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  • 平成30年度|
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  • 保険給付

雇用保険の人材開発支援助成金の支給が適正でなかったもの[厚生労働本省、大阪労働局](60)


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)地域雇用機会創出等対策費
部局等
厚生労働本省(支給庁)
大阪労働局(支給決定庁)
支給の相手方
2事業主
人材開発支援助成金の支給額の合計
2,814,200円(平成29、30両年度)
不当と認める支給額
2,814,200円(平成29、30両年度)

1 保険給付の概要

(1) 人材開発支援助成金

人材開発支援助成金(平成29年3月以前はキャリア形成促進助成金。以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業のうちの能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、企業内における労働者のキャリア形成の効果的な促進に資するために、労働者に対して職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための職業訓練又は教育訓練(以下「訓練等」という。)を実施するなど職業能力開発に係る支援を実施した事業主に対して、国が訓練等に要する経費、訓練期間中の賃金の一部等を助成するものである。助成金の対象となる取組には、一般訓練コース、特定訓練コース等があり、これらの取組のうち特定訓練コースには、若年人材育成訓練、労働生産性向上訓練等の7種類の訓練等がある。

(2) 助成金の支給

特定訓練コースのうち若年人材育成訓練に係る助成金の支給要件は、事業主が、訓練開始日において雇用契約締結後5年以内かつ35歳未満の雇用保険の被保険者(短時間労働者又は派遣労働者を含む期間の定めのある労働契約を締結する有期契約労働者等を除く。)である若年労働者を対象に、通常の業務を離れて行う訓練(以下「OFF―JT」という。)による訓練等を受けさせること、当該訓練等の期間、当該労働者に対して所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払うこと、訓練対象者に係る訓練等の実施状況、賃金の支払の状況等を明らかにする書類等を整備していることなどとなっている。

助成金の支給を受けようとする事業主は、訓練開始日の前日から起算して1か月前までに、訓練実施計画届、訓練対象者が被保険者であることが確認できる書類(雇用契約書等の写し)、OFF―JTの実施内容等を確認するための書類等を管轄の都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出して、その内容の確認を受けることとなっている。そして、事業主は、訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書に、OFF―JT実施状況報告書、賃金台帳又は給与明細書、出勤簿、領収書等の関係書類を添えて、労働局に提出することとなっている。

支給申請書等の提出を受けた労働局は、訓練対象者に対する訓練等の実施状況、賃金の支払状況等を関係書類等に基づき調査確認するなどして、事業主やその申請内容が助成金の支給要件を満たしているか審査をした上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省又は労働局は、助成金の支給を行うこととなっている。また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受け、又は受けようとした事業主に対して、支給した助成金の全部若しくは一部の支給決定を取り消して返還の手続を行い、又は不支給とすることなどとなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、事業主に対する助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、24年度から30年度までの間に助成金の支給を受けた事業主から128事業主を選定して、助成金の支給の適否について、全国47労働局のうち、10労働局において会計実地検査を行った。

検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(2) 検査の結果

検査の結果、大阪労働局管内において29、30両年度に助成金の支給を受けた2事業主は、若年人材育成訓練において、訓練及び賃金の支払の実績を偽って助成金の支給を申請するなどしており、これら2事業主に対する助成金の支給額計2,814,200円の全額が支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、事業主が誠実でなかったため、支給申請書等の記載内容が事実と相違していたのに、大阪労働局において、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

大阪労働局は、事業主Aから、平成29年10月に、助成金に係る訓練実施計画届、訓練対象者に係る雇用契約書等の提出を受けて、その内容を確認していた。そして、事業主Aから、当該訓練実施計画届に沿って同年12月に若年人材育成訓練を実施して、訓練対象者3人に当該訓練の実施期間中の賃金を支払ったとして、30年1月に、支給申請書及びOFF―JT実施状況報告書、給与明細書、出勤簿等の関係書類の提出を受けて、これに基づき、助成金計1,303,200円の支給決定を行っていた。

しかし、事業主Aは、訓練実施期間前に訓練対象者3人のうち1人については退職していたのに、同人に対して訓練実施期間中に訓練を受けさせて、適正に賃金を支払ったとする虚偽の内容の給与明細書等を、また、残りの訓練対象者2人については出勤状況の内容を裏付ける書類を作成しておらず、虚偽の出勤簿を合わせて支給申請書に添付して同労働局に提出していた。これらのことから、事業主Aに対する助成金1,303,200円の全額が支給の要件を満たしていなかった。

なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。