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  • 平成30年度|
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  • (7) 工事の設計及び施工が適切でなかったもの

揚水機場の設計及び施工が適切でなかったもの[東北農政局](172)


(1件 不当と認める国庫補助金 34,080,156円)

 
部局等
補助事業者等 間接補助事業者等 補助事業等
年度
事業費
左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費 不当と認める国庫補助金等相当額
            千円 千円 千円 千円
(172)
東北農政局
山形県
(事業主体)
農業競争力強化基盤整備 27、28 68,885 37,887 61,963 34,080

この補助事業は、山形県が、最上郡鮭川村宇津森地区内において、安定的な農業用水の供給の確保を目的として、既設の揚水機場を更新するに当たり、ポンプ設備等を設置するための鉄筋コンクリート造の建築物(地上1階及び地下1階建て、延べ床面積158.9m2。以下「揚水機場建屋」という。)の建築工事等を実施したものである。

同県は、揚水機場建屋の設計を、建築基準法(昭和25年法律第201号)、「鉄筋コンクリート造のひび割れ対策(設計・施工)指針・同解説」(一般社団法人日本建築学会編。以下「設計指針」という。)等に、施工を「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」(平成25年度版。国土交通省大臣官房官庁営繕部監修。以下「標準仕様書」という。)等に基づいてそれぞれ行っている。

鉄筋コンクリート構造物は、外気温等による温度変化、乾燥収縮等によりひび割れが発生することがあり、ひび割れの程度によっては、雨水等の浸透により鉄筋腐食等の進行を速め、構造物の耐久性の低下を加速したり、強度の低下が生じたりする可能性がある。このため、設計指針によれば、ひび割れ幅が0.3mmを超えないように制限することが耐久性についての目標とされており、設計に当たっては、ひび割れを計画的に発生させるために誘発目地を活用するなど積極的な対策を講ずることなどとされているが、特に対策を講ずる場合以外は、周囲を柱・梁(はり)・床組・誘発目地等で囲まれた1枚の壁の面積を25m2以下とし、かつ、その辺長比(注)を1.5以下とすることが望ましいとされている。また、鉄筋コンクリート構造物の耐久性、ひび割れ抵抗性等の所要の品質を確保するために、標準仕様書によれば、施工に当たっては、寒冷期においてはコンクリートを寒気から保護するなど、打込み後5日間以上はコンクリート温度、湿潤等を適切に管理すること(以下「養生」という。)などとされている。

しかし、同県は、揚水機場建屋の設計に当たり、1階部分の8枚の壁のうち7枚の各面積(26.3m2~42.2m2)が25m2を超えていたのに、誤って辺長比が1.5を下回っていれば問題ないと考えて、誘発目地を設けるなどのひび割れ対策を講じていなかった。また、揚水機場建屋の施工に当たり、揚水機場建屋の1階躯(く)体等のコンクリートの打込みを平成27年12月28日に行うことから、コンクリート打込み後5日間は、建物内壁及び外壁が接する空間をヒーター等で所定の温度に保つことなどにより、養生を行うとしていたにもかかわらず、コンクリートの打込み後3日目以降は、養生が行われていなかった。現に、揚水機場建屋の内壁、外壁等には、29年4月時点で延長103.1m(最大幅0.75mm。うち0.3mm以上の延長15.1m)のひび割れが生じていた。そして、同県は、本件構造物の耐久性等の影響を考慮してこれらの補修を行ったものの、30年4月の会計実地検査時点において、補修を行った箇所とは別に延長146.2m(最大幅0.55mm。うち0.3mm以上の延長31.5m)にわたって新たなひび割れが生じていた。そして、一部についてコアを採取してひび割れ状況を確認したところ、壁を貫通していた。

したがって、揚水機場建屋の建築工事(工事費相当額61,963,920円)は、その設計及び施工が適切でなかったため、鉄筋コンクリート構造物の耐久性等を確保できていない状態となっていて、工事の目的を達しておらず、これに係る国庫補助金相当額計34,080,156円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったこと、コンクリートの施工が適切でなかったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(注)
辺長比  壁の長さを壁の高さで除したもの