水産庁は、水産業の再生・漁村の活性化を図るために、漁業者等が行う水産業等の多面的機能の効果的・効率的な発揮に資する地域の活動を支援する水産多面的機能発揮対策事業(以下「対策事業」という。)を実施しており、効果的な対策事業の推進が可能な地域単位で設置された地域協議会(以下「協議会」という。)を通じて、活動に取り組む組織(以下「活動組織」という。)に対して水産多面的機能発揮対策交付金(以下「交付金」という。)を交付している。
水産多面的機能発揮対策交付金実施要領(平成25年25水港第124号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要領」という。)等によれば、活動組織が対策事業の対象となる活動(以下「対策活動」という。)を実施しようとするときは、活動組織の代表者は対策活動を行う場所の市町村長との間で協定(以下「協定」という。)を締結するとともに、協定書に添付された活動計画について協議会の承認を得ることとされている。また、対策活動として実施できる活動(以下「活動項目」という。)として、「藻場の保全」、「国境・水域の監視」等の13活動項目が設定されており、このうち「藻場の保全」等の7活動項目(注)(以下「藻場の保全等7活動項目」という。)及び「国境・水域の監視」の1活動項目の計8活動項目(以下、これらを「8活動項目」という。)については、活動計画において、対策活動を行う範囲等を設定した区域(以下「協定区域」という。)及びその面積(以下「協定面積」という。)を定めることとされている。
実施要領等によれば、活動組織は、毎年度、対策活動の成果目標の達成状況について自ら評価(以下「自己評価」という。)を行って自己評価表を作成して協議会に報告し、当該報告を受けた協議会は、その内容について評価を行って取りまとめの上、水産庁長官に報告することとされている。そして、水産庁長官及び協議会は、成果目標が達成されていないと判断される場合には、引き続き、目標達成に向けて取り組むよう指導することとされている。また、水産庁長官は、対策事業全体の評価結果等を公表するとともに、翌年度以降の交付金の交付に当たっては、当該評価結果を考慮することとされている。
自己評価における成果目標に係る指標(以下「成果指標」という。)は活動項目ごとに定められており、藻場の保全等7活動項目については「対象水域における生物量の増加」とされていて、活動項目が、例えば「藻場の保全」の場合は「海藻・海草の被度・面積」と対象生物や調査項目についても具体的に定められている。そして、活動組織は、毎年度、成果指標についてのモニタリングを必ず行うこととされていて、モニタリングの実施に当たっては、協定面積全体の状況が把握できるようにモニタリングを実施する場所(以下「定点」という。)を設定し、毎年度同じ場所で同じ時期に実施することとされている。そして、活動組織は、モニタリングにより把握した情報(以下「モニタリング結果」という。)を基に自己評価を行い、各年度の対策活動の成果を客観的に評価することとされており、水産庁は、モニタリングは対策事業において重要な役割を担うものであるとしている。
実施要領等によれば、対策事業の交付対象となる経費は、対策活動を行う者に対する日当、漁船を使用して活動する場合の用船料、資材費、委託費等とされており、活動組織は、毎年度、対策活動の実施状況を取りまとめた実施状況報告書を作成して、活動状況を示す写真等の添付書類とともに市町村及び協議会に提出することとされている。市町村及び協議会は、活動計画に定められた対策活動の実施状況等について、実施状況報告書等により確認するほか、必要に応じて現地において確認することとされている(以下、活動組織、市町村及び協議会を「活動組織等」という。)。そして、協議会は、実施状況報告書を取りまとめて、水産庁長官に提出することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、対策活動は適切に実施されているか、自己評価及び自己評価の基となるモニタリングは適切に行われているかなどに着眼して、25協議会の430活動組織が平成28、29両年度に実施した8活動項目に係る事業(事業費計31億7368万余円、交付額計23億2219万余円、以下、交付額は28、29両年度の計)を対象として検査を実施した。
検査に当たっては、水産庁、25協議会及び370活動組織において、活動計画、自己評価表等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、430活動組織から資料の提出を受けてその内容を分析するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
活動組織は、活動計画に基づいて、協定区域において対策活動を実施することになっており、実施要領等によれば、活動組織は、実施状況報告書等を取りまとめるために、活動状況や活動した者を記録した写真等を保存することとされているものの、実際に活動した区域等を記録したり、それを把握するための根拠資料を保存したりすることにはなっていなかった。そこで、前記の430活動組織について、対策活動として実施したとしている活動が協定区域内で実施されたものか確認したところ、17協議会の209活動組織(交付額計11億9220万余円)において、実際に活動した区域等の記録やそれを把握するための根拠資料の保存が十分でなく、市町村及び協議会において、対策活動が協定区域で適切に実施されたか確認できなかった事態が見受けられた。また、実際に活動した区域等の根拠資料を自主的に保存していた活動組織において、実際の活動状況を確認したところ、14協議会の60活動組織(交付額計3億1701万余円)において、協定区域以外の区域でも活動を行っていて、対策事業の対象とならない活動に係る経費が対策事業の交付対象に含まれていた事態が見受けられた。
前記の430活動組織のうち、モニタリングが必要な藻場の保全等7活動項目を実施している379活動組織(交付額計20億4142万余円)について、モニタリングの実施状況や自己評価の実施状況について確認したところ、24協議会の231活動組織(交付額計8億2370万余円)において、次のように、自己評価の基となるモニタリングが適切に行われていなかったなどのため、自己評価が適切に行われていなかったなどの事態が見受けられた。
そして、自己評価の基となるモニタリングが適切に行われていなかったなどのため自己評価が適切に行われていなかったことは、自己評価に基づく活動組織に対する協議会や水産庁長官の指導等が適切に行われないことにもつながるおそれがある。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
活動組織「梶生態系保全活動グループ」(福井県坂井市所在)は、坂井市との協定で定めた活動計画に基づき、平成28、29両年度に、海藻の被度が前年度の5%以上増加することを成果目標として、4.2haの協定区域において、食害生物の除去等を内容とする「藻場の保全」を実施して、「福井県水産多面的機能発揮対策地域協議会」を通じて、交付金計2,077,620円の交付を受けていた。しかし、28、29両年度のモニタリングの実施状況等を確認したところ、定点が協定面積全体の3割から4割程度の区域に偏在していて協定面積全体の状況を把握できるものとなっていなかったり、29年度の定点と28年度の定点の箇所数が異なっていて、それぞれの年度のモニタリング結果を比較することができないため、成果目標の達成状況が把握できなかったりしていて、自己評価が適切に行われていなかった。
このように、対策活動が協定区域で適切に実施されたか確認できなかったなどの事態及び自己評価の基となるモニタリングが適切に行われていなかったなどのため自己評価が適切に行われていなかったなどの事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、活動組織等において、実際に活動した区域等を適切に記録したり、それを把握するための根拠資料を保存したりすること、自己評価を適切に行うことなどの重要性についての認識が欠けていたことなどにもよるが、水産庁において、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、水産庁は、対策活動の実施、自己評価等が適切に行われ、対策事業が効果的に実施されるよう、令和元年9月に、協議会に対して事務連絡を発するなどして、次のような処置を講じた。
ア 活動組織等に対して、協定内容の確認表並びに活動した区域等の把握、確認等のための活動記録及び活動記録日誌の様式等を具体的に示すなどして対策活動の実施等が適切に行われるよう指導した。
イ 活動組織等に対して、モニタリングの計画に関する様式、自己評価表の記載要領及び協議会における確認等の関係書類を見直すなどしてモニタリング及びこれに基づく自己評価等が適切に行われるよう指導した。