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雇用保険のキャリアアップ助成金の支給が適正でなかったもの[厚生労働本省、8労働局](62)


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)高齢者等雇用安定・促進費
部局等
厚生労働本省(支給庁)
8労働局(支給決定庁、支給庁)
支給の相手方
22事業主
キャリアアップ助成金の支給額の合計
73,739,627円(平成27年度~30年度)
不当と認める支給額
54,257,927円(平成27年度~30年度)

1 保険給付の概要

(1) キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金(以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業である雇用安定事業及び能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、期間の定めがある労働契約を締結する者(以下「有期契約労働者」という。)等の企業内でのキャリアアップ(注)を支援するために、キャリアアップに向けた取組を実施した事業主に対して国が経費等を助成するものである。助成金の対象となる取組には、人材育成コース(同コースは、平成30年度に人材開発支援助成金に統合された。)、正社員化コース(27年度以前は正規雇用等転換コース)、健康診断制度コース(28年度は処遇改善コースの共通処遇推進制度の健康診断制度、27年度以前は健康管理コース)等がある。

(注)
キャリアアップ  職務経験又は職業訓練等(職業訓練又は教育訓練をいう。)の職業能力の開発の機会を通じて、職業能力の向上並びにこれによる将来の職務上の地位及び賃金をはじめとする処遇の改善が図られること

(2) 助成金の支給

助成金の支給を受けようとする事業主は、対象者、目標、計画期間等が記載されたキャリアアップ計画書を管轄の都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出して受給資格の認定を受けることとなっている。また、助成金の対象となる取組のうち、人材育成コースについては、上記キャリアアップ計画書のほか、実施する職業訓練(以下「訓練」という。)の内容等が記載された訓練計画届を労働局に提出して受給資格の認定を受けることとなっている。

人材育成コースの支給要件は、受給資格認定に係る訓練計画に基づき訓練を実施すること、訓練期間中の訓練受講者に対する賃金を適正に支払うことなどとなっている。また、正社員化コースの支給要件は、上記のキャリアアップ計画書に記載された計画期間内に労働協約又は就業規則等に基づき、有期契約労働者を正規雇用労働者に転換することなどとなっており、健康管理コースの支給要件は、上記のキャリアアップ計画書に記載された計画期間内に有期契約労働者等を対象とする法定外の健康診断制度を新たに設けて、延べ4人以上に実施することなどとなっている。

助成金の支給を受けようとする事業主は、人材育成コースについては、訓練計画実施期間の終了した日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書に、出勤簿、賃金台帳等の関係書類のほか、訓練の実施内容等を記載した実施状況報告書を添えて、労働局に提出することとなっている。また、正社員化コースについては、有期契約労働者を正規雇用労働者に転換等した後、6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に、健康管理コースについては、健康診断制度を延べ4人以上実施した日の翌日から起算して2か月以内に、それぞれ、支給申請書に雇用契約書等の関係書類を添えて、労働局に提出することとなっている。

支給申請書等の提出を受けた労働局は、訓練受講者に対する訓練の実施状況、賃金の支払状況、正規雇用労働者への転換等の状況等を関係書類等に基づき調査確認するなどして、事業主やその申請内容が助成金の支給要件を満たしているか審査した上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省又は労働局は、助成金の支給を行うこととなっている。また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受け、又は受けようとした事業主に対して、支給した助成金の全部若しくは一部の支給決定を取り消して返還の手続を行い、又は不支給とすることなどとなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、事業主に対する助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、27年度から30年度までの間に助成金の支給を受けた事業主から187事業主を選定して、助成金の支給の適否について、全国47労働局のうち、12労働局において会計実地検査を行った。

検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(2) 検査の結果

検査の結果、8労働局管内において27年度から30年度までの間に助成金の支給を受けた22事業主は、人材育成コースにおいて、訓練計画に基づいた訓練を実施していないのに実施したと偽ったり、正社員化コースにおいて、正規雇用労働者への転換日を偽ったり、健康管理コースにおいて、期間の定めのない労働契約を締結した者を有期契約労働者と偽ったりするなどして、助成金の支給を申請しており、これら22事業主に対する助成金の支給額計73,739,627円のうち計54,257,927円は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、事業主が誠実でなかったり、制度を十分に理解していなかったりしていたため、支給申請書等の記載内容が事実と相違するなどしていたのに、上記の8労働局において、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

大阪労働局は、事業主Aから、平成27年3月1日から32年2月28日までを計画期間とする人材育成コースに係るキャリアアップ計画書について27年1月に、また、訓練計画届について同年10月にそれぞれ提出を受けて、助成金の受給資格を認定していた。その後、28年4月に、事業主Aから、対象者を増員するとした訓練計画の変更届の提出を受けていた。そして、当該変更届による変更後の訓練計画に基づき同月から同年10月まで訓練を実施したとして、同年12月に、支給申請書及び実施状況報告書、領収書等の添付書類の提出を受けて、これに基づき、助成金計2,742,400円の支給決定を行っていた。

しかし、実際には、事業主Aは訓練計画に基づく訓練を実施していなかったのに、訓練計画に基づき訓練を実施したとする虚偽の内容の実施状況報告書、領収書等の関係書類を支給申請書に添付して同労働局に提出していたことから、事業主Aに対する助成金2,742,400円の全額が支給の要件を満たしていなかった。

なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。

これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。

労働局名
本院の調査に係る事業主数 不適正受給事業主数 左の事業主に支給した助成金 左のうち不当と認める助成金
      千円 千円
北海道
2 2 6,687 2,565
山形
16 1 1,000 500
神奈川
20 2 5,984 5,984
滋賀
28 2 2,575 1,478
京都
3 1 5,000 500
大阪
23 9 40,320 35,404
奈良
19 3 7,107 2,760
香川
10 2 5,064 5,064
121 22 73,739 54,257