(1件 不当と認める国庫補助金 2,055,600円)
部局等 |
補助事業者等 (事業主体) |
補助事業等 | 年度 |
事業費
国庫補助対象事業費
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左に対する国庫補助金等交付額 | 不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
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不当と認める国庫補助金等相当額 | |
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千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(214) | 東北地方整備局 | 青森県 |
社会資本整備総合交付金 (港湾改修) |
28 | 48,902 (48,902) |
16,300 | 6,166 (6,166) |
2,055 |
この交付金事業は、青森県が、昭和37年度に八戸港において建設した河原木2号岸壁について、50年間の延命化を目的として、岸壁下部の既設の鋼矢板(延長115.4m)の腐食を防止するために、電気防食工(注1)及び被覆防食工(注2)を実施したものである。
同県は、電気防食工の設計に当たっては、「港湾鋼構造物防食・補修マニュアル(2009年版)」(一般財団法人沿岸技術研究センター)に基づいて行うこととしている。これによれば、電気防食工において、電気防食材の所要の質量については、鋼材の防食対象面積を基に設計することとされている。
そして、防食対象面積については、鋼矢板の朔(さく)望平均干潮面(注3)(以下「LWL」という。)―1.0mから海底面までの海水中部、海底面から鋼材下端までの海底土中部等ごとに算出することとされている。
同県は、本件工事の設計に先立って行う計画準備における岸壁の現況の把握に当たり、本件岸壁の図面等を改めて確認しようとしたが、本件岸壁の建設年度が古く鋼矢板に関する図面等が保存されていなかった。また、港湾台帳(注4)には鋼矢板下端の深度はLWL―9.7mと記載されていたものの、同県は、岸壁の構造上当該深度では浅いと疑問を持ったことから、港湾台帳の記載にかかわらず、「港湾の施設の技術上の基準・同解説(平成11年4月)」(運輸省港湾局監修。以下「平成11年技術基準」という。)に基づいて、設計計算により鋼矢板の構造を推定することとして、鋼矢板の長さを22.5m、鋼矢板下端の深度をLWL―20.5mと算出した。そして、同県は、この推定値を基に電気防食工の設計を行うこととし、海水中部の鋼矢板の長さを5.5m、海底土中部の鋼矢板の長さを14.0mとして、これらに岸壁の延長方向の鋼矢板の辺の長さ計192.0mを乗じて、海水中部の防食対象面積を1,056.0m2、海底土中部の防食対象面積を2,688.0m2とそれぞれ算出した。そして、アルミニウム合金製の電気防食材の所要の質量を16,104.9kgと算出し、設計耐用年数50年の3.0Aの電気防食材(252.7kg/個)64個を鋼矢板に取り付けていた(直接工事費19,852,800円。参考図参照)。
しかし、港湾台帳に記載された鋼矢板下端の深度に疑問を持って、設計計算により鋼矢板の構造を推定するとしても、平成11年技術基準ではなく、本件岸壁が建設された昭和37年度当時の設計の基準である「港湾工事設計要覧(昭和34年)」(社団法人日本港湾協会。以下「昭和34年設計要覧」という。)を用いる必要があった。そして、昭和34年設計要覧に基づいて設計計算により当時の岸壁に必要とされた鋼矢板の構造を推定すると、鋼矢板下端の深度はLWL―11.0mと算出され、同県が平成11年技術基準に基づいて算出したLWL―20.5mより大幅に浅いものとなる。現に、孔内磁気探査(注5)により実際の鋼矢板下端の深度を測定したところ、LWL―11.0m程度と確認された。
このように、電気防食工の設計に先立つ岸壁の現況の把握が適切でないまま電気防食工を設計し、施工していたことは、事業の計画における検討が十分でなく、適切とは認められない。
そこで、鋼矢板下端の深度LWL―11.0mに基づいて電気防食工の設計を行うと、海底土中部の鋼矢板の長さは4.5m、防食対象面積は864.0m2となり、これに海水中部の防食対象面積1,056.0m2を合わせるなどして電気防食材の所要の質量を算出すると12,415.6kgとなる。そして、経済的な設計を考慮した適切な電気防食材の仕様及び個数は設計耐用年数50年で2.0Aのもの(168.5kg/個)74個(直接工事費15,665,800円)となる。
したがって、上記に基づいて本件工事費を算定すると、42,735,600円となり、本件工事の交付対象事業費48,902,400円はこれに比べて6,166,800円過大となっていて、これに係る交付金相当額2,055,600円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、同県において、電気防食工の計画に当たり、鋼矢板下端の深度についての検討が十分でなかったことなどによると認められる。
(参考図)
鋼矢板及び防食工の概念図