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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
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  • 医療費

労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が過大となっていたもの[厚生労働本省、6労働局](66)


会計名及び科目
労働保険特別会計(労災勘定) (項)保険給付費
部局等
厚生労働本省(支出庁)
6労働局(審査庁)
支払の相手方
57指定医療機関等
過大に支払われていた労災診療費
入院料、リハビリテーション料等
過大支払額
27,258,490円(平成24年度~29年度)

1 保険給付の概要

(1) 労働者災害補償保険

労働者災害補償保険は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)等に基づき、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病等に対して療養の給付等の保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うものである。

(2) 療養の給付に要する診療費の支払

療養の給付は、保険給付の一環として、負傷又は発病した労働者(以下「傷病労働者」という。)の請求により、都道府県労働局長の指定する医療機関又は労災病院等(以下「指定医療機関等」という。)において、診察、処置、手術等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行ったこれらの指定医療機関等は、都道府県労働局(以下「労働局」という。)に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、労働局で請求の内容を審査した上で支払額を決定して、これにより、厚生労働本省において労災診療費を支払うこととなっている。

労災診療費は、「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号。以下「算定基準」という。)等に基づき算定することとなっている。算定基準によれば、労災診療費は、①健康保険法(大正11年法律第70号)等に基づく保険診療に要する費用の額の算定に用いる「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)の別表第一医科診療報酬点数表(以下「健保点数表」という。)等により算定した診療報酬点数に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、②初診料、入院料、手術料等の特定の診療項目については、健保点数表の所定点数とは異なる点数、金額、算定項目等を別に定めて、これにより算定することとされている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、各労働局の審査に係る労災診療費の支払が算定基準等に基づき適正になされているかなどに着眼して、全国47労働局のうち12労働局(注)において会計実地検査を行い、診療費請求内訳書等の書類により検査した。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(注)
12労働局  山形、茨城、群馬、東京、神奈川、石川、愛知、滋賀、大阪、福岡、熊本、宮崎各労働局

(2) 検査の結果

検査の結果、平成24年度から29年度までの間における6労働局の審査に係る労災診療費の診療項目のうち、過大に支払われていた入院料、リハビリテーション料等が57指定医療機関等で計27,258,490円あり、不当と認められる。

上記について、その主な事態を示すと次のとおりである。

ア 入院料に係る事態

健保点数表等によれば、入院料のうち、入院基本料及び特定入院料については、夜勤を行う看護職員1人当たりの月平均夜勤時間数が所定の時間数以下であることなどの厚生労働大臣が定める施設基準等に適合しているものとして届け出た病棟に入院している傷病労働者について、その基準に掲げる区分等に従って所定の点数を算定することとされている。また、入院基本料及び特定入院料は、一定の要件を満たす場合に、その区分等に従ってそれぞれ所定の加算(以下「入院基本料等加算」という。)を算定できることとされている。

しかし、5労働局管内の27指定医療機関等は、入院基本料、特定入院料、入院基本料等加算等の算定に当たり、施設基準等に適合していないのに適合している場合の区分等に従った所定点数により算定するなどしていた。このため、入院料が、1,207件で計11,803,192円過大に支払われていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

A病院は、傷病労働者Bに係る入院料の算定に当たり、施設基準等に適合しているとして、入院基本料の一般病棟入院基本料に係る健保点数表の所定点数に入院基本料等加算等の所定点数を加えるなどした計40,708点に12円を乗じて488,496円と算定していた。しかし、実際は、A病院は夜勤を行う看護職員の1人当たりの月平均夜勤時間数が所定の時間数を超えていたため、施設基準等に適合していなかった。

したがって、入院基本料の特別入院基本料に係る健保点数表の所定点数に入院基本料等加算等の所定点数を加えるなどした計18,069点に12円を乗じて216,828円と算定すべきであり、このため入院料が271,668円過大に支払われていた。

イ リハビリテーション料に係る事態

健保点数表等によれば、リハビリテーション料のうち運動器リハビリテーション料については、基本的動作能力の回復等を通して、実用的な日常生活における諸活動の自立を図るために、種々の運動療法、実用歩行訓練、日常生活活動訓練等を組み合わせて個々の症例に応じて行った場合に算定することとされている。

ただし、マッサージや温熱療法等の物理療法のみを行った場合には処置料の所定点数を算定することとされている。また、リハビリテーション総合計画評価料は、医師、看護師、理学療法士、作業療法士等の多職種が共同してリハビリテーション計画を策定し、当該計画に基づきリハビリテーション料を算定すべきリハビリテーションを行った場合に算定することとされている。

しかし、2労働局管内の7指定医療機関等は、実際にはマッサージ、超音波療法等の物理療法のみを行っていたのに、消炎鎮痛等処置料の所定点数ではなく、より高い運動器リハビリテーション料の所定点数を算定したり、リハビリテーション総合計画評価料を算定したりするなどしていた。このため、リハビリテーション料が、297件で計7,089,221円過大に支払われていた。

このような事態が生じていたのは、指定医療機関等が労災診療費を誤って算定して請求していたのに、6労働局において、これに対する審査が十分でないまま支払額を決定していたことなどによると認められる。

前記の過大に支払われていた労災診療費の額を労働局ごとに示すと、次のとおりである。

労働局名
指定医療機関等数 過大支払件数 過大支払額
    千円
群馬
7 17 1,246
東京
26 1,222 11,314
神奈川
14 729 2,473
大阪
6 351 9,246
福岡
2 83 2,419
熊本
2 18 557
57 2,420 27,258