防衛装備庁(平成27年9月30日以前は装備施設本部。以下「装備庁」という。)は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(昭和29年条約第6号)に基づき、アメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」という。)から有償援助(Foreign Military Sales。以下「FMS」という。)により、防衛装備品及びその修理等の役務(以下、これらを合わせて「防衛装備品等」という。)の調達を行っている(以下、この調達方法を「FMS調達」という。)。
「有償援助による調達の実施に関する訓令」(昭和52年防衛庁訓令第18号。以下「訓令」という。)等によれば、防衛装備品等を輸入しようとするときは、調達源が合衆国政府に限られるもの又は価格、取得時期等を考慮してFMS調達が妥当であると認められるもののいずれかの条件を満たし、かつ、合衆国政府がFMSによる販売を認める場合に、FMS調達を行うこととされている。
FMS調達の支払は原則として前払であり、防衛装備品等の納入後に精算が行われ、前払金に係る余剰金が返還されることになっている。
訓令等によれば、装備庁が実施機関として行うFMS調達における防衛装備品等に係る調達の要求から余剰金の返還までの主な手続は、次のとおり行うこととされている。
① 支出負担行為担当官(分任支出負担行為担当官を含む。以下「支担官」という。)は、陸上、海上、航空各幕僚監部等の調達要求元からの依頼を受けて、合衆国政府に引合書 (注1)の請求を行う。
② 支担官は、合衆国政府から引合書の送付を受けた場合、必要に応じて調達要求元と引合書の記載内容について調整を行うなどする。支担官が、支出負担行為として当該引合書に署名して引合受諾書(注2)(Letter of Offer and A㏄eptance)とした後、これを合衆国政府に送付すると契約が成立する(以下、引合受諾書に基づく個々の契約を「ケース」という。)。
③ 支出官は、引合受諾書に記載された支払時期に合わせて、合衆国政府に、日本銀行等を通じて米ドル建てで送金して前払金を支払う。
④ 合衆国政府は、受領した前払金をアメリカ合衆国財務省のFMSトラストファンド(以下「信託基金」という。)等において管理し、当該前払金を基に提供すべき防衛装備品を購入するなどした上で、日本に対して防衛装備品等を提供する。
⑤ 支担官は、ケースに係る全ての防衛装備品等を受領して、合衆国政府から最終の計算書が送付されたときは、速やかに関係書類と照合して、提供の完了の確認を行い、その結果前払金に係る余剰金が発生した場合には、速やかに余剰金の返済を請求するための措置を執る。
⑥ 合衆国政府は、日本の返済請求を受けて信託基金から余剰金の返還を行う。
合衆国政府は、上記の余剰金以外で日本に返還可能な資金が生じた場合、基本的には、返還事由ごとに区分された信託基金内の勘定(Holding A㏄ount。以下「保管勘定」という。)において当該資金を管理しており、四半期ごとに保管勘定の入出金、残高等の情報が記載された文書(以下「明細書」という。)を支担官に送付している。
支担官は、明細書の内容を確認するなどした上で、当該資金の返済を請求するための措置を執る。そして、合衆国政府は、日本の返済請求を受けて保管勘定から当該資金の返還を行う。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、防衛省におけるFMSによる防衛装備品等の調達について、30年6月に参議院から国会法(昭和22年法律第79号)第105条の規定に基づく検査要請を受け、その検査結果を令和元年10月に会計検査院長から参議院議長に対して報告している(「有償援助(FMS)による防衛装備品等の調達に関する会計検査の結果について」)。そして、当該要請に係る会計検査の一環として、経済性、効率性、有効性等の観点から、日本に返還可能な資金の返済請求が適切に行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、平成26年度から30年度までの保管勘定における日本からの返済請求が可能な資金の管理を対象として、装備庁において、合衆国政府から送付された26年度から30年度までの保管勘定に係る明細書により入出金や残高の状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、アメリカ合衆国において、FMSの手続を担当している国防省傘下の国防安全保障協力庁(Defense Security Cooperation Agency。以下「DSCA」という。)等から保管勘定の残高、入出金の経緯等を聴取するなどして調査した。
(検査の結果)
装備庁は、合衆国政府から、余剰金以外の資金について3保管勘定(注3)の明細書の送付を受けていた。3保管勘定のうち、2保管勘定については、装備庁が明細書の内容の確認や返済請求を行っていたが、残りの保管勘定(3DD)(以下「3DD」という。)については、明細書により確認できた範囲で遅くとも25年度末には430,943.32米ドルの残高があり、装備庁は、26年度から30年度までの間、四半期ごとに明細書の送付を受けていたものの当該明細書の内容を確認していなかったことから、返済請求を行っておらず、30年度末においても同額が入金されたままとなっていた。そこで、DSCA等に入金の経緯等を確認したところ、次のような状況となっていた。
DSCA等によると、日本を含む複数の国が過去に参加した電子戦国際安全保障プログラム(注4)(Electronic Combat International Security Assistance Program。以下「ECISAP」という。)において、参加国は、参加するための拠出金をFMSにより合衆国政府に支払うことになるが、拠出金の支払後にECISAPへの参加国が増加して当初からの参加国の拠出金の分担割合が減少した場合には、当初からの参加国に対して拠出金の一部が返還されることがあるとしている。そして、実際に、ECISAPへの参加国の増加を受けて、拠出金の一部が日本への返還のために合衆国政府により3DDに入金されており、DSCA等によると、当該資金は、合衆国政府においてFMSの実施に使用されることはなく、日本の返済請求があれば、速やかに返還されるものであるとしている。
そして、本院の検査を受けて、装備庁が3DDに資金が入金された経緯をDSCA等に問い合わせたところ、昭和62年頃にECISAPへの参加のための拠出金が日本から支払われていたが、その後ECISAPへの参加国が増加して日本の拠出金の分担割合が減少したことに伴い、平成10年に、当該拠出金を一部返還するとして、合衆国政府から3DDに入金されたものであることが確認された。
上記のとおり、3DDに入金されていた430,943.32米ドル(30年度末の出納官吏レートによる邦貨換算額4826万余円)の資金は、日本がECISAPへの参加のために支払った拠出金の返済金であり、日本の返済請求に応じて返還されるものであることから、合衆国政府から3DDの明細書の送付を受けた際に、速やかに明細書の内容を確認して合衆国政府に対して返済請求すべきものであったと認められた。
このように、装備庁において、合衆国政府から3DDの明細書の送付を受けた際に、速やかに明細書の内容を確認して合衆国政府に対して返済請求を行っていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、装備庁において、保管勘定で管理される日本に返還可能な資金に係る返済請求についての理解が十分でなく、明細書の送付を受けた際に、明細書の内容の確認を十分に行っていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、装備庁は、令和元年7月に、外務省を通じるなどして、合衆国政府に対して3DDに係る返済金の返済請求を行うとともに、同年8月に関係部局に対して通知を発するなどして、合衆国政府から日本に返還可能な資金を管理する保管勘定に係る明細書の送付を受けた際に、速やかに明細書の内容を確認して返済請求を適切に行うことを周知徹底する処置を講じた。