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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(3) 河川管理施設等の防災施設に設置されている電気設備について、地方公共団体に耐震調査の実施の必要性を周知したり、耐震性の確認方法について技術的助言を行ったりすることなどにより、地震時等に防災施設の機能が十分に発揮されるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省
(項)社会資本総合整備事業費 等
平成25年度以前は、
一般会計 (組織)国土交通本省
(項)社会資本総合整備事業費 等
社会資本整備事業特別会計(治水勘定)(平成19年度までは、治水特別会計) (項)河川総合開発事業費 等
東日本大震災復興特別会計
(組織)国土交通本省
(項)東日本大震災災害復旧等事業費 等
部局等
国土交通本省
補助の根拠
河川法(昭和39年法律第167号)等、予算補助
補助事業者
(管理主体)
県8、市19、町2、計29管理主体
防災施設の概要
水門、雨水排水ポンプ場等のうち、津波、洪水等から施設の背後地に居住する住民等の人命、財産等を守ることを目的とする防災対策に資する施設
防災施設本体の耐震調査が実施されていた防災施設数及び交付金等対象額
272施設 3420億4408万余円(昭和32年度~平成30年度)
上記に対する交付金等相当額
1762億8476万余円
電気設備の耐震調査が実施されておらず、電気設備において所要の耐震性が確保されているか不明となっていた防災施設数及び交付金等対象額
158施設 1851億3874万余円(昭和32年度~平成30年度)
上記に対する交付金等相当額
945億1337万円(背景金額)

1 防災施設の概要等

(1) 防災施設の概要

国土交通省は、河川管理施設、海岸保全施設及び下水道施設(以下、これらを合わせて「河川管理施設等」という。)を整備する地方公共団体に対して、河川改修事業費補助金、下水道事業費補助金等の国庫補助金、社会資本整備総合交付金等(以下、これらを合わせて「交付金等」という。)を交付しており、地方公共団体は、河川管理施設等の維持管理を行っている。

河川管理施設等には、水門のゲートや雨水排水ポンプ場のポンプなどを電気で稼働して、施設の機能を適時に円滑に発揮することにより、津波、洪水等から施設の背後地に居住する住民等の人命、財産等を守ることを目的とする防災対策に資する施設(以下「防災施設」という。)がある。そして、防災施設は、建屋のほかゲートやポンプなどの設備(以下、これらを合わせて「防災施設本体」という。)により構成されており、当該ゲートやポンプなどを電気で稼働する制御装置等や停電時に電気を供給する自家発電設備等の設備(以下、これらを合わせて「電気設備」という。)が設置されている。

国土交通省は、河川管理施設等について、レベル2地震動(注1)等に対応するよう、所要の耐震性が確保されているか確認したり、耐震化を行う工事の内容を把握したりする調査(以下「耐震調査」という。)を実施するため、「河川構造物の耐震性能照査指針(案)・同解説」(平成19年国河治第190号国土交通省河川局治水課長通知。以下「河川耐震照査指針」という。)等において河川管理施設及び海岸保全施設の耐震調査の方法を定め、地方公共団体に対して技術的助言等として河川耐震照査指針等を示しており、また、「下水道施設の耐震対策指針と解説」(平成9年社団法人日本下水道協会編。以下「下水道耐震指針」という。)等で示されている方法に基づき下水道施設の耐震調査を実施するよう、地方公共団体に対して通知等により示している。

(2) 電気設備の耐震調査の方法

下水道施設に設置されている電気設備については、下水道耐震指針等によれば、耐震調査は、基礎ボルト部材の耐震計算を行い、電気設備が転倒等することはないか、耐震性能を確認することなどとされている。

一方、河川管理施設及び海岸保全施設に設置されている電気設備については、国土交通省は地方公共団体に対して耐震調査の方法を示していない。

(注1)
レベル2地震動  現在から将来にわたって当該地点で考えられる最大級の強さを持つ地震動

2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

防災施設が地震時等に機能を十分に発揮するためには、防災施設本体だけでなく、電気設備についても耐震調査を実施し、所要の耐震性が確保されている必要がある。

そして、国土交通省は、前記のとおり、地方公共団体に対して、河川管理施設等における耐震調査の方法を河川耐震照査指針等により技術的助言等として示すなどしているが、一方、河川管理施設及び海岸保全施設に設置されている電気設備については、地方公共団体に対して、耐震調査の方法を示していない。

そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、防災施設に設置されている電気設備の耐震調査が適切に実施されているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

検査に当たっては、9県(注2)及び38市町(注3)が、昭和32年度から平成30年度までの間に防災施設本体又は電気設備の新設、更新等の際に交付金等の交付を受けていて、30年度末までに防災施設本体の耐震調査を実施していた防災施設272施設(交付金等対象額計3420億4408万余円、交付金等相当額計1762億8476万余円)を対象として、9県及び38市町において、調書の提出を受け、その内容を分析するとともに、設計資料等の関係書類や現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注2)
9県  宮城、神奈川、岐阜、静岡、三重、和歌山、島根、高知、宮崎各県
(注3)
38市町  仙台、塩竈、気仙沼、多賀城、水戸、土浦、龍ケ崎、横浜、川崎、横須賀、平塚、藤沢、茅ヶ崎、秦野、大垣、静岡、浜松、磐田、津、四日市、伊勢、松阪、桑名、和歌山、安来、高松、丸亀、さぬき、高知、須崎、佐賀、鹿島、延岡、日南各市、三重郡川越、小豆郡小豆島、綾歌郡宇多津、吾川郡いの各町

(検査の結果)

検査の対象とした防災施設本体の耐震調査が実施されていた防災施設272施設について、電気設備の耐震調査の実施状況等をみると、のとおり、114施設については、耐震調査が実施されるなどしていた。

一方、8県(注4)及び21市町(注5)が管理する158施設(交付金等対象額計1851億3874万余円、交付金等相当額計945億1337万余円)については、電気設備の耐震調査が実施されておらず、所要の耐震性が確保されているか不明となっていた。そして、今後の耐震調査の結果、電気設備について所要の耐震性が確保されていない場合には地震時等に防災施設としての機能が十分に発揮されないおそれがある状況となっていた。このうち、2市(注6)が管理する下水道施設5施設の無停電電源装置については、アンカーボルト等によりコンクリート基礎等の上に固定されていなかったため、本院において確認したところ、所要の耐震性が確保されていなかった。なお、2市では、本院の指摘に基づき、上記の無停電電源装置を固定する措置を講じた。

(注4)
8県  神奈川、岐阜、静岡、三重、和歌山、島根、高知、宮崎各県
(注5)
21市町  仙台、塩竃、多賀城、土浦、龍ケ崎、横浜、川崎、横須賀、藤沢、静岡、浜松、津、伊勢、松阪、桑名、和歌山、高松、延岡、日南各市、三重郡川越、綾歌郡宇多津両町
(注6)
2市  桑名、延岡両市

表 防災施設本体の耐震調査が実施されていた防災施設に設置されている電気設備の耐震調査の実施状況等

(単位:施設、千円)
防災施設の種類 防災施設本体の耐震調査が実施されていた防災施設   電気設備の耐震調査が実施されるなどしていた防災施設 電気設備の耐震調査が実施されておらず所要の耐震性が確保されているか不明となっていた防災施設  
管理者数
管理者数
交付金等対象額
交付金等相当額
河川管理施設 79 9県
2市
11 68 8県 77,697,485 40,672,491
海岸保全施設 9 4県 7 2 1県 926,700 463,350
下水道施設 184 37市町 96 88 21市町 106,514,561 53,377,529
合計 272 9県
38市町
114 158 8県
21市町
185,138,746 94,513,370

(注) 交付金等相当額等の金額は、平成30年度までの間に防災施設の新設、更新等の際に交付された交付金等の合計額である。

上記の158施設を管理する8県及び21市町に、電気設備の耐震調査を実施していない理由を聴取したところ、耐震性を確認するために必要な電気設備に関する設計資料等が保管されておらず、河川耐震照査指針等には設計資料等がない場合の耐震性の確認方法が示されていないためなどとしていた。

しかし、設計資料等の保管が十分でない場合の電気設備の耐震調査の方法を国土交通省に確認したところ、例えば、類似条件の他の電気設備等と比較したり、新設時の条件により算出されるアンカーボルトの径等と現状を比較したりするなどの方法が考えられるとしている。

電気設備の耐震調査が実施されていなかった事例を示すと次のとおりである。

<事例>

三重県は、二級河川前川水系の河口部において、津波、洪水等による被害を軽減するなどのため、平成10年3月、志摩市阿児町地内に補助対象事業費3億5700万円(国庫補助金相当額1億7850万円)で河川管理施設である鵜方水門を設置していた。そして、同水門には、制御装置、自家発電設備等が設置されていた。

同県は、南海トラフを震源域とする巨大地震の発生が危惧されることから、大規模地震発生後の津波等による浸水被害の軽減を図る必要があるとして、防災施設本体が所要の耐震性を確保しているか確認するなどのため、河川耐震照査指針等に基づき、24年度に耐震調査を実施していた。そして、同県は、耐震調査の結果、所要の耐震性が確保されていなかったため、令和元年度までに耐震改修工事を実施していた。

しかし、同県は、制御装置等の耐震調査については、河川耐震照査指針等に具体的な方法が示されていないなどとして、実施していなかった。

このように、防災施設に設置されている電気設備について耐震調査が実施されていないことから所要の耐震性が確保されているか不明となっており、所要の耐震性が確保されていない場合には地震時等に防災施設としての機能が十分に発揮されないおそれがある状況となっていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、県及び市町において、電気設備について所要の耐震性を確保する必要があることについての認識が欠けていたことにもよるが、国土交通省において、県及び市町に対して、電気設備について、耐震調査を実施することの必要性についての周知が十分でなかったこと、設計資料等の保管が十分でない場合の耐震性の確認方法について技術的助言を十分に行っていなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、地震時等に防災施設の機能が十分に発揮されるよう、令和元年9月に事務連絡を発して、地方公共団体に対して防災施設に設置されている電気設備について、耐震調査を実施することの必要性について周知するとともに、設計資料等の保管が十分でない場合は現地調査の実施等により耐震性が確保されているかの確認を行うこと、その結果耐震性が確保されていないときは耐震性を確保する対策を検討することなどについて技術的助言を行うなどの処置を講じた。