宮内庁は、皇室の外国への御訪問、御旅行等(以下「外国訪問等」という。)に際して、会計法(昭和22年法律第35号)等に基づき、訪問先となる外国(以下「訪問国」という。)において現金で支払う必要がある経費に充てるために、随行する宮務課等の職員の中から資金前渡官吏を任命し、前渡資金を交付している。資金前渡官吏は、現金管理に伴う亡失等の危険を回避して安全性を確保し、効率的に事務を行うために、訪問国において、現金による支払のほかクレジットカード決済等による支払を行っている。
国の経費については、会計法等に基づき、原則として、支出官が支出負担行為に基づき債権者に対して支出することとなっており、支出官が支出の決定をするときは、当該経費の調査、金額の算定等を行うこととなっている。ただし、債権者に対する支出の例外として、支出官は、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)に基づき、外国で支払う経費等に限り、資金前渡官吏に対して、当該職員をして当該経費を現金で支払わせるために前渡資金を交付し、債権者に対する支払等の出納事務を行わせることができることとなっている。
支出官から交付される前渡資金については、交付を受けた資金前渡官吏が自ら現金で経費を支払う場合に限り使用することができることとなっており、外国訪問等に際して任命された資金前渡官吏は、あらかじめ資金前渡請求書等により前渡資金を支出官に請求し、前渡資金の交付を受けた後に、訪問国に現金を携行し、現地において債権者に対して経費を支払うことになっている。そして、資金前渡官吏は、外国訪問等の終了後に交付を受けた前渡資金を精算した後、交付された前渡資金のうち債権者に対する支払に充てられなかった額(以下「交付資金残額」という。)について、会計法等に基づき、速やかに支出官に報告した上で前渡資金の交付により支出済となった歳出の返納金として、支出官の納入告知に基づいてその支払った歳出の金額に戻入するなどにより返納することとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、外国訪問等における前渡資金の管理及び出納事務は会計法令等に基づき適正に行われているかなどに着眼して、平成26年度から30年度までに実施された外国訪問等に当たり支出官が交付した前渡資金のうち、1件当たりの交付額が100万円以上となっていた計21件(交付額計1億0382万余円)を対象として、宮内庁において、現金出納簿等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
外国訪問等に際して資金前渡官吏が現金で経費を支払うとして交付された21件の外国訪問等に係る前渡資金の交付額計1億0382万余円(1件当たり120万円から3063万円)の支払状況を確認したところ、債権者に対する支払額等は計4535万余円(1件当たり11万余円から1639万余円)となっていて、交付資金残額は計5846万余円となっていた。
そして、上記の交付資金残額5846万余円の管理状況を確認したところ、交付資金残額が生じている場合は速やかに精算し返納金として歳出の金額に戻入するなどの手続をとる必要があるにもかかわらず、資金前渡官吏に任命された宮務課等の職員は、外国訪問等の終了後に、それぞれが管理していた交付資金残額を支出官に対して返納金として歳出の金額に戻入するなどの所要の手続をとるまでの間(27日間から426日間)、執務する事務室内の金庫に保管するなどしていた。このうちの2件の交付資金残額(224万余円、1423万余円)については、外国訪問等の終了後1年以上にわたって返納されておらず、その間、交付を受けた前渡資金の精算が行われないままとなっていた。
このように、支出官が外国訪問等に随行する資金前渡官吏に対して交付した前渡資金の交付資金残額が長期間にわたり事務室内の金庫に保管するなどされていて、速やかに精算が行われていなかった事態は適正ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、資金前渡官吏において、外国訪問等の終了後に速やかに精算した後に返納金として歳出の金額に戻入するなどの手続をとる必要があることについての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、宮内庁は、前渡資金の管理等が適正に行われるよう、令和元年9月に、担当職員に対して事務連絡を発して、外国訪問等に係る前渡資金について、資金前渡官吏が会計法令等に基づき速やかに精算した後に返納金として歳出の金額に戻入するなどの手続をとる必要があることなど出納事務を適正に行わなければならないことを周知する処置を講じた。