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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(2) 住宅・建築物安全ストック形成事業等により行った耐震診断の結果、耐震性が不十分と判定された耐震診断義務付け対象建築物等を含む既存耐震不適格建築物について、耐震改修の実施状況を定期的に把握した上で、耐震改修が行われていない建築物の所有者に対して指導及び助言を積極的に行うよう所管行政庁に対して周知することなどにより、地震に対する安全性の向上が図られるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費
(項)住宅防災事業費
部局等
国土交通本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
(事業主体)
都、府1、県2、市130、特別区1、町70、村4、一部事務組合5、広域連合1、地方公営企業1、民間事業者等3,537
補助事業
(1) 住宅・建築物安全ストック形成事業
(2) 耐震対策緊急促進事業
補助事業の概要
住宅・建築物の耐震化を促進するために実施される事業で、耐震診断並びに耐震改修及び建替え等に関する事業
14都道府県において社会資本整備総合交付金等の交付を受けて耐震診断が行われた既存耐震不適格建築物の棟数及び当該建築物の所有者に対して交付された交付金等の額
5,042棟 64億8584万余円(平成25年度~29年度)
耐震診断の結果、耐震性が不十分と判定された建築物3,789棟のうち、平成31年3月末現在において、耐震改修が未実施の建築物の棟数及び当該建築物の所有者に対して交付された交付金等の額
1,536棟 25億0784万余円(平成25年度~29年度)
上記1,536棟のうち、平成31年3月末現在において、所管行政庁が指導及び助言を行っていない建築物の棟数及び当該建築物の所有者に対して交付された交付金等の額(1)
458棟 4億2732万円
耐震診断の結果、耐震性が不十分と判定された建築物3,789棟のうち、平成31年3月末現在において、所管行政庁が耐震診断後の耐震改修の実施状況を把握していない建築物の棟数及び当該建築物の所有者に対して交付された交付金等の額
993棟 11億7676万円(背景金額)(平成25年度~29年度)
上記993棟のうち、本院の依頼に基づき所管行政庁が耐震改修の実施状況を調査した結果、未実施となっていた建築物の棟数及び当該建築物の所有者に対して交付された交付金等の額(2)
304棟 3億8923万円
(1)及び(2)の計
762棟 8億1655万円

【改善の処置を要求したものの全文】

住宅・建築物安全ストック形成事業等により耐震診断を実施した建築物の所有者に対する指導及び助言の実施等について

(令和元年10月29日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 住宅・建築物安全ストック形成事業等の概要等

(1) 住宅・建築物安全ストック形成事業等の概要

貴省は、住宅・建築物の耐震性の向上を図るため、平成22年度から、住宅・建築物安全ストック形成事業として、住宅・建築物安全ストック形成事業対象要綱(平成21年国住備第159号国土交通省住宅局長通知)等に基づき、耐震診断、耐震改修、建替え等を行う民間事業者等に対して補助金を交付する地方公共団体等に対して、社会資本整備総合交付金又は防災・安全交付金(以下、これらを合わせて「交付金」という。)を交付している。また、貴省は、25年度から、耐震対策緊急促進事業として、耐震対策緊急促進事業補助金交付要綱(平成25年国住市第54号国土交通省住宅局長通知)等に基づき、交付金に上乗せするなどして耐震対策緊急促進事業補助金(以下、交付金と当該補助金とを合わせて「交付金等」という。)を交付している。

交付金等の交付対象となる耐震診断は、住宅・建築物の構造耐力上主要な部分(注1)の材料強度等に関する実地調査等を行うことにより、地震に対する安全性を評価するものである。

(注1)
構造耐力上主要な部分  基礎、基礎ぐい、壁、柱等で、地震その他の震動又は衝撃等を支えるものをいう。

(2) 建築物の耐震化に係る法令等

我が国の建築物については、建築基準法(昭和25年法律第201号)、建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)等において、建築物の耐震設計のための基準(以下「耐震基準」という。)が示されている。そして、昭和53年に発生した宮城県沖地震を契機として、建築物の耐震性を向上させるため、55年に建築基準法施行令が改正され、56年6月1日に施行されている。この改正前の耐震基準は、中規模地震(震度5強程度)に対し、建築物にほとんど損傷を生じさせないことを確認する設計手法であったのに対して、改正後の耐震基準は、大規模地震(震度6強程度)に対し、人命に危害を及ぼすような建築物の倒壊等の被害を生じさせないことを目標とする設計手法となっている。

平成7年に発生した阪神・淡路大震災では、死者数の約9割が住宅・建築物の倒壊等によるものであったという教訓を踏まえて、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(平成7年法律第123号。以下「耐震改修促進法」という。)が、同年に制定され、その後、既存の建築物の耐震化を緊急に促進するため、25年に改正された。この改正された耐震改修促進法では、既存耐震不適格建築物(注2)のうち、表1に示した特性、規模等に該当する建築物を要安全確認計画記載建築物、要緊急安全確認大規模建築物又は特定既存耐震不適格建築物に分類し、このうち要安全確認計画記載建築物の所有者は、都道府県又は市区町村が耐震改修促進計画に定めた期限までに、要緊急安全確認大規模建築物の所有者は、27年12月31日までに、それぞれ耐震診断を行い、その結果を所管行政庁(注3)に報告しなければならないなどとされた(以下、要安全確認計画記載建築物と要緊急安全確認大規模建築物とを合わせて「耐震診断義務付け対象建築物」といい、耐震診断義務付け対象建築物と特定既存耐震不適格建築物とを合わせて「耐震診断義務付け対象建築物等」という。また、耐震診断義務付け対象建築物等以外の既存耐震不適格建築物を「その他の既存耐震不適格建築物」という。)。また、特定既存耐震不適格建築物及びその他の既存耐震不適格建築物の所有者は、耐震診断を行うよう努めなければならないとされた。そして、既存耐震不適格建築物の所有者は、耐震診断の結果、地震に対する安全性の向上を図る必要があると認められるときは、耐震改修を行うよう努めなければならないとされた。

これに伴い、耐震診断義務付け対象建築物等を含む既存耐震不適格建築物の所有者は、住宅・建築物安全ストック形成事業等により交付金等の交付を受けるなどして、耐震診断を行っている。

(注2)
既存耐震不適格建築物  地震に対する安全性に係る建築基準法等の規定に適合しない建築物で同法等の規定の施行等の際、現に存する建築物
(注3)
所管行政庁  建築主事を置く市町村又は特別区の区域については当該市町村又は特別区の長をいい、その他の市町村又は特別区の区域については都道府県知事をいう。

表1 耐震改修促進法における主要な建築物の種類等

建築物の種類 特性 主な用途 規模等
耐震診断義務付け対象建築物注(2) 要安全確認計画記載建築物 都道府県が耐震改修促進計画に指定する庁舎、避難所等の防災拠点建築物 庁舎、病院、避難所となる体育館
都道府県又は市町村が耐震改修促進計画に指定する重要な避難路の沿道建築物 前面道路幅員の1/2超の高さの建築物(道路幅員が12m以下の場合は6m超)注(4)
要緊急安全確認大規模建築物 不特定多数の者が利用する大規模建築物 病院、店舗、旅館、ホテル 階数3以上かつ床面積の合計5,000m2以上
体育館 階数1以上かつ床面積の合計5,000m2以上
避難確保上特に配慮を要する者が利用する大規模建築物 老人ホーム 階数2以上かつ床面積の合計5,000m2以上
小学校、中学校 階数2以上かつ床面積の合計3,000m2以上
幼稚園、保育所 階数2以上かつ床面積の合計1,500m2以上
一定量以上の危険物を取り扱う大規模な貯蔵場等 危険物貯蔵場 階数1以上かつ床面積の合計5,000m2以上
特定既存耐震不適格建築物注(3) 多数の者が利用する一定規模以上の建築物 病院、店舗、旅館、ホテル 階数3以上かつ床面積の合計1,000m2以上
体育館 階数1以上かつ床面積の合計1,000m2以上
老人ホーム 階数2以上かつ床面積の合計1,000m2以上
小学校、中学校 階数2以上かつ床面積の合計1,000m2以上
幼稚園、保育所 階数2以上かつ床面積の合計500m2以上
一定量以上の危険物を取り扱う貯蔵場等 危険物貯蔵場
都道府県又は市町村が耐震改修促進計画に指定する避難路の沿道建築物 前面道路幅員の1/2超の高さの建築物(道路幅員が12m以下の場合は6m超)注(4)
  • 注(1) 国土交通省の公表資料等を基に作成している。
  • 注(2) 耐震診断義務付け対象建築物については、昭和56年5月31日以前に新築工事に着手したものが対象となっている。
  • 注(3) 要緊急安全確認大規模建築物の規模等に該当する建築物を除く。
  • 注(4) 地方公共団体が状況に応じて規則で別の定めをすることが可能となっている。

(3) 所管行政庁による指導及び助言、指示等

耐震改修促進法によれば、所管行政庁は、耐震診断及び耐震改修の適確な実施を確保するために必要があると認めるときは、既存耐震不適格建築物の所有者に対し指導及び助言をすることができるとされている。

建築物の耐震改修については、「東海、東南海・南海地震に関する地震防災戦略」(平成17年3月中央防災会議決定)において、10年後に死者数等を想定から半減させるという目標の達成のために最も重要な課題とされたことなどを踏まえ、貴省は、建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るため、「建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針」(平成18年国土交通省告示第184号。以下「基本方針」という。)を定めている。

貴省は、基本方針の中で、所管行政庁は、耐震改修の実施を確保するために必要があると認めるときは、耐震診断義務付け対象建築物及び政令で定める特定既存耐震不適格建築物の所有者に対して、耐震改修促進法に基づく指導及び助言を実施するよう努めるべきであるとしている。そして、指導に従わない所有者に対しては耐震改修促進法に基づき必要な指示を行い、指導及び助言、指示等を行ったにもかかわらず、当該所有者が必要な対策を執らなかった場合には、所管行政庁は、構造耐力上主要な部分の地震に対する安全性を評価した結果、地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高いと判断された建築物について、速やかに建築基準法に基づく命令を行うべきであるとしている。また、政令で定める特定既存耐震不適格建築物以外の特定既存耐震不適格建築物及びその他の既存耐震不適格建築物の所有者に対しても、所管行政庁は、耐震改修促進法に基づく指導及び助言を実施するよう努めるべきであるとしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、交付金等の交付を受けて耐震診断を行った結果、耐震性が不十分と判定された建築物のうち倒壊等した場合の影響が相対的に小さいと思料される一戸建ての住宅を除いた建築物について、耐震改修が行われているか、耐震改修を促進するため所管行政庁は当該建築物の所有者に対して耐震改修促進法に基づく指導及び助言を行っているかなどに着眼して、耐震改修促進法が改正された25年度から29年度までの間に14都道府県(注4)において耐震診断を行った既存耐震不適格建築物5,042棟の所有者に交付された交付金等の交付額計64億8584万余円を対象に、貴省本省及び14都道府県において、実績報告書、検査調書等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注4)
14都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、山形、栃木、埼玉、新潟、石川、静岡、三重、和歌山、福岡、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 耐震診断後の耐震改修の実施状況

前記の建築物5,042棟について耐震診断の結果を確認したところ、震度6強から7程度の地震の震動及び衝撃に対して、倒壊し若しくは崩壊する危険性が高い建築物(以下「危険性の高い建築物」という。)、又は倒壊し若しくは崩壊する危険性がある建築物であるため、耐震性が不十分と判定された建築物は3,789棟(耐震診断に係る交付金等交付額計54億6042万余円)となっていた。

耐震性が不十分と判定された建築物3,789棟について、31年3月末現在における耐震改修の実施状況をみると、表2のとおり、耐震改修(除却を含む。以下同じ。)が実施済(実施中を含む。以下同じ。)の建築物は1,260棟(3,789棟に占める割合33.3%)となっている一方で、耐震改修が未実施(耐震改修を実施する予定があるとしているものを含む。以下同じ。)の建築物は1,536棟(同40.5%、耐震診断に係る交付金等交付額計25億0784万余円)となっていた。また、993棟(同26.2%、同11億7676万余円)については、所管行政庁が31年3月末現在における耐震改修の実施状況を把握していなかった。そして、上記の耐震改修が未実施の建築物1,536棟のうち、利用者数が多いなど倒壊等した場合の被害が甚大なものとなることが想定されているなどの耐震診断義務付け対象建築物は772棟、特定既存耐震不適格建築物は197棟となっており、これら計969棟の建築物のうち、危険性の高い建築物は576棟となっていた。

表2 耐震性が不十分と判定された建築物の耐震改修の実施状況等(平成31年3月末現在)

(単位:棟)
建築物の種類  
所管行政庁が耐震改修の実施状況を把握している建築物   所管行政庁が耐震改修の実施状況を把握していない建築物
耐震改修が実施済 耐震改修が未実施
(注)
 
危険性の高い建築物
耐震診断義務付け対象建築物 要安全確認計画記載建築物 995 752 304 448
(37)
247
(17)
243
要緊急安全確認大規模建築物 596 576 252 324
(126)
230
(82)
20
1,591 1,328 556 772
(163)
477
(99)
263
特定既存耐震不適格建築物 702 460 263 197
(47)
99
(18)
242
2,293 1,788 819 969
(210)
576
(117)
505
その他の既存耐震不適格建築物 1,496 1,008 441 567
(139)
309
(67)
488
合計 3,789 2,796 1,260 1,536
(349)
885
(184)
993
  (構成比) (100.0%) (73.8%) (33.3%) (40.5%) (23.4%) (26.2%)

(注) 耐震改修が未実施の括弧書きの数字は、今後、耐震改修を実施する予定があるとしているもので、内数である。

前記の耐震改修が未実施の建築物1,536棟について、31年3月末現在における耐震診断後の経過年数についてみると、表3のとおりとなっており、そのうち25年度に耐震診断が実施された後、耐震改修が未実施のまま5年以上が経過している建築物は426棟となっていた。

表3 耐震改修が未実施の建築物に係る耐震診断後の経過年数(平成31年3月末現在)

(単位:棟)
耐震診断後の経過年数 1年以上
2年未満
2年以上
3年未満
3年以上
4年未満
4年以上
5年未満
5年以上
耐震診断実施件数 431 610 1,039 1,334 1,628 5,042
  (実施年度) (平成29年度) (28年度) (27年度) (26年度) (25年度)
耐震性が不十分と判定された建築物 285 474 786 990 1,254 3,789
耐震改修の実施状況が把握されている建築物(A) 186 292 597 780 941 2,796
耐震改修が未実施の建築物(B) 156 195 372 387 426 1,536
  (割合B/A) (83.9%) (66.8%) (62.3%) (49.6%) (45.3%) (54.9%)

(2) 所管行政庁による指導及び助言の実施状況等

前記のとおり、貴省は、基本方針において、所管行政庁は、耐震改修の実施を確保するために必要があると認めるときは、既存耐震不適格建築物の所有者に対して、耐震改修促進法に基づく指導及び助言を実施するよう努めるべきであるとしている。

そこで、耐震性が不十分と判定された建築物3,789棟に係る指導及び助言の実施状況をみたところ、表4のとおり、所管行政庁は、2,245棟(3,789棟に占める割合59.3%)については、耐震改修促進法に基づく指導及び助言であることを明記した文書を交付したり、耐震改修促進法に基づくか否かを問わず、電話、訪問等をしたりして指導及び助言を行っていた。そして、指導及び助言の内容は、耐震改修等の必要性を説明するもの、補助金等の助成制度を説明するものが多くなっていた。一方、31年3月末現在において、耐震改修が未実施であるにもかかわらず、所管行政庁が、それまでに一度も指導及び助言を行っていない建築物は458棟(耐震診断に係る交付金等交付額計4億2732万余円)となっていた。

表4 指導及び助言の実施状況(平成31年3月末現在)

(単位:棟)
建築物の所有者 建築物の種類 棟数 指導及び助言を行っている建築物 指導及び助言を行っていない建築物
   
所管行政庁が指導及び助言後の耐震改修の実施状況を把握しているもの 所管行政庁が指導及び助言後の耐震改修の実施状況を把握していないもの 所管行政庁が耐震改修の実施状況を把握しているもの 所管行政庁が耐震改修の実施状況を把握していないもの
耐震改修が実施済 耐震改修が未実施  
危険性の高い建築物
地方公共団体以外の者 耐震診断義務付け対象建築物 要安全確認計画記載建築物 923 604 471 133 319 118 93
(7)
46
(4)
108
要緊急安全確認大規模建築物 488 433 416 17 55 41 11
(6)
7
(3)
3
特定既存耐震不適格建築物 485 287 159 128 198 57 36
(12)
20
(6)
105
1,896 1,324 1,046 278 572 216 140
(25)
73
(13)
216
その他の既存耐震不適格建築物 973 568 357 211 405 84 58
(15)
23
(5)
263
合計 2,869 1,892 1,403 489 977 300 198
(40)
96
(18)
479
地方公共団体 耐震診断義務付け対象建築物 要安全確認計画記載建築物 72 15 15 0 57 44 11
(2)
6
(0)
2
要緊急安全確認大規模建築物 108 78 78 0 30 16 14
(8)
9
(3)
0
特定既存耐震不適格建築物 217 68 64 4 149 90 54
(17)
27
(6)
5
397 161 157 4 236 150 79
(27)
42
(9)
7
その他の既存耐震不適格建築物 523 192 186 6 331 142 181
(59)
99
(36)
8
合計 920 353 343 10 567 292 260
(86)
141
(45)
15
合計 耐震診断義務付け対象建築物 要安全確認計画記載建築物 995 619 486 133 376 162 104
(9)
52
(4)
110
要緊急安全確認大規模建築物 596 511 494 17 85 57 25
(14)
16
(6)
3
特定既存耐震不適格建築物 702 355 223 132 347 147 90
(29)
47
(12)
110
2,293 1,485 1,203 282 808 366 219
(52)
115
(22)
223
その他の既存耐震不適格建築物 1,496 760 543 217 736 226 239
(74)
122
(41)
271
合計 3,789 2,245 1,746 499 1,544 592 458
(126)
237
(63)
494

(注) 耐震改修が未実施の括弧書きの数字は、今後、耐震改修を実施する予定があるとしているもので、内数である。

前記の耐震改修が未実施であるにもかかわらず、所管行政庁が、それまでに一度も指導及び助言を行っていない458棟について、耐震診断後、指導及び助言が行われないまま経過した期間をみると、表5のとおり、2年以上が経過しているものが400棟(458棟に占める割合87.3%)となっており、この中には、耐震診断義務付け対象建築物であり、かつ危険性の高い建築物が68棟含まれていた。

表5 耐震改修が未実施の建築物のうち指導及び助言が行われていない建築物の耐震診断後の経過年数(平成31年3月末現在)

(単位:棟)
耐震診断後の経過年数 1年以上
2年未満
2年以上の計  
2年以上
3年未満
3年以上
4年未満
4年以上
5年未満
5年以上
指導及び助言が行われていない建築物 58 400 44 76 107 173 458
  耐震診断義務付け対象建築物
(危険性の高い建築物)
2
(0)
127
(68)
6
(5)
27
(12)
32
(16)
62
(35)
129
(68)
特定既存耐震不適格建築物
(危険性の高い建築物)
13
(6)
77
(41)
9
(6)
7
(4)
25
(11)
36
(20)
90
(47)

耐震性が不十分と判定された3,789棟の所管行政庁は121所管行政庁となっており、このうち耐震改修が未実施であるにもかかわらず指導及び助言が行われていない458棟の所管行政庁は39所管行政庁となっていた。

そして、所管行政庁が指導及び助言を行っていない理由は、建築物の所有者が地方公共団体以外の者の場合は、「どのように指導及び助言をしていいか分からない」という理由が最も多くなっていたが、「優先して指導及び助言を行う必要のある建築物が他にある」「所有者を訪問しようとしたが断られた」などの理由も見受けられた。また、建築物の所有者が地方公共団体の場合は、「地方公共団体が所有しており、耐震改修に向けて検討が行われていると想定される」「同じ市所有の建築物であるため全体の改修計画が把握できており、特に個別の働きかけは行っていない」などといった理由が見受けられた。

また、所管行政庁が指導及び助言を行っていて、31年3月末現在の耐震改修の実施状況を把握している建築物は、表4のとおり、1,746棟となっており、このうち耐震改修が実施済の建築物は668棟(1,746棟に占める割合38.3%)となっていた。

このように、所管行政庁が建築物の所有者に対して指導及び助言を行っており、耐震改修が実施されることとなった参考事例を示すと次のとおりである。

<参考事例>

栃木県日光市に所在するAホテル(地上7階建て、床面積5,379.011m2)は昭和53年に建設され、要緊急安全確認大規模建築物に該当しており、その所有者Bは、当該建築物について、平成26年度に交付金等計343万余円の交付を受けて、耐震診断を行っている。そして、所有者Bは、耐震診断の結果、危険性の高い建築物であると判定されたことを、27年3月に、所管行政庁である日光市に対して報告している。

これを受けて、日光市は、所有者Bに対して、耐震改修等の必要性、重要性等を説明したり、助成制度を説明したりするなどの指導及び助言を28年3月から29年7月までの間に6回行っており、所有者Bは、29年12月に耐震改修工事に着手し30年8月に工事を完了している。

(3) 所管行政庁による耐震改修の実施状況の把握

所管行政庁が耐震診断後の耐震改修の実施状況を把握していない建築物は、表2のとおり、993棟となっており、これらの所管行政庁は48所管行政庁となっていた。

そして、所管行政庁が把握していない理由は、「優先して把握する必要のある建築物が他にある」「所有者と連絡が取れない」などの理由もあったが、「所管行政庁が個別の建築物の耐震改修の実施状況まで把握することにはなっていない」「耐震改修を実施する際には相談に来るよう所有者に依頼していることから、所管行政庁側から調査し把握する必要があるとは考えていない」など把握することに対して消極的な理由が大半を占めていた。また、上記993棟のうち、指導及び助言を一度は行っているものの、31年3月末現在の耐震改修の実施状況を把握していない建築物は、表4のとおり、499棟となっていた。

そこで、本院が、令和元年6月に、所管行政庁に対して、耐震改修の実施状況が把握されていない993棟の建築物を対象として、実際の耐震改修の実施の有無の調査を依頼したところ、このうち耐震改修の実施状況が把握できた400棟の耐震改修の実施状況については、表6のとおり、76.0%の304棟(耐震診断に係る交付金等交付額計3億8923万余円)の耐震改修が未実施となっていた。そして、上記304棟のうち、耐震診断義務付け対象建築物は97棟、特定既存耐震不適格建築物は69棟となっており、これらの建築物計166棟の中には、危険性の高い建築物が83棟含まれていた。また、所有者と連絡がつかないなどのため耐震改修の実施状況が把握できなかった593棟の中には、危険性の高い建築物が283棟含まれていた。

表6 耐震改修の実施状況が把握されていない建築物についての調査結果

(単位:棟)
建築物の種類 耐震改修が実施済 耐震改修が未実施   所有者と連絡がつかないなどの建築物  
危険性の高い建築物 危険性の高い建築物
耐震診断義務付け対象建築物 要安全確認計画記載建築物 4 85 37 89 154 89
要緊急安全確認大規模建築物 0 12 8 12 8 7
4 97 45 101 162 96
特定既存耐震不適格建築物 63 69 38 132 110 50
67 166 83 233 272 146
その他の既存耐震不適格建築物 29 138 46 167 321 137
合計 96 304 129 400 593 283
  (構成比) (24.0%) (76.0%) (32.3%) (100.0%)

(改善を必要とする事態)

交付金等の交付を受けて耐震診断を行った結果、耐震性が不十分と判定された耐震診断義務付け対象建築物等を含む既存耐震不適格建築物について、耐震改修が未実施であることを所管行政庁が把握しているにもかかわらずその所有者に対して指導及び助言を行っていなかったり、所管行政庁が耐震改修の実施状況を把握していなかったりしている事態は適切でなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、所管行政庁において、耐震性が不十分と判定され耐震改修が行われていない建築物であることを把握しているにもかかわらず、その所有者に対して指導及び助言を積極的に行うことの重要性の理解が十分でなかったり、指導及び助言を行うためには、耐震改修の実施状況を把握しておく必要があることについての理解が十分でなかったりしていることなどによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

我が国では、南海トラフ地震や首都直下地震について、発生の切迫性が指摘され、ひとたび地震が発生すると被害は甚大なものとなると想定されている。

ついては、貴省において、交付金等の交付を受けて耐震診断を行った結果、耐震性が不十分と判定された建築物について、平成25年に改正された耐震改修促進法等の趣旨に沿い、地震に対する安全性の向上が図られるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 所管行政庁に対して、耐震診断の結果、耐震性が不十分と判定された耐震診断義務付け対象建築物等を含む既存耐震不適格建築物について、耐震改修の実施状況を定期的に把握した上で、耐震改修が行われていない場合は、その所有者に対して指導及び助言を積極的に行うよう周知すること
  • イ 所管行政庁による指導及び助言の実施の有無を定期的に把握し、指導及び助言が行われていない場合には、その理由等を所管行政庁から聴取するなどした上で、所管行政庁に対して技術的助言を行うこととすること