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  • (1) 補助金により造成した基金の使用が適切でなかったもの

再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金等により実施した事業において、設備の設計が適切でなかったもの[環境本省](216)―(225)


(10件 不当と認める国庫補助金 156,616,260円)

再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金及び再生可能エネルギー等導入推進基金は、環境省が東日本大震災による被災地域の復旧・復興や、原子力発電施設の事故を契機とした電力需要のひっ迫への対応の必要性に鑑み、再生可能エネルギー等を活用したエネルギーシステムの導入等を支援し、環境先進地域の構築に資する事業を実施することなどを目的として、都道府県及び政令指定都市に対して、平成23年度に地域環境保全対策費補助金(前者の基金に係るもの)を、24年度から26年度までの各年度に二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(後者の基金に係るもの)をそれぞれ交付して造成させたものである(以下、両基金を合わせて「基金」という。)。

都道府県及び政令指定都市は、「平成23年度地域環境保全対策費補助金(再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金)及び災害廃棄物処理促進費補助金(災害等廃棄物処理基金)交付要綱」(平成23年11月環境事務次官通知)等(以下、これらを合わせて「要綱等」という。)に基づき、基金を財源として、地震等の災害時に避難所、災害対策本部等の防災拠点となる施設等(以下「防災拠点施設等」という。)に、太陽光発電設備、蓄電池設備等を設置するなどの事業(以下「基金事業」という。)を自ら実施するほか、基金事業を実施する市町村等(以下、基金事業を実施する者を「事業主体」という。)に対して、基金を取り崩して補助金(以下、都道府県及び政令指定都市からの補助金を「基金補助金」という。)を交付している。

要綱等によれば、基金事業により設置される太陽光発電設備等は、地震等の災害等が発生して電力会社から供給される商用電力が遮断された際(以下「災害等による停電時」という。)に、防災拠点施設等において必要とされる最低限の機能を維持することを目的とすることとされている。

本院が19都道府県及び5政令指定都市並びに基金補助金の交付を受けた142市町村等において会計実地検査を行ったところ、10事業主体において、太陽光発電設備等の設計が適切でなかったため災害等による停電時に防災拠点施設等の機能を確保するために必要な電力量(以下「必要電力量」という。)が確保されていなかったり、太陽光パネルの基礎の設計が適切でなかったため所要の安全度が確保されていなかったりしており、取り崩された基金計156,616,260円(国庫補助金相当額同額)の使用が適切でなく、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、9事業主体において必要電力量に見合うよう太陽光発電設備等の規模を決定することについての理解が十分でなかったこと、1事業主体において太陽光パネルの安定計算に対する理解が十分でなかったこと、1府4県において8事業主体に対する助言が十分でなかったことなどによると認められる。

前記事態の詳細を示すと次のとおりである。

ア 太陽光発電設備等の設計が適切でなかったため、必要電力量が確保されていなかった事態

(ア) 太陽光発電設備等の規模を決定する際の必要電力量の算定を誤るなどしていたため、必要電力量が確保されていなかったもの

4事業主体は、太陽光発電設備、蓄電池設備等の設計に当たり、その規模については必要電力量を基にするなどして決定し、これにより供給できる電力量が必要電力量を確保できているか確認した上で施工することとしていた。

しかし、4事業主体において、必要電力量の算定に当たり、照明器具の消費電力を誤っていたり、給水ポンプ、コンセント等に係る必要電力量を計上していなかったり、夜間の必要電力量を考慮していなかったりなどしていた。

そこで、必要電力量を適切に算定した上で、太陽光発電設備及び蓄電池設備により供給できる電力量が必要電力量を確保できているか確認したところ、4事業主体において、供給できる電力量が必要電力量を下回っていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

大阪府羽曳野市は、防災拠点施設等である東部コミュニティセンター石川プラザに、太陽光発電設備、蓄電池設備、LED照明器具等を設置する工事を工事費21,031,920円(基金補助金20,144,880円、国庫補助金相当額同額)で実施していた。

同市は、本件太陽光発電設備等の設計に当たり、その規模については必要電力量を基にするなどして次のとおり決定し、これにより施工することとしていた。

① 太陽光発電設備については、昼間の必要電力量に昼間に蓄電池設備への充電をするために必要な電力量を加えた電力量の計(以下「昼間必要量」という。)25.18kWhを、出力1kWの太陽光パネルが日中の曇天等を考慮した1日に発電できる電力量2.88kWhで除した出力8.74kWを確保するために、10kW程度の出力を有するものとする。

② 蓄電池設備については、夜間の必要電力量(以下「夜間必要量」という。)14.05kWhを確保するために、15kWh程度の容量を有するものとする。

そして、同市は、上記の検討を行った上で、太陽光発電設備については出力が10.0kWのものを、蓄電池設備については容量が15.0kWhのものを設置していた。また、災害等による停電時に太陽光発電設備等を効率的に活用するためのLED照明器具を設置していた。

しかし、同市は、必要電力量の算定に当たり、LED照明器具に係る昼間の必要電力量を11.96kWh、夜間必要量を14.49kWhと算定すべきところ、LED照明器具の消費電力を誤るなどしていたため、昼間の必要電力量を8.53kWh、夜間必要量を11.95kWhと算定していた。また、給水ポンプに係る昼間の必要電力量及び夜間必要量をそれぞれ1.5kWhと算定すべきところ、誤ってこれらを計上していなかった。

そこで、LED照明器具の消費電力を適切なものに改めるなどするとともに給水ポンプの必要電力量を計上した上で昼間必要量及び夜間必要量を算定し、太陽光発電設備及び蓄電池設備により供給できる電力量が必要電力量を確保できているか確認したところ、太陽光発電設備により供給できる電力量28.80kWh、蓄電池設備により供給できる電力量15.00kWhは、いずれも昼間必要量34.16kWh、夜間必要量18.09kWhを下回っていた。

したがって、本件太陽光発電設備等は設計が適切でなかったため、太陽光発電設備等及びこれを効率的に活用するために設置したLED照明器具(これらの工事費相当額20,547,000円、国庫補助金相当額20,144,880円)は、必要電力量が確保されていないなどの状態になっていた。

(イ) 太陽光発電設備等の規模が適切なものとなっていなかったため、必要電力量が確保されていなかったもの

4事業主体は、太陽光発電設備、蓄電池設備等の設計に当たり、その規模については必要電力量を基にするなどして決定し、これにより供給できる電力量が必要電力量を確保できているか確認した上で施工することとしていた。

しかし、4事業主体において、必要電力量を確保することができない規模の太陽光発電設備等を設置していたり、供給できる電力量の算定を誤るなどしていたりしたため、供給できる電力量が必要電力量を下回っていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

香川県仲多度郡琴平町は、防災拠点施設等である琴平町総合センターに、太陽光発電設備、蓄電池設備等を設置する工事を工事費22,464,000円(基金補助金及び国庫補助金相当額同額)で実施していた。

同町は、本件太陽光発電設備等の設計に当たり、太陽光発電設備の規模については、昼間の必要電力量に昼間に蓄電池設備への充電をするために必要な電力量を加えた電力量の計(以下「昼間必要量」という。)29.20kWhを、出力1kWの太陽光パネルが日中の曇天等を考慮した1日に発電できる電力量2.491kWhで除した出力11.71kWを確保するための出力を有するものとし、これにより施工することとしていた。

しかし、同町は、昼間必要量を確保するための出力を有する太陽光発電設備を設置するスペースがないなどとして、出力10.0kWの太陽光発電設備を設置していた。このため、実際に設置された太陽光発電設備により供給できる電力量を算定すると24.91kWhとなり、昼間必要量29.20kWhを下回っていた。

したがって、本件太陽光発電設備等のうち、太陽光発電設備(工事費相当額7,192,451円、国庫補助金相当額同額)は、設計が適切でなかったため、必要電力量が確保されていない状態になっていた。

(ウ) 太陽光発電設備等を独立した複数の系統に分けて設置する際に必要電力量が系統ごとに確保できているかの検討を行っていなかったため、必要電力量が確保されていなかったもの

5事業主体は、太陽光発電設備、蓄電池設備等の設計に当たり、その規模については必要電力量を基にするなどして決定し、これにより供給できる電力量が必要電力量を確保できているか確認した上で施工することとしていた。そして、太陽光発電設備等をそれぞれ独立した2系統又は3系統に分けて設置していた。

しかし、太陽光発電設備等の系統をそれぞれ独立させると、系統間で電力を相互に融通することができなくなることから、必要電力量が系統ごとに確保できているか検討する必要があったのに、5事業主体は、この検討を行っていなかった。

そこで、それぞれの系統の太陽光発電設備及び蓄電池設備により供給できる電力量が必要電力量を確保できているか確認したところ、5事業主体において、一部の系統の供給できる電力量が必要電力量を下回っていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

川崎市は、防災拠点施設等である川崎競輪場に、太陽光発電設備、蓄電池設備等を設置する工事を工事費119,847,600円(国庫補助金相当額118,876,106円)で実施していた。

同市は、本件太陽光発電設備等の設計に当たり、その規模については必要電力量を基にするなどして次のとおり決定し、これにより施工することとしていた。

① 太陽光発電設備については、昼間の必要電力量に昼間に蓄電池設備への充電をするために必要な電力量を加えた電力量の計(以下「昼間必要量」という。)230.52kWhを、出力1kWの太陽光パネルが日中の曇天等を考慮した1日に発電できる電力量3.358kWhで除した出力68.6kWを確保するために、70kW程度の出力を有するものとする。

② 蓄電池設備については、夜間の必要電力量60.95kWhを確保するために、70kWh程度の容量を有するものとする。

そして、同市は、上記の検討を行った上で、太陽光発電設備等を、経済性を考慮するなどして独立した3系統に分けて設置することとし、3系統のうち1系統については、太陽光発電設備の出力が23.32kWのものを、蓄電池設備の容量が28.6kWhのものを設置していた。

しかし、太陽光発電設備等の系統をそれぞれ独立させると、系統間で電力を相互に融通することができなくなることから、必要電力量が系統ごとに確保できているか検討する必要があったのに、同市は、この検討を行っていなかった。

そこで、それぞれの系統の太陽光発電設備及び蓄電池設備により供給できる電力量が必要電力量を確保できているか確認したところ、前記の1系統の太陽光発電設備により供給できる電力量78.33kWhは、昼間必要量89.43kWhを下回るなどしていた。

したがって、本件太陽光発電設備等3系統のうち、1系統に係る太陽光発電設備等(工事費相当額44,457,284円、国庫補助金相当額同額)は、設計が適切でなかったため、必要電力量が確保されていない状態になっていた。

イ 太陽光パネルの基礎の設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていなかった事態

相馬方部衛生組合は、地震等の災害時に被災者の救難、救助及び保護並びに救急医療活動を行う公立相馬総合病院の屋上等に、太陽光発電設備、蓄電池設備等を設置する工事を工事費54,131,700円(基金補助金及び国庫補助金相当額同額)で実施していた。

本件太陽光発電設備は、同病院において、第2病棟(地上高さ18m)及び第3病棟(同12m)の屋上のそれぞれの床面にコンクリート基礎を据え置き、それぞれの基礎の上に太陽光パネルを設置するなどのものである。

同組合は、本件工事の仕様書において、太陽光パネルの設計に当たっては、「太陽電池アレイ用支持物設計標準」(財団法人日本規格協会発行。以下「基準」という。)に、また、設備機器の固定に当たっては、「建築設備耐震設計・施工指針2005年版」(独立行政法人建築研究所監修。以下「耐震設計指針」といい、基準と合わせて「基準等」という。)によることとしていた。

基準等によれば、暴風時における太陽光パネルに作用する風圧力が、太陽光パネル、コンクリート基礎等の自重(以下「パネル自重」という。)による下向きの鉛直力を下回らなければならないなどとされており、太陽光パネルに作用する風圧力は、設備機器の設置形態等ごとに定められている風力係数を適用するなどして算出することとされている。また、地震時における基礎底面に作用する水平力が、基礎底面と接地面との摩擦により生ずる滑動抵抗力を下回らなければならないなどとされており、基礎底面に作用する水平力は、設備機器を設置する施設等に応じて定められている設計用標準震度を適用するなどして算出することとされている。

そして、同組合は、太陽光パネルの設計に当たり、第2病棟及び第3病棟のいずれにおいても、暴風時における太陽光パネルに作用する風圧力がパネル自重による下向きの鉛直力を下回り、また、地震時における基礎底面に作用する水平力が基礎底面と接地面との摩擦により生ずる滑動抵抗力を下回ることから、安定計算上安全であるとして、これにより施工していた。

しかし、同組合は、暴風時における太陽光パネルに作用する風圧力の算出に当たり、本件の設置場所である第2病棟及び第3病棟のように傾斜のない平面上の屋根に太陽光パネルを設置する場合には、基準に基づき、陸屋根(注)に設置する場合の風力係数0.95を適用する必要があったのに、誤って建物の屋根面に作用する風圧力を求める際の風力係数0.5を適用するなどしていた。

また、同組合は、地震時における基礎底面に作用する水平力の算出に当たり、本件のように災害応急対策活動に必要な施設等において、その活動を行うために必要な設備機器を設置する場合には、耐震設計指針に基づき、設計用標準震度2.0を適用する必要があったのに、誤って本件太陽光発電設備の用途では適用できない設計用標準震度0.5を適用していた。

そこで、暴風時における風力係数0.95、地震時における設計用標準震度2.0を適用するなどして改めて安定計算を行ったところ、次のとおり、いずれも安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

① 暴風時における太陽光パネルに作用する風圧力は、第2病棟については19.03kN、第3病棟については16.64kNとなり、いずれもパネル自重による下向きの鉛直力8.07kNを大幅に上回っていた。

② 地震時における基礎底面に作用する水平力は、第2病棟、第3病棟ともに16.15kNとなり、いずれも基礎底面と接地面との摩擦により生ずる滑動抵抗力4.84kNを大幅に上回っていた。

したがって、本件太陽光パネルは基礎の設計が適切でなかったため、太陽光パネル及びこれに係るコンクリート基礎等(これらの工事費相当額18,034,616円、国庫補助金相当額同額)は、所要の安全度が確保されていない状態になっていた。

(注)
陸屋根  勾配が水平か極めて緩い屋根

以上を補助事業者等別・事業主体別に示すと次のとおりである。

 
部局等
補助事業者等 間接補助事業者等 補助事業等
実施
年度
基金使用額 左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める基金使用額 不当と認める国庫補助金等相当額
摘要
            千円 千円 千円 千円  
(216) 環境本省
福島県
安達郡大玉村
(事業主体)
再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金 24 60,856 60,856 29,400 29,400 ア(ウ)の事態
(217) 相馬方部衛生組合
(事業主体)
25 54,131 54,131 18,034 18,034 イの事態
(218)
埼玉県
(事業主体)
再生可能エネルギー等導入推進基金 27 51,948 51,948 6,903 6,903 ア(ア)及び(ウ)の事態
(219)
三重県
多気郡大台町
(事業主体)
28 22,108 22,108 11,050 11,050
(220)
大阪府
羽曳野市
(事業主体)
27 20,144 20,144 20,144 20,144 ア(ア)の事態
(221)
香川県
さぬき市
(事業主体)
27 23,111 23,111 1,522 1,522 ア(イ)の事態
(222) 仲多度郡琴平町
(事業主体)
27 22,464 22,464 7,192 7,192
(223)
沖縄県
国頭郡伊江村
(事業主体)
27 27,324 27,324 3,568 3,568 ア(ア)、(イ)及び(ウ)の事態
(224) 島尻郡渡嘉敷村
(事業主体)
28 28,193 28,193 14,341 14,341 ア(イ)の事態
(225)
川崎市
(事業主体)
27 118,876 118,876 44,457 44,457 ア(ウ)の事態
(216)―(225)の計 429,157 429,157 156,616 156,616