雇用調整助成金は、雇用保険(後掲215ページの「雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの」参照)で行う事業のうちの雇用安定事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合等における失業の予防その他雇用の安定を図るために、雇用する被保険者(以下「被保険者」という。)について休業若しくは教育訓練(以下「休業等」という。)又は出向により雇用調整を行った事業主に対して、休業手当等の一部を助成するものである。
雇用調整助成金の支給要件は、休業等の場合、売上高等が一定以上減少するなどしている事業主が、労働組合等との間で休業等の実施に関する協定(以下「協定」という。)を結び、協定に基づいて、被保険者について休業等を行うことなどとなっている。そして、支給額については、休業等を行った期間ごとに、1人1日当たりの平均賃金額(注1)に協定による休業手当の支払率及び所定の助成率(注2)を乗ずるなどして算出される額に、休業等を行った延べ人日数を乗じて算定することなどとなっている。
雇用調整助成金の支給を受けようとする事業主は、休業等を行う前に、休業等を行う期間ごとに実施計画届及び添付書類を都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出し、休業等を行った後に、支給申請書及び添付書類を労働局に提出することとなっている。そして、労働局は、実施計画届、支給申請書等に記載されている休業等の実施状況、休業手当等の支払状況、事業主の過去の不正受給の有無等を審査した上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省又は労働局は、雇用調整助成金の支給を行うこととなっている。また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受け、又は受けようとした事業主に対して、支給した助成金の全部若しくは一部の支給決定を取り消して返還の手続を行い、又は不支給とすることなどとなっている。
本院は、合規性等の観点から、事業主に対する雇用調整助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、全国47労働局のうち、10労働局において会計実地検査を行い、平成25年度から令和元年度までの間に休業等に係る雇用調整助成金の支給を受けた事業主から47事業主を選定して、雇用調整助成金の支給の適否について検査した。
検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、2労働局管内において平成28、30両年度に雇用調整助成金の支給を受けた2事業主は、協定に基づく額の休業手当を支払っていないのに支払ったと偽ったり、休業を行っていないのに行ったと偽ったりして、雇用調整助成金の支給を申請しており、これら2事業主に対する雇用調整助成金の支給額計3,316,105円は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業主が誠実でなかったため、支給申請書等の記載内容が事実と相違していたのに、上記の2労働局において、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
北海道労働局は、事業主Aから、平成28年5月から同年12月までの間に、8回、延べ293人日の休業を行い、協定に基づいて当該休業を行った日に係る基本給の100%に相当する額を休業手当として支払ったとする支給申請書及び添付書類の提出を受けて、これに基づき、雇用調整助成金計2,282,275円を事業主Aに支給していた。
しかし、実際には、事業主Aは、被保険者に対する休業手当の支払状況について事実と相違する添付書類を作成して、協定に基づく額の休業手当を支払っていないのに、上記のとおり支払ったと偽って申請していたことから、事業主Aに対する雇用調整助成金計2,282,275円の全額が支給の要件を満たしていなかった。
なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。
これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。
労働局名 |
本院の調査に係る事業主数 | 不適正支給に係る事業主数 | 左の事業主に支給した雇用調整助成金 | 左のうち不当と認める雇用調整助成金 |
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千円 | 千円 | |||
北海道 |
4 | 1 | 2,282 | 2,282 |
宮崎 |
4 | 1 | 1,033 | 1,033 |
計 | 8 | 2 | 3,316 | 3,316 |