の育成及び同産業との連携、障害者スポーツに取り組みやすい環境の整備を促進するなどの障害者スポーツの推進等、スポーツ基本法に掲げる各施策に取り組むこととしている。

カ 「大会を弾みとした健康増進・受動喫煙防止」に係る大会の関連施策の実施状況

IOCは、22年7月に世界保健機関(WHO)とたばこのないオリンピック競技大会等を共同で推進することについて合意しており、22年以降に開催されたオリンピック競技大会においては、全ての開催都市が国の法律又は開催都市の条例により、罰則を伴う受動喫煙防止対策を講じている。

これらのことを背景として、我が国でも27年6月にオリパラ担当大臣から厚生労働大臣に対して、厚生労働省とオリパラ事務局が協力して、大会に向けた受動喫煙防止対策に取り組む旨の要請が行われ、望まない受動喫煙をなくすなどの基本的考え方により、健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号)が30年7月に成立し、対象となる施設等に応じて段階的に施行され、32年4月に全面施行されることとなっている。

29年度までに、この取組に係る支出は特段行われていない。

キ 「ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー」に係る大会の関連施策の実施状況

29年度までに実施された「ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー」に係る大会の関連施策は、内閣等の8府省等が実施した「大会を契機としたユニバーサルデザイン・心のバリアフリーの推進」等の5施策に係る計42事業であり、図表6-25のとおり、25年度から29年度までの支出額は計633億余円となっている。このうち、厚生労働省が310億余円(633億余円の48.9%)、国土交通省が304億余円(同48.0%)となっていて、その多くを占めている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

図表6-25 「ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー」に係る大会の関連施策の支出額(平成25年度~29年度)

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
  (合計に占める割合)
内閣 3 - - - 32 33 66 (0.1%)
内閣府 2 72 82 90 77 60 383 (0.6%)
総務省 1 - - 5 2 4 12 (0.0%)
法務省 1 - - - 4 14 18 (0.0%)
文部科学省 1 - - 29 30 50 109 (0.1%)
厚生労働省 9 4,366 5,367 5,818 7,278 8,176 31,008 (48.9%)
農林水産省 4 116 310 324 320 263 1,335 (2.1%)
国土交通省 21 7,615 6,440 5,920 4,047 6,385 30,409 (48.0%)
合計 42 12,171 12,201 12,189 11,793 14,988 63,343 (100.0%)
注(1)
「事業数」は、平成29年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
注(2)
「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。
注(3)
「支出額」には、各府省等が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
注(4)
「ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー」に係る大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

国は、大会を共生社会実現に向けた絶好の機会と捉えて、全国において心のバリアフリー(注22)及びユニバーサルデザインの街づくり(注23)を推進し、大会終了後のレガシーとするために、28年2月に設置された「ユニバーサルデザイン2020関係府省等連絡会議」において、様々な種別の障害者団体や有識者等との意見交換を行い、同年8月には中間取りまとめが行われた。その後、29年2月に同連絡会議を格上げした「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議」により、各府省等が実施すべき施策を取りまとめた「ユニバーサルデザイン2020行動計画」が決定され、各府省等は、同計画に基づき、心のバリアフリー及びユニバーサルデザインの街づくりに係る事業を実施している。また、施策の実効性を担保していくために、障害当事者その他学識経験者で構成して、オリパラ事務局が事務局機能を担うユニバーサルデザイン2020評価会議が、29年度から32年度までの間、毎年度末を目途に施策ごとの実施状況を確認して、必要に応じて助言を行うこととなっている。

(注22)
心のバリアフリー  様々な心身の特性や考え方を持つ全ての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションを取り、支え合う取組
(注23)
ユニバーサルデザインの街づくり  障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいようあらかじめデザインした街づくりを行う取組

(4) 大会組織委員会、東京都等に対する各府省等が実施する大会の関連施策以外の事業等による支援の状況

第1の2(2)オのとおり、大会の準備及び運営を行う主体である大会組織委員会に加えて、東京都及び都外自治体においても、自ら取り組むべき大会の関連施策を設定して実施している。また、大会の招致活動は、東京都及び招致委員会が中心となって実施していた。これらの取組に対して、各府省等が実施した(1)から(3)までの大会の関連施策以外に、29年度までに各府省等及び独立行政法人が行った主な支援状況をみると、次のとおりである。

ア 大会組織委員会に対する支援状況
(ア) 各府省等による職員の派遣等の状況

オリパラ特措法によれば、大会組織委員会は、大会の準備及び運営に関する業務のうち、大会の会場その他の施設の警備の計画の作成等の国の事務又は事業との密接な連携の下で実施する必要がある業務を円滑かつ効果的に行うために、国の職員の派遣をその任命権者に対して要請できることとされている。そして、各府省等の任命権者は、派遣の必要性等を勘案した上で、相当と認めるときは、派遣しようとする国の職員の同意を得て、大会組織委員会との間の取決めに基づき、国の職員を派遣することができることとされている。また、派遣する職員には国は給与を支給しないこととされているが、特に必要があると認められるときは、俸給、扶養手当、地域手当、広域異動手当、研究員調整手当、住居手当及び期末手当(以下、これらを合わせて「俸給等」という。)のそれぞれの100分の100以内を支給することができることとなっている。なお、オリパラ特措法が成立し、施行された27年6月以前は、国の職員は大会組織委員会への出向等により大会組織委員会の業務に従事しており、国は給与を支給していない。

この派遣等の実績は図表7-1のとおりであり、25年度から29年度までに、10府省等から55名が大会組織委員会へ派遣等されている。大会組織委員会が実施する業務量の増加や組織規模の拡大に伴い、派遣等される職員の人数は年々増加傾向にある。

派遣等された職員に係る給与の国の負担状況をみると、オリパラ特措法成立後、55名のうち24名に係る俸給等はその大部分を各府省等が負担しており、27年度から29年度までの負担額は計2億4179万余円となっている。なお、大会組織委員会が負担している専門的知見等を有する人材の配置に係る経費は26年度からJSCが交付するくじ助成金の助成対象となっており、このうち派遣等された国の職員の俸給等に係る26年度から29年度までの助成額は計3億8205万余円となっている(3024_2_2_4_1_2(イ)参照)。

図表7-1 大会組織委員会への国の職員の派遣等の状況(平成25年度~29年度)

(単位:人、千円)
府省等名 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
人数
人数
うちくじ助成金
人数
うち国費負担 うちくじ助成金
人数
うち国費負担 うちくじ助成金
人数
うち国費負担 うちくじ助成金
人数
うち国費負担 うちくじ助成金
人数 助成額 人数 負担額 人数 助成額 人数 負担額 人数 助成額 人数 負担額 人数 助成額 人数 負担額 人数 助成額
内閣府
(警察庁)
0 0 0 - 2 1 859 1 13,801 5 4 17,179 1 10,260 7 6 29,735 1 9,395 7 6 47,774 1 33,456
総務省 0 0 0 - 1 0 - 1 6,816 4 3 19,837 1 7,995 6 4 26,224 1 7,371 6 4 46,062 2 22,183
法務省 0 0 0 - 0 0 - 0 - 1 0 - 1 6,825 2 1 2,840 1 6,130 2 1 2,840 1 12,956
外務省 0 1 1 6,214 2 1 1,438 2 10,366 2 1 7,941 1 9,803 4 2 8,686 2 9,255 4 2 18,066 3 35,640
財務省 0 1 1 11,689 3 2 8,810 1 13,588 5 4 20,456 1 9,895 5 4 23,975 1 9,089 5 4 53,242 1 44,263
文部科学省 3 4 0 - 7 0 - 2 7,540 9 0 - 5 34,292 11 0 - 11 68,699 17 0 - 11 110,532
厚生労働省 0 0 0 - 0 0 - 0 - 1 0 - 1 7,654 1 0 - 1 10,043 1 0 - 1 17,697
農林水産省 0 0 0 - 1 0 - 1 1,776 2 0 - 2 11,060 2 0 - 2 13,274 2 0 - 2 26,110
国土交通省 0 1 1 7,739 4 2 8,723 2 20,661 8 5 28,749 3 17,796 7 5 36,333 2 16,442 10 7 73,806 4 62,639
環境省 0 0 0 - 0 0 - 0 - 1 0 - 1 8,394 1 0 - 1 8,177 1 0 - 1 16,572
3 7 3 25,643 20 6 19,830 10 74,551 38 17 94,165 17 123,979 46 22 127,796 23 157,880 55 24 241,793 27 382,054
注(1)
各年度の人数は、派遣等の期間にかかわらず同年度内に派遣等した人数を計上している。
注(2)
計欄の人数は純計である。
注(3)
くじ助成金による国の職員の俸給等に係る助成額は俸給等の額に応じて個別に算定されているものではないため、ガバナンス・コンプライアンス強化に係る事業全体として助成対象となる経費の上限額に対する実際の助成額の割合を基に計算している。
注(4)
国庫負担対象者とくじ助成金対象者は原則として別の者であるが、一部で同一年度内又は年度間で対象の区分が変更されている者がいるため、各年度の「うち国費負担」の人数と「うちくじ助成金」の人数の計が、各年度の人数を上回っているものがある。
(イ) JSCによる財政支援の状況

JSCは、スポーツ振興くじ助成の一つの事業として、大会の円滑な開催を図ることを目的として、大会組織委員会等が行うガバナンス・コンプライアンス強化及び国際広報活動に要する経費に対して助成を行っている。この事業による大会組織委員会への支援状況は図表7-2のとおりとなっており、JSCは26年度から29年度までに計20億3168万余円を助成し、国の職員を含む専門的知見等を有する人材の配置、専門的な分野に係る外部からの業務支援、国外での大会のPR活動等に要する経費に対して大会組織委員会を支援している。

図表7-2 JSCによる大会組織委員会への財政支援の状況(平成26年度~29年度)

事業の名称 主な内容 平成26年度 27年度 28年度 29年度
ガバナンス・コンプライアンス強化 専門的知見等を有する人材の配置 176,148 224,875 246,539 245,243 892,806
  うち各府省等からの派遣等職員の配置 25,643 74,551 123,979 157,880 382,054
税理士法人、法律事務所等による専門的な分野の業務支援等 213,750 345,510 224,860 154,756 938,878
小計 389,899 570,386 471,400 400,000 1,831,685
国際広報活動 リオ大会開催時におけるTokyo2020JAPANHOUSEを通じた東京大会のPR活動 - - 200,000 - 200,000
389,899 570,386 671,400 400,000 2,031,685
(注)
ガバナンス・コンプライアンス強化に係る「主な内容」別の助成額は内容ごとに助成額が個別に算定されているものではないため、ガバナンス・コンプライアンス強化に係る事業全体として助成対象となる経費の上限額に対する実際の助成額の割合を基に計算している。
イ 東京都に対する支援状況

東京都は、大会の開催都市として招致決定後から大会の開催に向けた準備を進めており、特に大会経費としてV2予算における試算対象となっている東京都が所有する大会施設の新規整備及び改修整備については、1(3)ウのとおり、31年度までに完了するよう取り組んでいる。また、V2予算に含まれない行政経費については、30年度に、29年度から32年度までの4年間でどの程度の規模となるかの大枠のフレームを示している。東京都が実施する大会の関連施策の概要は図表7-3のとおりであり、東京都によると、32年度までに1兆4000億円程度が必要であるとしており、このうち28年度から32年度までに大会経費として6000億円、29年度から32年度までに大会に関連する行政経費として8100億円程度が必要であるとしている。

ただし、大会に関連する行政経費は飽くまでも大枠のフレームを示したものであり、個別の事業を積み上げたものではない。このため、東京都が実施した大会の関連施策について、各府省等が実施した(1)から(3)までの大会の関連施策以外の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金により、29年度までに財政支援をしたものとして判明しているのは、大会施設であるオリンピックアクアティクスセンターの新規整備に対する国庫補助(3024_2_1_3_31(3)ウ参照)のみとなっている。

図表7-3 東京都が実施する大会の関連施策の概要

大会経費 6000億円   大会に関連する行政経費 約8100億円
大会施設の新規整備及び改修整備 (大会に密接に関わる事業)
既存体育施設の改修、晴海地区基盤整備、輸送インフラ、セキュリティ対策、バリアフリー対策、多言語対応、教育・文化プログラム、都市ボランティア、競技力向上施策の推進、障害者スポーツの振興等
(主に共同実施事業)仮設等、エネルギー、テクノロジー輸送、セキュリティ、オペレーション等 (大会の成功を支える関連事業)
都市インフラの整備、安全・安心の確保、観光振興、東京・日本の魅力発信、スポーツ振興等
平成28年度489億円
29年度328億円
30年度983億円
31~32年度4200億円
29年度1900億円
30年度2300億円
31年度2500億円
32年度1400億円
(注)
東京都の公表資料を基に会計検査院が作成した。金額は全て見込額である。
ウ 東京都以外の地方自治体に対する支援状況
(ア) 東京都内の大会施設が所在する市及び特別区に対する財政支援の状況

第1の2(2)オのとおり、東京都内に大会施設が所在する11市区の中には、29年度までに、東京都とは別に自ら取り組むべき大会の関連施策を設定して実施している市区もある。これらの市区が28、29両年度に実施した大会の関連施策について、各府省等が実施した(1)から(3)までの大会の関連施策以外の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金による財政支援の状況をみると、財政支援を受けているのは4市区(注24)であり、その支援額は28、29両年度で計4億6118万余円となっている(図表7-4参照)。

(注24)
4市区  調布市、中央、世田谷、江戸川各区

図表7-4 市及び特別区が実施する大会の関連施策に対する財政支援の状況(平成28、29両年度)

(単位:千円)
府省等名 競技会場周辺等の道路整備 大会に向けた機運醸成事業(文化プログラム等) 地域スポーツ等に係る施設整備
自治体数 交付金額 自治体数 交付金額 自治体数 交付金額 自治体数 交付金額
文部科学省 0 - 1 73 1 181,443 1 181,516
国土交通省 4 242,550 0 - 0 - 4 242,550
JSC 0 - 0 - 1 35,730 1 35,730
独立行政法人日本芸術文化振興会 0 - 1 1,387 0 - 1 1,387
4 242,550 1 1,460 2 217,173 4 461,183
(注)
「計」の自治体数は純計である。
(イ) 都外自治体に対する支援状況

第1の2(2)オのとおり、都外自治体である8道県及び13市町の中には、29年度までに自ら取り組むべき大会の関連施策を設定して実施している都外自治体もある。どのような内容の事業を大会の関連施策として設定するかは各地方自治体により異なるため、これらの都外自治体が28、29両年度に実施した大会の関連施策のうち、競技会場の整備、大会に向けた機運醸成等の多くの地方自治体で実施することが想定される主な分野について、各府省等が実施した(1)から(3)までの大会の関連施策以外の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金による財政支援の状況をみると、財政支援を受けているのは8道県(注25)及び6市(注26)であり、その支援額は28、29両年度で計64億4949万余円となっている(図表7-5参照)。競技会場の整備については、横浜国際総合競技場及び福島あづま球場の整備の財源に国庫補助金が充てられている(3024_2_1_3_51(3)オ参照)。

(注25)
8道県  北海道、宮城、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、静岡各県
(注26)
6市  福島、さいたま、川越、千葉、横浜、伊豆各市

図表7-5 都外自治体が実施する大会の関連施策に対する財政支援の状況(平成28、29両年度)

(単位:千円)
府省等名 競技会場の整備 競技会場周辺施設の整備 競技会場周辺の道路整備 大会に向けた機運醸成(イベント開催、文化プログラム、教育等) 広報・観光振興 心のバリアフリー 地域スポーツ・障害者スポーツ振興
自治体数 交付金額 自治体数 交付金額 自治体数 交付金額 自治体数 交付金額 自治体数 交付金額 自治体数 交付金額 自治体数 交付金額 自治体数 交付金額
内閣府 0 - 1 25,611 0 - 2 31,602 4 221,271 1 21,600 1 5,113 7 305,197
法務省 0 - 0 - 0 - 1 240 0 - 2 24,657 0 - 3 24,897
厚生労働省 0 - 0 - 0 - 2 2,857 1 11,988 2 19,835 4 337,666 5 372,346
文部科学省 1 1,994,000 0 - 0 - 5 613,672 0 - 0 - 2 27,232 5 2,634,905
経済産業省 1 21,546 0 - 0 - 0 - 2 262,413 0 - 1 178,803 2 462,763
農林水産省 0 - 0 - 0 - 1 1,139 2 137,951 0 - 0 - 3 139,090
国土交通省 1 1,996,689 0 - 3 340,840 0 - 3 149,992 0 - 0 - 7 2,487,522
JSC 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 2 22,775 2 22,775
2 4,012,235 1 25,611 3 340,840 9 649,511 7 783,616 4 66,092 6 571,590 14 6,449,497
(注)
「計」の自治体数は純計である。

また、都外自治体が、国庫補助金等を財源として大会の円滑な運営のために特に必要な大会の関連施策を実施している参考事例を示すと、次のとおりである。

<参考事例2> 国庫補助金等を財源として大会の円滑な運営のために特に必要な大会の関連施策を実施しているもの

神奈川県は、平成27年6月に、自らが所有して、管理している湘南港が大会のセーリング競技の競技会場として決定したことから、大会の円滑な運営のために、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会、競技会場が所在する同県藤沢市、関係する民間事業者等と共に検討を進めている。

そして、大会開催に伴い、湘南港に停泊している小型ヨット等の移動先を確保する必要があることや、大会の開催を契機として注目が高まり、大会開催時に使用する同県藤沢市から同県三浦郡葉山町にかけての海面の利用の増大が見込まれること、セーリング文化をレガシーとして継承し、継続的な地域の発展につなげる必要があることなどから、29年2月に内閣府から地域再生法(平成17年法律第24号)に基づき、セーリングレガシー継承施設等整備事業として地域再生計画の認定を受けている。

この事業は、湘南港に隣接する葉山港の小型ヨットの保管施設の増築等を行うとともに、大会に向けて機運醸成のためのセーリング体験会等を実施するものであり、小型ヨットの保管施設の増築等については、29年度に内閣府から地方創生拠点整備交付金2561万余円(交付対象事業費7329万余円)の交付を受けている。

29年度に小型ヨットの保管施設の増築等は終了しており、同施設は30年度中に供用される予定となっている。同施設は、大会開催時の円滑な運営に資するものであり、大会終了後も施設面でのレガシーとして活用される見込みである。

また、同県は、競技会場として決定される前から、湘南港への交通経路であり、江の島と片瀬海岸を結ぶ江の島大橋について、渋滞解消のために拡幅等の改修を行うことを検討しており、大会の成功や湘南港の機能強化、江の島地域の活性化を図るために28年度から工事を開始し、32年3月までにしゅん工することとしている。

そして、これらの整備内容については、社会資本総合整備計画「相模湾の港湾における安全で快適な港づくり」の一部として国土交通省へ提出し、28、29両年度に社会資本整備総合交付金として1億7618万余円(交付対象事業費7億8801万余円)の交付を受けている。競技会場である湘南港への経路としては必ず江の島大橋を通る必要があることから、大会開催時の円滑な輸送に資する整備内容となっている。

エ 大会の招致活動に対する支援状況

第1の2(1)ウのとおり、大会の招致活動は、東京都及び招致委員会が中心となり、国やJOC等が支援をして実施されていた。招致委員会が26年4月に公表した「2020年オリンピック・パラリンピック競技大会招致活動報告書」等に基づき、大会の招致活動に対する各府省等及び独立行政法人の主な支援状況をみると、次のとおりとなっている。

(ア) 文部科学省による業務支援の状況

文部科学省は、23年10月に文部科学省東京2020オリンピック・パラリンピック招致対策本部を設置して、招致活動に対する業務支援を行っていた。具体的には、図表7-6のとおり、25年度に文部科学大臣等が国外の国際会議等に参加して、IOC関係者へプレゼンテーションを行ったり、招致に向けた国内の機運醸成を図るために、関東近郊の大学でリレーセミナーを実施したりするなどしており、それらの活動に要した金額は計4760万余円となっている。

図表7-6 大会の招致活動に対する文部科学省による業務支援の状況(平成25年度)

(単位:千円)
項目 主な内容 平成25年度
招致活動支援出張 国際会議等への出張者の職員旅費、借損料等 47,473
リレーセミナー 諸謝金、委員等旅費、職員旅費 134
47,607
(イ) JSCによる財政支援の状況

JSCは、スポーツ振興くじ助成の一つの事業として、閣議了解された大会の招致の実現に資する国内外における広報活動、国際会議等におけるスポーツ情報の提供及び国外におけるドーピング防止活動に要する経費に対して助成を行っている。この事業による招致委員会等への支援状況は図表7-7のとおりとなっており、JSCは24、25両年度に計10億2078万余円を助成し、主に招致委員会等の関係者が国際会議等へ出席する際の旅費、滞在費、広告用資材の作成費等に対して支援している。

図表7-7 JSCによる大会の招致活動への財政支援の状況(平成24、25両年度)

(単位:千円)
助成対象 主な内容 平成24年度 25年度 24、25両年度の計
招致委員会 国際会議等への関係者の旅費、滞在費、広告用資材の作成、国内外への宣伝費用等 253,000 656,966 909,966
JOC ロンドンにおけるJAPANHOUSEの設置・運用費用 104,000 104,000
JADA 国外における日本のアンチ・ドーピング活動の宣伝費用 3,369 3,452 6,821
360,369 660,418 1,020,787