法務省は、検察庁法(昭和22年法律第61号)に基づき、必要に応じて地方検察庁(以下「地検」という。)の支部(以下「支部」という。)を地方裁判所及び家庭裁判所の支部に対応して設置し、また、区検察庁(以下「区検」という。)を簡易裁判所に対応して設置している。また、支部は地方検察庁支部設置規則(昭和22年司法省令第42号)により、区検は「最高検察庁の位置並びに最高検察庁以外の検察庁の名称及び位置を定める政令」(昭和22年政令第35号。以下「位置政令」という。)によりそれぞれ設置する市町村等が定められている。そして、支部及び区検においては、職員が、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)等に基づき、事件の受理、被疑者の取調べなどの捜査、事件の処理、公判手続等の業務を行うこととなっている。
また、支部及び区検の中には、法務省が所管する庁舎に単独で入居しており、職員が常駐していない支部及び区検(職員が常駐していない支部と区検が同居しているものを含む。以下「非常駐支部・区検」という。)があり、地検等に常駐している職員が必要に応じて非常駐支部・区検の庁舎に赴いて業務を行っている。
法務省所管国有財産事務取扱規程(訓令)(昭和59年営訓第1100号)等によれば、非常駐支部・区検の庁舎を含む検察庁の土地、建物等に関する事務は地検が分掌し、地検は常にその状況を把握し、管理及び処分を適正に行わなければならないこととされている。また、法務省組織令(平成12年政令第248号)及び法務省刑事局事務分掌規程(平成13年法務省刑総第11号)によれば、法務省は、検察庁の組織及び運営、検察庁所管の施設の整備に関する事務を所掌するものとされており、これに基づき、非常駐支部・区検の庁舎を含めた検察庁全体あるいは個別の庁舎の整備方針等について地検に対して協議、指導、調整等の事務を行うことになっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性、有効性等の観点から、行政財産に分類される非常駐支部・区検の庁舎の管理が適切に行われているかなどについて会計実地検査を行った。
検査に当たっては、全国の50地検における203支部及び438区検のうち、全ての非常駐支部・区検である34地検(注1)における63非常駐支部・区検(注2)(土地面積計61,105m2、建物延べ床面積計17,580m2、土地の国有財産台帳価格計21億0594万余円、建物の国有財産台帳価格計4億3330万余円、国有財産台帳価格合計25億3924万余円)を対象として、地検において庁舎の図面、旅行命令簿等の関係書類を確認したり、庁舎の使用状況等についての調書を徴して分析したりするなどして会計実地検査を行うとともに、法務本省において庁舎の使用状況の把握状況を聴取するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記の63非常駐支部・区検における各庁舎の使用状況についてみたところ、各地検においては、庁舎の使用日時、使用者、使用目的等の記録を残しておくこととなっておらず、全ての非常駐支部・区検において庁舎の使用状況を十分把握できる状況となっていなかった。そして、本院において、庁舎の使用状況を確認したところ、旅行命令簿等に記載されている用務先等で確認できた範囲では、非常駐支部・区検の庁舎に赴いた実績がないものや赴いた日数が数日程度のものが見受けられた。
そこで、法務省における非常駐支部・区検の庁舎を単独庁舎として使用し続ける必要性についての検討状況を確認したところ、同省は、非常駐支部・区検を含めた検察庁の庁舎は、犯罪被害者、参考人等の身近に存在することによって協力が得やすくなるなど、単に使用頻度により庁舎を単独庁舎として使用し続ける必要性を判断できる性質のものではないが、このような性質を踏まえつつ、国有財産の有効活用の観点から実施される国有財産法(昭和23年法律第73号)に基づく実地監査を受けた地検においては、その結果も踏まえ、従前から、国の資産の保有の必要性を検討して移転等を進め、国有財産の有効活用を図ってきたとしている。このような同省の取組の中で、6地検は、その管理下にある7非常駐支部・区検の庁舎について、老朽化等のため、国の機関及び地方公共団体の庁舎への移転をそれぞれ決定していた。
しかし、32地検(注3)における残りの56非常駐支部・区検(注4)(土地面積計54,005m2、建物延べ床面積計15,529m2、土地の国有財産台帳価格計19億5568万余円、建物の国有財産台帳価格計4億0277万余円、国有財産台帳価格合計23億5845万余円)については、同省は、非常駐支部・区検の庁舎の使用状況及び単独庁舎として使用し続ける必要性について各地検に報告を求めておらず、その必要性についての検討を十分に行っていなかった。
法務省は、平成30年3月に、本院の(1)の事態に係る検査を踏まえるなどして、各地検に対して、非常駐支部・区検の庁舎を廃止することの支障の有無について調査を行っており、その調査結果によれば、使用頻度が低いことなどから支障がないとしていた地検があった。そして、本院が庁舎の移転についての検討状況等を確認したところ、24地検が、その管理下にある36非常駐支部・区検の庁舎について、同省の上記の調査を受けて、国の機関の庁舎等を移転先とするための調査を行うなど、移転が可能か否かの検討を実施していた。このうち、3地検が移転可能であるとした3非常駐支部・区検について、同省は、31年4月に位置政令を改正し、これにより、当該非常駐支部・区検が隣接する区検にそれぞれ移転した。
しかし、地検が国の機関に問い合わせるなど移転先を一度は調査していたものの、移転先の調査の範囲を国の機関の庁舎だけでなく地方公共団体等の庁舎へ広げるなどの対策を執っていなかった事態が23地検における33非常駐支部・区検において見受けられた。
また、庁舎の使用状況等を踏まえることなく、取調べの際の被疑者のプライバシーを確保することなどを理由として単独庁舎が必要であるとし、移転先を調査していなかった事態が14地検における20非常駐支部・区検において見受けられた。一方、既に他の庁舎等へ移転している区検においては、プライバシーの確保等を行った上で被疑者の取調べなどの業務が行われており、単独庁舎が必要であるとする上記の理由は十分な根拠に基づくものとは認められなかった。
このように、56非常駐支部・区検の庁舎の使用状況を把握しておらず単独庁舎として使用し続ける必要性の検討を十分に行っていなかったり、庁舎の移転先の調査を十分に行っていなかったりなどしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、各地検において、非常駐支部・区検の庁舎を効率的に使用するために必要となる使用状況を把握する仕組みを整備せず、使用状況を十分把握していなかったこと、法務省において、各地検に対して使用状況及び単独庁舎として使用し続ける必要性を定期的に報告させるなどしておらず、移転を検討するなどして行政財産を適切に管理することに対する指導が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、法務省では、従前からの取組に加えて、更に使用状況を踏まえるなどして非常駐支部・区検の庁舎を廃止することの支障の有無について調査を実施し、その結果、前記のとおり31年4月に位置政令を改正した。これにより、3非常駐支部・区検が隣接する区検にそれぞれ移転した。また、令和元年9月に各地検に対して通知を発し、非常駐支部・区検の庁舎を効率的に使用するために必要となる使用状況を把握する仕組みを整備させて、使用状況及び単独庁舎として使用し続ける必要性を定期的に報告させた上で、移転を検討することなどにより、行政財産の適切な管理を行う体制等を整備する処置を講じた。