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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 外務省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

日本人学校等に対する援助の実施に当たり、援助業務の実施に係る手引書を作成して援助の対象となる経費等の範囲を明確に示すなどしたり、新たに在外公館等に赴任して援助業務に従事する職員等に対して援助業務に関する実践的な研修を実施したりすることにより、在外公館等による援助金の支払が適正なものとなるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)在外公館 (項)領事政策費
部局等
外務本省、20在外公館等
日本人学校等に対する援助の概要
日本人学校等の運営のために運営委員会等が負担する費用のうち、日本人学校等が現地で採用した教員等に支払う年間の給与、校舎借料及び安全対策費の一部に対する援助を行うもの
日本人学校等に対する援助金額
161億1919万余円(平成25年度~30年度)
援助対象とならない経費に対して支払った援助金額(1)
1975万円(平成25年度~30年度)
日本人学校等の運営に要した実支出額を把握しなかったため過大に支払った援助金額(2)
1018万円(平成25年度~30年度)
(1)及び(2)の計
2994万円

1 日本人学校等に対する援助の概要等

(1) 日本人学校等に対する援助の概要

外務省は、在留邦人がその子女のために設置し、現地の日本人会や進出企業の代表者等からなる学校運営委員会等(以下「運営委員会等」という。)が管理して運営している日本人学校(注1)及び補習授業校(注2)(以下、これらを合わせて「日本人学校等」という。)について、その経費は基本的には現地在留邦人の自助努力によって賄われるものであるが、少なくとも義務教育段階の海外子女教育に対しては、国内に近い教育が受けられるように援助を行うべきとの観点から、文部科学省と協力しつつ、予算の範囲内で援助を実施している。そして、この援助において、外務省は、運営委員会等が日本人学校等の運営のために負担する費用のうち、①日本人学校等が現地で採用した教員又は講師(以下、これらを合わせて「教員等」という。)に支払う年間の給与(以下「現地教員等謝金」という。)、②校舎借料及び③安全対策費の一部に対して援助金を支払っている。

そして、外務本省は、日本人学校等に対する援助の実施に当たり、毎年度、当該年度の援助における援助金額の算定方針、経費執行要領等を訓令(以下、この訓令を「執行方針」という。)で定めるとともに、これを各日本人学校等を管轄する大使館、総領事館、領事事務所等(以下、これらを合わせて「在外公館等」という。)に通知している。

上記の執行方針によれば、日本人学校等への援助金の支払に当たっては、在外公館等は、運営委員会等に援助の申請書及び申請額を裏付ける根拠資料を提出させて、根拠資料により援助の申請が正しく行われていることを確認した後に支払を行うこととされている(以下、在外公館等が援助金の支払に当たり行う一連の業務を「援助業務」という。)。

(注1)
日本人学校  海外において、我が国の教育関係法令に準拠して、国内の小学校、中学校又は高等学校における教育と同等の教育を行うことを目的とする全日制の教育施設
(注2)
補習授業校  現地校、国際学校等に通学している日本人の子供に対し、国内の小学校、中学校の一部の教科について授業を行う教育施設。通常は、土曜日又は日曜日など、現地校等の授業が行われない日に授業を実施する。

(2) 各援助費目における援助対象となる経費等の範囲

外務本省は、日本人学校等に対する援助の実施に当たり、毎年度、当該年度の執行方針を在外公館等に通知するとともに、現地教員等謝金に係る援助については、援助対象者、援助対象額等について記載した「平成24年度以降日本人学校現地採用教員(含む養護担当)及び補習授業校現地採用講師に対する政府援助執行にあたっての留意事項」(以下「留意事項」という。)を在外公館等を通じて各日本人学校等の運営委員会等に通知している。

執行方針及び留意事項によれば、各援助費目における援助対象となる経費等の範囲は、次のとおりとされている。

① 現地教員等謝金に係る援助について、援助対象者は、日本人学校等が採用する小学部及び中学部を専任して担当する教員等のうち、外務本省が各年度の援助対象者として決定した教員等とされている。また、援助対象となる経費は、一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号)第5条に規定する俸給に相当する基本給与額であり、賞与、住居手当、交通費その他各種諸手当等は援助対象外とされている。

② 校舎借料に係る援助について、援助対象となる経費は、小学部及び中学部の教室等に係る賃借料とされており、補習授業校の光熱水料は援助対象外とされている。

③ 安全対策費に係る援助について、援助対象となる経費は、日本人学校等が採用する警備職員の給与、警備会社に警備を委託する場合の警備委託料及び警報器等の維持管理費とされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性等の観点から、在外公館等において援助業務が執行方針及び留意事項に基づいて適切に実施されているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、外務省が平成25年度から30年度までの間に、144在外公館等が管轄する310日本人学校等の現地教員等謝金、校舎借料及び安全対策費に対して支払った援助金額の総額161億1919万余円(邦貨換算は援助期間中の毎年度の出納官吏レート。以下同じ。)を対象とした。そして、外務本省及び20在外公館等において、運営委員会等から提出された申請書、申請額を裏付ける根拠資料等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、外務本省が本院の検査を踏まえて日本人学校等を管轄する全ての在外公館等に対して実施した援助業務に係る総点検の結果の提出を受けて、これを確認するなどの方法により検査した。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 援助対象とならない経費に対して援助金を支払っていた事態

運営委員会等が提出した援助の申請書等をみたところ、17在外公館等(注3)が管轄する19日本人学校等において、現地教員等謝金に係る援助の申請額に賞与等が含まれていたり、校舎借料に係る援助の申請額に校舎内に所在する教員等の居住スペース等の借料が含まれていたり、安全対策費に係る援助の申請額に警備職員が兼務している学校用務に係る分の給与が含まれていたりなどしていたのに、これらの援助対象とならない経費に対して援助金が支払われていた。このため、援助金額計1975万余円が過大に支払われていた。

(注3)
17在外公館等  在インド、在エクアドル、在コロンビア、在チリ、在英国、在スウェーデン、在スペイン、在オマーン各日本国大使館、在釜山、在ホーチミン、在メルボルン、在ナッシュビル、在ニューヨーク、在マイアミ、在ミラノ、在マルセイユ各日本国総領事館、在ジュネーブ領事事務所

(2) 日本人学校等の運営に要した実支出額を把握せずに援助金を支払っていた事態

運営委員会等が提出した援助の申請書等をみたところ、5在外公館等(注4)が管轄する5日本人学校等において、現地教員等謝金及び安全対策費に係る援助の申請額が教員等又は警備職員に対して実際に支払われた給与の額よりも高額であったり、現地教員等謝金及び安全対策費に係る援助の申請額から教員等又は警備職員の欠勤による給与の不支給分が控除されていなかったり、校舎借料に係る援助の申請額に校舎移転に伴う賃借料の減少分が反映されていなかったりなどしていたのに、日本人学校等の運営に要した実支出額を把握せずに援助金が支払われていた。このため、援助金額計1018万余円が過大に支払われていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

A総領事館は、B補習授業校に対して、平成25年度から29年度までの間に、現地教員等謝金に係る援助として援助金計352万余円を支払っていた。

B補習授業校の運営委員会は、援助の申請に当たり、講師の日額給与単価に各月の開校日数を乗じて算出した額を申請書に記載するとともに、同額を各月の講師への給与支払額として記載した援助実施状況表を添付して、A総領事館に提出していた。

しかし、運営委員会が申請書及び援助実施状況表に記載した給与支払額は、講師の日額給与単価に各月の開校日数を乗じて算出した給与支払の見込額であり、実際は、開校日であっても講師の都合等により休講した場合には当該休講分に係る給与は支払われていなかったのに、A総領事館は、講師への実際の給与支払額を把握せずに援助金を支払っていた。

したがって、適正なB補習授業校の現地教員等謝金に係る援助金額を算定すると計246万余円となり、25年度から29年度までの5か年度計106万余円が過大となっていた。

(注4)
5在外公館等  在コートジボワール日本国大使館、在ナッシュビル、在ヒューストン、在マイアミ各日本国総領事館、公益財団法人日本台湾交流協会高雄事務所

このように、20在外公館等において、援助対象とならない経費に対して援助金を支払ったり、日本人学校等の運営に要した実支出額を把握せずに援助金を支払ったりしたため、援助金額計2994万余円が過大に支払われていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、在外公館等において、援助対象となる経費等の範囲や援助の申請が正しく行われていることを根拠資料に基づき確認することの必要性について十分に理解をしないまま援助業務を実施していたことにもよるが、外務本省において、次のことなどによると認められた。

  • ア 在外公館等に対して、執行方針及び留意事項により、援助対象となる経費等の範囲を明確に示していなかったり、日本人学校等の経費等の中に執行方針及び留意事項に援助対象となるか明示されていない経費等があるときの確認方法を示していなかったり、援助金の支払に当たり運営委員会等から提出させる根拠資料の具体例を詳細に示していなかったりしていたこと
  • イ 新たに在外公館等に赴任して援助業務に従事する職員等に対して、援助制度や援助対象となる経費等の範囲の援助業務に関する実践的な研修を実施していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、外務省は、留意事項の記載等から運営委員会等において援助対象とならないと判断することができたにもかかわらず過大に支払われていた援助金について返還を求めるとともに、日本人学校等に対する援助金の支払が適正なものとなるよう、次のような処置を講じた。

ア 援助業務の実施に係る手引書を作成し、令和元年9月に在外公館等に通知することにより、援助対象となる経費等の範囲を明確に示し、援助対象となるか不明な経費等があるときは外務本省に必ず確認するよう周知徹底した。また、上記の手引書により、援助金の支払に当たり運営委員会等から提出させる根拠資料の具体例を詳細に示した。

イ 新たに在外公館等に赴任して援助業務に従事する職員等に対して、元年6月以降に、援助制度や援助対象となる経費等の範囲を具体的な事例等を交えて習得させる実践的な研修を実施することとした。