国立大学法人等は、国立大学法人法(平成15年法律第112号)に基づき、毎事業年度(以下、事業年度を「年度」という。)、貸借対照表、損益計算書、利益の処分又は損失の処理に関する書類その他文部科学省令で定める書類及びこれらの附属明細書(以下「財務諸表」という。)を作成することとなっている。そして、国立大学法人法施行規則(平成15年文部科学省令第57号)によれば、上記で定める書類は、キャッシュ・フロー計算書、国立大学法人等業務実施コスト計算書(以下「業務実施コスト計算書」という。)等とするとされている。また、国立大学法人等がその会計を処理するに当たっては、国立大学法人会計基準(平成16年文部科学省告示第37号。以下「会計基準」という。)等に従うこととされており、国立大学法人等は、その公共的な性格から正確な情報開示を行わなければならず、さらに、多数の法人が同種の業務を行うため、当該法人間における会計情報の比較可能性を強く要請されることから、一定の事項については個々に判断するのではなく、統一的な取扱いをする必要があることに留意する必要があるとされている。
国立大学法人等が保有する固定資産は、会計基準第84によりその減価に対応すべき収益の獲得が予定されないものとして特定された償却資産(以下「特定償却資産」という。)、非償却資産、資産見返負債を計上している固定資産等に分類される。
そして、国立大学法人等が保有する固定資産の減損処理に係る取扱いについては、固定資産の減損に係る国立大学法人会計基準(平成17年12月22日設定。以下「減損会計基準」という。)等が適用されている。
減損会計基準等によれば、固定資産が使用されている業務の実績が、中期計画等の想定に照らし、著しく低下しているなど、固定資産に減損が生じている可能性を示す事象の有無を把握した上で、減損を認識した場合は、当該固定資産の帳簿価額を固定資産の時価から処分費用見込額を控除して算定される額等まで減額する会計処理を行わなければならないこととされている。
会計基準等によれば、国立大学法人等が固定資産を取得した際、取得した固定資産が運営費交付金、授業料又は寄附者がその使途を特定した寄附金等により支出された場合で、当該資産が償却資産等であるときは、その金額を運営費交付金債務等から貸借対照表の固定負債である資産見返運営費交付金等に振り替えることとされている。
そして、減損会計基準等によれば、特定償却資産、非償却資産及び資産見返負債を計上している固定資産に係る減損額については、その減損が、国立大学法人等が中期計画等で想定した業務運営を行ったにもかかわらず生じたものであるときは、損益計算書上の費用には計上しないこととされている。そして、減損を認識した固定資産が、特定償却資産又は非償却資産である場合は、貸借対照表の損益外減損損失累計額の科目により資本剰余金の控除項目として計上し、貸借対照表の資産見返負債を計上している固定資産である場合には、資産見返負債を減額することとされている。
会計基準等によれば、業務実施コスト計算書の作成目的は、納税者である国民の国立大学法人等の業務に対する評価及び判断に資するため、一会計期間に属する国立大学法人等の業務運営に関して、教育・研究や固定資産の取得等に係るコストのうち、税金等を原資とする国からの運営費交付金等を財源とする最終的に国民の負担に帰せられるコスト(以下「国民負担コスト」という。)を損益外のものも含めて一元的に集約して表示することとされている。そして、会計基準等によれば、業務実施コスト計算書は、コストの発生原因ごとに、業務費用、損益外減損損失相当額等の科目に区分して表示しなければならないとされており、例えば、業務費用の科目については、上記のとおり、国からの運営費交付金等を財源とするコストは国民負担コストに該当するため、国立大学法人等の損益計算書上の費用から控除すべき収益とはされていないのに対して、税金等を原資としない国以外の者から受領した授業料、寄附金等を財源とするコストは国民負担コストに該当しないため、授業料、寄附金等は国立大学法人等の損益計算書上の費用から控除すべき収益とされているなど、業務実施コスト計算書に計上すべきコストの範囲が明確に示されている。
一方、損益外減損損失相当額の科目については、業務実施コスト計算書の作成の趣旨に沿って、国民負担コストに該当する減損額は計上し、国民負担コストに該当しない減損額は計上すべきではないのに、会計基準等において、国立大学法人等が中期計画等で想定した業務運営を行ったにもかかわらず生じた減損額とされているのみで、業務実施コスト計算書に計上すべきコストの範囲が明確に示されていない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、正確性等の観点から、国民負担コストを損益外のものも含めて一元的に集約して表示するとされている業務実施コスト計算書において、減損額が業務実施コスト計算書の作成の趣旨に沿って適切に計上されているかなどに着眼して、17国立大学法人(注1)の平成25年度から29年度までの財務諸表を対象として、文部科学本省及び17国立大学法人において、業務実施コスト計算書に関する資料を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、特定償却資産及び非償却資産のうち、中期計画等で想定した業務運営を行ったにもかかわらず生じた減損額については、貸借対照表の損益外減損損失累計額に計上することとなっている。また、資産見返負債を計上している固定資産のうち中期計画等で想定した業務運営を行ったにもかかわらず生じた減損額については、貸借対照表の資産見返負債を減額することとなっている。
そこで、25年度から29年度までの間に、8国立大学法人(注2)が資産見返負債を減額するなどした減損額4億5178万余円についてみたところ、業務実施コスト計算書の損益外減損損失相当額に計上されていなかった。
しかし、25年度から29年度までの間に、8国立大学法人において、損益外減損損失相当額に計上していなかった減損額のうち3億9546万余円は、国からの運営費交付金等を財源として取得した資産に係る減損額であり、国民負担コストに該当するのに、業務実施コスト計算書の損益外減損損失相当額に計上されていなかった(表1参照)。
表1 運営費交付金等を財源として取得した資産に係る減損額が計上されていなかったもの
国立大学法人名 | 年度 | 国民負担コストに該当するのに、計上されていなかった減損額 | 国立大学法人名 | 年度 | 国民負担コストに該当するのに、計上されていなかった減損額 |
---|---|---|---|---|---|
筑波大学 | 平成 25 |
86,272 | 神戸大学 | 29 | 3,502 |
26 | 987 | 鳥取大学 | 26 | 707 | |
27 | 3,307 | 岡山大学 | 27 | 1,226 | |
東京大学 | 28 | 19,826 | 28 | 1,385 | |
29 | 11,101 | 29 | 10,237 | ||
三重大学 | 27 | 2,553 | 長崎大学 | 29 | 32,294 |
京都大学 | 25 | 37,578 | 計 | 395,469 | |
26 | 187 | ||||
27 | 1,478 | ||||
28 | 176,936 | ||||
29 | 5,886 |
(注) 単位未満を切り捨てているため、計上されていなかった減損額の合計と計欄は一致しない。
6国立大学法人(注3)は、特定償却資産、非償却資産及び資産見返負債を計上している固定資産のうち、中期計画等で想定した業務運営を行ったにもかかわらず生じた減損額計32億8163万余円を業務実施コスト計算書の損益外減損損失相当額に計上していた。
しかし、25年度から28年度までの間に、6国立大学法人において、損益外減損損失相当額に計上していた減損額のうち9866万余円は、授業料、寄附金等を財源として取得した資産に係る減損額であり、国民負担コストに該当しないのに、業務実施コスト計算書の損益外減損損失相当額に計上されていた(表2参照)。
表2 授業料、寄附金等を財源として取得した資産に係る減損額が計上されていたもの
国立大学法人名 | 年度 | 国民負担コストに該当しないのに、計上されていた減損額 |
---|---|---|
東北大学 | 平成 28 |
44,942 |
東京大学 | 26 | 11 |
東京医科歯科大学 | 25 | 25,126 |
名古屋大学 | 25 | 4,593 |
26 | 1,435 | |
27 | 3,300 | |
28 | 47 | |
大阪大学 | 27 | 9,108 |
28 | 5,404 | |
佐賀大学 | 28 | 4,695 |
計 | 98,666 |
(注) 単位未満を切り捨てているため、計上されていた減損額の合計と計欄は一致しない。
このように、各国立大学法人の業務実施コスト計算書の損益外減損損失相当額において、国からの運営費交付金等を財源として取得した資産に係る減損額が計上されていなかったり、国以外の者から受領した授業料、寄附金等を財源として取得した資産に係る減損額が計上されていたりしており、国民負担コストを損益外のものも含めて一元的に集約して表示することとされている業務実施コスト計算書の作成の趣旨に沿ったものとなっていない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、文部科学省において、各国立大学法人等に対して、業務実施コスト計算書の損益外減損損失相当額に計上する減損額の範囲を明確に示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、文部科学省は、各国立大学法人等に対して、国民負担コストが適切に開示されるよう、令和元年8月に事務連絡を発し、国立大学法人等が中期計画等で想定した業務運営を行ったにもかかわらず生じた減損額のうち、国からの運営費交付金等を財源として取得し資産見返負債を計上している固定資産に係る減損額については損益外減損損失相当額に計上することなど、業務実施コスト計算書に計上する減損額の範囲を明確に示し、周知する処置を講じた。