防衛省の各組織は、部隊間における通信、防衛上の情報収集等の効率化を目的として各種の情報システム及び装置(以下「情報システム等」という。)を導入している。これら情報システム等の多くのものは、常時継続的に使用できる状態にあることが求められている。
このため、陸上自衛隊は、情報システム等を構成する通信機器等(以下「通信機器」という。)に対して、商用電源の停止等の緊急時(以下「停電時等」という。)に非常用発電設備から給電が開始されるまでの間(1分間以内)に給電するなどの目的で、約10分間給電する機能を有する無停電電源装置(以下「UPS」という。)を、陸上自衛隊のほとんどの駐屯地及び分屯地(以下「駐屯地等」という。)の主として通信業務を主管する庁舎(以下「通信局舎」という。)に設置して、共用のUPS(以下「共用UPS」という。)として使用している。また、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地及び防衛省情報本部(以下「情報本部」という。)は、防衛省市ヶ谷地区(以下「市ヶ谷地区」という。)において、防衛省内部部局が設置した共用UPSを使用している。
陸上幕僚監部、統合幕僚監部及び情報本部(以下、陸上幕僚監部を「陸幕」といい、陸幕、統合幕僚監部及び情報本部を合わせて「陸幕等」という。)は、陸自電算機防護システム(以下「防護システム」という。)、中央指揮システムに係る専用交換装置等、市ヶ谷庁舎保全システム等の情報システム等を駐屯地等、市ヶ谷地区等に導入している。これらの情報システム等は、常時継続的に使用されており、停電時等であっても給電を受け続ける必要があることから、非常用発電設備を備えた通信局舎、市ヶ谷地区等に設置されている。そして、陸幕等は、通信機器に対して、非常用発電設備から給電が開始されるまでの間に、給電するなどの目的で約5分間給電するなどの機能を有するUPSを、情報システム等の導入及び換装の際に当該情報システム等の構成品に含めて防衛装備庁(平成27年9月30日以前は装備施設本部。以下「装備庁」という。)に調達要求し、装備庁は賃貸借契約等を締結して調達している(以下、情報システム等の専用のUPSを「専用UPS」という。)。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、有効性等の観点から、専用UPSは既設の共用UPSの設置状況等を検討して調達されているか、調達した専用UPS及び共用UPSは有効に活用されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、賃貸借契約等により26年度以降に設置し、30年度末時点でも設置していた11情報システム等(注1)(26年度から30年度までの間の賃借料等の支払額計363億9620万余円)に係る専用UPS1,569台(賃借料等の支払相当額(以下「調達価格相当額」という。)計4億2279万余円)を対象として、陸幕等、陸上自衛隊補給統制本部、57駐屯地等(注2)及び装備庁において、契約書等の関係書類、現地の専用UPSの使用状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
44駐屯地等(注3)及び情報本部は、従来、通信局舎等に設置してある共用UPSを使用しており、当該駐屯地等及び市ヶ谷地区で使用している多くの通信機器は、停電時等に、非常用発電設備から給電が開始されるまでの間、共用UPSから給電されることになっている。
しかし、44駐屯地等及び情報本部では、通信機器と空き容量が十分にある共用UPSを直接接続できたにもかかわらず、共用UPSと同じ目的で給電する機能を有する専用UPS210台が調達されていた。
すなわち、11駐屯地(注4)及び情報本部では、専用UPSを共用UPSと通信機器との間に接続して設置するなどしていたが、非常用発電設備から給電が開始されるまでの間の通信機器への給電は、共用UPSのみで賄えると認められた(図1参照)。また、35駐屯地等(注5)では、共用UPSから給電できる電源ではなく、商用電源及び非常用発電設備の電源から直接専用UPS及び通信機器を接続していたが、通信機器が設置されている場所から接続可能な範囲の同室内等に共用UPSが設置されており、情報システム等の換装の際に既設の共用UPSに空き容量が十分にあったことから、共用UPSと通信機器を直接接続できたと認められた(図2参照。2駐屯地は両方の事態に該当する。)。
そして、陸幕等は、専用UPSの調達に当たって、駐屯地等及び市ヶ谷地区の共用UPSの設置状況及び空き容量等の調査を実施していなかったり、共用UPSを使用している駐屯地等及び情報本部は、情報システム等に使用する可能性がある共用UPSの設置及び空き容量の状況を的確に把握していなかったりしていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
陸上自衛隊健軍駐屯地の通信局舎には、従来、共用UPSが設置されていた。
しかし、同駐屯地では、防護システム等の専用UPS9台を共用UPSと防護システム等の通信機器との間に接続していた。また、駐屯地等情報基盤装置の専用UPS6台は、電源と接続されず、別室で保管されていた(図1参照)。
したがって、非常用発電設備から給電が開始されるまでの間給電することができる共用UPSと接続している防護システム等の専用UPS9台(調達価格相当額計124万余円)及び電源と接続されず別室に保管されていた駐屯地等情報基盤装置の専用UPS6台(調達価格相当額計407万余円)は、調達する必要がなかったと認められた。
図1 陸上自衛隊健軍駐屯地の給電関係図
<事例2>
陸上自衛隊神町駐屯地の通信局舎には、従来、共用UPSが設置されており、平成29年2月に換装された容量10kVAの共用UPSを使用していた。
しかし、同駐屯地では、防護システムに構成品として専用UPS(容量1.5kVA)2台が含まれていたため、防護システムの通信機器と接続可能で、かつ、7.24kVAの空き容量がある共用UPSが同室内に設置されていたのに、商用電源及び非常用発電設備の電源から直接専用UPS(2台)及び防護システムの通信機器を接続していた(図2参照)。
したがって、防護システムと同室内に設置されている共用UPSの設置状況及び空き容量の調査を実施していれば、防護システムの専用UPS2台(調達価格相当額計11万余円)は、調達する必要がなかったと認められた。
図2 陸上自衛隊神町駐屯地の給電関係図
このように、駐屯地等及び情報本部において、共用UPSの設置及び空き容量の状況を的確に把握していなかったり、陸幕等において、共用UPSの設置状況及び空き容量等の調査を実施していなかったりして、必要がない専用UPSを調達していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた調達価格相当額)
前記11情報システム等の専用UPSの換装において、既設の共用UPSの設置及び空き容量の状況の調査を適切に実施するなどして専用UPSの調達数量を決定すれば、専用UPS210台を調達する必要はなく、調達価格相当額計3221万余円が節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸幕等は、令和元年9月までに関係部署に対して通達及び通知を発して、次のような処置を講じた。
ア 陸幕は、情報システム等の導入及び換装に対応できるように、共用UPSの設置及び空き容量の状況について、駐屯地等に調査させるとともに、その結果を陸幕に報告させ、陸幕及び駐屯地等が的確に把握する態勢を整備した。また、情報本部は、情報システム等の導入及び換装に対応できるように、専用UPSの設置予定場所における共用UPSの設置及び空き容量の状況を調査することとした。
イ 陸幕等は、情報システム等の導入及び換装に際して、共用UPSの設置状況及び空き容量等の調査結果を踏まえて、専用UPSの調達数量を算定するなどすることとした。