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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第2 内閣府(内閣府本府)|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(1) 緊急時連絡網整備事業の実施に当たり、統合原子力防災ネットワークの通信の安定性を確保するために必要かつ十分な帯域の算出方法や、地域系ネットワーク内に独自のMCUを設置する必要がないことを所在都道府県等に対して周知するなどして指導することにより、事業が効果的かつ経済的に実施されるよう改善の処置を要求したもの


所管、会計名及び科目
内閣府、文部科学省、経済産業省及び環境省所管
エネルギー対策特別会計(電源開発促進勘定)
(項)原子力安全規制対策費
部局等
内閣府本府
交付の根拠
予算補助
事業主体
24道府県
緊急時連絡網整備事業の概要
原子力緊急事態発生時に、国、地方公共団体、原子力事業者、緊急事態応急対策等拠点施設等をネットワークで接続し、テレビ会議システム、IP電話等を使用して適時に情報共有を図るためのネットワークのうち所在都道府県等が整備するもの
検査の対象とした地域系ネットワークの構築及び運用を行う24道府県における事業費
26億6635万余円(平成28、29両年度)
基幹回線において消費帯域が契約帯域を上回っていて通信の安定性が確保されていない事業主体数及び事業費
1県 1億3763万余円(平成28、29両年度)
上記に対する交付金相当額(1)
1億3763万円
枝回線において最大消費帯域が契約帯域を大幅に下回っていて専用回線の使用料が節減できると認められる事業主体数、回線数及び使用料(2)
8県 72回線 4933万余円(平成28、29両年度)
上記に対する交付金相当額(3)
4933万円(背景金額)
(2)のうち、契約帯域を減少させた場合に使用料が節減できることが確認できた事業主体数、回線数及び節減額
4県 23回線 965万余円
上記に対する交付金相当額(4)
965万円
必要のない通信設備を設置していた事業主体数及び節減できた事業費
3県 2146万余円(平成29年度)
上記に対する交付金相当額(5)
2146万円
(1)、(4)及び(5)の純計
1億6597万円(平成28、29両年度)

【改善の処置を要求したものの全文】

緊急時連絡網整備事業による専用回線の使用及び通信設備の設置について

(令和元年10月15日付け 内閣総理大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業等の概要

(1) 緊急時連絡網整備事業の概要

国及び地方公共団体は、原子力災害対策指針(平成24年10月原子力規制委員会制定)に基づいて、原子力緊急事態(注1)発生時に、国、地方公共団体、原子力事業者、緊急事態応急対策等拠点施設(注2)(以下「オフサイトセンター」という。)等をネットワークで接続し、テレビ会議システム、IP電話等を使用して適時に情報共有を図るための統合原子力防災ネットワークを整備している。

統合原子力防災ネットワークは、原子力規制委員会が構築して運用しているネットワーク(以下「国ネットワーク」という。)と、原子力災害対策重点区域(注3)が設定されている市町村が所在する各都道府県がそれぞれ構築して運用しているネットワーク(以下「地域系ネットワーク」という。)で構成されている。そして、国ネットワークは、国の関係機関、原子力事業者、原子力規制委員会が設置しているデータセンター、オフサイトセンター等の拠点を専用回線で結んでおり、また、地域系ネットワークは、所在都道府県等(注4)、所在市町村等(注5)、オフサイトセンター等の拠点を専用回線で結んでいる。さらに、両ネットワークはオフサイトセンターを介して専用回線で結ばれている(以下、地域系ネットワークのうち、オフサイトセンターと結ばれている専用回線を「基幹回線」、その他の専用回線を「枝回線」という。図参照)。そして、これらの専用回線の帯域(注6)については、原子力規制委員会や所在都道府県等がそれぞれ電気通信事業者と締結している契約において定められている。

図 統合原子力防災ネットワークの概念図

図 統合原子力防災ネットワークの概念図 画像

貴府は、原子力発電施設等緊急時安全対策交付金交付規則(昭和55年科学技術庁・通商産業省告示第3号)等に基づき、緊急時連絡網整備事業として地域系ネットワークの構築及び運用を行う所在都道府県等に対して、原子力発電施設等緊急時安全対策交付金(以下「交付金」という。)を交付している。そして、同規則によれば、交付金の緊急時連絡網整備事業に係る交付対象経費は、専用回線の設置費及び使用料並びにテレビ会議システム、IP電話等の通信設備等に係る経費とされている。

(注1)
原子力緊急事態  原子力事業所外に放射性物質又は放射線が異常な水準で放出される事態
(注2)
緊急事態応急対策等拠点施設  原子力緊急事態発生時に、国、都道府県、原子力事業者等の原子力防災に係る関係者が集合して現地の応急対策を講ずるための拠点として内閣総理大臣が指定する施設
(注3)
原子力災害対策重点区域  あらかじめ異常事態の発生を仮定し、施設の特性等を踏まえて、その影響の及ぶ可能性がある区域を定めた上で、重点的に原子力災害に特有な対策が講じられる地域。実用発電用原子炉の場合、当該施設からおおむね半径5km圏内の区域を予防的防護措置を準備する区域(PAZ)、おおむね半径30km圏内の区域を緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)としてこれらを目安として設定されている。
(注4)
所在都道府県等  原子力発電施設等の設置がその区域内で行われるなどしている都道府県等
(注5)
所在市町村等  原子力発電施設等の使用がその区域内で開始されるなどしている市町村等
(注6)
帯域  デジタル回線におけるデータ転送速度。単位時間当たりに転送できるデータの量としてビット/秒(bps)で示される。

(2) テレビ会議システムの概要

統合原子力防災ネットワークのテレビ会議システムは、各拠点に設置された遠隔操作端末を用いて国ネットワーク内のデータセンターに設置されたMCU(注7)(以下「国MCU」という。)を操作し、統合原子力防災ネットワーク内の他の拠点に設置されたテレビ会議装置に接続することで画像や音声データの送受信を可能にするものである。そして、原子力規制委員会は、平成28年4月に、既存のデータセンターに加えて新たなデータセンターを整備してMCUを増設しており、データセンターの障害に備えて二重化を図っている。

(注7)
MCU  Multipoint Control Unit(多地点接続装置)の略。同時に多数のテレビ会議装置から画像や音声データを受け取り、画面を分割してまとめて表示できるように合成するなどした上で各拠点に送り返す装置

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、経済性、有効性等の観点から、地域系ネットワークにおける専用回線の帯域は適切なものとなっているか、通信設備の構成は適切なものとなっているかなどに着眼して、28、29両年度に、地域系ネットワークの構築及び運用を行う全24道府県(注8)が実施した緊急時連絡網整備事業(事業費28年度12億5591万余円、29年度14億1044万余円、計26億6635万余円。交付金交付額同額)を対象として、貴府及び16道府県(注9)において交付申請書、実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの8府県についても調書の提出を受けるなどして検査した。

(注8)
24道府県  北海道、京都、大阪両府、青森、宮城、福島、茨城、神奈川、新潟、富山、石川、福井、岐阜、静岡、滋賀、鳥取、島根、岡山、山口、愛媛、福岡、佐賀、長崎、鹿児島各県
(注9)
16道府県  北海道、京都府、青森、宮城、福島、茨城、新潟、富山、石川、福井、岐阜、滋賀、島根、愛媛、長崎、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 専用回線の帯域の状況

統合原子力防災ネットワークは、前記のとおり、原子力緊急事態発生時に、国、地方公共団体、原子力事業者、オフサイトセンター等をネットワークで接続して適時に情報共有を図るためのものであることから、各拠点間を結ぶ専用回線については、当該専用回線を使用する通信設備の設置状況等に応じた十分な帯域が確保される必要がある。

特に、統合原子力防災ネットワークで使用される通信設備のうち、テレビ会議システムは、国の関係機関、所在都道府県等、所在市町村等、原子力事業者等の多数の関係者によりテレビ会議を実施する際に一斉に使用するものであり、IP電話は、原子力緊急事態発生時において各拠点間における連絡等に相当高い頻度で使用されるものである。これらの機器については、通信設備としての性質上、即時に画像や音声データを送受信する必要があることから、専用回線の設置に当たっては、このことを十分に踏まえた適切な帯域となるよう検討する必要がある。また、基幹回線については、各拠点間の通信が集中する主要な回線であることから、通信の安定性を確保することが特に重要である。

一方、専用回線の使用料は、帯域に応じて定められるものであることから、必要以上の帯域を確保することにより、使用料が過大なものとならないように留意する必要がある。

そこで、地域系ネットワーク内の各拠点に設置された通信設備が使用時に消費することとなる帯域(以下「消費帯域」という。)を、貴府が原子力総合防災訓練(注10)の際に統合原子力防災ネットワーク内の通信方式として採用している仕様等に基づいて算出した上で、専用回線の契約により使用できることになっている帯域(以下「契約帯域」という。)と比較したところ、次のとおりとなっていた。

ア 基幹回線において消費帯域が契約帯域を上回っていて通信の安定性が確保されていない事態

前記のとおり、基幹回線については、各拠点間の通信が集中する主要な回線であり、通信の安定性を確保することが特に重要である。

しかし、各所在都道府県等における基幹回線の契約帯域は5Mbpsから100Mbpsまでと区々となっており、消費帯域についての検討が十分に行われていない状況が見受けられた。

そして、愛媛県においては、テレビ会議装置8台及びIP電話26台の消費帯域のみで計6.3Mbpsとなっていて、基幹回線の契約帯域5Mbpsを上回っており、即時に画像や音声データを送受信する必要があるテレビ会議装置やIP電話による通信を他の通信設備よりも優先する設定としたとしても、画像や音声データの送受信が遅延し又は欠落して通信の安定性が確保できないことなどから、原子力緊急事態発生時における適時の情報共有に支障を来すおそれがある状況となっていた(通信の安定性が確保されないことにより情報共有に支障を来すおそれがある専用回線の使用料、通信設備のリース料等に係る事業費28年度6742万余円、29年度7020万余円、計1億3763万余円。交付金交付額同額)。

現に、本院の検査を踏まえて、同県が、テレビ会議装置7台及びIP電話20台(消費帯域計5.3Mbps)を同時に使用して実際の消費帯域を測定する実験を実施したところ、これらの通信機器のみの使用で実際に消費された帯域が契約帯域と同水準に達したため、テレビ会議システムにおいて画像が連続して乱れるなどの現象が確認された。

(注10)
原子力総合防災訓練  国が、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)に基づき、所在都道府県等、所在市町村等、原子力事業者等とともに原子力緊急事態を想定して実施している訓練

イ 枝回線において最大消費帯域が契約帯域を大幅に下回っていて専用回線の使用料が節減できると認められる事態

前記のとおり、専用回線の使用料は、必要以上の帯域を確保することにより使用料が過大なものとならないように留意する必要がある。

しかし、8県が構築して運用している地域系ネットワークの枝回線計72回線について、当該回線を使用する全ての通信設備の消費帯域を合計して更に予備の帯域を加えるなどした帯域(以下「最大消費帯域」という。)を算出した上で、契約帯域と比較したところ、消費帯域についての検討が十分に行われていなかったため、のとおり、最大消費帯域が契約帯域を大幅に下回っていた(専用回線に係る契約額のうち72回線の使用料に相当する額28年度2466万余円、29年度2466万余円、計4933万余円。交付金相当額同額)。そして、一般的に、専用回線の使用料は、契約帯域の減少に伴い逓減するように設定されていることから、より小さい契約帯域とすることで、専用回線の使用料を節減できると認められる。

表 枝回線における契約帯域と最大消費帯域の状況

(単位:回線、Mbps)
県名 回線数 1回線当たりの契約帯域 1回線当たりの最大消費帯域  
うち即時の送受信を必要とする通信設備の消費帯域
青森県 1 3 1 0.1
宮城県 14 5 2~3 0.3~0.8
神奈川県 2 5 3 0.7
新潟県 21 10 2~3 0.1~0.6
石川県 10 5 3 0.8
静岡県 10 5 3 0.6
島根県 8 5 2~3 0.1~0.8
愛媛県 6 5 3 0.6
72  

(注) 「うち即時の送受信を必要とする通信設備の消費帯域」は、各回線を使用するテレビ会議装置及びIP電話の消費帯域を記載している。

現に、上記72回線のうち、専用回線に係る電気通信事業者との契約において実際に適用されている料金表等により契約帯域を減少させた場合の使用料を確認することができた青森、宮城、神奈川、愛媛各県の23回線(使用料計3096万余円)について、契約帯域を最大消費帯域と同じ帯域として契約した場合の専用回線の使用料を算出したところ、計2131万余円となり、965万余円(交付金相当額同額)が節減できたと認められる。

(2) 通信設備の構成の状況

前記のとおり、28年4月に国MCUが増設され、データセンターの障害に備えて二重化が図られている。また、統合原子力防災ネットワークにおけるテレビ会議システムは、地域系ネットワーク内の拠点のみでテレビ会議を実施する場合でも、国MCUを遠隔操作端末で操作することにより利用することができる設計になっており、国MCUを操作するための遠隔操作端末を設置すれば、地域系ネットワーク内に独自のMCUを設置する必要はない。

しかし、青森、宮城、福島各県は、28年4月に国MCUが増設されて二重化が図られたことや、遠隔操作端末で国MCUを操作することにより地域系ネットワーク内の拠点のみのテレビ会議が実施できることを認識していなかったことから、29年度に独自のMCUを設置していた(3県におけるMCUの設置費用計2760万余円。交付金相当額同額)。そして、これらの3県において、独自のMCUを設置せずに、国MCUを操作するための遠隔操作端末を設置していたとすれば、事業費は計613万余円となり、2146万余円(交付金相当額同額)が節減できたと認められる。

(改善を必要とする事態)

緊急時連絡網整備事業の実施に当たり、基幹回線において消費帯域が契約帯域を上回っていて通信の安定性が確保されていない事態、枝回線において最大消費帯域が契約帯域を大幅に下回っていて専用回線の使用料が節減できると認められる事態及び地域系ネットワーク内に設置する必要のないMCUが設置されている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、所在都道府県等において消費帯域についての検討を十分に行っていないことにもよるが、貴府において通信の安定性を確保するために必要かつ十分な帯域の算出方法や地域系ネットワーク内に独自のMCUを設置する必要はないことについて所在都道府県等に対して示していないことなどによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

統合原子力防災ネットワークのうち地域系ネットワークを運用している所在都道府県等においては、緊急時連絡網整備事業に係る事業費が28、29両年度で計26億6635万余円に上っており、今後も電気通信事業者と契約を締結して専用回線を使用するとともに、必要に応じて通信設備の更新等を行っていくことが見込まれる。

ついては、貴府において、緊急時連絡網整備事業が効果的かつ経済的に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 所在都道府県等に対して、緊急時連絡網整備事業により設置する専用回線について、通信の安定性を確保するために必要かつ十分な帯域の算出方法を検討して、その内容を周知するなどして、通信の安定性が確保されなかったり、契約帯域が消費帯域を大幅に上回っていることにより交付金の交付が過大となったりすることがないよう指導すること
  • イ 所在都道府県等に対して、地域系ネットワーク内の拠点のみでテレビ会議を実施する場合に必要となる通信設備の構成を周知するなどして、通信設備の構成を適切なものとするよう指導すること