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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 文部科学省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(1) 国立大学法人施設整備費補助金の交付額が適切なものとなるよう、変更申請を要しない「軽微な変更」の範囲を超える場合の基準を具体的に示し、変更申請の手続を適切に実施して、交付決定額の再算定を行うよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)文部科学本省 (項)国立大学法人施設整備費
部局等
文部科学本省
補助の根拠
予算補助
補助事業の概要
国立大学法人が行う施設・設備の整備及び不動産の購入に要する経費に対して補助を行うもの
補助事業者
(事業主体)
15国立大学法人
上記の補助事業者が実施した補助事業数及び補助金交付額
47補助事業 532億1694万余円(平成24年度~28年度)
特殊工事項目について補助対象経費を再算定した額が当初の算定額より50%以上又は5000万円以上増減している補助事業数
45補助事業
上記のうち補助金の交付額を再算定した額と実際の交付額に差額が生ずる補助事業数及び補助金交付額
33補助事業 375億7474万余円(平成24年度~28年度)
上記の補助事業に係る補助金の交付額を再算定した額と実際の交付額の差額
35億4060万円

1 国立大学法人施設整備費補助金の概要

(1) 国立大学法人による施設整備の概要

文部科学省は、国立大学法人施設整備費補助金交付要綱(平成16年文部科学大臣決定。以下「交付要綱」という。)に基づき、国立大学法人が行う施設・設備の整備等に要する経費に対して補助を行い、もって大学の教育研究に対する国民の要請にこたえるとともに、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図ることを目的として、国立大学法人施設整備費補助金(以下「補助金」という。)を国立大学法人に交付している。

そして、文部科学大臣は、国立大学法人が行う施設・設備の整備等に要する経費のうち、補助金交付の対象として大臣が認める経費(以下「補助対象経費」という。)について、予算の範囲内で補助金を交付することとなっており、補助対象経費は、施設整備費と設計委託料等の附帯事務費等とに区分され、補助対象経費に対する補助率は定額となっている。

(2) 交付申請額の算定等

国立大学法人施設整備費等要求書・同関係資料作成要領(文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部(平成30年10月15日以前は文教施設企画部)。以下「作成要領」という。)によれば、国立大学法人は、文部科学省に対して、補助事業に必要な一般工事費と特殊工事費とを合計した施設整備費及び附帯事務費から構成される補助対象経費とその算定内訳を記載した書類(以下「実施計画」という。)を作成し、提出することとされている。このうち、一般工事費とは施設・設備等を整備する上で共通的に必要となる部分の整備に要する工事費であり、また、特殊工事費とは立地条件や教育研究上必要となる工事を項目ごとに積み上げた工事費であり、それぞれ次のとおり算定することとされている。

一般工事費は、改修等を実施しようとする面積(以下「補助対象面積」という。)に、一般建物、図書館等の用途区分、階高等ごとに同省が毎年設定している単価を乗ずるなどして算定されている。

また、特殊工事費は、作成要領に列挙された工種ごとに同省が毎年設定している単価に、面積や施工延長、箇所数等の数量を乗じて得た額を積み上げて算定することとされている。

そして、通常、実施計画で算定された施設整備費及び附帯事務費の合計額と同額で交付申請、交付決定が行われることから、実質的に実施計画が交付決定額の内訳を示すものになっている。

(3) 交付決定後の変更申請

交付要綱によれば、国立大学法人は、補助金の交付決定後に補助事業の内容を変更する場合は、あらかじめ、計画変更の承認申請書を文部科学大臣に提出し(以下「変更申請」という。)、その承認を受けなければならないとされている。ただし、一般工事費の算定の基礎となる補助対象面積の2%以内の増又は1%以内の減の変更が生ずる場合等は、「軽微な変更」として、変更申請は要しないとされている。

そして、特殊工事に係る「軽微な変更」については、補助金の具体的な取扱いを定めた「国立大学法人等施設整備費補助金の予算執行事務手続について」によれば、「補助目的を達成するために、特殊工事の範囲(カ所、面積等)を必要最低限の範囲で増又は減する場合」は変更申請を要しないとされているが、「必要最低限の範囲」について、明確な基準は示されていない。

(4) 補助金の実績報告と額の確定

交付要綱等によれば、国立大学法人は、補助事業を完了したときは、検査調書等の書類を添付した実績報告書を文部科学省に提出し、同省は、実績報告書の書類の審査等を行い、実施結果が補助金の交付決定の内容及びこれに付した条件に適合すると認めたときは、交付すべき補助金の額を確定し、国立大学法人に通知することとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

文部科学省は国立大学法人が行う施設・設備の整備等に要する経費に対して毎年度多額の補助金を交付しており、令和元年度予算における1補助事業当たりの予算額は約2億8000万円に上っている。

そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、交付申請額は適正に算定されているか、交付決定後の変更申請は適正に行われ、それに伴う交付決定額の見直しは適正に行われているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、15国立大学法人(注1)が実施した平成27年度から30年度までに完了した建物の新増改築又は改修工事で補助金交付額が1億円以上の47補助事業(補助対象経費計879億3632万余円、補助金交付額計532億1694万余円)を対象として、文部科学本省及び15国立大学法人において、実施計画、交付申請書、実績報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

(注1)
15国立大学法人  弘前大学、筑波大学、千葉大学、東京大学、東京医科歯科大学、山梨大学、名古屋大学、滋賀医科大学、京都大学、大阪大学、神戸大学、九州大学、佐賀大学、長崎大学、琉球大学の各国立大学法人

(検査の結果)

交付申請時と実績報告時における補助対象経費の内訳がどの程度増減しているかみたところ、47補助事業のうち46補助事業において、実績数量に基づき実施計画における補助対象経費の算定方法により算定(以下「再算定」という。)した交付額と補助金交付額との間に増減が認められた。

そして、一般工事費については補助対象面積に単価を乗ずるなどして算定することとされていて、補助対象面積に変更がなければ増減しないのに対して、特殊工事費については、面積や施工延長、箇所数等の数量が変更される場合が少なくないことから、上記46補助事業の特殊工事費の増減の状況を確認したところ、次のとおりとなっていた。

特殊工事費の工種ごとの内訳である基礎、電源設備等の特殊工事項目について、他の補助金における「軽微な変更」の取扱いや1補助事業当たりの平均予算額等を踏まえ、補助対象経費を再算定した額が当初の算定額より50%以上又は5000万円以上増減していて「軽微な変更」の範囲を超えていると考えられるものの状況を確認したところ、14国立大学法人(注2)が実施した45補助事業における特殊工事項目計1366項目のうち372項目あった。そのうち、増加していたものが13国立大学法人(注3)が実施した39補助事業の150項目(増加額48億9417万余円)ある一方、減少していたものが14国立大学法人が実施した44補助事業の222項目(減少額60億3902万余円)となっていた。そして、これらのうちには、金額で90%以上又は3億円以上減少している特殊工事項目も見受けられた。

特殊工事が大幅に増減した上記の状況について、各国立大学法人は、特殊工事の範囲を大きく変更した場合でも工事の目的に変更がなければ、補助目的を達成するための必要最低限の範囲の増又は減にすぎないとして、変更申請を行っておらず、当初の交付決定額と同額の補助金の交付を受けていた。

しかし、補助目的を達成するための「必要最低限の範囲の増又は減」を超えるかどうかは、増減割合や増減額等を考慮して具体的に判断する必要があり、特殊工事費の工種ごとの内訳である特殊工事項目について補助対象経費を再算定した額が当初の算定額より50%以上又は5000万円以上増減している項目があるにもかかわらず、工事の目的に変更がなければ、一律に「軽微な変更」に該当するとして変更申請を行っていない事態は、国立大学法人が施設・設備の整備等に要する経費に対して補助を行うという補助金の制度の趣旨に照らして、妥当性を欠いていると認められる。

そこで、前記の45補助事業について、事業に係る補助金の交付額を再算定すると、実際の交付額との間に差額が生ずるものは12国立大学法人(注4)が実施した33補助事業あり、これらに係る補助金の交付額を再算定した額は計340億3414万余円となり、実際の補助金交付額計375億7474万余円との間に35億4060万余円の差額が生じていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

国立大学法人名古屋大学は、平成26年度に、融合・連携型法国際人材育成拠点施設の建設を補助事業として実施した。この補助事業は、一般工事費7億3248万円に、場所打ちコンクリート杭の打設等特殊工事費計6億4912万余円を加算するなどして、補助対象経費を14億5948万円として交付申請を行い、同額で交付決定を受けた。その後、同大学は、実施設計等を行った結果、杭の打設工事を取りやめるなどして特殊工事の範囲を大幅に縮小したが、当初の交付決定と同額とする実績報告書を提出し、額の確定を受けていた。

しかし、実施設計等の結果に基づき特殊工事費を再算定したところ、特殊工事費は実施計画から3億1435万余円減少しており、これを踏まえ交付額を再算定すると、この再算定した額と実際の補助金交付額との間に上記特殊工事費の減少分に相当する3億1752万円が差額として生じていた。

このように、国立大学法人において、補助事業の実施に当たり、特殊工事の範囲を大幅に縮小するなどして交付決定の内容が実質的に変更されているのに変更申請が行われておらず、当初の交付決定額どおりの補助金の交付が行われた結果、補助金の交付額を再算定した額と実際の補助金交付額との間に差額が生じていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、文部科学省において、補助事業の執行に当たり、交付要綱の特殊工事に係る「軽微な変更」の範囲を超える場合の基準を具体的に示すことなどの必要性についての認識が欠けていたことなどによると認められた。

(注2)
14国立大学法人  弘前大学、筑波大学、千葉大学、東京大学、山梨大学、名古屋大学、滋賀医科大学、京都大学、大阪大学、神戸大学、九州大学、佐賀大学、長崎大学、琉球大学の各国立大学法人
(注3)
13国立大学法人  弘前大学、筑波大学、東京大学、山梨大学、名古屋大学、滋賀医科大学、京都大学、大阪大学、神戸大学、九州大学、佐賀大学、長崎大学、琉球大学の各国立大学法人
(注4)
12国立大学法人  弘前大学、筑波大学、千葉大学、東京大学、名古屋大学、滋賀医科大学、京都大学、大阪大学、神戸大学、九州大学、佐賀大学、琉球大学の各国立大学法人

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、文部科学省は、国立大学法人施設整備費補助金の交付額が適切なものとなるよう、令和元年8月に事務連絡を発して、特殊工事に係る「軽微な変更」の範囲を超える場合の基準を特殊工事項目の金額の50%を超える変更又は5000万円を超える変更をする場合等と具体的に示し、この基準に基づき変更申請の手続を適切に実施して、交付決定額の再算定を行うことを国立大学法人に周知し、2年度に交付申請を行う補助事業から適用することとする処置を講じた。