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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第3 総務省|
  • 不当事項|
  • 補助金

(2) 無線システム普及支援事業費等補助金により整備した中継局の雷撃に対する対策の設計が適切でなかったなどのもの[総務本省](18)(19)


2件 不当と認める国庫補助金 36,679,964円

無線システム普及支援事業費等補助金は、電波法(昭和25年法律第131号)等に基づき、ラジオ放送の難聴解消のために行われる中継局整備の円滑な実施を図ることなどを目的として、地上ラジオ放送用施設及び設備を整備するなどの事業を行う事業主体に対して、事業の実施に要する経費の全部又は一部を国が補助するものである。

本院が3県、57市町村、3一部事務組合、1連携主体、1公益社団法人及び20会社において会計実地検査を行ったところ、1町及び1会社において次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

 
部局等
補助事業者
(事業主体)
補助事業
年度
補助対象事業費 左に対する国庫補助金交付額 不当と認める補助対象事業費 不当と認める国庫補助金相当額
摘要
          千円 千円 千円 千円  
(18)
総務本省
山形県西置賜郡飯豊町 民放ラジオ難聴解消支援 29 32,851 21,901 21,104 14,069 設計不適切

この補助事業は、飯豊町が、平時及び災害時の情報源としてのコミュニティラジオ放送に係る難聴を解消することを目的として、ラジオ送信アンテナ用鉄柱(以下「鉄柱」という。)を築造し、そこに送信アンテナ等を設置するとともに、近接して、小型局舎を築造してその中に収容する送信機、受信機等や屋外用の発電機等から構成される電気通信設備を設置するなどして、中継局を整備したものである。

同町は、中継局の整備に当たり、鉄柱については、雷撃(注1)に対する対策のために、雷電流を導線で大地に導き、接地(注2)により地中で拡散させる避雷設備を設置することとし、電気通信設備については、感電等の対策のために、接地設備(注2)を設置することとしていた。これらの設計に当たって、同町は、建築基準法(昭和25年法律第201号)、日本工業規格(令和元年7月以降は日本産業規格)、電気通信設備工事共通仕様書(国土交通省大臣官房技術調査課電気通信室編集。以下「共通仕様書」という。)等のそれぞれの最新のものに基づくことにしていた。そして、同町は、平成27年3月版の共通仕様書に基づいて中継局の設計を行っていた。

しかし、同町が中継局の設計等に係る設計監理業務委託契約を設計業者との間で締結したのは29年6月であり、同年4月1日以降に発注する設計、工事等に適用される共通仕様書の最新の版は29年3月版となっていた。そして、この29年3月版の共通仕様書によると、接地設備については、雷撃に対応するため、地中部分において、避雷設備と導体で接続するなどして、避雷設備等と等電位化(注3)することとなっている。一方、27年3月版の共通仕様書には、この等電位化についての規定はなかったため、同町は、設計図面等において鉄柱の避雷設備と電気通信設備の接地設備を接続することとしておらず、等電位化を行うこととしていなかった。そして、この設計図面等により施工していた(参考図1参照)。

したがって、本件補助事業で設置された電気通信設備等(事業費相当額21,104,431円)については、設計が適切でなかったため、鉄柱の避雷設備と電気通信設備の接地設備等との等電位化が行われておらず、整備した中継局が雷撃を受けた際に損傷等により通信を確保できなくなるおそれがある状態になっており、これに係る国庫補助金相当額14,069,620円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同町において、中継局の整備における雷撃に対する対策についての理解が十分でなかったことなどによると認められる。

(注1)
雷撃  雲と大地間の大気に発生する落雷における1回の放電
(注2)
接地・接地設備  「接地」とは、過電流等を安全に大地に放流して、過電流等から機器等を守るなどのために、電気設備機器、電路等を電気伝導体の導線、電極等により電気的に大地と接続することをいう。また、そのための設備を「接地設備」という。
(注3)
等電位化  導電性の設備等の間の電位を等しくすること。これを施すことにより、雷撃を受けた際等に導電性の設備等の間に生ずる電位差によって雷電流が設備等に流れ込むことによる設備等の損傷等を回避することができるとされている。

(参考図1)

中継局の避雷設備、接地設備等の概念図

中継局の避雷設備、接地設備等の概念図 画像

(19)
総務本省
福井放送株式会社 民放ラジオ難聴解消支援 28 152,434 76,217 45,220 22,610 施工不良

この補助事業は、福井放送株式会社(以下「会社」という。)が、ラジオ放送を行う地域内において発生している難聴を解消することを目的として、既存の通信鉄塔(昭和35年築造)の補強を行った上で新たに送信用アンテナ16面等を設置するなどしたものである。

上記の通信鉄塔は、高さ70mの四角鉄塔で、4隅の主柱材、斜材等の部材で構成され、各部材をボルト等で接合したトラス構造(注4)となっている。

会社は、送信用アンテナ等を設置する工事の実施に当たり、既存の通信鉄塔に新たに送信用アンテナ等を設置することで荷重が増加することから、通信鉄塔の構成部材、これらを接合するボルト及び基礎に十分な強度が確保されているか強度検討を行う必要があるとして、この強度検討を当該工事の請負人に行わせていた。

そして、請負人は、通信鉄塔設計要領・同解説(国土交通省大臣官房技術調査課電気通信室監修)等に基づき、通信鉄塔の構成部材及びこれらを接合するボルトについて、地震荷重等により生ずる応力が許容応力以下になっているかなどの強度検討を行い、主柱材と主柱材の接合部全48か所のうち36か所を接合するボルトについては、地震時に生ずるせん断応力(注5)が許容せん断応力(注5)を上回っていたことから、1,088本のボルトを強度の高いものに交換するなどとして補強工事の設計図面等を作成して、これにより施工することとしていた。

しかし、上記の設計図面等において、強度の高いものに交換するとしていたボルト1,088本について現地の状況を確認したところ、このうち、鉄塔頂部から約10mの位置にある4隅において、主柱材と主柱材の接合部4か所を接合するボルト48本については交換されておらず、設計上必要とされる補強工事が行われていなかった(参考図2参照)。

このため、地震時にこれらのボルト1本当たりに生ずるせん断応力は28.8kNとなっていて、ボルト1本当たりの許容せん断応力26.1kNを上回っていた。

したがって、通信鉄塔の補強工事については、施工が適切でなかったため、通信鉄塔の所要の耐震性が確保されておらず、地震時にボルトが破断するなどしてこれらの接合箇所から上部が損傷して、送信用アンテナ16面等(工事費相当額45,220,689円)はその機能を発揮できなくなるおそれがある状態になっており、これに係る国庫補助金相当額22,610,344円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、会社において、請負人による補強工事の施工が適切でなかったのに、これに対する確認が十分でなかったことなどによると認められる。

(注4)
トラス構造  部材が三角形を単位とした構造骨組みで構成され、荷重が加わると各部材には軸方向力(引張及び圧縮力)だけが伝達される。
(注5)
せん断応力・許容せん断応力  「せん断応力」とは、外力が材に作用し、これを切断しようとする力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容せん断応力」という。

(参考図2)

鉄塔の概念図

鉄塔の概念図 画像

(18)(19)の計 185,285 98,118 66,325 36,679