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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第12 環境省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(3) 除染工事等において使用する大型土のうの材料費の積算に当たり、特別調査を活用することにより市場価格を把握して、経済的な積算を行うよう改善させたもの


会計名及び科目
東日本大震災復興特別会計 (組織)地方環境事務所
(項)環境保全復興政策費
(項)環境保全復興事業費
部局等
環境本省、福島地方環境事務所(平成29年7月13日以前は福島環境再生事務所)
事業の根拠
平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律第110号)
除染工事等の概要
放射線量の低減を図るために住宅屋根、路面等の清掃や、除草、表土等の除去作業を行うなどの工事
除染工事等のうち大型土のうを使用している工事件数及び工事費
44件 3114億0997万余円(平成29年度)
大型土のうの材料費の積算額
111億8604万余円
上記のうち特別調査単価との比較ができた工事件数及び積算額
14件 46億9031万余円
低減できた大型土のうの材料費の積算額
6億5530万円

1 除染工事等の概要

(1) 除染工事等の概要

環境省は、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「特措法」という。)に基づき、国が除染等の措置等(注1)を実施する必要があるとして指定した除染特別地域(注2)において、住宅屋根、路面等の清掃や、除草、表土等の除去作業を行うなどの除染工事のほか、除去土壌等を中間貯蔵施設に運搬するなどの輸送工事等を実施している(以下、これらの工事を「除染工事等」という。)。

(注1)
除染等の措置等  特措法によれば、「土壌等の除染等の措置並びに除去土壌の収集、運搬、保管及び処分」が「除染等の措置等」とされている。このうち、「土壌等の除染等の措置」は、「事故由来放射性物質により汚染された土壌、草木、工作物等について講ずる当該汚染に係る土壌、落葉及び落枝、水路等に堆積した汚泥等の除去、当該汚染の拡散の防止その他の措置」とされている。
(注2)
除染特別地域  福島県双葉郡楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江各町、葛尾村及び相馬郡飯舘村の全域並びに田村、南相馬両市、伊達郡川俣町及び双葉郡川内村の区域のうち指定された地域

(2) 除去土壌等の収納に使用する大型土のうの種類等

環境省が平成23年12月に定めた「除去土壌の収集・運搬に係るガイドライン」等によれば、除去土壌等の収集、運搬等を実施する場合には、放射性物質の飛散防止等のために、耐候性大型土のう(以下「大型土のう」という。)等に収納するなどの措置を講ずることとされている。

除染工事等を実施している環境省福島地方環境事務所(29年7月13日以前は福島環境再生事務所。以下「事務所」という。)は、除去土壌等の収納に当たり、主に耐用年数が3年、径が1,100mm又は1,300mmの大型土のうに、それぞれ内袋がないもの、ポリエチレン製内袋が一重又は二重付きのもの計6種類(以下、それぞれを「内袋なし1100土のう」「内袋なし1300土のう」「ポリ一重1100土のう」「ポリ一重1300土のう」「ポリ二重1100土のう」「ポリ二重1300土のう」という。表参照)を使用している。

事務所は、通常は径1,100mmの大型土のうを使用し、それらが破損した場合には径1,300mmの大型土のうに詰め替えるなどとし、また、水分を多く含む除去土壌等を収納するために、大型土のうに防水性を高めた上記のポリエチレン製の内袋付きの大型土のうを使用するとしている。

表 大型土のうの種類

径(mm) 内袋の有無等 本文の略称 径(mm) 内袋の有無等 本文の略称
1,100 なし 内袋なし1100土のう 1,300 なし 内袋なし1300土のう
ポリエチレン製一重 ポリ一重1100土のう ポリエチレン製一重 ポリ一重1300土のう
ポリエチレン製二重 ポリ二重1100土のう ポリエチレン製二重 ポリ二重1300土のう

(3) 暫定積算基準における材料の単価

環境省は、除染工事等の工事費を積算するために、「除染特別地域における除染等工事暫定積算基準」(以下「暫定積算基準」という。)を定めており、事務所は、暫定積算基準に基づき除染工事等の工事費を積算している。

暫定積算基準によれば、工事費の積算に当たり設計書に計上する材料の単価(以下「積算単価」という。)については、設計時に実際に購入できる適正な価格(以下「市場価格」という。)によることとされている。そして、積算に当たり、物価資料(刊行物である積算参考資料をいう。以下同じ。)に掲載されている材料については物価資料に掲載されている単価(以下「物価資料単価」という。)により、また、物価資料に掲載されていない材料については3者以上から見積りを徴する(以下、見積りにより決定した単価を「見積単価」という。)などして、材料の積算単価を決定することとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、経済性等の観点から、大型土のうの積算単価が適切なものとなっているかなどに着眼して、29年度に契約を締結した除染工事等のうち大型土のうを使用している44件(工事費計3114億0997万余円、大型土のうの使用枚数計約138万枚、大型土のうの材料費の積算額計111億8604万余円)を対象に、環境本省及び事務所において、設計図書、見積書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

事務所は、大型土のうの積算単価について、内袋なし1100土のうについては物価資料単価に、その他の大型土のうについては物価資料単価がないことから見積単価に基づくなどして決定していた。

一方で、事務所と同様に福島県においても除染等の措置等を行っていることから、大型土のうの積算単価の決定方法について確認したところ、同県は、同県制定の福島県除染作業暫定積算基準に規定する除染作業資材等単価表(以下「単価表」という。)に基づき、積算単価を決定していた。そして、単価表の作成に当たっては、物価調査機関に市場価格を調査させる特別調査を実施させて、その結果を基に大型土のうのそれぞれの単価を決定していた(以下、特別調査を実施して決定した単価を「特別調査単価」という。)。

そして、仕様が同一となっているポリ二重1300土のうについて、29年度における事務所の見積単価と同年度における同県の特別調査単価とを比較したところ、見積単価が14,300円であるのに対して、特別調査単価は12,000円となっており、16%程度下回っていた。このように、特別調査単価が見積単価より安価となるのは、見積単価が、製造会社等の販売希望価格となる場合もあるのに対して、特別調査単価は、過去の取引実績等を基に、製造会社等に対する聞き取り調査等により得られた市場価格であることなどによると思料された。

また、物価資料によると、物価資料単価は、最も一般的とみなされる取引数量に基づく単価を記載しており、取引数量の多寡等によっても左右されるとされている。内袋なし1100土のうの物価資料単価は、取引数量が300枚から500枚程度までの単価となっており、前記44件のうち、内袋なし1100土のうを使用している14件の平均使用枚数は1万枚以上となっていることから、実際の取引においては物価資料単価より安価となり得るものと想定された。

そこで、本院の検査を踏まえて事務所が30年7月に実施した特別調査の結果のうち、仕様が同一であるなど単価の比較が可能であった内袋なし1100土のう、内袋なし1300土のう、ポリ一重1300土のう及びポリ二重1300土のうについて、特別調査単価と見積単価又は物価資料単価とをそれぞれ比較すると、内袋なし1300土のう、ポリ一重1300土のう及びポリ二重1300土のうについては、特別調査単価が8,820円、10,800円及び13,000円となっていて、見積単価9,700円、12,000円及び14,300円をそれぞれ9%程度又は10%程度下回っていた。また、内袋なし1100土のうについては、取引数量が4,000枚以上の場合、特別調査単価が2,800円となっていて、同時期の物価資料単価4,700円を40%程度下回っていた。

これらのことから、検査の対象とした29年度に契約を締結した44件のうち、前記の特別調査単価と見積単価又は物価資料単価との比較ができた大型土のうを使用している14件(使用枚数計437,097枚)については、特別調査を活用することにより市場価格を把握して経済的な積算を行うことが可能であったと認められた。

このように、事務所において、除染工事等で使用する大型土のうの積算単価の決定に当たり、特別調査を活用して市場価格を把握することなく、見積単価や取引条件の異なる物価資料単価を積算単価としていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(低減できた大型土のうの材料費の積算額)

前記の14件に係る計437,097枚の大型土のうの材料費(積算額計46億9031万余円)について、福島県が29、30両年度に決定した特別調査単価は同額であったことなどから、29年度と30年度との間で市場価格に変動が生じていないと仮定して、事務所が実施した前記特別調査の結果に基づく市場価格により修正計算すると計40億3495万余円となり、上記の積算額を約6億5530万円低減できたと認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、環境省において除染工事等で使用する大型土のうの積算単価の決定に当たり特別調査を活用することを暫定積算基準に明記していなかったこと、事務所において特別調査を活用して市場価格を把握し、これにより経済的な積算を行うことについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、事務所は、30年10月に、特別調査の結果に基づき除染工事等において使用する大型土のうの積算単価を決定し、同年11月以降に入札手続を開始する工事から適用するとともに、環境省は、令和元年9月に積算単価の決定に当たり特別調査を活用するよう暫定積算基準を改定し、同年10月以降に入札手続を開始する工事から同基準を適用することとする処置を講じた。