会計検査院は、大会に向けた取組状況等に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①大会の開催に向けた取組等の状況について、国は、大会の開催に向けて、大会の準備及び運営を行う主体である大会組織委員会、開催都市である東京都等とどのように情報共有を図るなどして相互に連携して、取組内容等の調整を図っているか、国が既にその一部を負担している経費や今後負担することとなる経費が含まれている大会経費の試算の内容はどのようになっているか、新国立競技場等の大会施設の整備状況等はどのようになっているか、特に、新国立競技場の整備に係る財源の確保、大会終了後の活用方法の検討等は適切に行われているか、②各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について、各府省等が実施する大会の関連施策の実施体制及び実施状況はどのようになっているか、また、実施内容は大会の円滑な準備及び運営並びに大会終了後に残すべきレガシーの創出に資するものとなっているか、各府省等が実施する大会の関連施策以外に、東京都等が実施する大会の関連施策等に対する各府省等の支援状況はどのようになっているかなどに着眼して検査を行った。
大会組織委員会、東京都、国、JOC及びJPCは、26年1月に調整会議を設置して大会組織委員会会長、東京都知事、文部科学大臣、オリパラ担当大臣、JOC会長及びJPC会長の6者により、大会の準備及び運営における特に重要な事項について調整を図ることとしており、25年度から29年度までに計14回開催されている(3024_2_1_1リンク参照)。
大会開催時の大会関係者及び観客の輸送については、輸送計画案の内容を調整する輸送調整会議等により検討及び調整が行われている。輸送関係者による具体的な輸送計画案の策定に当たっての意見調整が行われているのは輸送調整会議においてであり、29年度末までに計4回開催されている。東京圏の輸送計画案については、大会組織委員会及び東京都により29年6月に「輸送運営計画V1」が策定されて継続して検討が進められており、同年12月から30年1月までにかけて競技会場が所在する北海道、宮城、福島、茨城、神奈川、静岡各県でも検討が開始されている(3024_2_1_1_2_2_1リンク参照)。
大会の開催に向けて、東京都、都外自治体、大会組織委員会及び国が相互に緊密に連携しながら準備を進めていくために、27年11月にオリパラ担当大臣、東京都知事、都外自治体のうち道県の知事、政令指定都市の市長及び大会組織委員会会長を構成員とする「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会」が設置され、作業チームや各関係機関の実務担当者間での協議を通じて、大枠の合意に基づき各関係機関が担う業務内容の具体化について検討が行われている(3024_2_1_1_2_2_2リンク参照)。
立候補ファイル、V1予算及びV2予算のそれぞれにおける大会経費の試算額の変遷を示すと、25年1月提出の立候補ファイルにおける試算額は8299億円、28年12月のV1予算における試算額は1兆5000億円、29年12月のV2予算における試算額は1兆3500億円となっている。立候補ファイルにおける試算は、東京都及び招致委員会がIOCから示された基準に基づき、IOCや専門家等にヒアリングを行った上で行われたものであり、他の立候補都市と比較可能なようにIOCにより計上対象とする経費が設定されているため、施設整備については施設本体の工事費のみを計上して設計費用が計上されていなかったり、仮設施設及びオーバーレイに係る原状復旧費用が計上されていなかったり、輸送やセキュリティ等の大会の運営に要する経費が一部しか計上されていなかったりなどしており、大会経費の全体を試算したものとはなっていない(3024_2_1_2_1リンク参照)。
V2予算における試算の主体である大会組織委員会は、対象とする経費の基準について公表していない。大枠の合意の当事者である東京都によると、基本的な考え方として、①専ら大会のために行われる大会に直接必要となる業務に係る経費と②大会にも資するが大会終了後も活用されてレガシーとして残る新規整備に係る経費との両方を大会経費として整理しているとしている。また、行政経費は試算の対象とはしていないとしている(3024_2_1_2_1_2リンク参照)。
会計検査院が会計実地検査により把握した大会施設の整備等の大会の開催に関連して行われることが想定される主要な業務について、V2予算における試算の対象業務と対象外業務の別に示すと、V2予算における試算対象は、大会組織委員会が負担して実施する全ての業務、東京都及び国(JSCを含む。)が負担する所有施設の新規整備及びパラリンピック経費等の共同実施事業となっている。一方、国及び都外自治体が行う所有施設の改修整備や、大枠の合意に基づき国及び都外自治体が担うこととなっている業務の経費は、行政経費であるとして試算の対象となっていない。また、民間団体が所有する施設の改修整備等の民間団体に係る業務は全て試算の対象外となっている。これらのとおり、V2予算は大会の開催に関連して行われる全ての業務に係る経費を示すものではない。試算の対象外となっている業務のうち、大枠の合意において国が担うこととなっているセキュリティ対策及びドーピング対策について29年度までに各府省等が実施した内容をみると、大会組織委員会を対象とするものとして、大会の適切な運営に向けて、総務省が大会組織委員会職員及び大会組織委員会のシステムに関連する事業者を対象に大会開催時を想定した模擬環境で行うサイバーセキュリティに係る攻撃・防御双方の実践的な演習(サイバーコロッセオ。本事業に係る29年度の支出額5743万余円)がある。本事業は、大会の関連施策として整理されているものの、オリパラ関係予算としては整理されていない。国が29年度末時点で大会に関連して行う業務に要する経費の規模を公表しているのは、所定の要件を満たすとして各府省等が整理し、オリパラ事務局へ回答したオリパラ関係予算のみであり、オリパラ関係予算として整理されていないが、大会組織委員会を対象とするなどの大会との関連性が強いと思料される業務に要する経費の規模は公表していない(ZUHYO2-4リンク参照)。
大会組織委員会が公表している正味財産増減計算書に基づき、25年度から29年度までの収入の実績をみると、経常収益は計1779億余円であり、このうち収入の中心となるスポンサー料等のマーケティング収益が1683億余円となっている。V2予算における大会組織委員会の収入に係る試算額6000億円に占める29年度までの経常収益の計1779億余円の割合は29.6%となっている。また、大会組織委員会の25年度から29年度までの支出の実績をみると、経常費用は計807億余円であり、このうち事業費は663億余円、管理費は143億余円となっている。V2予算における大会組織委員会の支出に係る試算額6000億円に占める29年度までの経常費用の計807億余円の割合は13.4%となっている(3024_2_1_2_2リンク参照)。
29年度に大会組織委員会が執行したパラリンピック経費は44件の契約に係る計7億3044万余円(うちパラリンピック交付金相当額1億8253万余円)であり、30年3月末に共同実施事業管理委員会において確認が行われている。30年度以降は、仮設整備及びオーバーレイ整備への着手や、輸送・セキュリティ等の経費の具体化に伴う発注増により様々な種類の契約が多数締結され、東京都に交付されたパラリンピック交付金300億円の大部分が、東京都から大会組織委員会へパラリンピック経費に係る負担金として交付されることが見込まれる(3024_2_1_2_2_2リンク参照)。
第II期業務の29年度までの整備の進捗状況は、JSCによれば、31年11月末の完成に向けて、工期に支障なく進捗しているとされており、29年度中に地上躯体工事を完了し、屋根工事、内装仕上工事等を開始している(3024_2_1_3_1_2リンク参照)。
JSCが行う新国立競技場の整備に係るスタジアム本体及び周辺整備費と設計・監理等費用に加えて、旧競技場の解体工事費、埋蔵文化財調査費、計画用地内に所在する日本青年館・JSC本部棟移転経費、通信・セキュリティ関連機器や什器等の費用、旧整備計画関係費等の経費について執行状況を示すと、25年度から29年度までの支払額は計738億余円となっている(3024_2_1_3_1_3リンク参照)。
第II期業務における事業費の確認体制を示すと、JVは施工時の検討等に伴い設計内容に変更が生ずる場合には、事業費を遵守するために、変更による金額の増減に合わせて他の変更可能な内容を検討し、JSCはJVから変更理由、変更概算額等について説明を受けて、要求水準等に影響がないこと及び適切に事業費が遵守されていることの確認を日々事業者と行う定例会議において行うとともに、必要に応じて外部有識者で構成するアドバイザリー会議に報告して確認を受けることとなっている。また、変更内容を契約に適切に反映するために、定期的に変更契約を締結している。29年度までは契約金額の増はない(3024_2_1_3_1_4リンク参照)。
JSCは、新国立競技場の整備のうち、Wi-Fi設備、監視カメラ、入場ゲート等の通信・セキュリティ関連機器や什器等の整備を行うこととしている。通信・セキュリティ関連機器に係る29年度までの契約金額は計27億2715万余円となっている(29年度までの支払はない。)。また、什器・備品の調達については、30年度以降に手続を開始することとなっている(3024_2_1_3_1_5リンク参照)。
27年7月に、内閣総理大臣から旧整備計画の白紙化とゼロベースでの見直しが指示されたことから、JSCは、25年以降締結した旧整備計画の設計、工事、監理等に係る21契約のうち、白紙化以前に履行を完了していた13契約を除く8契約について、白紙化後すぐに契約相手方に業務の中止を伝達するとともに、通告を行って契約を解除した。そして、契約に向けて交渉を行っていた相手方から、契約不成立により契約準備段階において発生した見積費用等の損害等に係る請求が3件行われている。旧整備計画に係る25年度から28年度までの支払の内容は、白紙化以前に履行が完了していた13契約に係る支払額が29億3988万余円、契約を解除した8契約に係る精算に伴う支払額が34億9416万余円、契約不成立による契約準備段階の損害に係る請求3件の支払額が4億2526万余円の計68億5930万余円となっている。また、これらのうち運営費交付金を財源とするものが13億8735万余円、政府出資金を財源とするものが17億0248万円となっている(3024_2_1_3_1_6リンク参照)。
財源スキームに基づく国、東京都等の分担内容は、スタジアム本体・周辺整備に係る工事及び設計・監理等に要する見込額計1590億円と旧競技場の解体工事に係る支出額又は支出見込みの額計55億円の合計1645億円から、JSCが実施して負担する上下水道工事に要する見込額27億円及びJSCが実施し東京都へ引き渡して東京都が負担する道路上空連結デッキ整備に要する見込額37億円を除く1581億円を分担対象経費として、国はその2分の1相当額である791億円を負担し、東京都は4分の1相当額である395億円を負担して、残りの395億円については、スポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てることとなっている(3024_2_1_3_1_7リンク参照)。
財源スキームに基づく国の負担額791億円のうち、文部科学省からJSCへ交付されて、特定業務勘定で受け入れた運営費交付金及び政府出資金計359億円を除く432億円は、特定金額としてスポーツ振興くじの売上金額の一部を特定業務の財源に充てることに伴い、スポーツ振興投票の収益が減少し、毎事業年度の国庫納付金の額が減少することから、国庫納付金の額の減少額の見合いとして国の負担額に含めて整理して、実際には特定金額を財源として充てることとなっている。このため、JSCの特定金額による負担は827億円(分担対象経費1581億円の52.3%)と財源スキーム上の分担対象経費の半分以上は特定金額による負担に依存する形となっている(ZUHYO3-8リンク参照)。
財源スキームに基づき、29年度までの契約金額、支払額及び負担者別の負担状況を示すと、全体の1645億円に対して契約金額は計1632億余円、支払額は計473億余円となっている。全体の支払額に対する運営費交付金及び政府出資金の負担額は29年度末時点で331億余円(473億余円の69.9%)となっている。分担対象経費に係る東京都の負担見込額395億円については、29年度末時点で協定書等は締結されておらず、東京都からの支払も行われていない。JSC法によれば、費用の額及び負担の方法はJSCと東京都が協議して定めることとされており、また、支払等の期限は定められていない。JSC及び東京都によると、今後JSC法に基づいて協議を進めて支払うこととしているが、29年度末時点でJSCへの入金時期や入金方法等は未定となっている(a01リンク参照)。
25年度から29年度までのJSCの特定業務勘定の決算の状況を示すと、収入は計1174億余円となっていて、このうち運営費交付金及び政府出資金の計517億余円が文部科学省から交付されたものとなっている。特定金額は、28年度は111億余円、29年度は108億余円となっている。支出をみると、新国立競技場の整備等に係る25年度から29年度までの支出額は計1174億余円(うち運営費交付金205億余円、政府出資金295億余円)となっている。また、29年度に特定業務勘定から国立代々木競技場の耐震改修等工事に必要な費用として7296万余円、NTCの拡充整備のための用地取得等に係る費用として46億余円が支出されている。JSCは、29年度中に支払のための資金が不足したことから、投票勘定から特定業務勘定へ短期貸付けとして50億1000万円の資金を融通しており、29年度の決算に当たり投票勘定へ返済するために民間金融機関から同額の融資を受けている。なお、当該民間金融機関からの融資については30年4月に返済して、再度、同月に投票勘定から資金を融通している。JSCによると、今後も継続して投票勘定から資金の融通を受ける予定であるとしている(3024_2_1_3_1_8リンク参照)。
JSCによると、特定業務勘定の30年度以降の収支の見通しは、32年度までの毎年度、特定金額として110億円程度の収入があり、かつ、新国立競技場がしゅん工する31年度に東京都から分担対象経費の負担額と道路上空連結デッキの整備費用の残額の計431億余円が支払われると仮定した場合でも、第II期業務、通信・セキュリティ関連機器整備、国立代々木競技場の耐震改修等工事等に係る契約相手方への支払のために、30、31両年度で資金が794億円程度不足することが見込まれている。JSCは、更なる他の勘定からの資金の融通は難しいことから、文部科学大臣の認可を得て30年4月に311億円を民間金融機関から長期借入金として借り入れており、また、480億円程度を30、31両年度で借り入れる予定としている。既に借り入れていた311億円については35年度までに返済することとしているが、今後借り入れる予定の借入金については、特定金額が36年度以降はスポーツ振興くじの売上金額の5%に戻ることもあり、その返済期間は長期にわたることが見込まれる。この収支の見通しは29年度末現在のものであり、財源について想定どおり特定金額として毎年度110億円程度の収入があるかは不明である。また、東京都からの支払が想定どおり31年度中に行われるかは29年度末時点では決定していない。支出についても、30年度以降の収支見通しに含まれていない経費として、少なくとも31年度にしゅん工する予定のNTCの拡充整備について、特定業務とされている外構整備等に係る支出が見込まれている(ZUHYO3-12リンク参照)。
基本的考え方によれば、大会終了後に国際サッカー連盟ワールドカップ規定(8万席)並びにワールドラグビー競技規則に対応し得る臨場感ある球技専用スタジアムに改修すること、民間事業者のノウハウと創意工夫を活用してボックス席の設置等のホスピタリティ機能を充実する改修を行うことを運営管理の方向性として、31年年央を目途にコンセッション事業(公共施設等運営事業)等の民間事業化の事業スキームを構築して、公募を経て32年秋頃を目途に優先交渉権者を選定すること、大会終了後に改修を行い、34年後半以降の供用開始を目指すことなどとなっているが、29年度末時点では改修に係る財源や期間及び必要となる業務の規模の方向性については定まっていない。また、JSCの29年度末時点の調査結果によると、基本的考え方において取りまとめられたスケジュールを基本とした上で、優先交渉権者の公募に際しては、新国立競技場の図面等を示した募集要項等を公表して民間事業者を募る必要があるが、セキュリティ面の問題から公表は大会終了後の32年10月頃とし、募集要項等の公表前には民間事業者との複数回の意見交換の機会を設けるスケジュールとして、募集要項等の公表から事業者の選定までの期間も精査することが必要であるとされている。そして、新国立競技場の完成後は、施設の規模に相応の維持管理費(点検・清掃費用等の保全コスト及びエネルギー費用の運用コスト)が毎年度必要とされ、民間事業化までの期間は所有者であるJSCの負担が生ずることが想定される(3024_2_1_3_1_11リンク参照)。
JSCが所有して管理する国立代々木競技場の29年度までの整備状況をみると、耐震改修工事は、26年度から29年度までに基本計画の策定、基本設計及び実施設計(契約金額計5億0176万余円)を実施して、29年12月に31年9月をしゅん工期限とする第一体育館、付属棟等の工事(契約金額73億9800万円)に着手しており、30年度第2四半期に第二体育館の工事に着手する予定としている。また、機能向上工事は、第一体育館、第二体育館及び外構部分について車いす席、スロープ、バリアフリートイレ等のバリアフリー整備等を行うものであり、29年度に設計(契約金額4816万余円)を実施しており、30年度に工事に着手することとしている。29年度までの支払額は計5億1350万余円であり、その財源は運営費交付金8424万円、施設整備費補助金4億1061万余円及び特定金額1865万余円となっている(3024_2_1_3_2リンク参照)。
JRAが所有して管理する馬事公苑の29年度までの整備状況についてみると、JRAは、28年1月に設計施工契約(契約金額317億6604万円)を締結し、メインアリーナ、練習馬場、厩舎等の建替、改修等を行って、31年10月にしゅん工予定であるとしている。そして、29年度までに基本設計及び実施設計が終了し、各施設の解体工事、土木工事及び建築工事に着手しており、29会計年度までに計136億5468万余円を支払っていて、財源は全て特別振興資金である(3024_2_1_3_2_2リンク参照)。
開催都市である東京都が所有する大会施設は29年度末時点で14か所となっており、このうち東京都が大会に向けた新規整備又は改修整備を行うのは11か所となっている。29年度までの整備状況をみると、主に新規整備を行うものが7か所、改修整備を行うものが4か所となっている。バドミントン等の会場となる武蔵野の森総合スポーツプラザは29年3月にしゅん工して、同年11月に開業しており、ボート等の会場となる海の森水上競技場は30年度末、他の施設は31年度中のしゅん工を予定して整備が進められている。整備の財源をみると、ほとんどが東京都の単独費用となっているが、バレーボール等の会場となる有明アリーナ及び水泳の会場となるオリンピックアクアティクスセンターの新規整備の財源の一部に国庫補助金を充てることとなっている(3024_2_1_3_3リンク参照)。
主に大会組織委員会が行う仮設整備により整備する大会施設は10か所となっており、29年度までに整備工事に着手しているのは体操等の会場となる有明体操競技場及び総合馬術(クロスカントリ-)の会場となる海の森クロスカントリーコースとなっている。競歩のスタート及びゴールの会場となる皇居外苑及び射撃の会場となる陸上自衛隊朝霞訓練場は、環境省及び防衛省がそれぞれ管理する国有財産であり、オリパラ特措法に基づき国有財産を無償使用させることが見込まれているが、29年度末時点では大会開催時の使用範囲等の詳細が決定していない(3024_2_1_3_4リンク参照)。
都外自治体又は民間団体が所有する大会施設は29年度末時点で18か所となっており、このうち都外自治体又は民間団体が改修整備を行っているのは11か所となっている。29年度までの整備状況をみると、都外自治体によるものが9か所、民間団体によるものが2か所であり、そのほとんどは大規模修繕の一環として、又は大規模修繕を前倒しするなどして、大会に資する内容の整備を実施している。整備の財源をみると、29年度末まではほとんどが都外自治体及び民間団体の単独費用で行われているが、野球・ソフトボールの会場となる福島あづま球場の改修に向けた設計業務及びサッカーの競技会場となる横浜国際総合競技場の改修等整備の財源の一部に国庫補助金が充てられている(3024_2_1_3_5リンク参照)。
日本武道館については、所有者である民間団体による練習道場棟の増築に係る埋蔵文化財発掘調査が開始されたことに伴い、皇居外苑を管理する環境省は、29年9月に増築予定の敷地等について、オリパラ特措法に基づく国有財産の無償使用を許可している(有償使用とした場合の30年度の年間使用料の試算額1400万余円)。今後、増築工事が終了し、既存棟の改修工事を行う際に使用許可の変更を行い、大会終了後に日本武道館が通常運営を再開するまでの間、増築部分と既存棟を合わせた敷地全体について、日本武道館の所有者である民間団体に無償使用させる予定となっている(a02リンク参照)。
政府の取組状況報告には、各府省等が実施する大会の関連施策に係る予算額等は記載されておらず、事業名についてもごく一部のものを除き記載されていない。このため、29年5月に公表された政府の取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業及び25年度から29年度までの支出額について、会計検査院が各府省等に調書の提出を求めて、その内容をオリパラ基本方針等に基づく15分野の70施策の別に区分して集計したところ、14府省等において「大会の円滑な準備及び運営」に資する8分野の45施策に係る148事業、「大会を通じた新しい日本の創造」に資する7分野の25施策に係る136事業及び両方にまたがる取組内容であり区分が困難な2事業の計286事業が実施されている。そして、それらに係る支出額は計8011億余円(事業ごとの支出額を算出することが困難な事業又は公表できない事業に係る支出額を除く。)となっている(3024_2_2_1_1リンク参照)。
オリパラ関係予算の決算額については取りまとめられていないことから、会計検査院が各府省等に対して28、29両年度のオリパラ関係予算の執行状況について調書の提出を求めて、その内容を集計した結果、32事業に係るオリパラ事務局への登録額846億余円に対して、支出額は788億余円となっている(3024_2_2_1_2リンク参照)。
各府省等は、29年3月に国として担うセキュリティ対策の方向性を定めるものとして策定されたセキュリティ基本戦略に基づき、セキュリティ分野の様々な大会の関連施策を実施することとしている。セキュリティ分野の大会の関連施策の実施内容は、29年度までは、国際テロ情報収集の収集体制の強化等、国として過去から継続して行っている内容が中心であり、30年度からは、これらに加えて大会開催時のセキュリティに直接関わる事業が実施される予定である(a03リンク参照)。
国、東京都及び首都高速道路株式会社は、29年度までに、立候補ファイルに「オリンピック競技大会開催時に利用する輸送インフラ」として記載された箇所の整備をそれぞれ実施している。具体的には、国土交通省は、一般国道357号(東京港トンネル等)、一般国道14号(両国拡幅)等の整備を、東京都は、環状第2号線(汐留~豊洲間等)、都市計画道路補助第314号線、同315号線等の整備を、首都高速道路株式会社は、首都高速晴海線等の整備をそれぞれ推進して、大会開催時における輸送ルートの確保や渋滞緩和等を図ることとしている(a04リンク参照)。
商用ステーションは、経済産業省の補助金を活用するなどして、四大都市圏を中心として、29年度末時点で、98か所で運用されており、32年度までの目標設置箇所数160か所に対する達成率は61.2%となっている。一方、商用ステーションの設備のうち、事業主体が各地域で想定されるFCVの普及台数等を勘案し、地方自治体や自動車メーカー等と協議の上で策定する事業計画において年間水素充填量を計画値として設定している設備(28年度は67設備、29年度は70設備)について、当該計画充填量と充填量の実績を比較すると、計画充填量を達成しているのは28年度において2設備、29年度において3設備のみであり、両年度共に6割を超える設備において計画充填量に対する充填量の実績の割合が25%未満となっている(3024_2_2_2_3_1_1リンク参照)。
29年度末現在、環境省の補助金を活用するなどして稼働している再エネ水素ステーションは22か所であり、32年度までの目標設置箇所数100か所に対する達成率は22.0%となっている。本補助事業で導入された再エネ水素ステーションによる二酸化炭素排出量の削減状況をみると、28、29両年度において二酸化炭素排出削減量の目標値を達成しているのは、それぞれ1設備、2設備となっており、目標値に対する実績の割合が50%未満にとどまっている設備が大半を占めていた(3024_2_2_2_3_1_2リンク参照)。
国土交通省は、大会組織委員会による競技コースの決定後に路面温度上昇抑制機能を有する舗装の具体的な整備箇所を検討するとしているが、29年度末現在、大会組織委員会において競技コースが決定されていないため、整備を実施していないとしている(3024_2_2_2_3_2リンク参照)。
文部科学省が委託契約により実施する25年度から29年度までの競技用具の機能を向上させる技術等の研究開発の実施状況についてみると、開発途中で中止となっていたものは、25年度2件(中止までの累積開発費計2602万余円)、26年度2件(同計1632万余円)、27年度4件(同計4422万余円)、28年度4件(同計6124万余円)、29年度1件(同1379万余円)であり、同省等は、中止の理由について、研究開発対象競技等の見直しにより開発途中で研究開発の対象外となったこと、市販品が販売されて開発の必要がなくなったことなどによるとしている(3024_2_2_2_4_1リンク参照)。
リオ大会に向けた夏季競技用の研究開発課題81件のうち、リオ大会前に活用されなかったものは、オリンピック競技で計15件(累積開発費計6億2288万余円)、パラリンピック競技で計2件(同計2037万余円)となっていた(ZUHYO5-15リンク参照)。
同省及び受託者における評価の状況をみると、25年度から28年度までに終了した研究開発課題の終了時の外部評価等については、リオ大会等に向けた各種のアスリートサポートの効果等を総括した報告書の中で、研究開発についての概括的な評価が行われているものの、個々の研究開発課題についての評価は行われていなかった(3024_2_2_2_4_1_2リンク参照)。
NTC及びJISSの施設における、オリンピック競技とパラリンピック競技の共同利用化の状況についてみると、トレーニング施設については、29年度は水泳等七つのパラリンピック競技で延べ2,826人(施設の利用延べ人数の1.7%)が利用しており、競技によっては、利用規程が改正された28年度よりも前から、オリンピック競技とパラリンピック競技のトップアスリートが共同でトレーニングを行うなどの利用が行われていた。また、宿泊施設については、水泳等八つのパラリンピック競技で延べ1,804人(施設の利用延べ人数の1.8%)が利用していた(3024_2_2_2_4_2_3リンク参照)。
文部科学省は、ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設活用事業を委託して実施しており、同事業の受託者が所要の手続を行った場合には、同事業の実施により設備備品費で取得した機器等は、事業完了後の年度においても国から無償で借り受けて、競技団体が行う強化活動に活用することができることとなっている。そこで、10施設の事業完了後の年度における活用状況についてみたところ、1施設において、委託事業完了後に国から無償貸付を受けた機器が活用されていない事態が見受けられた(3024_2_2_2_4_2_4リンク参照)。
文部科学省は、ドーピング防止活動推進事業として毎年度JADA等と委託契約を締結して、競技者等への研修、DCOの人材育成、ドーピング検査技術の研究開発等を実施している。このうち、DCOの人材育成について、25年度から29年度までのDCOの認定を受けている者の人数の推移をみると、29年度は269名となっており、毎年度減少している。大会に向けて、29年度末時点では大幅に不足している状況である(a05リンク参照)。
オリパラ教育の実施形態としては、オリパラ全国展開事業及び東京2020教育プログラム以外に、各地方自治体が独自にオリパラ教育を推進する事業を実施している場合がある。東京都を除く46道府県及び20政令指定都市(66自治体)の公立学校における29年度のオリパラ教育の実施状況をみると、47自治体(66自治体の71.2%。うち都外自治体は12自治体)が実施しており、このうち22自治体はオリパラ全国展開事業によりオリパラ教育を実施している。一方、19自治体(同28.7%。都外自治体はなし)はオリパラ教育を全く実施していない。都外自治体では29年度までにオリパラ教育が実施されているものの、全国でみると実施していない地方自治体が一定程度ある状況となっている(a06リンク参照)。
第1次から第5次までにホストタウンとして登録されている282団体、第1次及び第2次に復興「ありがとう」ホストタウンとして登録されている13団体(従来のホストタウンとの重複を含む。)並びに29年度末までに共生社会ホストタウンとして登録されている6団体(従来のホストタウンとの重複を含む。)のうち、28年度分の年度事業調に記載されている111団体の386事業、29年度分の年度事業調に記載されている220団体の692事業について、事業の実施状況をみると、28年度については43団体の80事業(事業費4503万余円)、29年度については56団体の88事業(事業費8289万余円)が全く実施されていない状況となっていた。未実施事業を年度事業調に記載されている交流類型別にみると、28年度においては、「交流に伴い行われる取組(その他)」の未実施率が28.8%となっていて、主な取組内容としては、スポーツ、文化及び芸術関係の相手国関係者と一般の市民との交流となっている。29年度については、「交流に伴い行われる取組(事前合宿受入)」の未実施率が20.0%となっている(3024_2_2_3_1_1リンク参照)。
登録団体の交流計画において、事前合宿の誘致を計画している238団体のうち、相手国との交渉等の結果、29年度末までに事前合宿に関する覚書等の締結に至っているのは、128団体(238団体の53.7%)となっている。覚書等の締結に至った主な要因についてみたところ、相手国の要望に沿った施設や環境の提供が62.5%を占めている。次いで、過去の国際大会における合宿実績及び首長や著名人等を起用したセールスがいずれも10.3%等となっている(3024_2_2_3_1_2リンク参照)。
国土交通省は、28年度から、訪日外国人旅行者数2020年4000万人、2030年6000万人の実現に向けて、滞在時の快適性及び観光地の魅力向上並びに観光地までの移動円滑化等を図るために、3補助金を交付している。そして、3補助金による補助事業は、宿泊施設インバウンド対応支援事業を除きいずれも交付要綱等において、事業実施後に事業評価を実施することとなっていて、同省によると、本省等の担当部局が、各地方運輸局等から提出を受けた事業評価の結果を分析することにより、事業の具体的な効果を把握し、3補助金の対象とする事業内容等のより効果的な改善策の検討が可能になるとともに、交付翌年度の事業実施計画の見直しを行ったり翌々年度の概算要求に反映させたりすることができるPDCAサイクルの仕組みが構築されているとしている。しかし、28年度の3補助金による補助事業に係る事業評価についてみたところ、29年度末時点で、東北運輸局において、二次評価案の作成以降の事業評価プロセスが実施されていなかったり、6地方運輸局において、事業評価の結果が交付翌年度の4月末までに国土交通本省等に提出されておらず、2か月から10か月程度提出が遅れていたりしていた。このため、事業評価の結果を踏まえた事業内容等の改善策の検討や、交付翌年度の事業実施計画の見直しなどを行うことができず、PDCAサイクルを適切に機能させることができていない状況となっていた(3024_2_2_3_3_1リンク参照)。
JNTOは、平成26年度一般会計補正予算から、運営費交付金を財源として、海外メディアの訪日取材・番組制作を支援して日本の魅力を紹介する記事の掲載等により現地における訪日意欲増進等を行う訪日プロモーション事業を実施している。JNTOは、本事業の成果の管理に当たり、観光庁のVJnetに接続して評価を実施することとしているが、事業の評価を実施していなかったり、事業実施前に目標値を設定したのか確認できなかったりしたものが見受けられた(3024_2_2_3_3_2リンク参照)。
東京都を除く46道府県及び20政令指定都市における29年度までのレガシーの創出に資する文化プログラムへの取組状況をみると、各地方自治体が実施する事業について文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた実績があるのは58自治体(66自治体の87.8%)に上り、実績がないのは8自治体(同12.1%)となっている。特に都外自治体は12自治体の全てで認証を受けた実績があり、レガシーの創出に資する文化プログラムの実施に積極的に取り組んでいる状況となっている。また、認証を受けた実績の有無にかかわらず、大会の開催を契機として独自にレガシーの創出に資する文化プログラムを実施しているのは36自治体(同54.5%)、beyond2020の認証組織となって民間事業者等への周知及び認証を行っているのは37自治体(同56.0%)となっている。29年度までに大会の開催を契機として、文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けるなどのレガシーの創出に資する文化プログラムへの取組実績がないのは都外自治体以外の4自治体であり、特に都外自治体以外の地方自治体間で取組内容に差がある状況となっている(ZUHYO6-18リンク参照)。
農林水産省は、地方の特性をいかした魅力ある観光地域の形成に係る取組として、大会を契機として日本ならではの伝統的な生活体験と農山漁村地域の人々との交流を楽しむ農泊をビジネスとして実施できる体制を持った農泊地域を32年までに500地域創出する政策目標を達成するために、29年度から農山漁村振興交付金の交付対象事業として農泊推進対策及び農泊推進関連対策を創設している。同省によると、農泊地域の創出に当たっては、地域ぐるみで農泊をビジネスとして実施できる体制を整備する必要があるとしており、両事業において、これに資するよう、それぞれの事業目標を設定させているが、各取組の事業目標値の達成が農泊地域の創出に結び付くものなのか明らかでないため、この確認だけでは政策目標の達成見込みを把握できるようなものにはなっていないと認められる。また、同省によると、両事業は29年度に開始した事業であり、29年度末時点では、目標年度に到達していないため、事業目標の達成状況を踏まえるなどした上で農泊地域の創出見込みを把握することができないとしている。しかし、農泊の推進に当たっては、地域ぐるみの取組が必要とされているのに、農泊推進関連対策については、農泊を地域ぐるみで推進することを事業採択の要件としていなかったため、地域協議会等が存在していない事態も見受けられた(3024_2_2_3_4_2リンク参照)。
国の職員の大会組織委員会への派遣等の実績は、25年度から29年度までに、10府省等から55名となっている。派遣等された職員に係る給与の国の負担状況をみると、オリパラ特措法成立後、55名のうち24名に係る俸給等はその大部分を各府省等が負担しており、27年度から29年度までの負担額は計2億4179万余円となっている。なお、派遣等された国の職員の俸給等に係るJSCが交付するくじ助成金による26年度から29年度までの助成額は計3億8205万余円となっている(3024_2_2_4_1_1リンク参照)。
JSCによる大会組織委員会への財政支援の状況をみると、JSCは26年度から29年度までに計20億3168万余円を助成し、国の職員を含む専門的知見等を有する人材の配置、専門的な分野に係る業務支援、国外での大会のPR活動等に要する経費に対して大会組織委員会を支援している(3024_2_2_4_1_2リンク参照)。
東京都が実施した大会の関連施策について、各府省等が実施した大会の関連施策以外の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金により、29年度までに財政支援をしたものとして判明しているのは、大会施設であるオリンピックアクアティクスセンターの新規整備に対する国庫補助のみとなっている(3024_2_2_4_2リンク参照)。
東京都内に大会施設が所在する11市区のうち、29年度までに、東京都とは別に自ら取り組むべき大会の関連施策を設定して実施している市区が28、29両年度に実施した大会の関連施策について、各府省等が実施した大会の関連施策以外の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金による財政支援の状況をみると、財政支援を受けているのは4市区であり、その支援額は28、29両年度で計4億6118万余円となっている(3024_2_2_4_3_1リンク参照)。
都外自治体である8道県及び13市町のうち、29年度までに自ら取り組むべき大会の関連施策を設定して、実施している都外自治体が28、29両年度に実施した大会の関連施策の主な分野について、各府省等が実施した大会の関連施策以外の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金による財政支援の状況をみると、財政支援を受けているのは8道県及び6市であり、その支援額は28、29両年度で計64億4949万余円となっている(3024_2_2_4_3_2リンク参照)。
国は、大会の招致について、国際親善、スポーツの振興等に大きな意義を有するものであり、また、東日本大震災からの復興を示すものともなるとして東京都が招請することを了解して、万が一、大会組織委員会が資金不足に陥った場合は、東京都が補填し、東京都が補填しきれなかった場合には、最終的に、国が国内の関係法令に従い補填すること、大会組織委員会の費用負担なしに、大会に関係する政府関連業務を提供することなどを内容とした政府保証書をIOCへ提出している。そして、大会の開催決定後は、大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技会であることに鑑み、オリパラ推進本部が行う総合調整の下、各府省等による大会の関連施策の立案及び実行により大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会、開催都市である東京都等が実施する取組の支援に取り組んできたところである。
会計検査院が検査したところ、各府省等が実施した大会の関連施策に係る25年度から29年度までの支出額は計8011億余円となっており、各府省等が実施する大会の関連施策については、30年度以降も大会の開催に向けて多額の支出が見込まれる。
今後、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会を中心として大会の開催に向けた準備が加速化していくことから、オリパラ事務局、各府省等及びJSCは、引き続き次の点に留意するなどして、大会組織委員会、東京都、都外自治体等の関係機関と連携して、32年7月からの開催に向けて、大会の円滑な準備、運営等に資する取組を適時適切に実施していく必要がある。
会計検査院としては、大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技会であることなどに鑑み、要請後、大会の準備段階のできるだけ早期に、大会の開催に向けた取組等の状況及び各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について分析して報告することとした。そして、今後、大会の開催に向けた準備が加速化し、32年には大会の開催を迎えることになることから、引き続き大会の開催に向けた取組等の状況及び各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について検査を実施して、その結果については、取りまとめが出来次第報告することとする。