【改善の処置を要求したものの全文】
浄化槽の設置に係る交付金の標準工事費等の改定等について
(令和元年10月25日付け 環境大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律(平成6年法律第8号)等に基づき、公共用水域の水質保全を図り、生活環境の保全及び公衆衛生の向上に寄与することを目的として、し尿と台所、浴室等からの生活雑排水とを併せて処理する浄化槽の整備を実施する市町村(一部事務組合を含む。以下同じ。)に対して助成を行っている。
市町村は、「浄化槽設置整備事業実施要綱」(平成6年厚生省生活衛生局水道環境部長通知)等に基づき、浄化槽の設置(改築を含む。以下同じ。)を行う個人等に対して、その設置に要する費用を助成する浄化槽設置整備事業を実施しており、貴省は、同事業を実施する市町村に対して、循環型社会形成推進交付金又は地方創生汚水処理施設整備推進交付金(以下、これらを合わせて「交付金」という。)を交付している。
交付金の交付額は、循環型社会形成推進交付金については「循環型社会形成推進交付金交付要綱」(平成17年環境事務次官通知)等に基づき、また、地方創生汚水処理施設整備推進交付金については「地方創生汚水処理施設整備推進交付金交付要綱」(平成28年農林水産、国土交通、環境各事務次官通知)等(以下、浄化槽設置整備事業実施要綱、循環型社会形成推進交付金交付要綱等及び地方創生汚水処理施設整備推進交付金交付要綱等を合わせて「要綱等」という。)に基づき、いずれも次のとおり算定することとなっている。
① 浄化槽の能力及び人槽 (注1)ごとに貴省が要綱等に定めた基準額(以下「基準額」という。)と、浄化槽の設置者に対して市町村が助成するために必要とする経費とを比較して、少ない方の額を交付対象事業費とする。
② ①で算出した交付対象事業費に、地域等ごとに定められた交付割合(3分の1又は2分の1)を乗じた額を交付金の交付額とする。
貴省は、基準額の設定に当たり、浄化槽を、その能力に応じて、通常の浄化槽(以下「通常型」という。)、窒素又はリンを除去する能力を有する浄化槽(以下「高度処理型」という。)等に区分し、都道府県を通じて毎年度行っている浄化槽の本体価格及び浄化槽の設置工事費(以下、これらを合わせて「設置工事費」という。)の実態調査(以下「実態調査」という。)のデータを基にして、能力及び人槽ごとに浄化槽1基当たりの平均的な設置工事費(以下「平均工事費」という。)を算出している。そして、平均工事費を基に標準工事費を決定し、浄化槽による生活雑排水等の処理のうち社会的便益となる4割相当分について公費で負担するという考えに基づき、標準工事費により基準額を算定している(表1参照)。
表1 浄化槽の能力別、人槽別平均工事費等
区分 | 通常型 | 高度処理型 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
5人槽 | 7人槽 | 10人槽 | 5人槽 | 7人槽 | 10人槽 | |
平均工事費 | 837,902 | 1,049,101 | 1,399,079 | 1,020,596 | 1,271,731 | 1,569,259 |
標準工事費 | 837,000 | 1,043,000 | 1,375,000 | 1,020,000 | 1,134,000 | 1,380,000 |
基準額 | 332,000 | 414,000 | 548,000 | 444,000 | 486,000 | 576,000 |
貴省は、上記のとおり、毎年度実態調査を行っており、実態調査の結果を反映するなどして標準工事費及び基準額(以下、これらを合わせて「標準工事費等」という。)を改定することとしている。そして、標準工事費等について、通常型は、昭和62年度に設定されてから平成19年度までに4回改定が行われているが、高度処理型は、11年度に設定されてから一度も改定が行われていない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
我が国では、毎年度、10万基を超える浄化槽が設置されており、貴省は、浄化槽設置整備事業を実施する市町村に対して、毎年度、多額の交付金を交付している。
そして、貴省によれば、各年度に設置された浄化槽の基数について、かつては通常型がほとんどを占めていたものの、21年度に高度処理型が通常型を上回り、29年度には設置された浄化槽112,784基のうち、高度処理型が87,285基(77.4%)を占めている。
そこで、本院は、経済性等の観点から、標準工事費等が、実態調査の結果を適切に反映したものとなっているかなどに着眼して、貴省本省、20都道府県(注2)及び605市町村において、29、30両年度に本件事業により設置された浄化槽のうち、通常型及び高度処理型計52,734基の設置に対する交付金相当額計67億3384万余円を対象として、実態調査の結果や市町村における浄化槽の整備状況について調書及び関係資料を徴したり、担当者から説明を聴取したりするなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記の605市町村において、29、30両年度に浄化槽設置整備事業により設置された浄化槽の基数を人槽別にみると、表2のとおり、通常型では5人槽及び7人槽が計1,668基、高度処理型では5人槽及び7人槽が計49,197基となっており、それぞれの設置基数に対して、この2区分で93.6%及び96.6%を占めている。
表2 浄化槽の能力別、人槽別設置基数等
設置年度 | 能力 | 5人槽 | 7人槽 | 小計 (5、7人槽) |
10人槽 | 11人槽以上 | 能力別設置基数 | 設置基数の計 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
設置基数 | 能力別設置基数に占める割合 | 設置基数 | 能力別設置基数に占める割合 | 設置基数 | 能力別設置基数に占める割合 | 設置基数 | 能力別設置基数に占める割合 | 設置基数 | 能力別設置基数に占める割合 | ||||
平成 29年度 |
通常型 | 527 | 58.4 | 314 | 34.8 | 841 | 93.1 | 36 | 4.0 | 26 | 2.9 | 903 | 26,725 |
高度処理型 | 17,626 | 68.3 | 7,320 | 28.3 | 24,946 | 96.6 | 806 | 3.1 | 70 | 0.3 | 25,822 | ||
30年度 | 通常型 | 482 | 54.8 | 345 | 39.2 | 827 | 94.0 | 36 | 4.1 | 17 | 1.9 | 880 | 26,009 |
高度処理型 | 17,501 | 69.6 | 6,750 | 26.9 | 24,251 | 96.5 | 809 | 3.2 | 69 | 0.3 | 25,129 | ||
計 | 通常型 | 1,009 | 56.6 | 659 | 37.0 | 1,668 | 93.6 | 72 | 4.0 | 43 | 2.4 | 1,783 | 52,734 |
高度処理型 | 35,127 | 68.9 | 14,070 | 27.6 | 49,197 | 96.6 | 1,615 | 3.2 | 139 | 0.3 | 50,951 |
(注) 能力別設置基数に占める割合は、小数点第2位以下を四捨五入しているため、各人槽の割合を合計しても100%にはならないものがある。
そこで、設置基数に占める割合が多い5人槽及び7人槽について、現在の基準額の設定の基となった平均工事費(通常型は17年度、高度処理型は10年度)を基準として、その後の平均工事費の推移をみたところ、通常型は、おおむね横ばいとなっていた一方で、高度処理型は、おおむね減少傾向となっていた。そして、高度処理型について、対10年度比の平均工事費の変動率をみたところ、図のとおり、10年以上にわたりマイナス10%を下回る状態が続いていて、29年度はマイナス13.5%及びマイナス14.7%となっていた。
図 高度処理型の平均工事費の変動率の推移
このような状況下で高度処理型の基準額が改定されていないのは、通常型の基準額を改定した19年度以降、貴省において、高度処理型の毎年度の平均工事費を把握していたものの、標準工事費等の改定が必要なほどの大きな変化が生じていないと考えていたことなどによるとしている。
しかし、前記のとおり、高度処理型の5人槽及び7人槽の平均工事費が減少傾向にあり、19年度以降も10年度当時の平均工事費と開差が生じたままとなっているのに、標準工事費等に平均工事費の減少が反映されておらず、適切とは認められない。
そこで、高度処理型の5人槽及び7人槽について、28、29両年度の実態調査による平均工事費を基に29、30両年度の標準工事費等を試算すると、表3のとおり、基準額は設定時よりも低額となった。
表3 高度処理型1基当たりの標準工事費等の試算
年度 | 区分 | 5人槽 | 7人槽 | |
---|---|---|---|---|
平成11年度 (設定時) |
標準工事費 | ① | 1,020,000 | 1,134,000 |
基準額 | ①’ | 444,000 | 486,000 | |
29年度 (試算額) |
標準工事費 | ② | 863,000 | 1,054,000 |
基準額 | ②’ | 348,000 | 420,000 | |
設定時との差額 | ①’-②’ | 96,000 | 66,000 | |
30年度 (試算額) |
標準工事費 | ③ | 882,000 | 1,084,000 |
基準額 | ③’ | 363,000 | 441,000 | |
設定時との差額 | ①’-③’ | 81,000 | 45,000 |
そして、前記の605市町村において、29、30両年度に本件事業により設置された5人槽及び7人槽の交付対象事業費の算定に係る高度処理型の基準額の適用状況をみると、12都府県管内の66市町村において、表4のとおり、計4,454基に対して高度処理型の基準額が適用されていた。
表4 高度処理型の基準額を適用した基数
設置年度 | 5人槽 | 7人槽 | 適用基数の計 | ||
---|---|---|---|---|---|
適用基数 | 適用基数の計に占める割合 | 適用基数 | 適用基数の計に占める割合 | ||
平成29年度 | 1,294 | 63.5 | 744 | 36.5 | 2,038 |
30年度 | 1,565 | 64.8 | 851 | 35.2 | 2,416 |
計 | 2,859 | 64.2 | 1,595 | 35.8 | 4,454 |
(注) 高度処理型の基準額を適用できるのは、要綱等において、窒素含有量又はリン含有量についての排水基準が指定される海域等に生活排水を排出する地域等とされている。
したがって、前記の本院が試算した基準額に基づいて、上記の4,454基(浄化槽の設置に要する交付対象事業費29年度9億3619万余円、30年度11億0890万余円、計20億4510万余円、交付金相当額29年度3億6291万余円、30年度4億7242万余円、計8億3534万円)に係る交付対象事業費を算定すると、29年度7億6382万余円、30年度9億4466万余円、計17億0849万余円となり、それぞれ約1億7230万円、約1億6420万円、計約3億3660万円(交付金相当額1億3589万余円)低減できたと認められる。
(改善を必要とする事態)
本件事業の実施に当たり、実態調査による高度処理型の5人槽及び7人槽の平均工事費が、基準額の設定の基となる10年度当時の平均工事費と比較して長期間にわたり開差が生じたままとなっているのに、標準工事費等を改定しないまま交付金が交付されている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、標準工事費等の改定の必要性についての検討が十分でなかったことにもよるが、基準額の改定に関する基準を定めていないことなどによると認められる。
貴省は、今後も引き続き、浄化槽の設置を推進していくこととしている。
ついては、貴省において、浄化槽設置整備事業の実施に当たり、実態調査の結果を適切に反映させた標準工事費等を算定できるよう基準額の改定に関する基準を定めるとともに、実態調査の結果を適切に反映させて標準工事費等の改定を行うよう改善の処置を要求する。