【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
多面的機能支払交付金事業における長寿命化交付金交付額の算定について
(令和元年10月29日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴省は、「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」(平成26年法律第78号)等に基づき、農業・農村の有する国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成等の多面的機能の維持・発揮を図るための地域の共同活動を支援するために、多面的機能支払交付金事業(以下「交付金事業」という。)を平成26年度から国庫補助事業により実施している。
多面的機能支払交付金(以下「交付金」という。)は、上記の共同活動に取り組む農業者、地域住民、農業者団体等から構成される組織(以下「対象組織」という。)に対して、市町村が交付金事業の実施に要する費用の一部を補助するものであり、貴省は、当該補助に要する費用の2分の1を上限として、都道府県を通じて国庫交付金を交付している。
多面的機能支払交付金実施要綱(平成26年25農振第2254号農林水産事務次官依命通知。以下「要綱」という。)等によれば、交付金事業は、対象組織が行う老朽化が進む農業用用排水路等の地域資源の長寿命化を図るための補修・更新等の活動(以下「資源向上活動(長寿命化)」という。)等とされている。
また、対象組織は、交付金事業の実施に当たって、資源向上活動(長寿命化)等に係る目標、事業の内容、事業実施期間(原則として5年)等を定めた事業計画書を市町村長に提出し、市町村長から当該事業計画の認定を受けることとされている。そして、対象組織は、認定された内容について、活動の追加、中止、廃止等の変更が生じた場合は、改めて市町村長から事業計画の変更に係る認定(以下「変更認定」という。)を受けることとされている。
資源向上活動(長寿命化)は、農業用用排水路、農道等の施設の補修・更新等を行うことにより長寿命化を図るものであって、事業計画書に定める事業実施期間内において計画的に実施するものである。
資源向上活動(長寿命化)に対して交付される交付金(以下「長寿命化交付金」という。)の交付上限額(以下「交付上限額」という。)は、対象組織が、資源向上活動(長寿命化)の効果が発揮される農用地として事業計画書に位置付けた農用地(以下「対象農用地」という。)の面積に対象農用地面積10a当たりの交付単価を乗じて得た金額に相当する金額(以下「面積算定額」という。)となっている。そして、上記の交付単価は、田、畑等の地目等に応じて定められている(以下、これを「所定の単価」という。)。
ただし、28年度に要綱等が改正され、対象農用地面積を200ha以上有するなどの要件に該当せず、かつ、施設の長寿命化のための補修、更新等の活動を構成員が自ら実施(以下「直営施工」という。)しない対象組織に対して交付される長寿命化交付金の交付上限額については、面積算定額の算定に当たって用いる交付単価が所定の単価ではなく、所定の単価に6分の5を乗じて得た単価(以下「減額単価」という。)を用いて算定することとされた。また、交付上限額は、上記に加えて所定の単価又は減額単価により算定した面積算定額と、対象組織が地域資源の保全管理を行う区域(以下「保全管理区域」という。)内の農業集落数に200万円を乗じて得た金額(以下「集落数算定額」という。)とのいずれか低い金額とされた(以下、上記の算定方法による交付上限額を「改正後の交付上限額」という。)。
上記の改正の際、要綱の附則において、27年度までに事業計画の認定を受けた対象組織にあっては、当該事業計画に定める活動期間内における交付金の算定については、事業計画認定時の算定方法及び交付単価によることとされ、改正後の交付上限額の適用を受けないこととされた。このため、改正後の交付上限額は、28年度以降に事業計画の認定を受けたものから適用されることとなる。そして、事業計画の認定は、前記のとおり、対象組織が交付金事業を実施しようとするときに受ける事業計画の認定と、事業実施期間内における変更認定があるが、要綱の附則においては、特に両者を区分しない記載となっている(以下、改正後の交付上限額の適用を受ける対象組織を「適用対象組織」という。)。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、長寿命化交付金交付額は、要綱等に基づき適正に算定されているかに着眼して検査した。
検査に当たっては、28年度から30年度までの間に長寿命化交付金の交付を受けた25道府県(注)に所在する対象組織のうち、対象農用地面積を200ha以上有するなどの要件に該当せず、28年度以降に事業計画の認定を受けた計3,896対象組織(28年度から30年度までの長寿命化交付金交付額計109億6847万余円、国庫交付金計54億7979万余円)を対象として、事業計画書、実施状況報告書等の書類により会計実地検査を行うとともに、調書の提出を受けてその内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
上記の3,896対象組織について、長寿命化交付金交付額の算定方法、直営施工の実施状況等について検査したところ、11府県(24市町村)に所在する51対象組織は、長寿命化交付金交付額を、所定の単価により算定した面積算定額に基づいて計2億1390万余円(国庫交付金計1億0695万余円)と算定していた。しかし、上記の51対象組織は、28年度以降に変更認定を受けていることなどから適用対象組織に該当するため、正しくは改正後の交付上限額に基づいて集落数算定額を考慮するなどして、長寿命化交付金交付額を算定する必要があった。
そこで、51対象組織について、集落数算定額を算定するとともに直営施工の実施の有無を確認するなどして交付上限額を算定したところ、11府県(19市町村)に所在する36対象組織の集落数算定額は、直営施工の実施の有無にかかわらず面積算定額を下回り、交付上限額は集落数算定額となるため、表のとおり、長寿命化交付金が計4918万余円(国庫交付金相当額計2459万余円)過大に交付されていた。
また、2県(6市町)に所在する15対象組織は直営施工を実施していなかったことから、面積算定額は減額単価により算定することとなる。そして、減額単価による面積算定額が集落数算定額を下回り、交付上限額は面積算定額となるため、表のとおり、長寿命化交付金が計436万余円(国庫交付金相当額計218万余円)過大に交付されていた。
このように、前記の11府県(24市町村)に所在する計51対象組織において長寿命化交付金が合計5355万余円(国庫交付金相当額計2677万余円)過大に交付されていた。
表 長寿命化交付金が過大に交付されていたもの(平成28年度~30年度)
府県名 |
市町村数 |
対象組織数 | 過大となる長寿命化交付金交付額(千円) | 左のうち国庫交付金相当額(千円) |
---|---|---|---|---|
集落数算定額が交付上限額となるのに、これによる長寿命化交付金交付額の算定をしていないもの (36対象組織) |
||||
新潟県 |
2 | 2 | 1,226 | 613 |
富山県 |
1 | 2 | 2,528 | 1,264 |
石川県 |
1 | 1 | 63 | 31 |
山梨県 |
1 | 1 | 622 | 311 |
岐阜県 |
2 | 3 | 1,274 | 637 |
滋賀県 |
6 | 13 | 35,738 | 17,869 |
京都府 |
2 | 8 | 4,115 | 2,057 |
兵庫県 |
1 | 1 | 222 | 111 |
和歌山県 | 1 | 1 | 298 | 149 |
福岡県 |
1 | 1 | 448 | 224 |
鹿児島県 | 1 | 3 | 2,645 | 1,322 |
小計 |
19 | 36 | 49,184 | 24,592 |
直営施工を行っていないのに減額単価により長寿命化交付金交付額の算定をしていないもの (15対象組織) |
||||
富山県 |
3 | 4 | 1,322 | 661 |
和歌山県 | 3 | 11 | 3,045 | 1,522 |
小計 |
6 | 15 | 4,367 | 2,183 |
計 | 24 | 51 | 53,552 | 26,776 |
そして、上記の51対象組織に係る事業計画の認定の時期等をみると、1対象組織を除いて、28年度以降に変更認定を受けていたものであった。
これらの交付金が過大となっていた理由を市町村及び対象組織に確認したところ、要綱の附則において改正後の交付上限額が適用されないこととされた、27年度までに事業計画の認定を受けた対象組織には、その後に変更認定を受けた場合も含まれると考え、28年度以降に、新たに事業計画の認定を受けて交付金事業を実施する対象組織のみが改正後の交付上限額を適用されると誤って解釈したことなどによるものであった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
滋賀県甲賀市に所在する対象組織Aは、平成28年度から30年度までの間に長寿命化交付金計1047万余円(28年度378万余円、29年度337万余円、30年度331万余円。国庫交付金計523万余円)の交付を受けている。
対象組織Aは、資源向上活動(長寿命化)に係る事業実施期間の終了年度を28年度から30年度に変更する事業計画の変更を28年5月に甲賀市長に申請し、同年6月に変更認定を受けていることから適用対象組織に該当している。そして、保全管理区域内の農業集落数が1集落である対象組織Aの交付上限額は、集落数算定額200万円と面積算定額のいずれか低い金額となる。
しかし、同市及び対象組織Aは、集落数算定額が交付上限額となるのに、28年度以降に、新たに事業計画の認定を受けて交付金事業を実施する対象組織のみが、改正後の交付上限額を適用されると認識していたため、所定の単価により算定した面積算定額に基づき長寿命化交付金交付額を算定していた。このため、28年度から30年度までの各年度において、長寿命化交付金計447万余円(28年度178万余円、29年度137万余円、30年度131万余円。国庫交付金相当額計223万余円)が過大に交付されていた。
(是正及び是正改善を必要とする事態)
適用対象組織において、長寿命化交付金交付額が改正後の交付上限額に基づいて算定されていない事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、府県、市町村及び対象組織において、要綱等の改正内容等に対する理解が十分でなく、また、このため、市町村による長寿命化交付金交付額の算定に係る審査が十分でなかったことなどにもよるが、貴省において、28年度の要綱等の改正に当たり、改正後の交付上限額の適用対象に28年度以降に変更認定を受けた場合等も含まれることを必ずしも明示しておらず、適用対象に係る改正内容についての周知が十分でなかったことなどによると認められる。
貴省は、農業・農村の有する国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成等の多面的機能の維持・発揮等を図るために、資源向上活動(長寿命化)等の交付金事業を今後も引き続き実施していくこととしている。
ついては、貴省において、長寿命化交付金が過大に交付されていた適用対象組織に対して、交付金事業の継続的な実施に留意しつつ、府県を通じて過大に交付された国庫交付金の返還等を求める措置を講ずるよう是正の処置を要求するとともに、長寿命化交付金交付額の算定が適切に行われるように、都道府県、市町村及び対象組織に対して、改正後の交付上限額の適用対象に28年度以降に変更認定を受けた場合等も含まれることを明示するなどして、28年度の要綱等の改正内容の趣旨を周知徹底した上で、市町村に対して、長寿命化交付金交付額の算定に係る審査を的確に行うことを都道府県を通じて指導するよう是正改善の処置を求める。