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  • 平成30年度|
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  • (2) 工事の設計が適切でなかったもの

擁壁の設計が適切でなかったもの[福島県](209)


(1件 不当と認める国庫補助金 2,802,031円)

 
部局等
補助事業者等
(事業主体)
補助事業等
年度
事業費
国庫補助対象事業費
左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(209)
福島県
南相馬市
河川等災害復旧 25 88,415
(88,415)
75,947 3,262
(3,262)
2,802

この補助事業は、南相馬市が、南相馬市原町区金沢字大船迫地内の準用河川金沢川において、平成23年3月の東日本大震災により被災した護岸を復旧するために、プレキャスト鉄筋コンクリート製のL型擁壁(高さ1.2m、底版幅1.0m、右岸側延長6.0m、左岸側延長95.6m。以下「L型擁壁」という。)の築造等を実施したものである。

同市は、L型擁壁の設計を「道路土工 擁壁工指針」(社団法人日本道路協会編。以下「指針」という。)等に基づいて行っている。

指針等によれば、擁壁の設計に当たっては、滑動、転倒等に対して安全であるかなどの安定計算及び応力計算(以下「安定計算等」という。)を行うこととされている。また、河川の水際に設置される擁壁のように壁の前後で水位差が生ずる場合には、水位差による擁壁に対する水圧(以下「残留水圧」という。)と浮力を考慮する必要があるとされている。

同市は、L型擁壁の設計に当たり、被災前のL型擁壁(以下「被災擁壁」という。)の安定計算書及び応力計算書(以下「安定計算書等」という。)に基づいて設計して、これにより施工していた。

しかし、被災擁壁の安定計算書等においては残留水圧及び浮力が考慮されておらず、本件L型擁壁については、その前面が河川であることから、残留水圧及び浮力を考慮するなどした上で改めて安定計算等を行う必要があった(参考図1参照)。また、同市は、本件工事の設計図書等において、L型擁壁の縦壁等に係る必要鉄筋量を明示するなどしていなかった。そして、請負人が、鉄筋量1.744cm2/mのL型擁壁を使用することとして確認を求めたところ、同市は、当該鉄筋量が被災擁壁の安定計算書等に示された鉄筋量を大幅に下回るものとなっていたことを十分に確認することなく承認して、これにより施工させていた。

そこで、指針等に基づいて残留水圧及び浮力を考慮するとともに、実際の鉄筋量1.744cm2/mに基づくなどして、改めてL型擁壁の安定計算等を行ったところ、右岸側6.0m、左岸側23.5mの区間は、次のとおり、L型擁壁の安定計算上及び応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

① 滑動に対する安定については、安全率が0.676(右岸側)及び0.626(左岸側)となり、それぞれ許容値1.5を大幅に下回っていた。

② 転倒に対する安定については、擁壁に作用する擁壁背面の土圧等による水平荷重及び擁壁の自重等による鉛直荷重の合力の作用位置が、擁壁の底版中央から河川側に0.401m(右岸側)及び0.434m(左岸側)の位置となり、それぞれ転倒に対して安全であるとされる範囲0.167mを大幅に逸脱していた(参考図2参照)。

③ 縦壁背面側及びかかと版上面側に配置されている主鉄筋に生ずる引張応力度(注)は、376.252N/mm2(右岸側)及び358.797N/mm2(左岸側)となり、それぞれ許容引張応力度(注)160N/mm2を大幅に上回っていた。

したがって、本件工事のうち右岸側6.0m、左岸側23.5mのL型擁壁等(工事費相当額3,262,000円)は、L型擁壁の設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態となっており、これに係る国庫補助金相当額2,802,031円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同市において、L型擁壁について、安定計算等及び必要鉄筋量を確認することに対する理解が十分でなかったことなどによると認められる。

(注)
引張応力度・許容引張応力度  「引張応力度」とは、材に外から引張力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。

(参考図1)

当局の安定計算等によるL型擁壁の概念図(右岸側、左岸側共に同じ。)

当局の安定計算等によるL型擁壁の概念図(右岸側、左岸側共に同じ。) 画像

(参考図2)

適切な安定計算等によるL型擁壁の概念図(右岸側)

適切な安定計算等によるL型擁壁の概念図(右岸側) 画像