【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
障害者に係る就労移行支援事業の給付費の算定について
(令和元年10月29日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
自立支援給付は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(平成17年法律第123号。以下「法」という。)に基づき、障害者及び障害児の福祉の増進を図ることなどを目的として、障害者及び障害児が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行うものであり、自立支援給付のうち障害福祉サービスに係る給付費の支給には、訓練等給付費及び介護給付費(以下、これらを合わせて「訓練等給付費等」という。)がある。
そして、障害者及び障害児が障害福祉サービスを受けようとする場合の手続は、次のとおりとなっている。
① 障害者又は障害児の保護者は、居住地等の市町村から訓練等給付費等を支給する旨の決定(以下「支給決定」という。)を受ける。
② 支給決定を受けた障害者又は障害児の保護者(以下、これらを合わせて「支給決定障害者等」という。)は、支給決定の有効期間内に都道府県知事又は政令指定都市若しくは中核市の市長(以下「都道府県知事等」という。)の指定を受けた指定障害福祉サービス事業者等(以下「事業者」という。)との間で契約を行い、事業者の事業所において、障害福祉サービスを受ける。
その後、事業者は、支給決定障害者等との間の契約を終了したときには、市町村に対して、遅滞なく報告することとなっている。
市町村は、支給決定障害者等が事業者から障害福祉サービスの提供を受けたときは、これに係る訓練等給付費等を事業者に支払うことになっており、事業者から訓練等給付費等の請求を受けた市町村は、金額等を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準」(平成18年厚生労働省告示第523号。以下「算定基準」という。)等に照らして審査した上で、事業者に訓練等給付費等を支払うこととなっている。そして、国は、障害福祉サービスに要した費用について市町村が支弁した訓練等給付費等の100分の50を負担している。
また、都道府県は、法等に基づき、市町村が行う自立支援給付に関する業務等が適正かつ円滑に行われるよう、市町村に対する必要な助言、情報の提供その他の援助等を行うこととなっている。そして、都道府県知事等は、自立支援給付に関して必要があると認めるときは、事業者に対する指導等を行うことができることとなっている。
訓練等給付費の支給の対象には、就労移行支援、就労継続支援等があり、このうち就労移行支援は、就労を希望する原則として65歳未満の障害者であって、通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者に対して、生産活動、職場体験その他の活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、就職後における職場への定着のために必要な相談その他の必要な支援を行うものである。
事業者が支給決定障害者等に対して障害福祉サービスを提供した際に市町村に請求することができる費用の額は、算定基準等に基づき、障害福祉サービスの種類ごとに定められた基本報酬の単位数に各種加算の単位数を合算し、これにより得た単位数に単価(10円から11.60円)を乗じて算定することとなっている。
そして、就労移行支援については、算定基準等に基づき、就労移行支援に係る指定障害福祉サービス事業所(以下「事業所」という。)において、利用者を通所させて就労移行支援を提供した場合に就労移行支援サービス費として所定の単位数を算定することとなっており、算定基準の実施に伴う留意事項を示した「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の制定に伴う実施上の留意事項について」(平成18年障発第1031001号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知。以下「算定基準留意事項通知」という。)において、利用者が就職した日の前日まで算定可能である旨が明示されている。
また、事業者は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年厚生労働省令第171号。以下「運営基準」という。)に基づき、利用者が就職した場合には、利用者の職場への定着を促進するため、利用者が就職した日から6か月以上、職業生活における相談等の支援を継続しなければならないこととなっている。そして、事業者は、この間の支援については就労移行支援サービス費を算定できないことになっており、他方、平成29年度までは、企業等に雇用されてから当該企業に連続して6か月以上雇用されているなどの者(以下「就労定着者」という。)が所定の割合以上となっているなどの要件を満たした場合には、基本報酬の単位数に所定の単位数を加算することができることになっていた。
上記の加算は、算定基準等に基づき、26年度までは、一般就労(障害福祉サービスでの就労等以外の就労)への定着支援に効果を上げている事業所を評価するなどのために、前年度及び前々年度(20年度以前は前年度)において、就労定着者が当該事業所の利用定員に対して所定の割合以上となっているなどの要件を満たした場合に、就労移行支援体制加算として算定することとなっていた。そして、27年度から29年度までは、障害者が企業等により長く就労を継続できるよう支援するために、前年度において、就労定着者のうち、企業等に雇用されてからの期間が6か月以上12か月未満、12か月以上24か月未満又は24か月以上36か月未満である者の人数がそれぞれ利用定員に対して所定の割合以上となっているなどの要件を満たした場合に、就労定着支援体制加算として算定することとなっていた(以下、就労移行支援体制加算と就労定着支援体制加算を合わせて「定着等支援加算」という。)。
そして、事業者は、定着等支援加算を算定する場合には、都道府県知事等に対して、定着等支援加算の届出書に前年度における就労定着者の就職日、届出時点における就労又は離職の状況等を記載して届け出なければならないこととなっていた。
なお、30年度の障害福祉サービス等の報酬改定により、就労定着支援体制加算は廃止(ただし、30年9月末までは一定の要件を満たした場合には算定可能)されたが、就労定着の実績に応じて評価されていた定着等支援加算の算定の仕組みが基本報酬に組み込まれることになり、基本報酬において、前年度における就労定着者の利用定員に対する割合に応じた区分の単位数が設定されることとなった。そして、事業者は、定着等支援加算の場合と同様に、都道府県知事等に対して、基本報酬の届出書に前年度における就労定着者等を記載して届け出なければならないこととなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
就労移行支援サービス費については、事業所において就労定着の実績に応じて定着等支援加算が算定できることとなっており、30年度に報酬改定が行われた後も、その算定の仕組みは維持されている。
そこで、合規性等の観点から、事業所における利用者に係る訓練等給付費の支払が適正に行われているか、特に、就労定着等の実績に基づいて就労移行支援サービス費が適正に算定されているかなどに着眼して、都道府県、政令指定都市又は中核市(以下「都道府県等」という。)のうち46都道府県等(注1)において、都道府県知事等の指定を受けた370事業者の411事業所に対する25年度から30年度までの訓練等給付費の支払について事業者から提出された定着等支援加算に係る調書等を確認するなどして会計実地検査を行った。そして、定着等支援加算の算定等について疑義が見受けられた場合には、更に都道府県等に事態の詳細な報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、事業者は、定着等支援加算を算定する場合には、都道府県知事等に対して、定着等支援加算の届出書に前年度における就労定着者等を記載して届け出なければならないこととなっていた。
そこで、都道府県等において、届出書に記載された就労定着者等をどのように確認しているかみたところ、前記46都道府県等のうち32都道府県等では、事業者に対して就労定着者等についての記載内容が適切であるかを確認できる根拠資料(以下「根拠資料」という。)の提出を求めておらず、また、根拠資料の提出を求めていた14都道府県等でも提出された根拠資料に基づいて届出書の記載内容を十分に確認していないものが見受けられた。
さらに、事業者に対して、都道府県等を通じて根拠資料の提出を求めて、事業者による単位数の算定が適切に行われているかみたところ、18都道府県等(注2)管内の32事業者の33事業所において、定着等支援加算の届出書に、前年度における就労定着者を記載すべきなのに前々年度の就労定着者を記載していたり、6か月を経過する前に離職していた者を記載していたりするなど、定着等支援加算の算出対象とはならない者を記載していて、適正な就労定着者に基づいて算出される定着等支援加算の単位数を上回る単位数を算定するなどしていた。
上記の33事業所における適正な訓練等給付費の額を算定したところ、25年度から30年度までの間に89市町の支払った訓練等給付費計7,248件、計6544万余円が過大になっていて、これに対する国の負担額3272万余円は負担の必要がなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
神戸市から指定を受けた事業者Aは、事業所に係る平成25、28、30各年度の定着等支援加算の届出書において就労定着者を記載する欄に、6か月を経過する前に離職していた者を誤って記載していたり、企業等に雇用されてから6か月を経過していない者を誤って記載していたりなどしていた。
このため、事業所に対して、6市が支払った訓練等給付費計1,169件、計1428万余円が過大となっていて、これに対する国の負担額714万余円は負担の必要がなかった。
就労移行支援サービス費は、前記のとおり、算定基準留意事項通知によれば、利用者が就職した日の前日まで算定可能であるとされているが、就労継続支援等の他のサービスにおいては、同様の規定はない。
また、事業者は、前記のとおり、運営基準に基づき、職場への定着を促進するため、利用者が就職した日から6か月以上、職業生活における相談等の支援を継続しなければならないこととされており、この間の就労移行支援サービス費は算定できないことになっているが、就労定着の実績に応じた定着等支援加算を算定できる仕組みとなっている。
そして、貴省は、「障害福祉サービスに係るQ&A(指定基準・報酬関係)(VOL.2)」(平成19年厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課事務連絡)において、一般就労に移行した後の通所に伴い提供される日中活動サービスの利用の可否について、一定の要件を満たしている場合においては可能である旨を示しているが、これについて貴省に確認したところ、上記の事務連絡が就労移行支援に適用されることについては想定していないとしている。
そこで、都道府県等を通じて根拠資料の提出を求めて、算定基準留意事項通知に従って就労移行支援サービス費の算定が利用者が就職した日の前日までとなっているかを確認したところ、市町村及び事業者が、算定基準留意事項通知の内容を把握していなかったり、上記の事務連絡における日中活動サービスには、就労移行支援も含まれていて、一定の要件を満たしている場合は算定可能であると誤解していたりしたことなどから、7都道府県(注3)等管内7事業者の7事業所(このうち、3事業者の3事業所が(1)の事態にも該当している。)において、利用者が就職し引き続き就労している間も就労移行支援サービス費を算定していた。
上記の7事業所における適正な訓練等給付費の額を算定したところ、25年度から30年度までに21市区町の支払った訓練等給付費計300件、計1444万余円が過大になっていて、これに対する国の負担額722万余円は負担の必要がなかった。
(是正及び是正改善を必要とする事態)
就労移行支援サービス費の算定に当たり、適正な就労定着の状況に基づいて定着等支援加算が算定されていなかったり、就職した後も引き続き就労移行支援サービス費が算定されていたりしている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、事業者において、定着等支援加算の届出を適正に行うことについての認識が欠けていたり、利用者が就職した後は引き続き就労移行支援サービス費を算定できないことについての理解が十分でなかったりしていることにもよるが、次のことなどによると認められる。
貴省は、就労移行支援について、引き続き就労定着の実績に応じて評価する算定の仕組みを継続することとしている。
ついては、貴省において、36事業者の37事業所に対して都道府県等を通じるなどして速やかに過大に算定されていた訓練等給付費の返還手続を行わせるよう是正の処置を要求するとともに、就労移行支援サービス費が適正に算定されるよう次のとおり是正改善の処置を求める。