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  • 平成30年度|
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  • (5) 工事の設計が適切でなかったもの

導水路の設計が適切でなかったもの[東北農政局](165)


(1件 不当と認める国庫補助金 20,039,075円)

 
部局等
補助事業者等 間接補助事業者等 補助事業等
年度
事業費
左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費 不当と認める国庫補助金等相当額
            千円 千円 千円 千円
(165)
東北農政局
福島県
(事業主体)
農業用施設災害復旧 25~27 268,750 268,482 20,059 20,039

この補助事業は、福島県が、相馬市八沢浦地区において、平成23年3月の東日本大震災により被災した排水機場の機能回復を図るために、現場打ち鉄筋コンクリート構造のボックスカルバート(延長8.9m、高さ5.5m、外幅8.6m(内空断面の高さ4.2m、幅2.1m及び4.4mで2連のもの)。以下「本件カルバート」という。)等により、排水路と排水機場を接続する導水路を築造するなどしたものである。

同県は、本件工事の設計を「土地改良事業計画設計基準 設計「水路工」」(農林水産省農村振興局監修。以下「基準」という。)等に基づいて行っている。

基準等によれば、鉄筋コンクリート構造物の設計においては、荷重等により鉄筋に生ずる引張応力度(注1)が、許容引張応力度(注1)以下であることなどを確かめなければならないとされている。また、自動車による活荷重(注2)の算定に当たっては、ボックスカルバートの頂版の土被り厚が4.0m未満である場合には、自動車の後輪荷重を頂版の支間中央に載荷するなどして算定することとされており、土被り厚が4.0m以上である場合には、ボックスカルバートの頂版に一様に10kN/m2の荷重を載荷することとして算定することとされている。

同県は、本件カルバートの設計に当たり、基準等に基づいて応力計算を行い、自動車による活荷重を考慮するなどして、頂版下面側に径16mmの鉄筋を25cm間隔で設置すれば、主鉄筋に生ずる引張応力度99.48N/mm2が許容引張応力度157N/mm2を下回ることなどから、応力計算上安全であるとして、これにより施工していた。

しかし、同県は、自動車による活荷重の算定に当たり、本件カルバートの頂版には土被りがないのに、基準等の適用を誤って、本件カルバートの頂版に、土被り厚が4.0m以上の場合の荷重である10kN/m2を一様に載荷することとしていた(参考図1参照)。また、基準においては、鉄筋コンクリート構造物の頂版に自動車による活荷重が直接載荷する場合の許容引張応力度は、157N/mm2よりも低い137N/mm2とされているのに、これを用いて応力計算を行っていなかった。

そこで、基準等に定められた前記の土被り厚が4.0m未満の場合の活荷重の算定方法及び適正な許容引張応力度により改めて応力計算を行ったところ、算定される活荷重が472.75kN/m2となることから頂版下面側の主鉄筋に生ずる引張応力度は249.71N/mm2となり、許容引張応力度137N/mm2を大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった(参考図2参照)。

したがって、本件カルバート等(工事費相当額20,059,135円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額20,039,075円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(注1)
引張応力度・許容引張応力度  「引張応力度」とは、材に外から引張力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。
(注2)
活荷重  自動車等が構造物上を移動する際に作用する荷重

(参考図1)

当局の応力計算によるボックスカルバートの概念図

当局の応力計算によるボックスカルバートの概念図 画像

(参考図2)

適切な応力計算によるボックスカルバートの概念図
(支間が長い方(内空断面の幅が4.4mの方)が頂版下面側の主鉄筋に生ずる引張応力度が最大となる。)

適切な応力計算によるボックスカルバートの概念図 画像