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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(4) 河川工事等における鋼矢板工の設計に当たり、ハット形鋼矢板を含めて経済比較を行うなどして適切な鋼矢板を選定することにより、経済的な設計を行うよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省
(項)河川整備事業費
(項)社会資本総合整備事業費
(項)河川等災害復旧事業費 等
東日本大震災復興特別会計
(組織)国土交通本省
(項)社会資本総合整備事業費 等
部局等
直轄事業 2地方整備局等
補助事業 12県
事業及び補助の根拠
河川法(昭和39年法律第167号)等
事業主体
直轄事業 2河川事務所等
補助事業 県10、市5
計 17事業主体
河川工事等における鋼矢板工の概要
護岸の基礎、樋(ひ)門等の遮水工等として、また、河川管理施設を整備する際の仮締切等として、鋼矢板の打設を行うもの
契約額
直轄事業 63工事 194億8772万余円(平成29、30両年度)
補助事業 531工事 5350億1327万余円(平成29、30両年度)
(国庫補助金等交付額 4738億1453万余円)
経済的な設計となっていなかった鋼矢板工費の積算額
直轄事業 4工事 4504万余円(平成29、30両年度)
補助事業 65工事 11億3377万余円(平成29、30両年度)
(国庫補助金等相当額 8億2420万余円)
上記について低減できた積算額
直轄事業 860万円
補助事業 1億4200万円
(国庫補助金等相当額 1億1164万円)

1 鋼矢板工の概要

(1) 河川工事等における鋼矢板工の概要

国土交通省は、河川法(昭和39年法律第167号)等に基づき、国が行う直轄事業又は地方公共団体が行う国庫補助事業等(以下「補助事業」という。)として、堤防、護岸等の河川管理施設の整備を行う河川工事等を実施している。そして、河川事務所等及び地方公共団体(以下、これらを合わせて「事業主体」という。)は、護岸の基礎、樋(ひ)門等の遮水工等として、また、河川管理施設を整備する際の仮締切等として、鋼矢板を打設する鋼矢板工を実施している。

(2) 鋼矢板工の設計

事業主体は、「建設省河川砂防技術基準(案)同解説」(社団法人日本河川協会編)等に基づき、整備する構造物の種類、目的等に応じて応力計算を行うなどして必要となる鋼矢板の強度等を求めて安定性を確認し、使用する鋼矢板を選定して鋼矢板工の設計をすることとしている。

鋼矢板には、断面形状がU形となっている板幅400mmの標準型、600mmの広幅型等(以下、これらを合わせて「U形鋼矢板」という。)があり、従来、河川工事等において使用されてきている。また、U形鋼矢板の後に開発され、製品化されてから10年程度となる断面形状がハット形となっている板幅900mmのハット形鋼矢板があり、U形鋼矢板と同様に河川工事等に使用されている(参考図参照)。

そして、ハット形鋼矢板は、U形鋼矢板に比べて、1枚当たりの板幅が広く重量が重いことから、1枚当たりの材料費が高く、打設に時間を要して打設費も高くなるものの、鋼矢板工の施工延長が長くなると、U形鋼矢板を使用する場合よりも必要となる打設枚数が少なくなり、打設に必要な日数が短くなるなどのため、鋼矢板工費が安価となることがある。

なお、設計上必要とされる強度、安定性等を有するハット形鋼矢板がない場合や施工条件上ハット形鋼矢板を打設できる機械がない場合があることなどにより、U形鋼矢板を選定することになることもある。

(参考図)

鋼矢板断面の概念図

鋼矢板断面の概念図 画像

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、経済性等の観点から、河川工事等における鋼矢板工について、使用する鋼矢板を適切に選定して経済的な設計となっているかなどに着眼して、9地方整備局等(注1)管内の12河川事務所等(注2)、20道県(注3)及び20市町(注4)の計52事業主体が、平成29、30両年度に実施した計594工事(直轄事業63工事(契約金額計194億8772万余円、鋼矢板工費の積算額計20億3793万余円)、補助事業531工事(契約金額計5350億1327万余円、国庫補助金等交付額計4738億1453万余円、鋼矢板工費の積算額計286億6418万余円、国庫補助金等相当額計232億5748万余円))を対象として、52事業主体において各工事の設計図面、設計計算書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
9地方整備局等  東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州各地方整備局、北海道開発局
(注2)
12河川事務所等  信濃川、天竜川上流、大和川、武雄、川内川各河川事務所、岩手、甲府、浜田、高知各河川国道事務所、札幌、旭川、網走各開発建設部
(注3)
20道県  北海道、岩手、宮城、栃木、群馬、埼玉、山梨、愛知、三重、兵庫、和歌山、島根、山口、徳島、香川、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注4)
20市町  陸前高田、石巻、名取、岩沼、宇都宮、さいたま、川口、行田、上尾、戸田、三郷、名古屋、鈴鹿、神戸、尼崎、出雲、益田、延岡、鹿児島各市、本吉郡南三陸町

(検査の結果)

検査したところ、上記の594工事について、220工事ではU形鋼矢板のみを、304工事ではハット形鋼矢板のみを、70工事ではU形鋼矢板とハット形鋼矢板の両方をそれぞれ使用する設計としていて、U形鋼矢板を打設する鋼矢板工(以下「U形鋼矢板工」という。)を実施した工事は計290工事、また、ハット形鋼矢板を打設する鋼矢板工を実施した工事は計374工事となっていた。

そして、39事業主体が上記の290工事で実施したU形鋼矢板工(鋼矢板工費の積算額計113億7969万余円(直轄事業29工事計9億3220万余円、補助事業261工事計104億4749万余円(国庫補助金等相当額計83億3855万余円)))について、ハット形鋼矢板を使用することが可能であったか確認したところ、89工事で実施したU形鋼矢板工では、設計条件、施工条件等からハット形鋼矢板を使用できないものとなっていた。

しかし、残りの201工事で実施したU形鋼矢板工については、設計上必要とされる強度、安定性等を有するハット形鋼矢板があって、施工条件上ハット形鋼矢板を打設できる機械もあるなどしていたことから、U形鋼矢板又はハット形鋼矢板のいずれも使用できる状況となっていた。そこで、上記の201工事で実施したU形鋼矢板工について、ハット形鋼矢板を使用する場合との経済比較を行ったところ、17事業主体(注5)が69工事で実施したU形鋼矢板工(鋼矢板工費の積算額計11億7882万余円(直轄事業4工事計4504万余円、補助事業65工事計11億3377万余円(国庫補助金等相当額計8億2420万余円)))では、U形鋼矢板を使用するよりも鋼矢板工費が安価となっており、U形鋼矢板に代えてハット形鋼矢板を使用することとして、より経済的な設計とすることが可能であったと認められた。

(注5)
17事業主体  大和川河川事務所、札幌開発建設部、岩手、宮城、栃木、群馬、埼玉、三重、和歌山、山口、長崎、宮崎各県、上尾、名古屋、鈴鹿、神戸、延岡各市

このように、河川工事等における鋼矢板工の設計に当たり、U形鋼矢板又はハット形鋼矢板のいずれも使用できる場合に、ハット形鋼矢板を使用することとしていれば鋼矢板工費が低減できたのに、経済比較を行わずにU形鋼矢板を使用することとしていて、経済的な設計となっていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(低減できた鋼矢板工費の積算額)

前記の69工事で実施したU形鋼矢板工について、U形鋼矢板に代えてハット形鋼矢板を使用する設計として鋼矢板工費の積算額を計算すると、直轄事業で4工事計3639万余円、補助事業で65工事計9億9168万余円(国庫補助金等相当額計7億1256万余円)となり、積算額を直轄事業で約860万円、補助事業で約1億4200万円(国庫補助金等相当額1億1164万余円)それぞれ低減できたと認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、事業主体において、鋼矢板の選定に当たり、経済的な設計とする検討が十分でなかったことにもよるが、国土交通省において、使用する鋼矢板の選定対象としてハット形鋼矢板を明示しておらず、より経済的な設計を行うことを検討する必要性についての周知又は助言が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、令和元年9月に地方整備局等に対して事務連絡を発して、鋼矢板工の設計をより経済的なものとするよう、使用する鋼矢板の選定対象にハット形鋼矢板を含めて経済比較を行うなどして適切な鋼矢板を選定することとし、同事務連絡の発出後に設計を行う工事から適用するとともに、地方整備局等を通じて都道府県等に対しても同様に周知するなどの処置を講じた。