国土交通省は、河川法(昭和39年法律第167号)等に基づき、洪水等による災害発生の防止を図るなどのために河川を総合的に管理し、公共の安全を保持することなどを目的として、堤防、護岸等の河川管理施設に設置している水位・雨量等の観測データを無人で収集して無線等で送信するテレメータ装置(空中線等の周辺機器を含む。)及び複数の通信データを一つの電波にまとめて伝送する多重無線装置(以下、これらを合わせて「テレメータ装置等」という。)の整備を多数実施している。
国土交通省は、同省直轄の土木工事における電気通信設備の工事費の積算を行うために「土木工事標準積算基準書(電気通信編)」及び「土木工事標準積算基準書(電気通信編)等の運用」(以下、これらを合わせて「積算基準等」という。)を定め、地方整備局等に周知している。
積算基準等によれば、請負工事費は、工事価格に消費税(地方消費税を含む。)相当額を加えたものとなっており、工事価格は機器単体費と工事費から構成され、機器単体費は、工事施工に当たっての機器の調達価格とされており、その価格は原則として、入札時における市場価格とすることとされている。そして、積算に当たって用いる機器単体費(以下「積算価格」という。)は、国土交通省が定めた①標準機器価格・統一機器価格、②物価資料等価格、③個別見積の順位に従って採用することとされている。
また、物価資料は刊行物である積算参考資料を指すものであり、国土交通省は、上記の②物価資料等価格には、積算参考資料に掲載されている価格と、物価調査機関に特定の機器を指定して市場価格を調査させる特別調査による結果(以下「特別調査価格」という。)が含まれるとしており、積算価格を決定するに当たり、積算参考資料により難い場合は、特別調査価格を採用することとしているが、積算基準等には特段明記していない。
上記の特別調査は、機器等の適正な市場価格を把握するために、物価調査機関と委託契約を締結して実施する調査である。そして、特別調査による価格は、物価調査機関が、指定された機器等の過去の取引実績等を基に、製造会社、販売代理店、同等品を購入している工事業者等に対しての聞き取り調査等を行い決定している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
近年、豪雨により生じた洪水が堤防を越水することなどによる浸水被害が全国的に多発する状況となっていることから、国土交通省が水位・雨量等を観測するために整備するテレメータ装置等は、関係機関や国民に河川の状況や水位等の防災情報の提供を行うなどのために非常に重要な設備であり、今後も新設や更新のための工事を多数実施することが見込まれる。
そこで、本院は、経済性等の観点から、テレメータ装置等を構成する主要な電気通信機器のうち利用頻度や汎用性の高い太陽電池パネル、太陽電池配電盤、空中線、同軸避雷器、固定減衰器(注1)及び多重無線装置(FWA)の6機種の機器の積算価格が適切なものとなっているかなどに着眼して、6地方整備局(注2)及び17事務所等(注3)が、平成28、29両年度に締結した契約額300万円以上のテレメータ装置等設置工事に係る契約のうち、6機種の機器の積算価格を特別調査又は個別見積により積算している97契約(契約金額計79億2671万余円、6機種計1,825台の積算額計2億2379万余円)を対象として、設計図書、見積書等を確認するなどして、会計実地検査を行った。
(検査の結果)
6地方整備局及び17事務所等は、テレメータ装置等設置工事に当たり、6機種の機器については、標準機器価格・統一機器価格がなく、物価資料にも価格が掲載されていなかったことから、上記の97契約(注4)に係る1,825台の積算価格を、次のように決定していた。
すなわち、97契約のうち、3地方整備局(注5)及び7事務所(注6)が工事を実施した40契約に係る863台(積算額計6174万余円)については、3地方整備局等は、6機種の機器は複数の製造会社において製造が可能であり市場性があると判断して、特別調査を行い積算価格を決定していた。
一方、97契約のうち、5地方整備局(注7)及び10事務所等(注8)が工事を実施した61契約に係る残りの962台(積算額計1億6205万余円)については、5地方整備局等は、物価資料等価格に特別調査価格が含まれていることなどが積算基準等に明記されていないことなどから、特別調査を行い積算価格を決定する必要がないと判断して、複数の業者から徴した個別見積の価格のうち最低価格を採用するなどして、個別見積の価格を積算価格としていた。
そこで、上記の962台について、特別調査を行って積算価格を決定していた863台の仕様書の内容と比較して確認したところ、主要部分の仕様が一致しているものが、4地方整備局(注9)及び10事務所等が実施した46契約において616台見受けられ、その全てにおいて特別調査価格が個別見積の価格を下回っていた。
そして、上記の616台(積算額1億1158万余円)について、3地方整備局及び7事務所が積算に使用した特別調査価格により積算額を算出すると計7075万余円となり、個別見積の価格を基に決定していた積算額を約4080万円低減できたと認められた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
四国地方整備局は、平成29年度に実施した平成29年度土佐局外テレメータ設備製造工事において太陽電池パネルの設置を行っており、同局は、太陽電池パネルの積算価格を、個別見積の価格313,000円とし、これに数量7台を乗じて2,191,000円としていた。
一方、特別調査を行って積算価格を決定していた中国地方整備局においては、四国地方整備局の太陽電池パネルと仕様書の内容が主要部分で一致している太陽電池パネルの積算価格を、市場性があると判断して、特別調査を行い同年度の特別調査価格を86,900円と決定していた。
そこで、四国地方整備局が行った前記工事の太陽電池パネルの積算額2,191,000円について、中国地方整備局の特別調査価格86,900円により積算額を算出すると608,300円となり、個別見積の積算額を約150万円低減できることになる。
特別調査価格が個別見積の価格より安価となるのは、個別見積の価格が、製造会社等の販売希望価格となる場合もあるのに対して、特別調査価格は、過去の取引実績等を基に、製造会社等に対しての聞き取り調査等により得られた市場価格であることによるものと思料された。
このように、4地方整備局及び10事務所等において、6機種の機器の積算価格の決定に当たり、特別調査を行わず個別見積の価格を積算価格としていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、国土交通省において、積算基準等における物価資料等価格には特別調査価格が含まれており、標準機器価格・統一機器価格がなく物価資料にも価格が掲載されていない機器については、特別調査を行って適正な市場価格を把握した上で積算価格を決定することを明確にしていなかったこと、4地方整備局及び10事務所等において、特別調査により適正な市場価格の把握が可能であることについての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、令和元年8月に地方整備局等に対して事務連絡を発して、積算基準等における物価資料等価格には特別調査価格が含まれていることなど、6機種の機器の積算に当たっては、特別調査を行って積算価格を決定することを周知し、同月以降に入札手続を開始する工事から適用することとする処置を講じた。