【改善の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】
無償資金協力(経済社会開発計画)における贈与資金の効率的な活用について
(令和元年10月29日付け 外務大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示する。
記
貴省は、貧困削減を含む経済や社会の開発に取り組む事業(以下「事業」という。)を実施する開発途上にある国及び地域(以下「開発途上国」という。)に対し、その事業に必要な資機材等の調達のための資金の贈与を行う無償資金協力(経済社会開発計画)(平成27年5月以前はノン・プロジェクト無償資金協力。以下「経済社会開発計画」という。)を実施している。
経済社会開発計画は、開発途上国からの援助要請に基づいて実施される無償資金協力であり、外交政策の遂行上の必要に基づいて迅速に支援表明して機動的に実施することができる援助形態として昭和62年度から活用されている。そして、従来、経済社会開発計画は、現地事前調査を通じた設計や積算を行わなくても案件形成が可能な要請事業として、主に重油や銅線等の資材の調達に係る事業が行われてきたが、その後、平成23年度に東日本大震災の被災地で製造される工業製品等を供与する取組等が実施されたことなどに伴い、徐々に建設機材や次世代自動車等の機材を供与対象とする事業の比率が高まり、現在においてもこの傾向が続いている。
経済社会開発計画の実施に当たって我が国と援助の相手となる開発途上国(以下「相手国」という。)の間で取り交わす交換公文及び事業実施に係る詳細手続に関する合意議事録(以下、これらを合わせて「交換公文」という。)によれば、資機材等の調達の事業が効率的、円滑かつ適切に実施されるよう、相手国は、調達のノウハウを有するとして貴省から推薦された団体(以下「調達代理機関」という。)と調達代理契約を締結することとされ、調達代理機関が相手国に代わって資機材等の調達の入札、契約、支払等を実施する方式によって事業を行うこととされている。
経済社会開発計画は、交換公文等に基づいて、おおむね次のように行われることとされている(図1参照)。
① 在外公館は、相手国から事業の要請書の提出を受け、内容の確認を行い、要請書等を貴省本省に送付する。
② 貴省本省は、送付された要請書等の内容を確認し、妥当と判断した場合には、財務省と財務実行協議を行った上で、支援の実施計画を内閣に送付する。内閣は閣議決定を行い、我が国は、当該閣議決定に基づき、相手国に支援の意向を伝え、相手国と交換公文を締結する。
③ 相手国は、相手国名義の口座(以下「相手国口座」という。)を開設して、貴省本省は贈与資金を相手国口座に送金する(以下、送金した日を「贈与実施日」という。)。
④ 相手国は、交換公文の発効後、原則3か月以内に調達代理機関と調達代理契約を締結する。
⑤ 在外公館及び相手国は、調達代理機関をアドバイザーとする政府間協議会を開催する。政府間協議会では、調達する資機材等の具体的な品目を選定するほか、事業を遅延させる可能性のある問題を特定して解決策の検討等を行う。
⑥ 相手国は、贈与実施日から起算して12か月以内又は両国政府の関係当局間の相互の合意により支払の期限が延長された期間内において、相手国口座から調達代理機関の口座(以下「調達代理口座」という。)に確実に贈与資金の支払を行う。
⑦ 調達代理機関は相手国に代わり、入札等により資機材等の調達契約の相手方となる業者を決定して調達契約を締結するとともに、調達契約の履行に当たっては、納品を証明する書類等の調達関係書類を確認するなどして業者に代金の支払を行う。なお、一度に全ての資機材等を調達することが困難である場合には、調達契約を複数回に分割して入札を実施する。
⑧ 調達代理機関は、四半期ごとに入札結果や業者への支払状況等に関する報告書(以下「四半期報告書」という。)を貴省本省、在外公館及び相手国に提出する。
⑨ 調達代理機関は、全ての資機材等の調達が完了するなどした後に、貴省本省、在外公館及び相手国に完了報告書を提出する。我が国は提出された完了報告書により事業が完了したことを確認した後、相手国に対して残余金に係る返還手続を通知し、相手国は残余金を返還する。
図1 経済社会開発計画の実施の流れ
貴省本省及び在外公館は、調達代理機関から四半期報告書の提出を受けるとともに、必要に応じて相手国の事業実施機関からの聞き取りや現地視察を通じてモニタリングを行うことになっており、その結果を踏まえて、在外公館は、進捗が低調であるなどの事業が見受けられた場合には、相手国の事業実施機関等に対して必要な働きかけを行うことになっている。
(検査及び現地調査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性、有効性等の観点から、経済社会開発計画による贈与資金が効率的に活用されているかなどに着眼して、我が国が23年度から29年度までに交換公文を締結した経済社会開発計画計270事業(92か国及び1地域、贈与額計1214億2500万円)を対象として、貴省本省から事業の実施状況に関する調書及び関係資料の提出を受けて、その内容を分析したり、7在外公館(注1)において、相手国が実施した計25事業(贈与額計100億円)について、担当職員から事業のモニタリング等の説明を受けたりするなどして会計実地検査を行った。また、6か国(注2)においては、貴省の職員の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から進捗状況の説明を受けるなどして現地調査を行った。
(検査及び現地調査の結果)
検査及び現地調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。
前記の経済社会開発計画270事業について、30年度末における事業の実施状況をみたところ、全ての資機材等の調達が完了したとして調達代理機関から完了報告書が提出された事業(以下「完了事業」という。)は169事業、実施中の事業は101事業となっていた。
上記の完了事業169事業について、交換公文締結から完了報告書提出までに要した期間をみたところ、平均で2.80年(1,023日。最短357日、最長2,390日)となっていた。また、交換公文締結から1回目の調達契約(以下「第1回調達契約」という。)が締結されるまでに要した期間をみたところ、平均で0.96年(351日。最短22日、最長934日)となっていた。
前記のとおり、相手国は、交換公文等に基づき、事業に必要な資機材等の調達のため、調達代理機関と調達代理契約を締結して贈与資金を相手国口座から調達代理口座に支払うこととなっており、調達代理契約の締結は交換公文発効後原則3か月以内に、贈与資金の調達代理口座への支払は贈与実施日から起算して12か月以内に確実に行うこととされており、支払の期限を超過することが見込まれる場合は我が国と相手国との合意による期限の延長が必要となる。しかし、実施中の101事業についてみたところ、我が国とケニア共和国が28、29両年度に交換公文を締結した2事業(贈与額計10億円)では、30年度末において交換公文発効日から945日及び380日が経過しているのに、同国内における事務手続の遅延等により、調達代理契約が締結されていなかった。また、我が国とベトナム社会主義共和国が28年度に交換公文を締結した1事業(贈与額5億円)では、調達代理契約が締結されていたものの、30年度末において贈与実施日から740日が経過しているのに、同国内における事務手続の遅延等により、贈与資金が調達代理口座に支払われていなかった。このため、30年度末において、上記3事業の贈与資金の全額である計15億円が相手国口座に保有されたままとなっていた。
貴省は、相手国に対して、調達代理契約が締結されていない事業については、調達代理契約を速やかに締結することなどを働きかけ、贈与資金が調達代理口座に支払われていない事業については、贈与資金を速やかに調達代理口座に支払うよう働きかけるとともに、支払の期限を超過することが見込まれる事業については、相手国と協議して期限の延長等の手続をとって贈与資金を速やかに調達代理口座に支払うよう働きかけを行う必要があった。しかし、在外公館は、上記の3事業について、調達代理契約の締結や相手国口座から調達代理口座への支払の期限等について認識しておらず、これらの働きかけ十分に実施していなかった。
また、貴省本省が相手国口座に保有されたままとなっている贈与資金の取扱いに係る対応について定めていなかったことから、在外公館は、相手国との間で、贈与資金の返還の可能性を含めた協議を行うことについて検討していなかった。
前記270事業のうち、実施中の101事業の進捗状況について、交換公文締結から30年度末までの経過年数別の贈与資金に対する資機材等の調達による資金の執行割合(以下「事業執行率」という。)の分布をみると、表のとおりであり、我が国と11か国(注3)が25年度から27年度までの間に交換公文を締結した12事業(贈与額計71億5000万円)では30年度末において交換公文締結から3年以上の期間が経過しているのに事業執行率が50%未満と事業の進捗が低調となっていて、贈与資金の50%以上に当たる計63億0122万余円が調達代理口座に保有されたままとなっていた。そして、この12事業における主な供与対象の種別は、11事業が機材、1事業が資材となっていた。
表 交換公文締結からの経過年数別の事業執行率(平成30年度末)
交換公文締結からの経過年数 | 事業数 | 事業執行率 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
0%以上 10%未満 |
10%以上 30%未満 |
30%以上 50%未満 |
50%以上 70%未満 |
70%以上 100%以下 |
||
1年以上2年未満 | 30 | 22 | 4 | 1 | 1 | 2 |
2年以上3年未満 | 30 | 16 | 1 | 1 | 1 | 11 |
3年以上4年未満 | 22 | 3 | 3 | 0 | 6 | 10 |
4年以上5年未満 | 13 | 1 | 2 | 2 | 2 | 6 |
5年以上 | 6 | 0 | 1 | 0 | 2 | 3 |
計 | 101 | 42 | 11 | 4 | 12 | 32 |
(注) 太枠の箇所は、交換公文締結からの経過年数が3年以上で事業執行率が50%未満の12事業である。
前記のとおり、相手国は交換公文締結後、調達代理機関と調達代理契約を締結して資機材等の調達を開始することとなるが、進捗が低調となっている12事業の進捗状況を確認したところ、2事業については、30年度末において資機材等の調達契約の締結に至っておらず、調達代理機関に対する手数料しか支払われていなかった。
また、この調達契約が締結されていない2事業を除く10事業について、交換公文締結から第1回調達契約が締結されるまでの期間をみたところ、平均で2.34年(858日。最短517日、最長1,370日)となっていて、完了事業169事業における同期間の平均の0.96年(351日)を大幅に上回っていた。この10事業について、調達の各段階に要している期間をみたところ、図2のとおり、交換公文締結から調達代理契約の締結までの期間は平均で142日(最短7日、最長421日)、調達代理契約の締結から第1回調達契約の入札手続までの期間は平均で583日(最短227日、最長1,267日)、第1回調達契約の入札手続から第1回調達契約の締結までの期間は平均で133日(最短53日、最長240日)となっていた。
図2 進捗が低調となっている10事業において調達の各段階に要している期間(平均日数)
また、前記のとおり、資機材等の調達に当たり、一度に全ての資機材等を調達することが困難な場合には、調達契約を複数回に分割して入札を実施することになる。前記10事業のうち、調達契約の入札手続が複数回に分割されている8事業についてみたところ、第1回調達契約の履行完了時に第2回調達契約の入札手続が開始されていない事業が3事業あり、第1回調達契約の履行完了時からの期間は、30年度末において、それぞれ1,374日、321日及び243日となっていて、多くの時間を要していた。
前記のとおり、進捗が低調となっている12事業のうち10事業では、調達代理契約締結から第1回調達契約の入札手続までの期間や第1回調達契約の履行完了時から第2回調達契約の入札手続までの期間に多くの時間を要していた。この主な要因について、貴省は、機材を主な供与対象とする場合は、資材を主な供与対象とする場合に比べて、調達品目の種類や仕様が多岐にわたり、相手国において、機材の調達品目や仕様の選定、配置場所の選定に関する意思決定や事務手続に時間を要したり、贈与資金により資機材等を調達することに加えて、相手国の負担により実施される事業や事業の実施のために相手国が講ずべき措置を伴う場合が多く、これらの検討や実施に時間を要したりしたためであるとしている。
そこで、会計実地検査において7在外公館の担当職員から説明を受けた25事業について、貴省が事業の実施状況のモニタリングをどのように行っていたかについてみたところ、政府間協議会における協議や在外公館の通常業務を通じて、相手国の事業実施機関からの聞き取りや現地視察を通じた詳細な状況の把握を行っている事業が見受けられた一方で、モニタリングの内容が四半期報告書等の確認にとどまっている事業が見受けられた。
また、上記の25事業についてのモニタリングの結果を踏まえて、貴省から相手国に対する働きかけをどのように行っていたかをみたところ、調達手続に時間を要することが見込まれる場合に、相手国の事業実施機関の担当者に対する電話や電子メールによる申入れのほか、国際会議や外交上の機会を通じた申入れ、相手国の事業実施機関の上位の職にある関係者に対する申入れ、遅延の要因となっている事務を所掌する関係機関を交えた協議等を実施して、事業の進捗に向けた働きかけを行っていた。
しかし、進捗が低調となっている12事業において、貴省本省及び在外公館は、相手国の事業実施機関の担当者に対して電話や電子メールによる申入れを行ったとしているものの、相手国の事業実施機関からの聞き取りや現地視察を通じた詳細な状況の把握及び相手国に対する事業の進捗に向けた効果的な働きかけを十分に行っていなかった。
また、貴省本省が調達代理口座に保有されたままとなっている贈与資金の取扱いに係る対応について定めていなかったことから、在外公館は、相手国との間で、贈与資金の返還の可能性を含めた協議を行うことについて検討していなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
我が国は、インドネシア共和国(以下「インドネシア」という。)に対して、我が国の優れた次世代自動車等の供与を通じて、インドネシアにおける環境負荷の低い次世代自動車の普及促進を図り、環境分野等での経済社会開発に係る事業を支援することを目的として、平成25年4月にインドネシア政府との間で経済社会開発計画に係る交換公文を締結の上、26年3月に15億円を贈与している。この事業は、ハイブリッド車の購入、排ガス測定装置等の購入、設置等を行うものであり、インドネシアは、上記機材等の購入、設置等に際して付加価値税の非課税措置の確保等を行うこととしていた。
この事業の進捗状況について、検査及び現地調査をしたところ、調達代理機関は、事業実施機関であるインドネシア技術評価応用庁に代わり26年12月に第1回調達契約を締結して、27年6月に、上記機材等のうちハイブリッド車40台を調達(調達額計1億4921万余円)していた。しかし、排ガス測定装置等については、仕様の選定及び装置等を格納する建屋を建設するための土地の選定に時間を要したり、建屋の建設に関する付加価値税の非課税措置が確保できなかったりしたなどのため、調達契約入札手続が開始されておらず、交換公文締結から5年10か月が経過した30年度末における事業執行率は12.42%にとどまっていて、調達代理口座に贈与資金残高13億1365万余円が保有されたままとなっていた。そして、事業終了までの具体的な日程は未定のままとなっていた。
在インドネシア日本国大使館は、上記の事業が進捗していない状況を把握して、インドネシア技術評価応用庁の担当者に対して、定期的に事業の進捗に向けた働きかけを行うなどしたところ、上記仕様の選定が完了するなど一定の進捗はみられたとしている。しかし、同大使館は、非課税措置を所掌するインドネシア財務省を交えて、付加価値税の非課税措置に係る協議を行うなどの効果的な働きかけを十分に行っていなかった。
(改善を必要とする事態)
貴省において、経済社会開発計画の実施に当たり、調達代理契約の締結等が遅延していて贈与資金の全額が相手国口座に保有されたままとなっていたり、交換公文締結から長期間が経過しているのに事業の進捗が低調で贈与資金の50%以上が調達代理口座に保有されたままとなっていたりしていて、贈与資金が効率的に活用されていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、機材を主な供与対象とする事業が増加したことにより、相手国において、機材の調達品目や仕様の選定、配置場所の選定、相手国の負担により実施される事業等の実施に時間を要するものが見受けられるようになっている中で、貴省本省において、事業のモニタリングの実施に当たり、進捗が低調となっている事業を把握した場合における、在外公館の取組方針を明確にしていないこと、事業の進捗が低調で長期間にわたり保有されたままとなっている贈与資金の取扱いに係る対応についての検討等を十分に行っていないことなどによると認められる。
貴省は、経済社会開発計画を、迅速に支援表明して機動的に実施することができる援助形態として、引き続き外交政策の必要に基づいて活用することとしており、また、我が国の優れた機材の供与を通じて開発途上国の経済社会開発努力を支援することとしていることから、今後も多額の資金を開発途上国に対して贈与することが見込まれる。そして、経済社会開発計画の援助効果を早期に発現させて、開発途上国における貧困削減を含む経済や社会の開発に資するためには、相手国において、贈与資金により速やかに資機材等を調達する事業が実施されることが肝要である。
ついては、貴省において、経済社会開発計画における贈与資金が効率的に活用されるよう、次のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示する。