農林水産省は、統計法(平成19年法律第53号)に基づき、毎年農林水産業に関する各種の統計調査(以下「農林水産統計調査」という。)を実施しており、その調査結果は政策目標の設定や評価等に活用されている。
農林水産統計調査は、選定された調査対象である経営体等に対して郵送や統計調査員を通じて農林水産統計調査に係る調査票(以下「調査票」という。)を配布して回収するなどの方法で収集したデータについて、7農政局(注)、北海道農政事務所、沖縄総合事務局(以下、これらを合わせて「農政局等」という。)及び農政局等管内の各都道府県等をそれぞれ所管する拠点等(沖縄総合事務局の各農林水産センターを含む。以下同じ。)が記載内容の審査及び入力を行い、農林水産本省が集計及び分析を行うなどの手順により行われている。
農林水産省は、上記調査対象の選定、データの収集・分析等の作業を実施するに当たり、農林水産統計調査の正確性、効率性を高めるなどのために、農林水産統計システムを運用している。そして、農林水産統計システムへの調査票のデータ入力は、農林水産統計の業務を担当する職員(以下「担当職員」という。)が職員用のパソコンを用いて農林水産統計システムへ手入力する方法に加え、迅速な入力処理や審査精度の確保の観点から、スキャナや制御用端末等(以下、これらを合わせて「OCR機器」という。)を使用してOCR機器に対応した調査票を機械的に読み取り、読み取った画像データを農林水産統計システム内で処理する方法等により行われている。
農林水産本省は、OCR機器等を調達し、その保守等を行うために、平成28年5月13日に、一般競争契約により、東芝ソリューション株式会社(29年7月以降は東芝デジタルソリューションズ株式会社)及び株式会社JECCとの三者間で、29年1月4日から33年3月31日までの間を賃貸借期間とする「農林水産統計システムの周辺機器賃貸借業務」(以下「賃貸借業務」という。)を契約額2億6352万円で締結している。そして、28年8月1日に、賃貸借期間を29年1月30日から33年3月31日までの間とする変更契約を契約額2億6141万余円で締結して、28年度から30年度までに計1億3505万余円を支払っている。
上記の契約により農林水産本省が調達したOCR機器の台数は88台であり、その設置箇所は、担当職員等からの問合せや動作テスト用として農林水産本省に2台、データ入力用として9農政局等及び60拠点等(29年1月時点)の計69か所に86台となっている。また、OCR機器の保守については、上記契約の仕様書により、不具合時の対応のほか年2回定期点検を行うこととされており、保守業者は定期点検時の作業報告書に点検前後のスキャナの読み取り枚数を記載することになっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性、有効性等の観点から、OCR機器は農林水産統計システムへの調査票のデータ入力に当たって有効に活用されているかなどに着眼し、賃貸借業務を対象として、農林水産本省において、契約書、定期点検の作業報告書等を確認するとともに、9農政局等においてOCR機器の利用状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
OCR機器88台のうち農林水産本省に設置された動作テスト用等の2台を除いた86台(28年度から30年度までの賃貸借業務に係る支払額相当額6171万余円)について、29年1月から31年1月までの2年間における調査票等の読み取り枚数を定期点検時の作業報告書により確認したところ、31年1月までの累計読み取り枚数は計157,770枚となっており、このうち定期点検に用いた読み取り枚数計2,144枚を除いたデータ入力に用いた読み取り枚数(以下「データ入力枚数」という。)は計155,626枚となっていて、上記の期間における1年当たりの平均データ入力枚数は77,813枚となっていた。
一方、29年度に実施した農林水産統計調査のうち、農政局等及び拠点等においてOCR機器によるデータ入力が可能な12統計の調査票について、統計ごとの1件当たりの調査票の枚数に有効回収数を乗ずるなどして、各農政局等及び各拠点等においてOCR機器によるデータ入力が可能であった調査票の枚数(以下「データ入力可能枚数」という。)を試算すると184,504枚となる。
そして、上記の試算により得られたデータ入力可能枚数184,504枚に対する実績値である前記1年当たりの平均データ入力枚数77,813枚の割合により、OCR機器によるデータ入力に係る利用率(以下「利用率」という。)を算定すると、約42%にとどまっていた。
そこで、前記の86台について、1台ごとに、それぞれが設置されている農政局等又は拠点等の農林水産統計調査に係るデータ入力可能枚数を基に利用率をみると、表のとおりとなっていて、50%未満と低調になっているものが51台見受けられた。そして、そのうち23台は利用率が10%未満となっていて利用が極めて低調となっており、中には、当初から全く利用されていなかったものも見受けられた。また、拠点等の廃止により、その後全く利用されなくなり、単に保管されたままとなっているなどしているものが見受けられた。
表 農政局等及び拠点等ごとのOCR機器の利用率(平成29年1月から31年1月まで)
利用率 | 10%未満 | 10%以上 30%未満 |
30%以上 50%未満 |
50%以上 80%未満 |
80%以上 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|
OCR機器 | 23 | 9 | 19 | 27 | 8 | 86 |
51 |
しかし、前記12統計の調査票はOCR機器の読み取りが容易な様式となっており、入力データは専ら数値であるなど、基本的にOCR機器によるデータ入力が想定されていること、また、OCR機器の処理能力(両面カラー20枚/分)には十分な余裕があることを踏まえると、OCR機器が十分に活用されているとは認められない状況となっていた。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
北海道農政事務所釧路地域拠点に設置されているOCR機器について、同拠点の平成29年度の農林水産統計調査に係るデータ入力可能枚数は878枚であった。一方、定期点検時の作業報告書で確認した同年1月から31年1月までの間の読み取り枚数は25枚(1年当たりの平均:12枚)であったが、そのうち1枚は導入時のテストに利用されたと推定され、残りの24枚は定期点検時のテストによるものであることから、当該OCR機器のデータ入力枚数は0枚となり、農林水産統計調査に係るデータ入力には全く利用されていない状況となっていた。
利用率が低調となっている理由について、農政局等及び拠点等の担当職員に確認したところ、職員用のパソコンを用いて農林水産統計システムに直接入力した方が効率的であるといった認識を持っていたり、OCR機器を利用した調査票のデータの入力方法を十分に習得していないことから、OCR機器の利用は煩さであると考えていたりしたためであるなどとしていた。
農林水産本省は、調査票のデータ入力を効率的に実施するためにOCR機器を導入しているにもかかわらず、OCR機器を設置した際や設置後に、農政局等及び拠点等に対して、OCR機器を利用して調査票のデータ入力を効率的に行う必要があることについて説明していなかった。また、拠点等の廃止等により全く利用されていないOCR機器の有効活用を図るための対策も講じていなかった。
このように、OCR機器はOCR機器に対応した調査票のデータ入力に利用することが想定されているにもかかわらず、OCR機器51台(28年度から30年度までの賃貸借業務に係る支払額相当額3659万余円)は、利用率が50%未満と低調となっていて、農林水産統計調査のデータ入力に十分に活用されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、次のような処置を講じた。
ア 令和元年8月に農政局等を対象に会議を開催して、担当職員にOCR機器を活用することにより調査票のデータ入力を効率的に行うよう指導し、OCR機器の操作方法等について説明するとともに、同年9月までに農政局等から拠点等の担当職員に対して同様に指導及び説明させた。
イ 毎年、OCR機器の利用状況を調査して、十分に活用されていない場合には、更に指導を行うこととするとともに、2年度に実施する予定の農林水産統計システムの更改の際に、同一の建物に2台設置されていた拠点ではOCR機器を1台とする見直しを行った。