侵入防止柵の更新等を行う工事の実施に当たり、設計が適切でなかったため、侵入防止柵の安定性が確保されていない状態になっているなどしていて、工事の目的を達していないなどしていたもの［海上自衛隊大湊地方総監部］(234)

海上自衛隊大湊地方総監部(以下「大湊地方総監部」という。)は、青森県むつ市田名部字下平地内の大湊地方総監部樺山送信所等において、同送信所内への侵入を防止するための柵(以下「侵入防止柵」という。)の更新等を行うために、平成28、29両年度に、樺山送信所等囲障補修工事(以下「28年度工事」という。)及び樺山送信所囲障補修工事(以下、「29年度工事」といい、28年度工事と合わせて「本件工事」という。)を、株式会社橋本建設工業にそれぞれ工事費10,022,400円、16,092,000円、計26,114,400円で請け負わせて実施している。

本件工事は、昭和53年に設置された侵入防止柵が老朽化したため、延長3,894mのうちの計685.5mの区間について、既存の侵入防止柵の内側に新たに侵入防止柵を設置した後、既存の侵入防止柵の撤去等を行うものである。そして、本件工事で設置した侵入防止柵(高さ1.8m)は、鋼管の支柱をコンクリート基礎(縦0.25m、横0.25m、高さ0.45m)に建て込んで2.0m間隔で設置し、この支柱に菱形金網等を取り付けるなどしたものである(参考図参照)。

大湊地方総監部は、本件工事で設置した侵入防止柵の設計を「外・内柵設計指針」(防衛省整備計画局施設技術管理官制定。以下「指針」という。)等に基づいて行っており、侵入防止柵の基礎を指針において標準とされているコンクリート基礎とするなどして設計し、これにより施工していた。

本院は、合規性等の観点から、侵入防止柵の設計が指針等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、本件工事を対象として、大湊地方総監部において、設計図書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

指針によれば、侵入防止柵の基礎は、侵入防止柵に作用する荷重に対し、十分な安定性を持つ形状寸法とすることなどとされている。

しかし、大湊地方総監部は、本件工事で設置した侵入防止柵の設計に当たり、基礎の形状寸法等の決定に必要な風荷重等による転倒に対する安定計算等を行っていなかった。

そこで、指針等に基づき、侵入防止柵の転倒に対する安定計算を行ったところ、風荷重により基礎に加わる転倒モーメント（注1）は0.703kN・m、基礎の抵抗モーメント（注2）は0.226kN・mとなっているなど、全ての基礎において転倒モーメントが抵抗モーメントを大幅に上回っていて、侵入防止柵が風荷重に対して十分な安定性を持っていなかった。

したがって、本件工事で設置した侵入防止柵は、基礎の設計が適切でなかったため、安定性が確保されていない状態になっているなどしていて、本件工事は、工事の目的を達していないなどしており、これに係る工事費相当額28年度工事8,769,513円、29年度工事12,979,355円、計21,748,868円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、大湊地方総監部において、侵入防止柵の設計における安定計算の必要性に対する理解が十分でなかったことなどによると認められる。

（注1）

転倒モーメント　　転倒させようとする力の大きさ

（注2）

抵抗モーメント　　転倒モーメントに抵抗するモーメントの最大値