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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(4) 認定職業訓練実施付加奨励金の支給について、訓練修了者等が訓練校等に就職した場合に、1週間の実労働時間が20時間に達していない就職は就職率の算定に用いられる就職とならないことを要領等に定めたり、労働局が訓練修了者等の勤務実態等を適切に確認する仕組みを整備したりなどすることにより、支給の趣旨に沿って適切に実施されるよう改善させたもの


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)就職支援法事業費
部局等
厚生労働本省(支給庁)
4労働局(支給決定庁、支給庁)
認定職業訓練実施付加奨励金の概要
雇用保険の受給ができない失業者であって、支援の必要がある者に対して、厚生労働大臣の認定を受けた職業訓練のうち実践訓練を実施し、その後の訓練修了者等の就職率が一定水準以上であるなどの民間訓練機関に対して支給されるもの
検査の対象とした付加奨励金の支給額
9411万余円(平成28、29両年度)
上記のうち支給の趣旨に沿わなかった支給額
849万円

1 求職者支援制度等の概要

(1) 求職者支援制度の概要

厚生労働省は、雇用保険(前掲215ページの「雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの」参照)で行う事業のうちの能力開発事業の一環として、「職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律」(平成23年法律第47号。以下「法」という。)等に基づき、雇用保険の受給ができない失業者であって、支援の必要がある者(以下「特定求職者」という。)の就職を促進し、もって特定求職者の職業及び生活の安定に資することを目的として、平成23年度から求職者支援制度を実施している。

求職者支援制度は、特定求職者に対して、民間訓練機関による厚生労働大臣の認定を受けた職業訓練(以下「認定職業訓練」という。)の実施等の就職に関する支援措置を講ずるものである(以下、認定職業訓練を実施する民間訓練機関を「訓練校」という。)。法等によれば、認定職業訓練は、基礎訓練及び実践訓練から成っていて、このうち実践訓練は、基礎的な技能及び実践的な技能並びにこれらに関する知識を付与するための認定職業訓練とされている。

(2) 認定職業訓練実施付加奨励金の概要

法等によれば、認定職業訓練が円滑かつ効果的に行われることを奨励するために、訓練校に対して、認定職業訓練実施奨励金を支給することとされている。そして、同奨励金のうち認定職業訓練実施付加奨励金(以下「付加奨励金」という。)は、実践訓練の受講を修了した特定求職者及び就職を理由とした中途退校者(以下「訓練修了者等」という。)の就職率(1実践訓練における訓練修了者等のうち就職した者等の占める割合をいう。以下同じ。)が一定水準以上であるなどの支給要件を満たす訓練校に対して支給することとされている。この就職率の算定に用いられる就職(以下「算定就職」という。)は、実践訓練が終了した日から起算して3か月を経過する日までの間に、雇用保険法(昭和49年法律第116号)第4条第1項に規定する一般被保険者となった就職(以下「雇用保険適用就職」という。)等とされており、同法によれば、雇用保険の一般被保険者資格の取得要件は、1週間の所定労働時間が20時間以上であることなどとされている。

また、付加奨励金の支給額は、1実践訓練における訓練修了者等の人数に就職率に応じた単価を乗じた上で、認定職業訓練の開始から終了までの支給単位期間(注1)数を乗ずるなどして算定することとされており、この単価は、就職率が60%以上の場合1支給単位期間当たり2万円、35%以上60%未満の場合同1万円等とされている。そして、就職率が35%未満の場合は付加奨励金が支給されないこととされている。

(注1)
支給単位期間  実践訓練の期間を当該実践訓練の開始日又は各月においてその日に応当する日(応当日がない月の場合は、その月の末日。以下「開始応当日」という。)から、各翌月の開始応当日の前日までの各期間に区分した場合における一の期間

付加奨励金の支給を受けようとする訓練校は、認定職業訓練実施奨励金支給要領(平成23年9月30日付け職発0930第18号、能発0930第10号。以下「要領」という。)等に基づき、実践訓練の終了した日の翌日から4か月を経過する日までの間に、就職率を算定するなどして支給申請書及び就職者名簿等の添付書類を作成し、都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出することとなっている。そして、労働局は、支給申請書等に記載された就職率や雇用保険適用就職とされた者に係る雇用保険の一般被保険者資格の取得状況を確認するなどした上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省又は労働局は、付加奨励金の支給を行うことなどとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

現行の求職者支援制度では、訓練修了者等が訓練校又は訓練校と資本的、経済的、組織的関連性等からみて実質的な一体性が認められる事業主(以下、これらを合わせて「訓練校等」という。)に就職した場合(以下、訓練修了者等が訓練校等に就職することを「訓練校等就職」という。)においても、雇用保険の一般被保険者資格を取得していれば、付加奨励金の支給額の算定に当たって、算定就職の対象に含まれることとなる。

そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、訓練校等就職が算定就職の対象に含まれている付加奨励金の支給は適切に行われているかなどに着眼して、28、29両年度に全国47労働局のうち12労働局(注2)が支給決定を行った44訓練校の95実践訓練に係る付加奨励金の支給額28年度4254万余円、29年度5156万余円、計9411万余円を対象として、12労働局において、当該95実践訓練を修了等して45訓練校等に就職し雇用保険の加入期間が4か月未満となっていた訓練修了者等196名の勤務実態等について、出勤簿等の関係書類等により確認するとともに、厚生労働本省において、付加奨励金の支給要件等についての考え方を聴取するなどして会計実地検査を行った。また、上記の12労働局に対して、訓練修了者等の勤務実態等に関する調書の作成及び提出を求め、その内容を分析するなどの方法により検査した。

(注2)
12労働局  北海道、福島、東京、神奈川、新潟、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡、沖縄各労働局

(検査の結果)

上記の訓練修了者等196名について、訓練校等は1週間の所定労働時間が20時間以上であるとしていたが、実際の労働時間を調査したところ、6労働局(注3)管内の15訓練校の32実践訓練(これらに係る28、29両年度の付加奨励金の支給額計4365万余円)を修了して16訓練校等に就職した61名については、就職日から離職日までの全期間において1週間当たりの実労働時間(以下「1週間の実労働時間」という。)が20時間に達していなかった。

(注3)
6労働局  北海道、東京、神奈川、大阪、兵庫、福岡各労働局

そこで、上記の61名について、上記の勤務実態となっていた理由を6労働局を通じて訓練校等及び訓練修了者等から聴取するなどしたところ、訓練修了者等の欠勤等によるものと認められた26名を除く、4労働局(注4)管内の7訓練校の18実践訓練を修了して8訓練校等に就職した35名については、就職日から離職日までの全期間において勤務予定表における労働時間が週20時間未満となっていてその予定どおり勤務していたり、訓練修了者等から1週間の実労働時間が20時間未満となるよう希望する旨の申出を受け入れて勤務時間を減らしたりするなどしていて、1週間の実労働時間が20時間に達していなかった。したがって、8訓練校等は、雇入れ当初から1週間の実労働時間が20時間未満の就職となることを認識していたものと認められた。

(注4)
4労働局  東京、神奈川、大阪、兵庫各労働局

上記の事態について、厚生労働本省は、雇用契約書等により、1週間の所定労働時間が20時間以上であるなどして雇用保険適用就職と認められるものであったとしても、訓練校が訓練校等就職のうち1週間の実労働時間が20時間に達していない就職を算定就職の対象に含めることについては、これにより就職率が上昇し、就職支援の良否にかかわらずより高額な付加奨励金の受給要件を満たすことにつながることから、高い就職率を達成するためにより質の高い就職支援を行った訓練校に対してインセンティブを付与するという付加奨励金支給の趣旨に沿わないとしている。

そこで、前記の35名を算定就職の対象から除くと就職率が下がり、その結果、27名に係る4労働局管内の5訓練校の12実践訓練において、付加奨励金の支給額算定の基礎となる就職率に応じた単価が下がることから、これらの実践訓練に係る付加奨励金の額は、28、29両年度計737万余円となり、厚生労働本省及び4労働局がこれらの訓練校に対して支給した付加奨励金の額計1587万余円との間に849万余円の開差額が生じていた。

このように、1週間の実労働時間が20時間に達していない就職となっていて付加奨励金支給の趣旨に沿うものではない訓練校等就職が算定就職の対象に含まれていて、これにより就職率が上昇し、訓練校がより高額な付加奨励金の支給を受けていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、付加奨励金の支給に当たり、訓練校等就職の場合に、厚生労働本省において、1週間の実労働時間が20時間に達していない就職は算定就職の対象とならないことを要領等に定めていなかったこと、労働局が訓練修了者等の勤務実態等を把握して算定就職の対象となるかを確認する仕組みを整備していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働本省は、付加奨励金の支給がその趣旨に沿った適切なものとなるよう、31年3月に要領等を改正して、同年10月1日に開講する実践訓練から、訓練校等就職のうち1週間の実労働時間が20時間に達していない就職は、原則として、付加奨励金における算定就職の対象とならないことを定めるとともに、訓練校等就職の場合、出勤簿、賃金台帳等の雇用した者の勤務実態が分かる書類等を訓練校から提出させるなどして、労働局が訓練校等就職した訓練修了者等の勤務実態等を把握して算定就職の対象となるかを適切に確認する仕組みを整備した。

そして、これらについて、労働局に対しては31年3月に周知し、訓練校に対しては、法により職業訓練の認定に関する事務を行うこととされている独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構を通じて、実践訓練の認定を行う際に、令和元年7月以降、順次周知するなどの処置を講じた。