北海道開発局稚内開発建設部(以下「開発建設部」という。)は、平成27、28両年度に、北海道宗谷郡猿払村ポロ沼地区において実施する国営総合農地防災事業として、「ポロ沼地区第11号排水路上流工区工事」に係る請負契約を、一般競争契約により、株式会社共成建設との間で契約額169,992,000円で締結している。
本件工事は、地区内の排水路の整備を行うとともに、農業用車両が排水路を横断できるようにするために、函渠(かんきょ)(内空断面の幅2.6m、高さ2.0m、延長5.7m)と道路盛土の土留め擁壁(以下「翼壁」という。)とが一体化した構造物を築造する函渠工等を施工するなどしたものである。そして、開発建設部は、施工箇所の基礎地盤が泥炭等の軟弱地盤であることから、函渠の基礎を杭基礎にすることとして、基礎杭(外径300mm、杭長30mのPHC杭4本)を施工していた。
開発建設部は、本件工事の設計を「土地改良事業計画設計基準 設計「水路工」」(農林水産省農村振興局監修)、「杭基礎設計便覧(平成18年度改訂版)」(社団法人日本道路協会編。以下、これらを合わせて「基準」という。)等に基づいて行っている。
基準等によれば、函渠の設計に当たっては、自重、活荷重(注1)、積雪荷重等の函渠に作用する荷重を適正に組み合わせて構造計算等を行うこととされている。また、杭基礎については、杭には上部構造等から各々の杭頭部に伝達される鉛直荷重(注2)等が作用し、これらの外力に対して所要の安全性が確保できるように設計する必要があることとされており、杭基礎の設計においては、杭1本当たりの杭頭部に作用する鉛直荷重が杭1本当たりの許容鉛直支持力(注2)以下であることを確認すること(以下「許容鉛直支持力との照査」という。)とされている。
開発建設部は、本件工事の設計に当たり、許容鉛直支持力との照査を行い、杭1本当たりの鉛直荷重を347.0kNと算定し、これが杭1本当たりの許容鉛直支持力384.3kNを下回ることから設計計算上安全であるとして、これにより施工していた(参考図1参照)。
本院は、合規性等の観点から、函渠工の設計が適切に行われているかなどに着眼して、開発建設部において、本件工事を対象に、設計図書、設計計算書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
開発建設部は、杭基礎に作用する荷重の算定に当たり、積雪(積雪深1.6m)による積雪荷重が作用する場合に最大の鉛直荷重が生ずると想定していた。そして、杭基礎の設計に当たり、函渠、翼壁等の自重による荷重等に積雪荷重を組み合わせた総荷重を、函渠の左岸側と右岸側に2本ずつ対称に配置した計4本の基礎杭に均等に分担させることとしていた。
しかし、翼壁の構造は左岸側と右岸側で異なっており、その重量は左岸側(199.5kN)が右岸側(131.6kN)と比べて著しく大きいため、基礎杭に作用する荷重は左岸側が右岸側より大きいものとなっていた。また、開発建設部は、積雪荷重以外の農業用車両等の通行による活荷重等の考慮すべき荷重の組合せについて許容鉛直支持力との照査を行うべきであったのに、これを行っていなかった。
そこで、翼壁の左右の重量差を考慮した上で、改めて考慮すべき荷重の組合せについて許容鉛直支持力との照査を行ったところ、活荷重が作用した場合の左岸側の基礎杭1本当たりに作用する鉛直荷重は505.1kNとなり、許容鉛直支持力384.3kNを大幅に上回っていて、設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった(参考図2参照)。
したがって、本件函渠は、杭基礎の設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっていて、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額11,022,308円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、開発建設部において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことによると認められる。