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労働保険の保険料の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの[12労働局](57)


会計名及び科目
労働保険特別会計(徴収勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入
部局等
12労働局
保険料納付義務者
徴収不足があった事業主数 272事業主
徴収過大があった事業主数 84事業主
徴収過不足額
徴収不足額 144,775,290円(平成28年度~30年度)
徴収過大額 90,800,570円(平成28年度~30年度)

1 保険料の概要

(1) 労働保険

労働保険は、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)及び雇用保険を総称するものである。このうち、①労災保険は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)等に基づき、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対する療養補償給付等を行う保険であり、原則として、事業所に使用される全ての労働者が対象となる。また、②雇用保険は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、労働者の失業等に対する失業等給付、雇用安定事業等を行う保険であり、常時雇用される一般労働者のほか、いわゆるパートタイム労働者等の短時間就労者のうち1週間の所定労働時間が20時間以上で継続して31日以上雇用されることが見込まれることなどの要件を満たす者が被保険者となる。

なお、取締役等の役員は、業務執行権を有する者の指揮監督を受けて労働に従事している者を除き、労働者として取り扱われないこととなっている。

(2) 保険料の徴収

政府は、「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」(昭和44年法律第84号。以下「徴収法」という。)等に基づき、労働保険の事業に要する費用に充てるため、保険料を徴収することとなっている。そして、保険料は、①労災保険分については事業主が負担して、②雇用保険分については、失業等給付に充てる部分を労働者と事業主とが折半して負担し、雇用安定事業等に充てる部分を事業主が負担して、①と②のいずれも事業主が納付することとなっている。

保険料の納付は、原則として次のとおり行われることとなっている。

ア 事業主は、毎年度の6月1日から40日以内に、都道府県労働局(以下「労働局」という。)に対して、その年度の労働者に支払う賃金総額の見込額に保険料率(注)を乗じて算定した概算保険料を申告して、納付する。

イ 事業主は、次の年度の6月1日から40日以内に、労働局に対して、前年度に実際に支払った賃金総額に基づいて算定した確定保険料申告書を提出する。

ウ 労働局は、この申告書の記載内容を審査して、その結果に基づき保険料の過不足分が精算される。

さらに、労働局は、必要に応じて、事業主に徴収法に基づく実地調査を行うなどして、保険料の算定等について調査確認や指導を行っている。

この労働保険の保険料の平成30年度の収納済額は2兆4873億余円に上っている。

(注)
保険料率  労災保険率と雇用保険率に分かれており、それぞれ次のとおりである。

① 労災保険率は、労災保険の適用を受ける全ての事業の過去3年間の業務災害及び通勤災害に係る災害率等を考慮して事業の種類ごとに定められており、平成28年度から30年度までは最低1000分の2.5から最高1000分の88となっている。

② 雇用保険率は、失業等給付、雇用安定事業等に要する費用を考慮して定められており、28年度の場合は1000分の11(ただし、農林、水産等の事業は1000分の13、建設の事業は1000分の14)、29、30両年度の場合は1000分の9(ただし、農林、水産等の事業は1000分の11、建設の事業は1000分の12)となっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、事業主の雇用する労働者の保険加入が適正になされているかなどに着眼して、全国47労働局のうち12労働局管内の事業主から短時間就労者を雇用している割合が高いなどと思われる524事業主を選定して、28年度から30年度までの間における各労働局の保険料の徴収の適否について検査した。

検査に当たっては、上記の12労働局において、事業主から提出された確定保険料申告書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(2) 検査の結果

検査したところ、事業主が、雇用保険の加入要件を満たす短時間就労者を同保険に加入させておらず、その賃金を雇用保険分の保険料の算定の際に賃金総額に含めるべきところ、これを含めていなかったり、労働者として取り扱われない役員の報酬等を労災保険分及び雇用保険分の保険料の算定の際に賃金総額から除くべきところ、これを含めていたりなどしている事態が見受けられた。

このため、前記524事業主のうち、12労働局管内の272事業主について徴収額が144,775,290円不足していたり、12労働局管内の84事業主について徴収額が90,800,570円過大になっていたりしていて、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、事業主が確定保険料申告書を提出するに当たり、制度を十分に理解していなかったり、計算誤りをしたりしていて、賃金総額等の記載が事実と相違していたのに、上記の12労働局において、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったことによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

東京労働局は、警備業を営む事業主Aから、平成28年度の労働保険の保険料について、雇用保険の被保険者894人に対して支払った賃金総額は2,513,334千円、その雇用保険分の保険料は27,646,674円であるとした確定保険料申告書の提出を受けて、これに基づき、当該保険料を徴収していた。

しかし、事業主Aは、雇用保険の加入要件を満たす短時間就労者116人を同保険に加入させておらず、これらの者に対して支払った賃金249,594千円を確定保険料申告書に記載する賃金総額に含めるべきところ、これを含めていなかった。このため、雇用保険分の保険料2,745,534円が徴収不足となっていた。

なお、これらの徴収不足額及び徴収過大額については、本院の指摘により、全て徴収決定又は還付決定の処置が執られた。

これらの徴収不足額及び徴収過大額を労働局ごとに示すと次のとおりである。

労働局名
本院の調査に係る事業主数 徴収不足があった事業主数
徴収過大があった事業主数
徴収不足額
徴収過大額(△)
      千円
山形
29 11
5
5,151
410
群馬
29 23
2
6,186
89
東京
89 53
11
35,182
59,969
神奈川
57 28
5
15,546
5,630
石川
25 20
2
4,706
717
長野
38 18
9
10,818
888
静岡
39 27
9
20,857
4,644
愛知
58 29
7
11,395
4,303
大阪
56 24
12
21,027
7,749
福岡
55 21
12
7,113
4,586
熊本
25 11
3
3,099
444
宮崎
24 7
7
3,690
1,365
524 272
84
144,775
90,800