国土交通省は、国土調査法(昭和26年法律第180号)等に基づき、国土の開発及び保全並びにその利用の高度化に資するとともに、地籍の明確化を図ることなどのために、地籍調査等の国土調査と併せて、国土調査以外の測量及び調査の成果についても活用を促進することとしている。そして、同法第19条第5項の規定によれば、国土調査以外の測量及び調査を行った者が当該調査の結果作成された地図及び簿冊について国土調査の成果としての認証を申請した場合において、国土交通大臣等は、これらの地図及び簿冊が国土調査の成果と同等以上の精度又は正確さを有すると認めたときは、これらを国土調査の成果と同一の効果があるものとして指定(以下「19条5項指定」という。)することができるとされている。
同省は、地籍整備推進調査費補助金制度要綱(平成22年国土国第417号国土交通省土地・水資源局長通知。以下「要綱」という。)等に基づき、平成22年度から、都市部における地籍整備の推進等のために、土地境界の情報の調査・測量を行い、19条5項指定の申請等を通じて成果を地籍情報として整備しようとする都道府県、市区町村及び民間事業者等(以下、これらを合わせて「調査実施主体」という。)に対して、地籍整備推進調査費補助金を交付している。
要綱等によれば、調査実施主体が実施する地籍調査の成果と同等以上の精度又は正確さを有する情報を整備するための調査(以下「地籍整備推進調査」という。)について、調査・測量による境界情報の整備等(以下「調査・測量等」という。)に要する費用を補助金の交付対象とすることとされている。そして、調査実施主体は、補助事業の完了後に19条5項指定の申請を行う予定の期日(以下「申請予定期日」という。)等を記載した実績報告書を同省へ提出することとされている。また、調査実施地区における調査・測量等が完了した場合には、速やかに19条5項指定の申請等による地籍整備に必要な手続を行うこととされている。
調査実施主体は、19条5項指定の申請に当たり、調査・測量等により得られた地図等を土地境界が土地所有者等により適切に確認されていることの根拠資料とともに19条5項指定の申請書類として国土交通省へ提出して、同省は、提出された地図等について審査し、地籍調査の成果と同等以上の精度又は正確さを有するとして19条5項指定を行った場合、当該地図等の写しを登記所へ送付することとなっている。そして、送付された地図は、登記所において、原則として不動産登記法(平成16年法律第123号)第14条第1項に規定する地図として備え付けられることとなり、将来の土地取引や用地取得の円滑化、災害時の復旧活動の迅速化等に資するものとなる。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、調査・測量等の完了後に得られた成果が地籍情報として整備されるよう19条5項指定の申請が適切に行われているかなどに着眼して、22年度から29年度までの間に実施され、実績報告書に記載された申請予定期日が到来している地籍整備推進調査費補助金事業のうち26調査実施主体が実施した90事業(事業費計3億9414万余円、補助金交付額計1億6001万余円)を対象として、国土交通本省及び26調査実施主体において、19条5項指定の申請状況等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
6調査実施主体(注1)が実施した17事業(事業費計4024万余円、補助金交付額計1735万余円)について、調査実施主体は、調査実施地区(調査実施面積計39.38ha)の調査・測量等の完了後、周辺地区等の調査・測量等が予定されていたなどのため、これらの調査・測量等の完了後に合わせて19条5項指定の申請を行うことなどとしていた。このため、当該調査実施主体は、調査実施地区において19条5項指定の申請を行うための成果を得ていたにもかかわらず、周辺地区等の調査・測量等が予定より遅れたことなどから、申請予定期日が経過した後も申請を行っていなかった。このうち13事業については、会計実地検査時点において、申請予定期日から3年以上が経過した後も19条5項指定の申請が行われていなかった。
8調査実施主体(注2)が実施した18事業(事業費計8902万円、補助金交付額計3681万余円)について、調査実施主体は、調査実施地区(調査実施面積計33.71ha)の調査・測量等の完了後、調査実施面積計33.71haのうち計15.82haにおいて土地所有者等による境界の確認が得られていないなどのため、これらの境界の確認が得られるなどした後に調査実施地区全体について19条5項指定の申請を行うこととしていた。このため、当該調査実施主体は、申請予定期日が経過しているのに、調査実施地区全体について申請を行っていなかった。このうち12事業については、会計実地検査時点において、申請予定期日から3年以上が経過した後も19条5項指定の申請が行われていなかった。
そこで、国土交通省に、境界の確認が得られていないなどの場合における19条5項指定の申請の可否を確認したところ、同省は、19条5項指定制度において、境界の確認が得られていないなどの筆がある場合であっても、当該筆を除いて申請を行うことは原則として可能であるとしていた。このため、上記の調査実施面積計33.71haのうち、土地所有者等による境界の確認が得られていないなどの調査実施面積計15.82haを除いた計17.89haについては、19条5項指定の申請が可能なものとなっていた。
また、境界の確認が得られていないなどの調査実施面積計15.82haについては、地籍情報を整備する上での基礎情報が得られているため、市区町村が実施する地籍調査等にこれを活用することができるものとなっていた。
したがって、当該調査実施主体において、19条5項指定の申請を行うための成果が得られている調査実施面積計17.89haについては申請を行い、また、境界の確認が得られていないなどの調査実施面積計15.82haについては、調査・測量等により得られた情報を将来の地籍調査等に活用できるように基礎情報として市区町村の地籍調査担当部局等に送付することなどにより、調査実施面積計33.71haの調査・測量等により得られた成果等を有効に活用することが可能であったと認められた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
大阪府岸和田市は、平成23年度に、岸和田市箕土路(みどろ)町における公園整備事業の際に実施する用地測量等を地籍整備推進調査として実施し、その成果について19条5項指定の申請を行うこととして、調査実施面積2.00haの測量等を測量業者へ委託して実施(事業費499万余円、補助金交付額240万余円)していた。
そして、同市は、上記の調査実施面積2.00haについて、同年度中に委託業務に係る成果品が納品されていたが、このうち0.59haの区域については、隣接する土地の所有者等による境界の確認が得られなかったため、当該区域の境界の確認を得た上で19条5項指定の申請を行うこととして、申請予定期日を24年5月とする実績報告書を提出していた。
しかし、同市は、30年11月の会計実地検査時点においても、上記0.59haの区域に係る土地所有者等による境界の確認が得られていなかったことから、申請予定期日から6年以上経過しているのに、土地所有者等による境界の確認が得られていた1.41haの区域について19条5項指定の申請を行っていないなどしていて、調査・測量等の成果等が有効に活用されていない状況となっていた。
このように、調査実施主体において、調査実施地区全体の調査・測量等が完了しており、19条5項指定の申請を行うための成果を得ていたのに周辺地区等の調査・測量等の成果と合わせて申請することなどとしていて、申請が速やかに行われていなかったり、土地所有者等による境界の確認が得られている筆について申請を行うための成果が得られているのに申請が行われておらず、また、境界の確認が得られていない筆に係る基礎情報が市区町村の地籍調査担当部局等に送付されていなかったりなどしていて、成果等が有効に活用されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、周辺地区等の調査・測量等の成果と合わせて19条5項指定の申請をすることとしていたなどの6調査実施主体に対して、当該調査実施主体が実施した17事業について令和元年9月末までに申請を行わせるとともに、同年8月に地方整備局等に対して事務連絡を発するなどして、次のような処置を講じた。
ア 調査実施主体に対して、調査・測量等の成果を地籍情報として整備することの重要性を踏まえて、速やかに19条5項指定の申請を行うことについて周知するとともに、申請予定期日が経過した後に申請が行われていないものについて、申請に向けた取組状況の確認を行い、原則として申請を速やかに行わせることとした。
イ 調査実施主体に対して、土地所有者等による境界の確認が得られないなどの筆がある場合には、当該筆を除いて19条5項指定の申請を行い、当該申請から除いた筆に係る基礎情報については、将来の地籍調査等に活用するために市区町村の地籍調査担当部局等に送付するなどの手続を定めて、これを周知することとした。